『Rebel』
「ーー急襲!逆賊と思われる者に女神が襲撃された!!相手は一人だ!!直ちに迎えろ!!逃すな!殺せ!!」
焔に燃える廷の中で、兵の叫び声が響く。
女神襲撃、の報せが廷を中心に拡散される。其れはたちまち聖都に広がり、聖都の民衆を不安にさせた。
そうしている内にも廷の焔は更に広がり、兵は次々と焔に呑まれ、またある者は逆賊によって葬られる。
兵達の増援が来る前に、彼は最奥の女神の所へと駆けていった。
「奴が女神の所へ向かったぞ!!増援!!!早くしろ!!!!!」
兵の叫びは燃える焔に掻き消された。激しく燃え続ける焔が壁となって、兵達と彼を隔てる。
「女神シーフォーン、死ね。死んでくれ、あの人の無念の為に。」
彼の青い瞳が憎悪で燃えた。
逆賊…復讐者の短剣が女神の瞳を刺し穿とうとするその一瞬の刹那、
「…姉ちゃん!!!」
聞き覚えのある声が焔の向こう側から聞こえ、女神はその方角を向く。その場の焔を消して、もう一人の女神、デインソピアが駆け付けに来たのだ。
「デインちゃん!」
奴にとっては愛おしい妹の様な存在であろう、そんな彼女が危機に臆さず自ら飛び込んだものだから、シーフォーンの目が大きく見開かれた。
「姉ちゃん待ってて今そっち行くから…!うわっ!!」
復讐者が隠してあった火炎瓶をデインソピアの方へ投げ付ける。割れた瓶から広がった焔はデインソピアの行く手を遮り、遂には猛火でその姿を確認する事が出来なくなった。
「デインちゃん!!!!!」
シーフォーンの悲鳴の様な叫びは、目の前の復讐者に対する憎悪へ変わり、シーフォーンの冷たくも怒りを孕んだ瞳が彼へ向けられた。
「…許さない、あなたの事は殺す。徹底的に殺して、大切なものも奪う。私の機嫌は最悪だ、それも此れも全てあなたの所為!」
「…何様のつもりか」
「私は女神!!四女神の一人であり其れを統べ、この世を統治する者!!革命を起こして世を平定させた存在ですよ!!!そんな私に楯突き、しかも私の可愛いデインちゃんに手を上げたじゃないですか!!許しません、正直不快です!!だから殺します、私の機嫌を損ねた愚か者がァッ!!!!!」
あっちの方から突っ込んできただろ、とは敢えて言わない。この頭でっかちには何を言ったってどうせ通りはしないのだから。
復讐者は溜息を吐いた。もう、此れで何度目だろうか。
もう仕方無い、一気に片を付けるしか無さそうだ。そう判断した復讐者は、帯刀していた剣を抜いて、女神シーフォーンの身体を真っ二つに斬り伏せようと駆け出した。
そしてシーフォーンの眼前に立ち、その剣を一思いに振り下ろそうとした時ーー
ーーガギィン!!と大きな金属音に、眩い火花を放って、復讐者の剣は遮られた。
「…間に合って良かった」
遮ったのは剣よりも大きな大剣の様だ。そして、その大剣を振るい、撃を遮った者はーー
「……………。」
焔にも引けを取らぬ程の赤い髪、女神アンクォアと、その奥に少し控えめに立ちながらもシーフォーンを支えているのは女神リンニレースらしい。四女神がこの場に揃うとは非常に好都合以外の何物でも無いのだが、四人揃ってしまったという事は復讐者が圧倒的に分が悪い。
「シーフォーンさんを攻撃するなんて百万年以上も早いってもんだ!!やり合うなら私が相手になるよ、お前みたいな奴なんて一撃必殺ですぞ〜〜!!!!!!!!!www」
アンクォアはお得意の煽りで復讐者を煽り倒し始めるが、復讐者のノリの悪さに呆れたのか「つまんね」と舌打ちするや構えの体制に戻った。
「シーフォーンちゃん大丈夫?」
リンニレースはシーフォーンを支えつつ、彼女の疲労をその力で癒やしていた。
ーー…状況判断から多勢に無勢、女神が四体揃っている。
