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Dea occisio ーFlos fructum nonー  作者: つつみ
Infirmitatem et Play(衰弱と再生)
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『Moniales acervus lapidum erit cathedralis』

新たな装いと武器を得てから復讐者とニイスが向かった先は、女神の手すら及んでいなさそうな自然の中であった。


自然の景色の中で一つ休んでおくべきと判断し、復讐者は休息の取れる居場所を探していた。






「…?廃墟があるな……」

前髪越しに廃墟の姿を捉えると、其れが小さめの聖堂であった事が確認出来た。

彼処ならば休息に丁度良い、そう判断して早速聖堂の中へ入ってゆく。

























「…内部は割と涼しい」

『結構良いね、こういうの好きだよ、僕』

ニイスは相変わらずのんびりと復讐者の周りを漂っている。

「所々崩壊していて瓦礫だらけだが…悪くは無いな、休めそうだ」

復讐者は荷物を置き、携えている武器の手入れに入ろうとしていた。


『…待ちなよ、復讐者。誰か居る』

離れの所から、誰かの気配をニイスは感じ取る。

















「…あの、誰ですか?貴方達、盗賊の方ですか?」

ふと、奥の方から穏やかな女性の声が聞こえた。声のする方に、修道女らしき様相の女が立っている。

『あれ。人の気配がしたからやっぱり先客が居たんだね。どうするんだい復讐者?』

ニイスがややからかった声音で復讐者に問う。

「そういう貴女は何故此処に居るんですか?」

復讐者は彼女の問いに対し同じような言葉を以て問い返した。






「……えーと、私は…私も貴方達と同じ、旅をしていました。それで偶然此処に辿り着いて、今に至ります」

此の修道女によると、彼女自身も旅をしていたが、ある日辿り着いたこの瓦礫の聖堂を安住に相応しい地と定め、持ち寄っていた書物を読み、聖歌を歌いながら過ごしていたらしい。

『過ごしていた、って事は近くに集落があるって事だよね』

ニイスがピンと来た様子で答えるが、生憎この場に於いては復讐者以外に姿も見えなければ声も聞こえる筈が無い。



「あ…ええそうです。食物の調達は、裏手に畑を耕したり、近くの村の方から頂いています」

修道女はニイスの声が聞こえた方へと顔を向けながら、ニイスの言葉に対して答えを返した。

「………!!」ニイスの事で復讐者の目が大きく見開いたのは恐らく此れが初めてだろう。どうやらこの修道女、ニイスの声が聞こえるらしい。

序に姿も見えるのだろうか。聞きたい気持ちは山々だが唐突に聞いても変に思われそうだ。




「………」復讐者が戸惑っていると、そんな彼の様子すら気にも留めずニイスの方から勝手に話題を挙げ出した。

『僕の声が聞こえるんだ?じゃあ僕の姿は見える?』

ニイスが目の前の修道女に手をヒラヒラと振るが、修道女の目にはきちんと写っていない様なのか、修道女はやや戸惑いながら必死に応えようとしている様だった。


(ぬっ…ニイス、馬鹿、止めないか)

(ええ?別に良いじゃないか、聞く事位は…)

