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Dea occisio ーFlos fructum nonー  作者: つつみ
Dura et somnia(夢想と苛烈)
56/91

『Sagitta mediocris densissima』

デインソピアの威光が形を作る。

小さな星達が女神の周りに現れ、波打つ髪は鮮やかな色彩を孕む。




「まるで主役の様だが目出度い事を」復讐者も素早く武器を替え牽制の狙撃を数発行った。

だが()()()、とでも言うべきか。


「障壁を作ったか…」

予測していた通りであったが、障壁を作られるのは厄介だ。

「些か手こずるかもしれん」復讐者は口数少なめに呟いた。

































「硝子よ、星を映して!」デインソピアの武器が翳されると同時に彼女の周囲を飛び回っていた星の一つが彼女の武器に吸い込まれてゆく。

其の星の色を反映するかの如く、彼女の武器と瞳が赤く染まった。

「ーー来ますよ!!!」

エインの声が一行を散開させる。

「爆炎よ汝の敵を燃やせ!!!!!」

彼等に襲い来る炎の破片。

散開した彼等を燃やし尽くさんと追う赤い光。


(不味いっ…!!)数発程なら避け切ったが、全てを避けるにはより素早く動けなければならなかった。此の儘では確実に当たる。()()()()の女神の、たった一撃だけでも喰らわば碌でも無い事に繋がりかねない。

















「我々を覆え!!氷盾!!!」彼の叫びに呼応する様に報復者の剣から冷たく頑丈な氷が生成される。

同様のものがエインとエムオルを包み込み、復讐者達は最初の難事を逃れた。




「咄嗟の判断、感謝します」

エインはふー、っと安堵の溜息を漏らした。

「これ…エムがたおした人の力だ」エムオルが自分を覆う氷に触れながら思い返していた。ーー嘗てアンクォアの廷内で相見(あいまみ)えた追従者の能力と同じものだったらだ。


完全女神態(デアフォーム)で来るとは本気で殺すつもりらしい…」

珍しい事だ、と復讐者は驚きつつ舌打った。

…彼にとっては、心底不快でしか無い。

































…普通、此の世界を統べる女神は相見える者全てを見下し、最初から本気を出して向かってきたりはしなかった。

彼女達から見れば自分と追従者以外の人間は「弱者」でしか無い。自身を信仰する弱者は「信者」として"保護するべき価値ある命"と看做すが、そうでは無い者は其れ以外の何者でも無い。

故に人権等と言うものは無く、驕慢な彼女達の我儘な振る舞いによって踏み躙られるだけであり、刃向かえば即死、何よりも惨たらしい方法を彼女達は好む。


連中の気分で滅ぼされた国や都市は多いだろう。

…何せ、自分達の理想を実現させる為に地殻変動や災害を意図的に起こし、叛逆してきた者達を徹底的に嬲り殺した。

関与すらしていない無辜の民ですら、彼女達の牙に掛けられた。




……だから、基本自分史至上主義(殆どはシーフォーン派だろうが)で、認識しても追従者のみというだけの、人間に大して見下してばかりである此の存在は、自分より弱い生き物に対して無慈悲だし、其の為最初から本気なんて出さないのだ。

だが今回は違うらしい。















































「あははっ!!今のは小手調べだよ!!!此の程度で焼き殺されちゃ、クソゴミ以下の弱者でしょ?」

デインソピアが嗤う。嗤う。嗤う。

成程、どうやら最初から本気の割には一行の事は相当舐め切っているらしい様だ。

「……本質はそう変わらんか」復讐者の表情は険しく、だが彼の言葉には呆れが含まれていた。




「でも、あれ……とてもこわいんだよ…」エムオルは心無しか少しだけ慄いている。…でも其れでも武器を収めはしない。

「エム、戦わなきゃ。おねーさんと、約束したもん」

エムオルは自分の頬をぺちぺちと叩いて奮い立たせた。時は少し前程、レミエと約束したのだ。


ーー無論、一行の無事も願いと共に誓いながら。

























「ーーそんな誓いなんか、私が燃やして、捻り潰してやる!!!!!」

星よ!!とデインソピアが叫ぶ。

彼女の傍を漂っている小さな星達がくるりと素早く囲い、周りながら高く掲げた剣に収束される。

「キラキラ」と愛らしく御伽様相(メルヘンチック)な音、七つの色に変わる光の粒を振り撒く女神の星。無数の星型の効果(エフェクト)。デインソピアの両眼に小さな星のハイライトがキラリと入る。



