表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dea occisio ーFlos fructum nonー  作者: つつみ
Recte hominem movere speculationis(征く者と、思惑に動く者)
61/91

『Dolor sub dictaturae』

ーー聖都ミストアルテル。時間は夜。


























































「……っく……う……!!デインちゃん…デインちゃん……!!!」

御所で独り、寝台に伏せて啜り泣く声が聞こえる。

見れば、色素の薄い少女と見間違いそうな女であった。

其れの名は、シーフォーンと呼ぶ。

熱愛と傲慢を司る者。自らは「偉大で完全なる存在」と自負しているらしいが。



月の静寂の中の、仄明るい月の光の射し込む部屋の中で敷布(シーツ)に縋り付いて呻く。

顔を伏せる其の周りは、涙によって湿り、濡れている。女神の顔は恐らくグシャグシャなのだろう。









「…っうああーーーーー…、うわあああーん、うっ…うっ……っ、ぇ…うぁ、あああ、あああああーーーーーーーーーー」

何時もは傲慢ながら毅然とした振る舞いをする彼女には珍しく、子供の様に泣きじゃくっていた。

幸い人払いを済ませていた為に、彼女の其の様子を見る者はおらず、そもそも見咎められる事も無い。

「うわあーーーーーん、わああーーーーーーーーーーーーっ…っふ、っぐっ……わああああーーーーーーーーーーーーーーーーーああー…うわあああああああああああああああ…あ゛……」

どうして!?

どうして!?

どうして!!?

女神の脳裏に木霊する。自分達は何も悪くないのに。世界中の人間の為にしている()()()なのに、まるで仇で返されたかの様。



デインちゃん…!!

デインちゃん……………!!!!!

どうして死んじゃったの、私より先に死んじゃったの、貴女は私よりも若かった。貴女は妹の様だったのに。

伴侶。恋人や妻みたいなものだったのに。

最も親しく敬愛する友だったのに。

私の全てなのに。

私の半身なのに!!!!!

















悲痛は濁流の如く押し寄せ、心を大渦の中に無惨にも巻き込む。

奔流はシーフォーンの心を呑み込んだ。心が死にそうだ。飛び降りたくなる程の辛苦が自分の身体をズタズタに引き裂こうとしている。








「ああ……どうして………………………!!!」

シーフォーンは涙や鼻水で汚れた顔を拭う事もせず、腫れた目の儘で窓を見る。月は清々しい程に青く、デインソピアを思い出す。

そして、其の度に虚しくなる。

…最早窓辺の向こう、部屋のテラスで悪戯に笑う愛らしい彼女は居ないのだ。自分だけが知る女神デインソピアは、永遠に自分の元へは来なくなった。

今日の様な日ほど、自分を驚かせる為に現れる筈だった、現在(いま)という現実(みらい)は失われた。

















































「………っ酷い…ひどい……………こんな、こんな事、あいつが…あいつが……」

グスグスと鼻を鳴らし啜る音と共に、シーフォーンは項垂れ込む。

そして、改めて窓辺の向こうの月へ顔を向けた彼女は、月の蒼さに憎き復讐者の姿を見る。




………復讐者…

蒼い其の色が、黒い髪に隠れた蒼色の双眸の様であり、忌々しそうに舌打ちをする。

奴の蒼い焔が、今頃デインちゃんを含めた三人の女神や、追従者を焼き殺し続けているのだとしたらーー

女神シーフォーンは、涙と共に復讐者への憎悪と怨嗟を、更に募らせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