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Dea occisio ーFlos fructum nonー  作者: つつみ
Anagnostes fugitivus cum furore(激烈と暴走)
20/91

『Mala bestia fatisque infracta』

「………行くぞ」



復讐者の一言を皮切りにレミエ、エムオルは駆け出した。

「行こうニイス」

復讐者の其の言葉を切っ掛けに、ニイスは復讐者に寄り添う。




彼の携える黒剣に身を委ねる形で、ニイスは剣の中へ入っていった。






























「来たかぁ復讐者…っ」

ギラリと刃を煌めかせて復讐者達の居る方角を見据える女神アンクォア。正攻法で挑んだ所で復讐者達に勝ち目は無い。

それ故復讐者達も正攻法で挑むつもりは全く無い。然しアンクォアも強襲の可能性を考慮していた。


アンクォア自身は他と比べれば切れ者の部類では無いにせよ、切れ者の部類である追従者ディーシャーが彼女には付いている。


















アンクォアが最も厄介だが、彼女に付いている追従者も侮れない。

ディーシャー自身はアンクォアの対に当たる属性を扱うが、素早い剣撃が先ず厄介である。


ディーシャーの武器は細剣ではあるが、彼女の持つ正確さで急所を確実に狙ってくる。其れに凍らされでもしたら細切れにされてしまうだろう。



そしてもう一人の追従者。名は不明だがアンクォアからは特別な名で呼ばれ、寵愛されているらしい。

其の能力等は不明だが、相当な実力者なのだそうだ。


































「ーー!!追従者っ!!!?」

複数の兵を伴って現れた追従者らしき少女を相手に、レミエが光弾を生成し即座に撃ち出す。(けむ)を上げて廷の建造の一部を崩した。

兵を吹き飛ばして退けられたが、追従者の少女を退ける事は叶わなかった。

(〜っ駄目でしたか…!)レミエはやや残念に思ったが油断をしてはいけない、と己を鼓舞した。


(私の目的は追従者と戦う事では無いですが…でも、相手をせざるを得ないのならば……)

レミエはぐっ、と杖を握り締めて追従者の少女を前に其の身を構えた。









































「…っはっ、はっ、はっ、はっ……」

復讐者は走る。アンクォアの廷内を道の続く限り直走る。

「こっ、こっち、こっちだよ」エムオルがまるで道案内人の如く復讐者を先導する。復讐者より足が速い様だ。

「本当に行けるのか!!」復讐者は息を切らしそうになるが必死に堪えて走り続ける。



…何を隠そうと復讐者とエムオルはアンクォアから逃げているのである。アンクォアに直接挑むのは戦力的に分が悪い事を熟知していた為、ニイスの案を取り入れた上で討伐に向かったのである。


「奴に捕まれば一貫の終わりだからな…奴に殺られる訳にはいかん、シーフォーンを徹底的にブチ殺して報復する以上は……」

復讐者が独り言つ。だが彼の言葉も瓦礫の落ちる音に紛れて掻き消えてしまった。









「ガァアアァアァァ!!!!!!!」

アンクォアの獣の様な咆哮が廷内を木霊する。そして其の叫びはまるで駆け逃げる復讐者とエムオルを捉えんと追い掛けている様だった。

「うっ…うわあ、こわい」エムオルが女神の叫びに怯える中、復讐者はただ只管廷内を走り逃げ続ける。


ーー『アンクォアに正攻法は効かない』


そう語ったニイスの言葉を思い返しながらーー









































「〜っ、はあ、はあ…」

回廊を走り続けてレミエもまた逃げ走る。

「何時まで逃げ続けるつもり!!あたしから逃げられると思わないで!!!」少女の赤い髪が揺れてレミエの視界を横切る。少女の素早い斬撃がレミエの身体を捉え其の身を引き裂いた。

「くっ…」レミエは即座に翻り事無きを得たものの、彼女の修道服が見るも無残になってしまった。

「うう…!何てこと……!!」幸いにも己の身に傷は付かなかったが、袖も裾も一閃、瞬散の如く大きな切れ込みが入れられてしまったかの様。

レミエの癒しの力は優れているが、残念ながら、服までは再生出来ない。


心無しか、僅かに切れ込みが焦げ付いている。

(焼け焦げている…?炎か、それとも熱……?)

レミエの考察の余地も無く少女の次なる手が及ぶ。其れを受け流し時に躱しながらレミエは考察した。



(彼女は炎や熱に由縁のある力を使える追従者…なら彼女の武器は切れ味が更に上乗せさせられている筈……まともに受けてしまえば、一溜りも無いでしょう。)


(水…。水のある場所が近くにあれば……)


少女の攻撃を受けつつ、レミエははっと思い出す。




(…水!そう言えば、此の廷には、沐浴場がーー!!)

