『Mortem』
Good bye, people you respect.
(さようなら、尊敬する人達よ)
I will die.
(私は死ぬわ)
Because you wanted so.
(あなた達がそう望んだから)
Do not be sad. Please be glad to give.
(悲しまないで。喜んで頂戴)
My death is your happiness
(私の死はあなた達の幸福)
My death is your pleasure
(私の死があなた達の喜び)
do not you? As I die, you will remain happy forever.
(そうでしょう?私が死ぬとあなた達は永遠に幸せなままになる)
You gave me death,
(あなた達は私に死を賜った)
You strongly wanted me to die.
(あなた達は私に死んでくれと強く望んだ)
It is your essence,
(それがあなた達の本質)
That is your awesome identity.
(それがあなた達の恐るべき正体)
其の昔、"あの人"が書いていた短文詩に書き残されていた言葉だった。
"あの人"が最期に私達に遺した言葉でもある。
…然し、其の言葉は明らかに私達へ向けた言葉では無かった。
誰に向けた言葉なのかは明らかだった。
ーー彼女達だ。
自らを死に追いやった彼女達へ向けられた言葉だった。
自分が其の事実、そして其の行動の発端に触れた事で連中を激しく恨む切っ掛けが生まれた。
そして、彼女達が我々をあしらった上で我々の尊厳の一切を無視し、そして死んだ"あの人"の尊厳すら容赦無く踏み躙った事で自分が報復を誓う、全ての始まりとなった。
彼の様になりたかった僕が、恩人を何処までも苦しめ其の死すら辱めた彼女達を復讐する私になった瞬間でもある。
『……………………』ニイスは珍しく静かであった。
永世中立種族であり、そして女神すら無闇に立ち入れられないツブ族の集落地で次の目的地へ向かう準備と、次なる女神デインソピアの殺害を遂行すべく襲撃の為の道具を揃えた一行は、ツブ族から教えられた道筋を辿って目的地ソフィアリア・イルを目指す。
その中でふと、復讐者はある人物の事を思い出した。
「……そう言えば彼奴は元気にやってるだろうか?」
「彼奴?」
「身内でね。ニイスと私と一緒に旅をしていた時期があったんだ。彼奴、堅実な奴の割に大胆にも"ちょっと暫くデインソピアの状況を窺える所に居ようかと思います"って言ったっきり何の連絡も寄越さん」
「な、何かあったとか???」
「其れは分からん…でも、実直過ぎて彼処で何かやらかしていたりしそうに思えなくも無い」
聞く所によれば星都ソフィアリア・イルは夢の国の様な都であると聞いた。
世界統一宗教「星の乙女教」の拠点であり信奉者にとって聖地でもあるあの場所は、其れは其れは浮かれに浮かれて頭のイカれた連中ばかりが住人だとも聞く。
更に其処を統治する女神があんなんだから尚の事………
「……彼奴のあの性格じゃ、浮かれポンチな星都の連中と諍いでも起きていそうに思えてしまってだな………………」
兎に角真面目過ぎていい加減なタイプでは無いのである。
復讐者が心配する理由を、レミエとエムオルは何と無く理解した。
…対して、彼等に反する様にニイスは相変わらず沈黙していた。
『……………………』
割と喋るニイスの様子を不思議に思ってか、復讐者が彼に声を掛ける。
「…どうしたんだニイス?」
『………?嗚呼、何でも無い、何でも無いよ。ただ…』
何かが抜け落ちてしまっている様な感覚がムズムズする。
…と言おうとするのをニイスは留まる。彼等に余計な心配は掛けさせるべきでは無い、と判断していたからだ。
「?」復讐者の若干訝しそうな表情がニイスを捉えている。
少々気不味く思うも、ニイスは言う事をしなかった。その代わり、
『星の乙女の事が気になってね。アレの行動原理に僕が引っ掛かっているとは思わなんだ』
本当に言うべき事から必死に逸らして、ニイスは別の言葉を発する。
「…ああ、アレについてか。…何故、ニイスなんだろうな」
復讐者も敢えて何も言わない。…きっと星の乙女が激しく求める■■と、ニイスが酷く酷似しているからだ。
然し言ってしまえばニイスが酷く嫌な気持ちになりかねない事を悟って、彼は言わなかった。ニイスもニイスで、言うべき事実から背けている。
…其の二人の脳内で、あの短文詩の事を思い出していた。
同じ事を思い出せども思う心境は異なっている。
踏み込まない程度に其の事を如実に感じている二人は結局、様子を可怪しく思ったレミエとエムオルに横入られて話題を変えてゆく。
欠けたニイスの何か。
彼の中にほんの少し浮き上がる違和感が、何れ彼自身にも影響をもたらす事となるのはまだ先の話の事であった。




