『Filii amor timere』
……「少女」の死は、重かった。
たった一つの端末程度の重さしか無かったのに、其れでも女神達よりは重かった。
其れ位には、復讐者の心に強く残ったし、のし掛かりもした。
其の重さが、彼の記憶の傷を再び蘇らせてしまった事は事実の様だ。
蘇った記憶に傷付けられる。もう何度目の事だっただろう。"あの人"の時の様に少女は呪いを遺して逝ってしまった。
復讐者の蒼い瞳に哀しみが宿る。
道中、復讐者の静かな哀しみをニイスはひしひしと感じながら何も言わずに傍に居る。
ニイスもまた無言で復讐者を心配しているが、同時に安堵していた。幸いな事に背後のレミエとエムオルは気付いていない。ーー仲間に対して申し訳無いが、彼の中の深い心に踏み入らせるべきでは無い、と判断していた為である。
主ーー自分の本来の「所有者」であるアンクォアによって瀕死の重傷を負わされ、壊れる寸前で彼女は呪ったのだ。
「女神達を止めて欲しい」と。ーー息を絶やしそうにしながら、レミエの癒しすら跳ね除けた。
壊れる最期まで、彼女は"人間"と変わらなかった。
復讐者達にとっては只の端末でしか無かった筈なのに、少女は確かに存在していたのである。
「女神が使っていた機械」じゃ無く「一人の人間」として。
其れよりも、少女の死が最も復讐者の心に影響を与えたのは、彼にとっての命の恩人であり、家族の様な存在であった"あの人"の死と重なった事である。
少女の最期は、復讐者となる前の彼が叶えたかった"あの人"の最期であり、そして息絶えて逝く恩人の苦しみを早く気付けなかった己の悔恨だ。
「復讐者」となった彼にとって命の恩人であった人の死が「女神殺し」の始まりであり、そして呪いとなった。
ーー其の経緯を、ニイスはよく知っている。
彼にとって既知の事柄でありそして長らく共に居てあげたからこそ復讐者となった彼の悔恨を理解してあげられるのだ。
ニイスは願う。酷く惨めかもしれないとは思いながらも、親愛なる者達が何時かは報われるべきであると。
(でも、君を駆り立ててしまったのは僕の所為)
心の底で、復讐者への懺悔を伴いながら。