沐浴場の存在を思い出して、レミエは少女から背を向け走り出した。









































「はっ…はっ…」

復讐者が肩で息をする。エムオルは彼の背に隠れながら只管怯えている。

二人はどうやら逃げ惑った末に壁に追い詰められてしまったらしい。

「あぁっはははは!!!!!追い詰めた!!行き止まり!!!残念ですなぁwwwwwww私から逃げて逃げて追い掛けっこ!!楽しかったですかぁぁぁぁぁぁぁ??????????」

「……………………」






「おやおやぁ?逃げ過ぎて疲れちゃったんですかねwwじゃけん此処は広いですからなwwwwwそりゃ走ったら疲れますよねぇ????wwwわたしより体力の無い大人の癖に大人気も無く逃げちゃってやんのwwワロチwwwwwwwwwwっうぇwww」


「にしても命知らず過ぎっしょwww天下のアンクォア様に貧弱貧相ゴミクズイカれキチガイの復讐者(笑)が挑むとかwww最高にウケるんですがwwwwwwwwwwあー腹抱えて笑っちゃうわwwwww」



「なあああああああああにが『女神殺し』だあ!!?????ww最初にシーフォーンさんを殺そうとして見事に失敗してる癖にwwwwwたかだかリンニレースさんを殺せたからって調子に乗んじゃねえぞゴミクズが!!!!!!!!!!」

アンクォアは壁際の復讐者に向かって一方的に捲し立てる。目まぐるしく汚辱な言葉を慎み無く吐き続け、復讐者の心を煽って弄ばんとする。

















暫くして、沈黙を経て復讐者が口を静かに開いた。


「……お前は醜い奴だな。己の言葉が汚辱に塗れた言葉ばかりである事に気付かないのか」

「はあぁ?」

「言葉は武器にもなるが、同時に己の本質を露見させるものだと私は思うよ。今のお前は醜い。言葉を経てお前の中の汚れた部分が顔にも性格にも出ているじゃないか」


「■■■さん、と"あの人"からも呼ばれていた頃よりも、酷くなってしまったか。…其れは、■■……シーフォーンの近くに居過ぎた影響だろう?」




「振り返れば私の記憶にあるお前は悪印象ばかりだ。(■■)に加担し(■■)に密告し、そして"あの人"の抱える苦悩を嗤っては馬鹿にし、お前は率先して"あの人"を苦しめた」


「そういう奴には、罰を受けてもらわなければならないな」





復讐者が報復者の剣(ニイス)を手に、スッと軽く呼吸をすると、其の身を大きく翻した。

























ズガァァァァァン!!!!!!!!

途端、建物が亀裂を走らせ瓦礫となり次から次へと崩れ落ちる。落ちる瓦礫達が、アンクォアの頭上に一斉に降り掛かってゆく。

「!!!!!」

音と共に頭上を見上げはしたものの、先程から復讐者を追い詰める事に躍起になっていたアンクォアは咄嗟の行動も儘ならない状態だった。




「ぬああああっ!!復讐者ァァァァァ!!!!!!」

アンクォアの獣の様な咆哮が混じった叫びが復讐者へ、怒りを伴って向けられた。

「お前が其のデカい剣を振り回して廷内を壊しまくったんだ、此方が一太刀浴びせれば其処を起点に廷内は崩れてくぞ」

「ふざけるなァァァァァァァァァ!!!!!!!」

巫山戯(ふざけ)ていたのはお前の方だ女神アンクォア、例え此処が風化とある程度の破壊に特別強い素材を使ったとしても馬鹿の様に力を振るう今のお前の手に掛かれば蒟蒻みたいなものだろう?」

そんな事すら忘れていたのか、と呆れを通り越してアンクォアの現在の姿に憐れみを抱きそうになる。

だが復讐するべき対象の一つだ。

憐れみなど向ける必要は無い。









対するアンクォアは復讐者の一瞬の憐れみを本能で感じ取ったのか、

「貴様如きが憐れむんじゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

と最後は本当に獣の様な叫び声で瓦礫の下に埋もれてしまった。









































「ーーあった!!沐浴場!!!」

沐浴場が目の前にある事を確認したレミエは、真っ直ぐ其処へ向かって走り続ける。

「此方に来なさい!!狭い所では双方フェアに戦えないでしょう!!!!!」レミエは背後の少女へ誘導を促し、出せる限りの速度で駆けてゆく。

「……!!!」少女はレミエの言葉に意図を感じたが、少女自身も卑劣な手段を使いたくないのか応える様に後を追った。









































「………此処…沐浴場だよね…」

辿り着いて早々少女ほ方から口を開く。

「ごめんなさい!はぁあっ!!」

レミエは杖で水を掬う様に払うと、払われた水は少女目掛けて飛んでゆく。

「わっ!?」ばしゃり、と少女は全身に水を浴びてしまった。それと同時に其の身は水場に倒れる。


「うぅーーびしょ濡れに……」上半身を起こした少女に対してレミエはーー









「此処からが本当のフェアな勝負ですよ!!…私も力を使うつもりはありません。己の身で戦います………貴女も、熱を帯びた其の武器で戦わないで下さい。()()()()勝負です!!!!!!!!」

レミエが言い放った言葉に一度ぽかんとするものの、少女は楽しそうな表情に変わり立ち上がる。

「…良いね!!望むところだよっ!!!!!」

少女は濡れたまま武器を構えたーー

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