まず此処が敵の拠点であり、その上この場に於いても既に女神が三体、焔の壁の向こうにはデインソピア。
残りの兵が援軍を呼んでいるが、遠征している追従者も飛んで帰って来る事だろう。時間の問題だ。
…追従者如きで苦労はしないが、追従者は数が割と多いだけに多数相手にするのは厄介だ。
其れが女神となると、一体だけならある程度余裕で倒せたとしても、複数、四体も揃ってしまっては困難になる。
…その上最も厄介なのは女神リンニレースの存在である。
あれは個としてのみなら女神の中では最も弱く、精神衰弱のネックを抱えている為殺すのは容易である。
然しあれが真価を発揮するのは正直こういう状況だ。「共闘者がいる」という事で彼女の恐ろしい再生能力が遺憾無く発揮される。
彼女自体に戦闘能力は無い。だが戦闘能力のある者が一人でも居ればーー
「ふっふっふ、分が悪くて硬直してる様ですなぁw此れなら一気にコイツを殺せそうです、シーフォーンさん、殺しちゃいましょうぜwwwww」
アンクォアが再び調子に乗り始める。復讐者の動きが止まった事がどうやら彼女の煽り精神を刺激したらしい。
取るに足りぬ小物だ、と判断した様だ。
「………やむを得ないらしい」
復讐者はぼそりと一言告げると、そのまま高所から飛び降り、彼の姿は広がる大火の中へ消えていった。
「……………逃げた…」アンクォア含めた女神達は拍子抜けする。そして即座にアンクォアの一人芝居が始まった。
「って私達倒すんじゃ無かったんかーい!!!!!!なーにが"復讐者"じゃ!!!所っっっっっ詮名ばかり!!!!!!!!!!wwwっひょー此れでは私達出る幕無いじゃ無いですかあああああwwwwwいやーとんだ傍迷惑な逆賊でしたねえいやはやいやはやお疲れ様でーっすwwwお子ちゃまはおうち帰ってママのおむねでだっこされながらおねんねしてましょうね〜〜〜wwwwwwwwwwってね!!!今日も明日も私達女神大 勝 利 っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
一息に喋り尽くすと、腕を大きく掲げ上げ抜群のピースサインをしながら立ち尽くした。
リンニレースとシーフォーンはアンクォアのその様子に苦笑を浮かべつつ、その一方で火の手の鎮まった先からデインソピアがシーフォーン目掛けて飛び込んで来た事に驚いた。
「姉ちゃあああああああああん!!!!!!!!!!!」
「うわっデインちゃん!!!!!?あーーーーーー良かったデインちゃんーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!無事だった!!!?火傷してない!?!?!?!!?」
デインソピアの姿を見た途端に気の緩くなるシーフォーンだが、デインソピアの無事を確認出来た安堵もあって表情が明るくなる。
そして一件が一応落ち着き、女神が四体も揃った場でシーフォーンは演説場のテラスから三人を連れて舞台に立った。
「皆さん、ご心配お掛けしました。私達四女神は無事であり、そして逆賊により襲撃を受けましたが私自身には負傷一つすら無く済みました。皆さんを不安にさせて申し訳ありません。」
女神の毅然とした振る舞いと演説に、民衆の心は安堵と歓喜に包まれる。
「では、改めて、穢れ無き星の乙女と我ら尊き四女神に栄光あれ!!従い信仰する者達全てに祝福あれ!!!!!」
勝利の宣言の如く声を張り上げ、そして掲げられた旗を目にした民衆の歓喜が最高潮に至った。
民衆達の雄叫び、喜びの叫びが木霊する。
『………穢れ無き星の乙女と、尊き四女神ねえ…醜いものだよ、あんな連中が…』
女神達の居る場所よりは少し離れた地、誰かを待つ様に佇む者が、女神達と民衆の叫びと姿を皮肉げに見届けていた。




