『Somnium eius』
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ああ、古くて懐かしい場所の様な気がする。古めかしい大時計がコチコチと鳴り、古びたロッキングチェアが揺れる度にキイキイと微かな音を立てた。
幼い私はおばあ様の膝に縋る様におばあ様のお話を聞いている。
「……良い?あなたの其の力は神様から貰った奇跡だと思いなさい。其の力は、私やあなたにしか使えない秘密の力なの…だから沢山の人に軽く話しては駄目よ」
ああ…おばあ様の優しい声が聞こえる。
身寄りの無かった私を育ててくれた優しいおばあ様。私が修道女になろうとする切っ掛け、始まりは嘗て修道女だったおばあ様の影響だった。
おばあ様も今の私の様に迷える方をお救いして、そして傷付いた者や動物達を癒やしていた。
強く在りたいと日々鍛錬も欠かさなかったおばあ様は、年老いて修道女を辞めてしまっても強かったし、修道院の方達からの人望も厚い方でした。
そして何よりも小さな街ではあったけれど、街の方々からも尊敬されていた、本当に素晴らしい方だった。
其のおばあ様が老衰で亡くなる前、おばあ様が意味深な言葉を言った事を思い出す。
「神様……"其の時"が遂に来たのですね…レミエ、あの子が………」
あの言葉は、どういう意味なのだろう。
私が其の理由を知る事無くおばあ様は亡くなった。
人払いをして、私と二人きりで、自分が息絶える最期の時まで。
とても哀しかった。心から愛し尊敬していたおばあ様が、世を去ってしまった事に。
其の後、修道院の方がおばあ様の葬儀を取り仕切って下さいました。
煙となって空へ向かっていったおばあ様を涙に暮れながら見詰める私の前に、院長様が数人の修道士や修道女達を率いてお迎えに来た事で、私も修道女の一人になりました。
修道院での生活はとても穏やかで、慎ましいものでした。
其の中で最も幼かった私に、修道院の皆様は優しくして下さいました。
そして皆さんで鍛錬に励み、街の皆さんの祈りや懺悔、そして悩みを聞いてあげたり……あの頃はとても、素敵だったと思います。
そして私も嘗てのおばあ様の様に、傷付いた方々や動物達を癒やしました。
ーーそんな私の前に、酷く傷付いた方が現れたのです。
其の身なりから、何処かの機関に所属していらっしゃる様子でした。
…夢の中の光景が、その人と出逢った頃の光景に変化する。
夢の中、私の目の前に、「彼女」が現れる。出逢った頃と同じ酷く傷付いた姿で。
そして彼女はあの時と同じ様に私を睨み、苦しみながらも其の場から離れようとするのです。
「…く、こんな所に修道女が居るなんて……離れないと…」
待って、と私が止めた後、彼女の傷を癒やしてあげました。
何も言わなくて良い、と私は其の人を修道院へ連れて行ったのです。
「……………………」
院長様の表情は、重々しいものでした。
彼女の姿と、其の話を聞いて、院長様は仰りました。
「…レミエ、どうやら君のおばあ様が仰っていた其の時が来たかもしれない。この人を暫く此処で休ませたら、彼女と共に行きなさい」
思いがけないものでした。…凄く、驚いたのを覚えています。今、此の夢の中の私も、同じ顔をしているのでしょうか。
「……分かりました。修道女レミエ、その日を以て修道院から出て探求の旅に参ります」
そうして、"其の時"が訪れた。「彼女」こと、ユイルさんと共にーー
ユイルさんとの旅は時に険しくもありましたし、驚きの連続でした。
何よりふたりたびである事もあって話題に事欠かない事ばかり。とても楽しかったです。
知らない事も沢山知りました。
道中で、「女神」達の事を耳に挟む事も度々。
ーーそして、私は瓦礫の聖堂に辿り着くのです。
私が聖堂の建て直しをしようと着手し始めて、数ヶ月程。
何時もの様に聖堂の中で佇んでいた所に、復讐者さんが現れました。
黒づくめの身なりに黒い髪、そして僅かに寂しそうな眼をしたその方を見て、私は助けてあげたい、と願いました。
瞳の色は隠していらっしゃったので、黒目がちでしたね。後々に青い瞳であると知って、此れにも驚きました。
…そして一番は、この方との出逢いで、私自身すべき事が見えた気がしたのです。
でも、私自身に、分からない事がある様な気がする。
彼等には言っていませんが、復讐者さんと出逢った事から始まって、謎が増えていった気がします。
私は本当にユイルさんと旅に出て良かったのでしょうか?
私が修道女になりたいと思ったのは本当におばあ様の影響なのでしょうか?
おばあ様は何を知り、何故私を育てて下さったのでしょうか?
私は…本当は何者なのでしょうか?
そう思う度、懐かしい夢を見るのです。