例えるなら魔法少女とかいうやつみたいな感じである。と言うか魔法少女モノでそんな場面有りそうだと不覚にも思った。

然しそんなにもお気楽なものでは無い。

















































ーー兎も角、あの状態の女神の攻撃は受けた時点で己の身の状態なんか保障出来ない。透明な剣から放たれる強力で、メルヘンチックな女神の気が物語る。

此れは思った以上に厄介だと思った。だがこの時点でアレを厄介と看做しているのだから、女神シーフォーンはより強力で厄介だろう。



ーー事態を変えるには。

然し復讐者が動き始めるよりも早く、エインが既に狙撃した。……彼女の周りに浮かび漂う星目掛けて。

「エムオル!!!」

エインの叫び声に、エムオルが高く跳ぶ。

「えやあああああーっ!!」

エムオルの武器が回転を伴いながら宙を舞う。

エインの狙撃が幾つかの大きな星を破壊し、エムオルが投げた三節棍が周りの小さな星々を粉々に打ち砕いていった。

「!!!!!!!!!!」デインソピアが目を大きく見開きながら自分の周囲を見回す。エムオルの武器はブーメランの様に彼女の周りを大きく旋回し、(やが)てエムオルの手元に戻っていった。




(な…どうして!!)デインソピアが原因に気付くよりも更に素早く、今度は復讐者が大きく跳躍し舞台上のシャンデリアを斬り落とした。

ブツリ!と切られた鎖、宙を返る復讐者、()()()()()()()()()()()()落ちてゆくシャンデリア。

















「きゃあああああああっ!!!!!!!!!!」

哀れな事にシャンデリアの落下に巻き込まれたデインソピアは、避け切る事も叶わずに下敷きにされてしまう。

大きな物の落下、硝子質の割れる盛大な音、飛び散る破片、そして其れに混ざって飛び交う少女の悲鳴と、赤い血。

「ぐ……っ…うう………」シャンデリアからズルリと身を這わせて現れたデインソピアは、夥しい血を溢れさせていながら直ぐに立ち直した。

「……ハァ…回復はリンニレースさんだけの能力じゃ無いって言っとくんで…!!」少々痛々しい呻き声を発してはいたが、デインソピアは呟いた。

どうやら、リンニレース程では無いが回復は可能らしい。



復讐者は振り返り切っ先を即座に女神へ向けた。

睨み付けてくる復讐者を一瞥し、デインソピアは嗤う。

「ちょっと待って待って、……っふふ、あはは!!!お前等の勝ちで終わらせる訳ねーだろ!!私の近くに来ちゃったのが不味かったね!!!復讐者!!お前をブッ殺して姉ちゃんにその首捧げてやる!!!!!」

星の乙女の姿に酷似した少女騎士とは思えぬ程の狂気と醜悪に満ちた悍ましい表情を向けながら、新たに展開した星達の力を収束させて変化させた硝子の大剣を復讐者へ向けて振り上げる。

























…………復讐者は恐れなかった。

寧ろ、自身が置かれた状況に決して不利であるという事は思わなかった。



「…其れで私を殺せたとして、お前自身が無事とは限る筈は有るまい……」

彼は口の端を僅かに吊り上げた。

たった一瞬の出来事でしか無かったにも関わらず、彼の僅かな微笑みに、デインソピアは()()()()()()()()()()()()()()()()恐怖を感じた。

















































「ぐっ、う………っ」ドスリ、と女神の背中に突き刺さる一本の矢。

エインのものだが、彼が先程まで使っていたものとは明らかに異なった。一つの太矢が、デインソピアの少女らしい華奢な背中に深く刺さる。…瞬間、彼女の身体は崩折れた。









「……申し訳ありません、外しました」声の主ーーエインが、抑揚の無い、然し悔しそうな様子で言った。

「な……に、を……………」デインソピアは其の場で震え、冷や汗をダラダラと流しながら言葉を発する。

視界がぼやけ、同時にチカチカと明滅する。頭の中を何かが這いずり回る様な不快感を伴いながら全身が痺れた様に、思いの儘に動かせられない。

崩折れた際に受け身すら取れなかったが為に彼女の利き腕は捩じれ、足も有り得ない方向へ曲がってしまっていた。最大まで展開していた筈の背中の白い翼は、一本の矢によってはらりと羽根を落とし、まるで酸を浴びた様に溶かされてゆく。


「あ…あ……わた、しの羽根………!」

デインソピアは瞳に涙を滲ませながら真っ青な顔で自身の衰弱を認識する。今や彼女の異光彩(オッドアイ)は恐怖で揺らぎ、彼女の鮮やかな色彩を湛えた筈の黒い髪は只の黒色に戻ってしまっている。






…エインは、何時に無く無表情に近い表情で、其の場に崩折れ倒れ込むデインソピアを見下した。

「……"エルフの太矢"というものを、御存知ですか」

彼の抑揚の少ない声が、淡々と語ってゆく。

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