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Dea occisio ーFlos fructum nonー  作者: つつみ
Dura et somnia(夢想と苛烈)
53/91

『Et ipsum ludere cum vita, vitam in conculcationem』

「そんな…ユイルさん!!」









レミエの、僅かな悲鳴にも近い叫びが其の場に響く。






「貴女の知ってる"ユイルさん"はもう居ませんよw」

「そんなっ…」

ふわりと高所から女神が降りる。

シーフォーンが厭らしそうに嗤いながら、ユイルの方に其の手を置いた。

「だって、"ユイルさん"は既に私の手。貴女方が殺してきた女神や追従者達と同じ様に、私の言葉だけを聞いてくれる"ユイル"さんになったんです」

レミエを嘲笑う様に目を細めながらシーフォーンは語る。

大層な事だと言わんばかりに大きく両腕を広げ、暗い天を仰ぎ、まるで此の場の主役は自分自身だと主張する様に。



「此れは「復讐」ですっ!…だって、貴女達は私の大切な友達を殺したじゃないですか!!絶対許しませんから。思い付く限り惨たらしい手段で貴女達の事を追い詰めてやるつもりなので!私を傷付けた貴方がたには死んで下さいね!!!」

毅然とした態度で言い放ち、勝ち誇る様に高笑う女神シーフォーン。

己の欲に埋もれて心の狂った女には、自分と自分が認める者以外のものは全て踏み躙っても良いと思う程のものでしか無い。


…愛らしい少女の姿をした、醜い心を持った化物へ成り果ててしまった女。

抑え切れぬ欲の成れの果て。


















「…まあ、あっさり殺すのは詰まらないですしね。私が介入するのも有りですが私じゃあっさり殺してしまいますもの。」


「だから考えたんです。()()()()()()()""に()()()()()()()()()()、今度は意図ありありですが同じ様に復讐者さん達の心を壊してから殺しちゃおうって!!」


「ほら、私は"あの人"とは違いますから、大学出てましたし元々頭良いですから。たった一人を追い詰めようと思えば、私の人徳(カリスマ)で多くの人間を扇動してリンチにする事も簡単ですしね。私の機嫌損ねる事がどれだけ恐ろしいか彼には身を持って知らしめてあげましたが、まさかあんなにもあっさり死んじゃうなんて!!」

オーバーな仕種の後、急に幼い子供の様に無邪気な態度に変貌した後、彼女は人の死を馬鹿にする様に言い放った。




「おもわずわらいがこみあげてくるぞ!これが「かたはらいたい」ってやつだな!!いまのおまえたちはさいっこーにうけるぞ!!きゃはははは!!!!!」

今の自身のモデルであろう、彼女の創作に出る幼女の真似をしたシーフォーンの、キャハキャハとした笑い声が響き渡る。
















ーー復讐者の瞳の焔が、最高の憎悪と共に溢れ出した。









































「……………貴様ァァァァァァァァァっ!!!!!!!!!!!!」

復讐者の怒号が幼女の笑い声を掻き消した。

復讐者(ヴェンデッタ)!!」離れまで響いた彼の声がエインを振り向かせる。


「ガアアアアアッ!!!」

「ぐっ」

亜獣の本来の力を振るうファロナーを前に、油断してしまったエインが其の一撃を受けてしまう。

「ーーG゛añᒣぇ.ßÉnP゛aイ…、侮j辱ジタyÿ.奴゛ハ゛、GÒ.殺koᎡロ、ロ、コロ゛す!!殺す゛!!!KoG殺すっ゛!!!!!!!」

最早獣の叫びの様なファロナーの振り上げた腕を掻い潜り、暴走するファロナーの攻撃をエインは躱してゆく。




「殺す!!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!!!!シーフォーン!!貴様!!貴様が、貴様が殺しておきながら、二度も三度も"あの人"の死を侮辱するのかあああああっ!!!!!!!巫山戯(ふざけ)るなあああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!」

