『Stella e clade Variana』
「あ……あ…あ………あ…………………」
穿かれた部分から蒼い焔が噴き出す。少女ーー星の乙女の身体から夥しい量の血が流れ、一面を染めている。
赤い筈の血は辺りの環境の所為で黒い海を作ってゆく。
倒れ伏せる乙女の前に、黒い青年ーー"ニイス"が立つ。
其の手には黒く輝く報復者の剣。
佇むニイスの表情はただ冷たく、ただ無機質で、ただ残酷であった。
『……………………』ニイスは静かに沈黙している。今の彼には、やり遂げた使命よりも、脳裏に霞んでざわめきつつあるノイズに痛みを訴えたいと思っていたからだ。
此の星都に来てから特に酷くなった気がする。
自分の忘れていたものが、自分が知ってはならない何かが、ノイズとして邪魔をしている。
聞き取れない訳では無く、己もまた当て嵌まる言葉を発言しているのに、其れでもノイズは消えなかった。
(……きっと僕がこういう奴に関わる事で、必然的にそう働く様になっているのだろう)
こびり付いた乙女の血からは、さらさらと星の煌めきが零れる。まるで涙の様に。
ニイスは剣を振り払い、こびり付いた乙女の血を払った。
ーー濁血は要らぬ。
彼の動きも、剣も、そう言っているかの様に…
「……な…んで……なんで…こんなこ…と……するの…?………■■くん、■■くん……答えてよぉ…■■…………………………」
星の乙女は力を振り絞って手を伸ばす。
「ねえ…ねえ……■■…わたし、あなた…の……こと………」
星の乙女お得意の、大粒の涙を流して情に訴える行為。彼女の振る舞いに女神シーフォーンやデインソピアを垣間見た気がした彼は、惨たらしく彼女の手に剣を突き立てた。
「い……ぎゃっ…うあ、あ、ああああああああああ!!!!!」
ズブリと押し込む様に突き立てられ穿かれた乙女の手から、ブシッと勢い良く血が噴き出す。
先程身体を穿かれた時の様に彼女の伸ばした手からも蒼い焔が溢れ出る。業火は思いの外乙女を包み燃やしている訳では無かったが、どうやら彼の焔は目に見える形で燃えている様子では無い。乙女の内部を激しく燃やし続けているらしいのだ。
其の為、星の乙女の周りが血の海と化しそして彼女が苦悶の表情を浮かべているのであった。
「あついよ……………いたい…よ……………………………■■……く……………ん……………………………………」
少女の形は溶けて、溶けて、内側からゆっくりと溶けてゆく。
乙女の臓腑は既に燃え溶け切り、胃液や胆汁等の体液を含んだ血をどばりと口から吐き出す。
ゴボゴボと水気を含んだ異様な咳き込みの度にベチャッと血を混ぜて、僅かに酸っぱい臭いを放ちながら血の海と一体化していった。
肉の焼ける臭いと、酸っぱい臭いにニイスは生前の頃の様な心境を思い出す。
ぼんやりと溶けゆく少女を冷たく見下ろしながら、創り者でも人間の様になるのか、等と思っていた。
「あ……あぁ…あう…………あ…、……く……グブッ、…ぶ、ん………ゴボッ」
ドロドロとドロドロと溶けて、星の乙女はヒトだったものへと変わり果てた。
ーー嘗て信仰されていた、知識の名を持つ少女。
今はもう燃え尽きた。黒い血の海の上で蒼い焔に内側を燃やされながら、炭化する事も無く骨すら溶けて。
『紛い物であっても、其の最期は美しかったかもしれないな』ニイスは静かに呟く。然し彼の表情に起伏がある筈も無く、無機質な表情だった。
少女を殺した、彼の蒼い焔に包まれて。
『僕の、此処での役割は終わった。さあ、剣を返そう。女神を殺す為には、復讐者には、どうしても此の剣が必要なのだから…』
ニイスの姿は、星都の明かりと夜の闇に紛れて消えた。
遠くから金属の様なものが落ちる音と共に。




