『Et virgo, somnum exterreri solebat ut haeream -Ⅱ-』
飛び去った彼女は、其処に先程まで居たという跡すら残さずに。
敵の居城にも関わらず復讐者はぼうっとしながら大きく輝く月を見上げる。
「ーー約束、か…」
静寂の中で寂しく呟かれた彼の声は、沈められながらも殺意を失っていない。
「…レミエさんとエムオルの元へ向かわなくてはならんな、先ずは……」
直ぐに踵を返した復讐者が見据える場所は、二人が待つ場所。走り抜ければ其処は直ぐに辿り着ける。
(エイン…ニイス……無事でいると良いが…)
そして彼は焦燥を瞳の焔に変えてゆく。
「………!!」回廊中を走り抜けていたエインが広間に辿り着いた時、彼は急に立ち止まった。
ーー〜!!!!!ゴゴゴ、と揺れが生じ辺りが揺すぶられる。
地響きが静まった後、彼の頭上目掛けて大きな何かが降ってくる。エインは気配に気付いて直ぐ様に飛び退いたが、瓦礫と砂埃の向こう側から其の何かが動いた。
「……あーあー…残念……潰せなかったわ」
少しばかり気怠そうな声音。ゆらりと動いた影が其の異様な姿を映している。
「………亜獣種ですか。此れまた厄介な」
エインがふーっと溜息を吐いた。
「そーなんですよね、所で貴方ってアガーパイセンの都にお住まいの人でしたよね、用件あるならちゃんとした所通って欲しいんですけど」
其の獣は至極気怠く、面倒臭そうに答える。
「ーー其れは存じておりませんでした。生憎なのですが、私は面倒事に対して丁寧な手順を踏むのが嫌いでして」
エインは携えていた他の武器を持ち構え始める。
「…あっそ。私と似てますねそういう所w…まあ、強行突破するつもりみたいだったんで力ずくで捩じ伏せるだけですけど!!?」
砂埃越しの巨躯は、其の体積を変えて己の腕を亜獣化させた。
高速で向かう影をエインは迎撃する。
「阻むのでしたら此方も応戦致しましょう。どうやら貴女がデインソピアの追従者の様ですからね…!」
力には力を。
エインは鋭く、険しい表情を亜獣の追従者へ向けた。
『………はあ。僕もこうする時が来てしまったか』
都の民が寝静まり、誰も居ない星都の中心で、ニイスは佇む。
先程から只管はあ、と溜息を吐き続けていた。
『うぐう…あいつ嫌いだな〜〜〜ほんとどうにかなってくれないかなあ〜〜〜〜〜』
『……いや、僕がやるんだ。僕がやらなくてはならないんだ』
一度頭を抱えたものの、振り直してニイスは己を奮い立たせた。
感情的になってはいけない、と心の中で強く強く言い聞かせながら。
「………■■くん?」
背後から聞きたくもない声が聞こえる。
「……………………」
「■■くんだよね?待っててくれたんだ!」
其の声は喜びを含んでニイスに飛び付く。思わぬ行動に驚いた彼が振り返れば、少女。
嗚呼、星の乙女だ。
抹消するべき対象。
「嬉しい、…嬉しい!!■■がちゃんとここに居てくれる事!!!」
無表情なニイスに反して、星の乙女は頬を高調させて彼の身体に抱き着く。
「■■くん…■■くん……!!ここで一緒に生きよう、私と永遠にここにいようね!!!!!」
少女の瞳から大粒の涙が溢れ出している。
…嗚呼、悪夢が始まる。
「デインちゃん達の所に行きたいけれど……デートしようよ、星都を案内したいの。この、美しくて綺麗で、最高の私の夢の場所を!!!」
溢れんばかりの涙と満面の笑みを湛えながら、乙女は少女特有の華奢な腕を大きく広げた。