怒りと憎悪に視野を失った復讐者が高所から嘲笑うシーフォーンを殺す為に飛び上がる。

彼の取り出した報復者の剣がシーフォーンの喉元を狙うが、彼女は咄嗟に尾を出して其の一撃を封じた。









「いたいなぁ。おんなのこにはやさしくしないとモテないってにーちゃんがいってたぞ?」

「抜かせ嘘吐きめ、貴様の言う其の「にーちゃん」など貴様の創り上げた都合の良い創作の人物でしか無いではないか、現実を生き続ける貴様が創作の世界の者に完全になれると思うな」

「ばかだなぁおまえは。今…目の当たりにしてるじゃないですか、創作を現実にする事は可能なんですよ、私やデインちゃん達がそうでしょう?」

「所詮は愚者のまやかしだ、貴様は元に在るべき形を無惨にも壊して己の欲吐きに耽っているだけだ、お前も、(デイン)も、あの乙女(■■■■)も!!!」



するとシーフォーンが突如激昂する。己の身を弁えずに。

「だから、だからリンニレースさんやアンクォアさんを殺したんですね?ーーそんなの、貴方の身勝手じゃないですか!!私達は当然の事をやってます、私達が正しいんです!!何で!?私達は何一つ間違っちゃいないですし望んだ事を形にしたまで!!自分の欲を吐いて恍惚とする為じゃ無いです!!!皆、皆さんが私達が望む事と同じ事を求め続けた!!皆さんが望んだ!!!此れは、この世界は私達だけじゃなくて皆さんが望んだから総意なんです!!!皆さんの総意を私達が叶えただけ!!!!!」


「自分に出来る事をしたんです!!!私達自身でも叶えたかった事ですが皆がそう望んだから私達の願いが実現した!!!私は悪くない!!!!!私達は正しい!!!!!私は、私は絶対に何も悪くないんです!!!!!!!!」


「私は弱者なんだから、誰もが私を愛して気を遣ってあげるのが正当でしょう!!!!!!!!!!?」

















「……お前に皆が気を遣って愛する事が正当?何処までも巫山戯るなよ」


「"私は悪くない"?あんな、あんな事をしておいてか?…女神を自称する様になってからも、連中と一緒に自分の意に従わなかった奴等を徹底的に嬲り殺していったお前が?」


「皆が自分達の望みと同じ事を望んだ、此の世界や星の乙女の物語が世界全体の総意だって?反吐が出る。さも皆が望んだからやった、だから此れは正当で独裁的な行為では無いと、言い張るのか」


「ーーお前の、お前達のその醜い思想と行為によって、何人の命が犠牲になった!!たかだか一つの創作に過ぎなかっただけだったものを、実現したい欲望のままに暴威と理不尽を働かせて!!そして自分達の機嫌を損ねただけの理由で、無辜の人間は何人お前達に殺された!!!お前の其の糞餓鬼の様な幼稚さと我儘によって世界は歪んだんだ!!!!!!!!」

復讐者が女神の傲慢な叫びに張り合った。踏み躙られた者の一人として。


彼の叫びは喪失と痛みを伴った叫びだ。彼の悲しみなのだ。()()を放棄してしまった女神には永遠に分かり得ない絶望を孕んでいる。




復讐者(ヴェンデッタ)!!!」

エインの叫び声が両者の間を割る。

「ーーぐあっ!!!!!!!!」

復讐者の身体にファロナーの尻尾が命中した。其の一撃をまともに喰らい、彼の身体は壁に激突する。

「私を相手取るのも結構ですが、ファロナーさんを忘れてしまってはいけませんよ〜。ほら、今みたいに吹き飛ばされて、気を抜けばそんな身体なんか!」

シーフォーンは悪戯そうな笑みを溢して、そしてふわりと中空に飛び立つや、其の身体は薄くなり消えてゆく。

「シーフォーン!!!女神シー…フォーン……!!!!!!!!」

復讐者の悔しそうな声。

シーフォーンの嘲笑と侮蔑を込めた笑み。


「っく、……!!!」ファロナーの攻撃を避けつつ、エインが消えゆく女神シーフォーンの姿に気付く。壁に打ちのめされた復讐者の姿に状況を理解した途端、彼は女神が完全に消える前に女神へ向かって持っていた弓で女神の身体を撃ち抜いた。



