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Dea occisio ーFlos fructum nonー  作者: つつみ
Amore ardens summa superbia(熱愛と傲慢)
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『In apertum solem』

聖都の宿で一夜を明かした一行の一日の始まりは早い。



何故ならば、エムオルが珍しく意気揚々として提案したからだ。

「早く女神をころすよりも、じゅんびしとけば良いんじゃない?」

そんな彼のたった一言から始まった。

「まほーならいくらでも使ったげるからさー」









…という訳で、彼等は小人の言葉に甘えて提案を飲んだのである。

エブリデイマジックは一日で解かれてしまう為、早く起きて入都時の姿になって宿を出る。必要なものを揃えて人目を避けた所でまたエブリデイマジック。

序にエムオル自身も変身した。見かけは普通の人間と殆ど変わらない。

そうして聖都を散策し資源を買い揃えた後はまた宿に戻って、…いや此の場合では新しい客として宿に泊まるといった所か。



面倒な手順を踏むが、こうする事で復讐者であるという証を無闇に残さなくて済む。幸い聖都がとても広い為に人目を避けられる場所には恵まれていた。

























…其の様な手順を踏んで、女神の膝下で少しの間を過ごす。

エムオルの力に頼り切る訳にはいかない上、エムオル自身の魔法の表現にも限度がある。「旅人」を装う以上は何度も同じ容姿では不審がられてしまっても可怪しくない。変に怪しまれたり入都制限が掛かりそうになる前に決行を行おう、と復讐者達は決めていた。









































………そして、時は暫く経て決行前。聖都に着いてから一週間近くが経った頃。

女神達がもしも復讐者達の活動を把握しているのならば恐らく予想より日数が経っている事で焦燥だの何だのといった状態になっているかもしれない。




とは言え。

復讐者達も其れなりの準備をしなくてはならなかったし、其の為に日数を掛ける必要も確かにあった。

『ーーへえ、火炎瓶か。最初の頃の再現のつもりかい?復讐者』

「まあそんな感じといった所さ」

『ふうん?』

少しばかり揶揄(からか)う様な声音のニイスはまるで水棲の哺乳類の様に復讐者の周りを動き回っている。


「だが二度も同じ轍は踏まん」

どうせ女神も二度同じ手には掛からない事だろう。

其の言葉の通り、復讐者は何やら()()の様な物を物入れ(ポケット)から取り出し、其処から小さく刻んだ葉を取り出した。

「叶えたかった嘗ての夢を此処で活かす事になるとは思わなんだ…」

ニイスは初めて復讐者の昔の夢について触れる。

『君…』全てを言おうとしたニイスの目に、やや寂しそうに笑う復讐者が見えた。ニイスは何と無くではあったが彼の"叶えたかった夢"についてある程度を察して其の先を言う事は無かった。

『……………………』ただ静かに、復讐者が行っている事をまじまじと眺めている。

















()はな、助けてあげたかったんだ。毒だって薬になる。使い方次第だけれど。毒物の事を沢山知って薬剤師になりたかった。ちゃんと資格とか色々取って、色んな人の為になりたかった。身近に苦しんでいる人が居たからさ」

化学的なものよりも可能なら自然由来のものでそれなりに安心の出来る薬を作って、助けたかった人が居た。そう彼は話す。

勿論、復讐者が助けたかった人が誰なのかは、他の誰でもでも無くニイスが一番良く知っている。

復讐者が毒物の知識と扱いを知っている事に驚いてはいたが目指していた夢が夢だから当然だと思った。

「ーー…さあ、終わったぞ」

復讐者は一通りの作業を済ませて、作った火炎瓶の幾つかをエインやレミエに手渡した。

「エムオルは身長が低いから此れは危険だ。あとレミエさんもエインも取り扱いには気を付けて。もしもの事も考えて各種解毒作用のある解毒薬を渡しておく……一応先に抗毒薬も渡すが此処で飲んでおいてくれ」

