『Sidus micat igneus metu Bowie』
体制を立て直した復讐者達が立ち向かう。
此の星の騎士が統べる城に、残された対象はたった一人のみ。
女神デインソピア。
星の乙女の生みの親で、
自らも煌星の少女騎士と自負し振る舞う女神。
かの女神シーフォーンは「彼女こそ可愛くて最高の嫁」だと言う。
星の乙女と其の愛の物語の神話を作り上げた者。
統一宗教「星の乙女教」の誕生に纏わる運命の女の一人。
…知る限りの情報を挙げれば大体こういう内容に落ち着く。
星都の全体的な景観や世の中で信仰されたり露出しているあの女神はどう考えても世界一可愛くてメルヘンで乙女でどうのこうの、と言った感じのイメージが付き纏っている様だ。
なのだが、其の実デインソピアとは相当な苛烈を誇る気性の人物であり、喧嘩っ早く自己の主張がシーフォーン並に激しい。
…まあ、其れも女神の中で最も年少である経緯もあるからだろうが、昔とは違うのだ。今なんかあの時よりも遥かな時間が経っている。なので"普通"ならばもう彼女は一介の大人だしある程度の良識も自粛も出来るの筈なのである。
……いや、「筈なのである」のでは無くて、「筈だった」のである。
ーー大変残念な事に人智を超えた力を得て全知全能の陶酔感に今も溺れている為か、落ち着きを得るどころか更に増長し其の驕りは最早頂に至っていると言うべきであった。
彼女達も所詮は単なる人間である。今や元が付くが、人間というものは万能を得てしまうとどうしても神に等しいと驕ってしまう様だ。
彼女達は其の典型例とも言うべき存在だった。
「……随分と長いな」
目的の場所はデインソピアの御所。此の何ともメルヘンでロマンチックな城の最上階。美しい星空を拝める最高の景観だとか何だとか、エムオルが持っていたパンフレットには書かれていた。
「一般に向けて公開している上、入場まで自由なのですね……」
流石はテーマパークを兼ねた都市なだけある。統一宗教の聖地にして子供も大人も楽しめるテーマパークとしても機能しているとは。
『楽しめるのは兎も角としても宗教の聖地って意味じゃ何か悪趣味だね…』
確かに。
人類史で相当長い歴史のある宗教なら良いとして、其れと比べてもたった数世紀程、長いには長い様だが全ての始まりから数えてみれば案外大した事も無く、胡散臭い部分や恐ろしい事に人権を無視した部分もあるから寧ろ凶悪な新興宗教に等しい気がする。
何が統一宗教だ、と復讐者は心中で悪態をついた。
「…所で復讐者」
螺旋階段を上がる途中、エインが訊ねる。
「レミエさんを置いても宜しかったのですか」
「……ああ。彼女にはやらないといけない事が有るだろうしな」
復讐者は特に気にする事も無かった。エインの問いに対しても割とあっさりと答える。
…少し前の話だ。ユイルを女神シーフォーンの洗脳から解き放ち救ったレミエは、弱っているユイルを抱えて安堵していた。
彼女の力によって深手から回復した復讐者は、レミエとユイルの様子を見て「レミエさんは其の人を連れて此処から出てくれ」と答えた。
「…どうして……!?わ、私は…」
足手まといなんかじゃない、と言いたげであった彼女の状況を察して、
「我々に付いて行くのは駄目だ。ユイルさんを元の場所へ連れて行くんだ、今貴女に必要なのは我々と共に女神デインソピアを討ち取る事じゃ無い」
確かに、確かに癒やしだけに特化した彼女には同行する様になってからは度々助けられているし、リンニレースの件の時には其の力が女神打倒に相当貢献したのは事実だ。
そして今回もーー覚醒によって得た彼女の力は地上に降りた神の様相そのものとでも言える程のもので、尚且つあまりにも強力だった。
対デインソピア戦に備えて可能ならば共に戦いたいとは思っているが……
「…あんた、長い付き合いのあるユイルさんは大事じゃないのか」
復讐者がピシャリと言う。
同行を拒絶される事に戸惑い焦りを見せたレミエの瞳が、はっと見開かれた。
「………そう、ですね…!私が今こうして居られるのや、私が覚醒したのも、ユイルさん…」
