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Dea occisio ーFlos fructum nonー  作者: つつみ
Anagnostes fugitivus cum furore(激烈と暴走)
15/91

『Parvus viatorem』

「ふ、復讐者さん!いけません!!」

「敵だったらどうするんだ」

兎に角必死だった。

復讐者が短剣を構えても、レミエは其処から離れない。其処までするのだから、矢張り女性の勘なのだろうか…


「…わ、分かった」復讐者も構えるのを止める。そして、大人しく岩の上に座った。

「た、たすかったよ」レミエに隠れて震えながら、小人は拙く喋った。




『…身構えるのは分かるけど、僕から見てもこの子、敵じゃなさそうなんだけどなあ。……聞いてみたら?一応』

































「…で、どうしてお前は私達の前に出たんだ」

「そ、それは…情報さん、売るのにちょうどいいような…きがしたよ」

「情報、さん?」

一行は目が点になっている。

「そう。情報さん。あなたたち冒険者。情報さん、少ないとこまっちゃう。こまっちゃう事はぽいぽいー、するの」

小人の言っている事が拙いのもあってか、いまいち良く分からない。

「…悪いんだが大筋を言ってくれ」

「おおすじ…えーっと、わたし、情報屋してる。おにーさんたち、只者じゃないね。だからおにーさん達にいっぱい情報さん売るのですー」

身振り手振り、オーバーな仕種で頑張って説明している様は、何かと可愛い気がする。…が、復讐者は小人の話す事を大真面目に聞いているものだからこれまたシュールな気がしなくも無い。



「…えっと、つまり金銭の遣り取りが発生しそうだな?残念だが金は払えないぞ」

情報屋、の言葉にやや嫌そうな顔をした復讐者は、小人を手で追い払う仕種をした。

「ふっふん、お金は、いりません」

真顔でドヤる小人の発言の胡散臭さにニイス共々怪訝な表情をしたが…金銭を必要としない情報屋は心強い。

「じゃあ何で取引をするんだ」

「取引とかめんどうなことはきらーい、だよ。でも、わたしを連れてくなら、実質無料でお話が聞けます」




つまりは仲間にしろ、という事である。

















「あー帰った帰った、子供は近くの野山で冒険していてくれ危ないから。其れに足手まといになりそうな奴はいらん」

『うわあ…君ってば随分と辛辣じゃないか』

たかだか子供の言い訳、と流そうとするが、



「違うもん違うもん!子供じゃないのですー!!わたしは小さいけど、「ツブ族」というしゅぞくだから小さいだけで、りーっぱな大人さんなんだよー!!!!!」

物凄く顔を真っ赤にして怒っている。しかも地団駄のおまけ付きである。

…が、これではどう見ても子供だ、子供の様にしか見えない。




「……………はあ」

「むむむぅ、しんじてもらえないなら、とっておきの情報さんを売るのですー」

こうなればヤケだ、と言わんばかりに眼前の小人は「情報さん」を復讐者達へ伝え始めた。

























「このさきのふぃりぜんで"とってもふおんな情報さん"を聞いたのですー。めがみが直々に「しょだん」する、らしい」

「……………………"しょだん"?」

小人の言葉に復讐者が反応する。

「そうなのですー、りなてれしあであっためがみさつがい事件を聞いたふぃりぜんのめがみが「犯人かもしれないとくちょうの人間」をつるし上げちゃう。こっわーいだよ」

『……ごめんちょっと僕この子が何言ってるのかよく分からない』

ニイスは小人の発言の独特さに頭を悩ませているが、復讐者が助け舟を出す様に小人を上手く誘導する。


「…お前の知った範囲で構わないから分かりやすく言ってくれ」

「おお、仲間にしてくれるなら話す」

おっとどうやら取り引きをしろという事か。

「…やや不服だが仲間にしておこう、でも足手まといの可能性を否定出来ないから仮の仲間で妥協してくれないだろうか」

「いいよー、えっへん。お仲間になれたから、話す」

その時復讐者達は悟った、「こいつは単純過ぎるだけだ」という事を。然しその単純さ故に騙されていないか、そして利用されやすいのではないかという事も。









「…しょうさいさんについてだけど、りなてれしあの事件が、他のめがみの所にも伝わっちゃったの。それで、ふぃりぜんのめがみのていの中で、へいたいさんが言ってただよ」

『…「復讐者と思われる奴を炙り出して殺せ」って事か』

「………成程な。我々を炙り出そうとしているのか。…二重の意味だな、ニイス?」


"炙り出す"の言葉の意味に気付いた復讐者が、ニイスに訊ねる。

『まあ、そうだろうね』というニイスの答えが、復讐者とレミエの二人に聞こえた。



「…お前の言いたい事は「フィリゼンの女神アンクォアによる犯人探して処断する」事なのだろう。でも、アンクォアの本当の目的は「敢えて似ている奴を復讐者達(われわれ)と見做して殺せば、無辜の民に手を出す女神の暴虐に怒り狂って出て来るだろう」という事だろう」

