『Contemnite』
空の月が何時に無く赤く、深く、流血の如く禍々しいものだった。
あれを例えるなら女神シーフォーンの持つ悍ましい本質の様にも思えてならない。
幾千人以上を殺し続けた彼女は、聳え立つ亡骸の塔の上に立つ惨たらしい女帝みたいなものなのだ。其れを反映する様に女神の青い眼は赤く染まって見えていた。
珍しい事に、女神は起きていた。
彼女はテラスに飛び出して、禍々しい赤い月を見ていた。あどけない童女の様な大きな瞳で。今日の彼女の姿は女神らしい少女の姿。月の赤い光に照らされた色素の薄い桃色に近い髪は赤みを増す。
「こんな時程、昔を思い出す」
たった一言に込められた過去はあまりにも重々しい。
彼女を筆頭に現れた、運命の女の一行は破壊と改竄、そして歴史の中で殺戮を度々繰り返していた。
彼女達による新たな人類史は比較的浅いものだったが、たったの千年近くですら月の赤色の如く血に塗れたものだった。大量の殺戮。人の道から外れた強大な神の力を行使して嘗て自分もそうであった筈の人類を蹂躙し、凌辱し、簒奪を行った。
繰り返される行為の中でほぼ全ての人類は疲弊し、彼女達に平伏する道を選んだ。ーー平伏した所で彼女達による庇護が完全とは言えなかったし、安全も全く保障は出来なかった。
抵抗軍の様な彼女達に叛逆する者は必ず生まれたし、彼女達の気分次第でどんなに平伏していても無惨に殺された。
絶対の忠誠を誓わなければならず、狂える彼女達の行動は過激さを増して、何時しか人々は歪んでいった。
彼女達と共に。
大体はシーフォーンによる作為的な洗脳活動や行為によるものだった。
彼女の人心掌握はほぼ全ての人類を意の儘に改竄した。
ーーただ、一つだけ彼女にとってある種の誤算があった。
其の名は復讐者。
唯一女神達の事情を深く知っており、そして彼女自身の巧みな話術による人心掌握による洗脳も受け付けなかった存在。
其の上、彼だけで無く身内である青年も復讐者と同じであり、最近になって行動を共にしている数人が影響を受けない存在である事が判明してしまった。
極力戦う事を避け、或いは強大な力で捩じ伏せてきた彼女にとって"取るに足らなかった"筈の存在が、取り返しの付かない脅威となっている。
もしも彼女が一端の人間であったなら、相当の用心と警戒をして、迎え撃った事だろう。
でも今は人の道に非ず、「女神」として慈しみある美しい女として振る舞う。美しく愛らしい其の容姿の中には驕慢と傲慢と増長とを混ぜ合わせた驕りと、そして承認欲求が膨大になって生まれた自分中心の本性で彩られていた。
そして絶大な「神」としての強く万能な力が、更に彼女を驕らせており彼女の心を酔わせ続けていた。
赤い月の下であっても。
他の女神達を失って最後の女神になってしまっても。
彼女は嗤う。高らかに嗤う。
傲慢と熱愛故に狂った彼女の高笑いは、何時も主張する正道を歩む誇り高い姿からは程遠く。
まあ、良いでしょう。
私の持つ人望や人心掌握を完全に受け付けないのは彼等だけ。
彼等さえ居なければ良いだけなんですよ。
私の此の能力だって際限無く実現可能なのですから。
…デインちゃん達を殺された恨みはあります。
残された追従者の皆さんと、最悪は私一人でも。彼等を殺してしまえば良い。
彼等の様な、本当に必要の無い存在を排除してしまいましょう。
汚いものなんか捨ててしまえ。
私の理想の場所にゴミはあってはならないの。
ゴミを綺麗さっぱりにしたら、再び私の為に此の世を再編しちゃいましょ。