「そうだ。あんt…貴女が其の人と助け合いながらあの場所に辿り着かなかったら、もしかしたら此処には居なかったかもしれない。だから道程は長いかもしれないけれど、本来の居るべき場所へ連れ戻してあげてくれ」
間に合わない訳でも無いのだ、と彼は言った。
「……はい!!必ず、合流しましょうね。其れまでは少しだけお別れです」
レミエが少々物寂しそうな表情ながら、再会を誓った。
「……………………」
『……………………』
エインとニイスが厭な程黙っている。入る余地も必要も無い、とは思っているらしいがーーどうも少し納得がいかない。
「……あの、エムオル、ちょっと、」
エインか手招いてエムオルを呼び、彼は其の近くでひそひそと何かを伝えた。
「……………………!」エムオルがエインの伝えた内容を聞き入れた様だ。少し興奮してるのか意気揚々と一行より少し離れた場所へ走る。ニイスが後を追い掛けて二人が何かをしていた。
ーー……………………
『彼処だけ明るいな…螺旋階段の終わりが見えてきた様だ……気を付けて、先には女神デインソピアが居る』
ニイスが強く警戒をしている。彼が警戒する通り其の向こう側には女神が居るらしい様だった。
…苛烈な気配が、螺旋階段の終わりの向こうから感じる。
「準備…出来ているか」復讐者は剣を構える。其の言葉に合わせる様にエインもエムオルも武器をしっかりと構えていた。
対する女神はたった一人であっても、四女神の序列二位に属しているだけあって厄介な強さである事は事実である。だから全員で挑むべき相手の一人なのだ。
ーー彼は以前より誓っていた。"デインソピアとシーフォーンは報復者の剣で殺す"、と。
ーー……登り切った其の向こうに、夢想と苛烈に身を燃やす者は居た。
大きな城にして塔の最上。夜の星空に囲まれているかの様な錯覚を抱かせる舞台の中心に女神が立つ。
彼女の立ち振る舞いはまるで舞踏。
星空を湛えたスカートを細い指で摘み上げながら、彼女は踊る。
蝶の様に可憐な舞。星々に囲まれて銀河の中心。
英雄に愛されたアンドロメダの様に。
舞台の上では彼女は間違い無く主役だった。
反射する星光に乙女に似た容姿が輝きを身に纏う。
「………どうも。遂に来ちゃったんですね」
先に口を開いたのは女神の方だった。
「…………アンタを殺しに来た」
復讐者は其れ以上語らなかった。
「あっそ…ファロの事殺して、■■■■ちゃんまで殺して。……さぞ嬉しいんでしょうね」
女神は一行を睨み付ける。忌々しさと憎しみとを綯い交ぜにした感情を、言葉に乗せて吐き出した。
「しかも姉ちゃんにまで攻撃したんだって?姉ちゃんが傷付いたって聞いたよ。ふざけんな、私から大切な■■■■ちゃんや後輩を奪って、姉ちゃんまで怪我させやがって」
女神は、大凡其の容姿には相応しくない口の悪さを露顕させる。
「……先に、大切な存在を我々から奪ったお前達がよく言えたものだな」復讐者が小さく溜息を吐いた。
「……そんな事は関係無い。どうでもいい。私はあなた達をブッ殺す。殺して姉ちゃんとやり直すんだ、また、■■■■ちゃんを創るんだ」
「私の創作で、アンクォアさんもリンニレースさんも、殺された追従者さん達も創ってしまえば良い。でもあなた達がいる限りは邪魔されるのがオチですから……だから私が殺してしまえば良いんだ」
「姉ちゃんが喜んでくれる!!だって姉ちゃんは私にとって掛け替えの無い半身!!姉ちゃんとは本当の家族で、私の旦那様なんだよ!!!」
女神は目を大きく見開き、舞台の中心で両腕を大きく広げて、見上げた。
「■■■■ちゃんランドもこれ以上壊させない、■■■■ちゃんを蘇らせるんだ!!今度こそーー姉ちゃんと一緒に■■■■ちゃんと■■くんの愛を本物にする!私の、私の■■くんへの愛も本物にして、姉ちゃんの好きな聖女様達と一緒に永遠にするんだ!!!!!」
女神の身体が白く輝き、形を変える。
「"フェイシンシャオニュ・ソフィア"………煌めきの星の下、宇宙の降る舞台、乙女騎士は可憐に舞い踊る!!!」
乙女と呼ぶに相応しい少女の姿へ変わった女神が、宛ら可憐な正義の姫騎士の如く、異光彩の瞳で復讐者を見据えた。