「えっ、ええ、えーーーーー、じゃあ、めがみは、わざと、かんけいのない人を、ころしちゃってるのかー」

小人は復讐者の言葉を理解している様だった。だからか、酷く驚いている。

「そういう事になるな。そういう意味での炙り出しというやつだ。…どうやら我々は無辜の民を殺す事に対して怒りを抱く抵抗軍(レジスタンス)と同じ存在なんだと思われているのだろう」

全く持って其のつもりでは無いが、相手が勘違いをしてくれているのは却って好都合である。このままレジスタンス的な活動をする一派だと思わせておこう。






「…で、思いの外次の行動について考えが捗りやすくなってしまった…か」

「でと良かったじゃないですか、あの子のお陰で私達もフィリゼンの女神の事情や目的を知る事が出来たんですから」

「えっ、ああ、そうだ。…あー、その、レミエさん、ちょっと」

「???」レミエがきょとん、とした様子で復讐者の言葉を聞く。



「女神アンクォアが我々を炙り出そうとしている以上、容姿で気付かれれば一貫の終わりだ。ニイスはほぼ誰にも見えないから良くても、私とレミエさんは其の特徴が知られているし、変装でもしないと」

「あ!じゃあわたしがなんとか、してあげましょー」

最前を歩いていた小人が突然くるりと振り返り、そして何か棒の様な物を取り出すや否や、杖の如く振り出した。

振り出された棒先から、不思議な光が生み出され復讐者達を覆うと、復讐者達の姿が変貌した。




「エムオルとくせい、えぶりでいまじっく。ツブ族秘伝のまほうでぐるりと姿が、変わっちゃうー」

ふっふん、と鼻を鳴らしてドヤった小人の名は、エムオルと云うらしい。

「わあ…!凄いです……!!」レミエが己の姿に驚きと感嘆の声を漏らす。

『へえ、此れは凄いな。変化系の魔術じゃないか』

ニイスが感心する様に二人の姿を見る。






「エブリデイマジック…一日だけの魔法か…」

「なぜか、ツブ族だけが使えるのです」

「一日だけの魔法だなんて、ロマンチックですね」

「でも、一日だけだから、一日経ったらとけちゃう。それに、わたしはしゅぎょーが足らないから、あなた達がしんにゅうしちゃう頃には元にもどっちゃってるかも、しれない。しょぼん」

落ち込むエムオルを、レミエは慰める。その幼い姿をした者の頭を優しく撫でながら。

「大丈夫ですよ、その方が都合が良いかもしれません。…其れに修行だって、旅の最中で出来ないという訳では無いですから」



「…まあ、一件の問題は思わぬ形で解決したが…問題はアンクォアと追従者になるよな。…ニイス」

『偵察に行って来いって…?』

ニイスはやや不服そうな表情をする。

「嫌なのか」

『だって前回も危うく女神に見つかりそうになったし、其れよりも一番にまたあの「変な奴」に遭遇したら僕個人としては非常に嫌だ…』






(…ああ、そうか、ニイスのトラウマだったりするのか……)

「…だったら適材適所が居るだろ。エムオルだったな?廷の兵士の話を聞けたんだから侵入とかも出来るのか」

復讐者は仲間になって間も無いエムオルにいきなり白羽の矢を立てた。

「えっ、う、うん。ひみつの道をいっぱい知ってるから、ぞうさも、ないね!」

何故ドヤるのか…と言うのはさて置いて、エムオルが廷内の兵士の話を聞いたのはどうもツブ族の持つ能力所以のものらしい。探索や偵察に長けているのだろうか。



「よし、じゃあエムオルが廷内を見に行ってくれ。途中で逃げたり女神に掌返す様な事をしたらただじゃ済ませんぞ」

「もっちろん、そんな事はしねえのです」

…と、復讐者とエムオルが早速仲間同士のやり取りを繰り広げる中、ニイスは半ば呆れ、レミエがにこやかに見ている。


…さて、新しい仲間を加えてしまった一行は改めてフィリゼンへと向かおうとする。

ーー誰も居なくなった場所に、一枚の光る白い羽が落ちた事に誰も気付かないまま。

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