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Dea occisio ーFlos fructum nonー  作者: つつみ
Recte hominem movere speculationis(征く者と、思惑に動く者)
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『S. Et milites』

ーー復讐者達がデインソピアを討伐し、そして無事廷から脱出し終えた後から、夜が明けて昼下がりとなった頃だった。



……聖女レミエは、復讐者達との約束の為にユイルを連れ出して先に星都より出ており、彼女の方も無事に瓦礫の聖堂へ辿り着いた、丁度其の頃であった。


























「……ふう」

レミエが一息、休息に入る。寒いとは言え寒暖差の緩い此の大陸は、どうやら雪すら降らないらしく比較的温暖な環境だ。


無事連れ戻せた事は良しとして、レミエにはするべき事が急に増えてしまった。ーー先ず不在の身に代わり畑や聖堂、小屋の管理をしてくれていたであろう近くの集落の人間達に感謝して、そして可能な限り病や怪我を得て苦しむ者を救った。

次に、ユイルの看病。廷内の出来事から目を覚ましていない。



……恐らくは、連れ出されてから受けていた人体実験やシーフォーンが洗脳の為に施した麻薬的な効果を持つ薬物の投与の影響だと思われる。時を見てはユイルの手を握りレミエは其の奇跡の力を惜しみなく行使した。お陰でかユイルの状態は快方に向かっている。






(最近は色々な事がありました)レミエがぼんやりとこれ迄あった出来事を思い浮かべている。木々の隙間から溢れ落ちる白日の光を、少しだけ目を細めながら静かに。


「さて、そろそろ戻らなくちゃ…」レミエは少しばかりの憩いを終えて、ユイルの看病の為に戻る。

一度救うと決めた人だ。例え時間が掛かろうとも諦めたくは無い。

































「…ユイルさーん、只今戻り………」レミエが小屋の戸を静かに開く。扉用の蝶番が少し軋む音がした。

目先の光景を見て彼女は言葉を詰まらせる。ーーユイル。ユイルが、簡素な寝台から起き上がっていた。




「ーー……………………!!!」ゴトゴトと音を立てて、腕の中にあった複数の果実がレミエの足元に落ちた。

「……………………?」ユイルはぼんやりと、ぼやける視界を覚ます為に軽く目元を擦った。辺りの光景を改めて見直すと、其処は見覚えのある景色。

振り返ると、驚きで此方を見る見知った人物の姿が在る。

「…………レミエさん、」ユイルはまだ寝惚けているのか、ぼんやりとした様子で彼女の名を呼ぶ。

「あ…あ……ユイ、ル…さん………!!!」レミエは思わず感極まるが、気を掛けてはならないと涙を堪えた。









「……………………」ユイルがふとレミエの足元に視線を落とした。彼女の足元に落ちた儘の果実に気が付き、ユイルは寝台からゆっくりと身を起こしてレミエの足元の果実を拾い上げた。


「…駄目ですよ、ちゃんと拾わなきゃ………」

ユイルは少し微笑みを向けて、拾った果実の一つを手渡した。

「一緒に食べて、落ち着きましょう」

其の姿は、此れまでと何一つ変わらない、心優しいユイルその人であった。

















































…あれから時間が過ぎて二人は卓越しに向かい合いながら、様々な話を続けていた。

静かに、温かく優しい空間が時間の流れと共に流れている。

ふと、ユイルが一つの話題を出した。




「ーー所で、復讐者さん達との旅の事ですが」

ユイルは好奇心も含めながら、然し伝えたい事を彼女へ向けて言葉にし始める。

「…此の儘で良いのですか?」

彼女の声は、僅かに重々しく、そして真面目な面持ちからレミエは全てを察していた。其れでも彼女は、ユイルに言わせたい限りを言わせる事にした。




「…確かに私は女神によって一時は貴女達と敵対してしまいました。…本当に申し訳無いと思ってます。けれど、レミエさん、貴女が私を救ってくれたから、私は今も生きている。鼓動を刻み続けていられる」

胸に手を静かに当てて、そして深く息を吸った。

「でも…貴女はこんな所に居るべきじゃない」


彼女はただ強い光を宿した瞳で、聖女を見据えた。






ユイルは、レミエをよく知っている。例え今目の前に居る()()()が、自分の知る此れまでの本人と、何処か変わってしまっていたとしてもーー

「共に戦うべき方がいらっしゃるでしょう、倒すのだと誓った仇敵が居るでしょう。何故ーー貴女は私の傍に居るんですか」

敢えて、少しだけ突き放した言葉を語る。其の心には、自分の事は気にするな、彼等(復讐者)を助けてやってくれ、という、彼女なりの意思を持っている。




「…………」レミエは沈黙した。ユイルの言葉は正しいのだと、自分はまだ此処に帰るべきでも無く、此の儘短い間のみであっても留まるべきでは無いと、一番に理解していたから。

















































「ーー…………」ユイルは身体を少しだけよろめかせながらも、壁に立て掛けられていたレミエの杖を取る。

其の儘ゆっくりとレミエの前に立ち、そして杖をレミエの前に差し出す。




「レミエさん…まだ間に合います、だから……行って下さい。あのお二人が私達の為に出して下さった馬車は、まだ近くに留まって下さってるのでしょう?」

「…でも、ユイルさん、今…貴女の事を………」

「貴女を待ってくれる方を裏切るのですか!?」

ユイルは叫び、彼女を突き放す。

ーー決して嫌いだとかそういった理由では無い。信じているから突き放すのだ。

だから。

















「……っ、ユイルさんは…っ、どうしてそんなにも………っ!!」

レミエはユイルの本当の優しさも知っている。だからこそ、彼女の言葉は大きい。

"自分(ユイル)の事よりも、貴女を優先して欲しい"そんな彼女の本心と、復讐者達との約束を、此の儘留まっては反故にしてしまうだけだーー

























































時は過ぎ、翌日の事。

青空の下で二人は暫しの別れの言葉を交わしながら、新たな約束を誓う。



「…私、そろそろ行かなきゃ。約束しましたから。ごめんなさい、ユイルさん。どうか…待っていて下さい……」

レミエは敢えて微笑んで返す。









「行ってきます…………ユイルさん」

レミエは見送るユイルに背中を向けて、馬車に乗り込む。

レミエが乗り込んだのを確認した馬車は、目的の場所へ向かうべく走り出し始める。




「行ってらっしゃい、レミエさん!」

遠ざかる馬車を笑顔で見送る、ユイルの元気な声が彼女の耳に届いた。

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