「其の儘逃がすものか…っ!!」

エインの一矢は女神の鳩尾(みぞおち)に突き刺さった。

「ぐあっ!!く、う……………」シーフォーンは一矢報いたエインの姿を見、睨み付ける。

そして彼女は静かに吐いた。

「…貴方、代行者さんでしたっけ。ふ、ふっ、ふふ、やるじゃないですか。貴方の大切なお身内がやられて怒り心頭なのでしょうね」

「吐かしなさい、傲慢な女の化物よ。何時までも貴女の理想と泰平が続くとお思いでしたら、私達が貴女の傲慢に罰を与えましょう」

エインの静かな怒り、復讐者の様に青く燃える瞳、彼の持つ鋭さに射抜かれながら、女神シーフォーンは其の場から消え去っていった。









































































「ユイルさん…っ、ユイルさん………目を、目を醒まして下さい…!!」

女神の手先に成り果ててしまったユイルと対面し、動揺を隠し切れないレミエ。

「……………………」ユイルは沈黙し、瞳は虚ろな儘。彼女の双眸はレミエすら見ていないのだろう。




「お…おねーさん……」エムオルは只管不安そうな様子で見守る。自分に此の人を宥められる程の余裕があったなら、と悔やんだ。


「ユイルさん…嘘、ですよね?……帰りましょう。瓦礫の聖堂へ。皆さんきっと貴女を待って下さいますから、此れ以上村の方々を不安にさせてしまってはいけません……」

動揺を隠せない状態の儘で、レミエはユイルへ近付いた。

ーーバシュッ!

「!!」咄嗟に避けはしたが、レミエの頬に薄っすらと血が滲んだ。状況を理解出来無い、といった様子を振る舞っていたが、彼女はよく理解していた。

ユイルが、攻撃した。ーー紛れも無い事実であり、彼女が対面する相手は、女神の手先になってしまった存在だと噛み砕く様にレミエの脳は理解する。

「ユ…イル……さん…」レミエの瞳が大きく見開かれて、ユイルを見詰めた。

























「……………………」ユイルは動揺もせず、ただ静かに其の場に居る。そして彼女の立ち振る舞いが戦闘の其れに変わった。

ーーレミエを、殺すつもりだ。




「………っ!!」レミエはまた顔を青ざめる。

ーー此の人は、簡単には戻らない。女神によって苦しみを植え付けられてしまったのだ。此の人は苦しんでいるのだ。

振る舞いに反して感じたレミエの心が、友を救いたいと願う。身体の方も其れに順応したのか、彼女の身体は杖を握り締めていた。

鼓動が、全身を脈打つ。

















































ーー救いたい。

苦しむ人達を、私は助けたい。

私の此の力は、其の為にある。


……でも。

でも、其れだけでは救えない。

「癒す」だけでは、救えない者も居る。


救える筈の者を救えない事は、(レミエ)の最もな苦痛。




主よ。

大いなる方よ。

私に此の力を与えて下さった尊い御方よ。

私に力を下さい。


(■■)よ。

古より人に寄り添った御方よ。

私に戦う(救う)力を下さい。


私に眠る、私の正しい力を。

































ーー私に戦い抗う(誰かを救う)力を思い出させて下さい!!!!!!!!

































































ーーどくん、と二度目の鼓動が全身を駆け抜けた。


彼女の祈りは奇跡をもたらし、そして彼女の在るべき形を蘇らせてゆく。

下方から溢れる輝きが、レミエを護る様に包み、修道女の姿だった彼女の姿が、東洋の巫の装いに似た姿へと変化した。

「おねーさん…!?」エムオルの声すら霞む程の眩さ。

「レミエさん……?」復讐者を抱えるエインがレミエの方へ向く。



大広間を、美しい光が照らす。


















「…ああ………」

レミエの見る光景が、眩い輝きの中へと変化した。

薄桃の見事な桜が、穏やかな風に巻かれて散っている。彼女が()()()から思い描いていた心象風景が描かれてゆく。

…彼女の魂を誰かが呼んでいる。

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