復讐者は二人に指示を出し、エムオルには火炎瓶を渡さなかった。其れに対してエムオルが抗議する。

「えーっ、えこひいきなんかずるーい!!こうどく薬があるならエムにだって良いでしょー!!!」

足をダンダン!と踏み鳴らして、何故か必死な様子であった。



復讐者ははーっと溜息を吐きながらエムオルに渡せない事情を話す。

「悪いが諦めてくれないか…抗毒薬はツブ族には効かないし、逆に猛毒なんだ」

「ひぇ…」猛毒、の一言を聞いてエムオルは顔を青褪める。

むかしツブのそんちょーのじっちゃから聞いた。「この世にはツブ族にはわる〜いどくがあるんだよ」と。そんな事を一瞬の間だけだったが思い出して寧ろ受け取れなくて良かった、と思う。

エムオルも何だかんだ言って命は少し惜しいらしい。女神と戦って討死するならまだしもであるが。

























………なんて、そういう事を呑気に考えている暇など無いのだ。

既に廷付近の高台に立っているのだから。

「先鋒は私ですね。…では、行ってきます」

にこりと微笑んだレミエが変装姿で、廷の正面入口に入っていった。

























































「あのう…」

林檎売りに扮したレミエが衛兵に声を掛ける。

「何だ貴様は?」

「女神シーフォーン様から頼まれていた林檎を持ってきたのですが……」

レミエは一字一句を間違えまいと心掛けながら、自然な振る舞いに徹する。

聖都に潜伏している間、シーフォーンが特定の場所の物しか食べようとしない程の我儘になってしまった事に加え、商人や業者の類が廷正面入口から入っている事も人の姿に変身していたエムオルとニイスがよく見ていた。

「……ああ、そうか。なら入れ」

衛兵は慣れた様子であっさりと通した。レミエは微笑みと共にぺこりと頭を下げて廷内に入る。




………が。

「おい」衛兵が威圧的な声音でレミエを呼んだ。

「アンタ見慣れない奴に見えるが、()()()()()()()()()なのか?」

衛兵の言葉の後、両者を僅かな沈黙が通り過ぎる。

「…………あ、」レミエは一瞬だけだが、不味い!と感じた。此処で正体がバレてしまえば捕縛されて引き渡される。

挙句女神の手で直接殺されてしまう事だろう。復讐者の仲間なのだから。


だがレミエも場数を踏んだ身である以上、やり過ごせない訳では無い。









「ーー…もう、意地悪ですね〜!!衛兵さんったら!!!怖い事を仰らないで下さいな!!私、これ迄は向こうの方に居て此処に来るのは初めてなんです。何時もの人には駄々を言って特別に私に任せて貰える様にして頂いたんです!女神様にお会いしたくて!!!」

本意では無い言葉を紡ぐ。咄嗟の出任せだったが、どうやら衛兵は真面目に受け取ってくれたらしい。衛兵の表情から威圧感と剣呑さが消えた。

「…何だ……そうかそうか、其れは済まなかった。聖都以外の人間が女神様に直接お会い出来るのはこういう機会位だもんな。どれ、初めてだろう。其の儘突き当りを進んで行ってくれ。女神様が来る迄ちゃんと待っているんだぞ」

(…案外ちょろい?)と内心レミエは思った。

「あ、はい。丁寧に教えて下さって有り難うございます!そ、其れでは!!!」

少しばかり足早に、ーー出来れば其の場から早くにでも離れたかった。






ーー「女神様」の言葉を聞いた途端、衛兵の顔が女神への歓喜と一種の同意に満ちたのを彼女が見過ごす筈が無かった。


(まあ何とか通れましたから構いません。…急ぎ、復讐者さんから教えて頂いた別のルートを通りましょう)

レミエは唇をきゅっと締め、廷内の衛兵との遭遇を避けて進んで征く。

…復讐者が初めの頃に襲撃を掛けた事が改めて役に立っている様だった。

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