「…うーん……何と無く、ですが…声は聞こえるのですけれど姿まではハッキリ見れなくて…」

修道女は戸惑いながらも、割としっかりと答えてくれた。

「ニ、ニイスが一応見えるのか……」

復讐者は驚きを隠せない。女神達ならば兎も角、一般の人間に曖昧ながら姿を認識出来る者がいた事に。









「あ、はい。そういうものが分からなくは無いです。オカルトな話ですけれど、非現実の存在って居ると思いますよ、きっと」

修道女が其れを言ってしまうのか。

そもそも聖職者程オカルトに尽きない業種の方は多いのではないだろうか。でも修道女なのにオカルトと言ってしまった事に二度も思わず驚いてしまった。



『へえ。じゃあ復讐者と"彼"以外に僕の姿を認識出来て、声まで聞ける奴は居たんだね』

ニイスは心無しか少し嬉しそうに声を弾ませている様だった。

「あら?嬉しそうですね」

ニイスのよ喜びがしっかりと伝わっているらしく、修道女もにこやかに微笑んでいる。

















復讐者は少し思案した後、一思いに尋ねるべきと判断した様だ。

聖職者であるとするならば、もしや。



「…あの、話を変えてつかぬ事を尋ねるが、女神について知っていたりするのだろうか」

復讐者が話題を変えた途端、それ迄の雰囲気が静かに変化した。









「……女神、ですか。彼女達については存じております」

修道女の表情に翳りが表れる。

「女神は、己の欲の為に、暴力を振るい他者を傷付け、そして彼等から幸せを奪って自分達のものにする、残酷な人達です」

続けて修道女は語り出す。


「かく言う私自身、女神の一人に苦しめられた一人です。彼女の現在(いま)の名はーーシーフォーン。女神シーフォーンです」

「貴女も奴に苦しめられた一人だったのですか!」

「はい。そして私にとって掛け替えのないものを失い、そして追われてしまったのです。あの場所はーー私の心の、拠り所でした」

全てを語り尽くした修道女の表情は、悲痛に満ちている。




『酷いものだね』

ニイスの表情も複雑そうに歪んでいた。

「女神は見境が無いな」復讐者の呆れと怒りにも近い声が、言葉を紡ぐ。

「…あの、私の方からもお尋ねしますが、貴方方は何の為に旅を?」

修道女は、ふとした様子で復讐者達に目的を尋ねた。

























「……女神殺しだ」

俯き、復讐者の低い声が静かな空間に響いた。

「女神、殺し…」

修道女の声も彼の迫のある声に影響されて、緊張した様子を孕む。



「私は大切な人をあの醜く愚かな四女神の所為で(うしな)ってしまった。四女神も、追従する連中も、許せない。だけど勘違いはしないで頂きたい、私は私の報復の為に全員を殺す。苦しめられた者の為では無い事を」

前髪に隠された、復讐者の瞳が冷たく光る。

彼女はその姿を「まるで報復の為に生きる獣」の様だと捉えながらも、同時に救えられたなら、とも思った。

「…引き返すつもりは、無いのですか?」

「無いよ。私に引き返すという選択は無い。此れは私にとって命を全て使い果たしても良いと思える程のもの。諦めてしまったらあの人の無念を晴らす事は出来ない」

復讐者の信念が垣間見えた。




『ごめんね、修道女さん。彼、こういう人だから』

ニイスが仕方無いといった様子で言ったが、彼等を含めて修道女自身も思う所があった様である。









「…貴方の信念はそれ程までにお強いのですね。」

修道女がすっと立ち上がり、復讐者達に向き直しながら。

「その、報復の旅路、良ければ私も同行させては頂けないでしょうか」

何かを決意したかの様に、毅然とした振る舞いと声で、修道女は閉じていた両目をゆっくりと開いた。

鮮やかで穏やかな水色が映える。

「足手まといにはならないと約束致しましょう。此の癒やしの力で貴方方を支援致します。それに私自身、元は僧兵。要所では共に戦えますから」

にっこりと修道女が微笑みながら、グッと腕を上げた。

「僧兵か。心強いな。回復まで出来るなんて」

復讐者は再び驚きながらも歓喜を溢れさせていた。心強い仲間が出来た事もあるが、それ以上に何処か嬉しくもあった様だった。




『じゃあ、自己紹介が必要そうだね。僕はニイス。そして彼は■■■、復讐者の方が良いかもしれないかな。で、君の名前は?』

「あ…えっと、私の名前はレミエです。修道女、なんて呼び難かったですよね。先に名乗るべきでした」

ほんの少し気恥ずかしそうにしながら、修道女…レミエは己の名を告げた。

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