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Dea occisio ーFlos fructum nonー  作者: つつみ
Anagnostes fugitivus cum furore(激烈と暴走)
13/91

『Reliquis deam』

ーーシーフォーンの居城にして世界最大の廷である、アルテア・ベルデイム。

女神と追従者達が、皆集まっている。






「………リンニレースさん……………」

酷く落ち込み、項垂れているのは女神アンクォアであった。

彼女の燃ゆる赤髪が、空間の暗さの所為であるからか、少しばかり暗い。

其れは勿論、他の女神達も同じであった。




「リンニレースさん、あんなに、良い人だったのに」

そう呟くのは女神達のリーダーであるシーフォーンだ。その容姿は、幼い少女の様である。

そのあまりの幼さ故にきっと何も知らぬ者からしたら彼女が女神達のリーダーだとは到底思えない事だろう。



「うっ…っく…リンニ、レース…、さん……っ………」

シーフォーンの隣で、涙を零して只管両手で拭い続ける、シーフォーンよりも少し大きな少女は、女神デインソピア。彼女はシーフォーンにとって半身の如く親しく、そして彼女から寵愛されている女神でもある。




シーフォーン達女神は、人であった頃の嘗ての姿を捨て、己の理想の姿を取っている。殺されたリンニレースも、この場に居る追従者達も人ならざる力を得た時に、人の身を捨てた。

















「…っう、ひっく、」

「デインちゃん…」

「リンニレースさんには、私達、助けられたり、お世話になったから……っ」

デインソピアの其の言葉が、重りのようにのし掛かる。




「デインさん可哀想ですね…」

「ですよね…まさか彼女が殺されてしまったんですから」

「シーフォーンさんもアンクォアさんも彼女とは親しかったですもんね、昔なんかはソーシャルや他の場所で何時も仲良く繋がっていたから…私達にとっても……」

ひそひそと追従者達がリンニレースの訃報について話している。まだ人であった頃の嘗ての事を思い出しながら、彼女達もその記憶に耽っていた。

























「…女神リンニレースを殺したのは誰なんですかね」

シーフォーンの異様に低い声が空間に木霊した。

「リンニレースさんを、殺した…人」

追従者達が息を呑み込み、そして二人の女神達はシーフォーンを見つめた。




ほんの少しだけの間が開いて、アンクォアが呟く。

「……()()()だ、あの黒づくめ、復讐者だ!!」

アンクォアは感情の勢いについ叫んでしまう。

「……………………!!!!!!!!」その場に居た者全てが、目を見開いた。そして、女神シーフォーンの怒りが、遂に彼女自身の身から溢れそうになる。










「…………復讐者……………………!!!!!!!!」シーフォーンの怒りは、彼女を凶行に走らせようとしている様だ。

「…!!シーフォーンさん、駄目ですよ、落ち着いて下さい!!!」

彼女の様子の変化、と言うよりも彼女から溢れ出て来る黒い何かに(いち)早く察知した追従者のクロルがシーフォーンを必死に宥めた。


「シーフォーンちゃーん、駄目よ怒ったりなんかしちゃ。腹立つのは分かるけどシーフォーンちゃんがしっかりしないと〜」

「ほ…ほら!クロルさんもアユトさんも、ね?こう言ってますし落ち着きましょうシーフォーンさんっ」

追従者クロル、アユトヴィートに続く様に追従者アラロも必死に宥めている。



「三人の仰る通りです…アンクォアさんも落ち着いて。リンニレースさんを失ったのは悲しいけれど彼女を殺したのが復讐者と決まった訳じゃ無いかもしれないですし」

「ペールアさんは復讐者の肩を持つつもりなんですか!?」

「あ…そんなつもりでは無くて…ごめんなさいシーフォーンさん…!」

ペールアの言葉に苛烈に反応したシーフォーンの声と表情に、ペールアは思わず怯えてしまう。


「…いえ、私こそつい。失礼しました。…()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ハッと我に帰ってシーフォーンは謝る。

然し、その言葉には彼女に内包されたーー自分本位で自分至上主義かつ第一優先的な思想が僅かに滲んでいる。

まるで自分を卑下して周囲から可愛がってもらいたい、と。









でも、其の本性には此の場に居る者には絶対に知られない。もう、シーフォーンを含めた彼女達は壊れている。

ーー"ある一人の死"を境に、彼女達は少しずつ壊れ始めていたのだから。人間の持つ残忍さを、集団心理の中で振るっていたから、完全に壊れるのにはそう時間は掛からなかった。



人間だった頃から、既に人一倍自分本位で、残忍であったシーフォーンは、其の頭の良さを巧みに利用して常に正しい者で在り続けた。

そして言葉巧みに周りを自らの思い通りに染め、切り崩されぬ輪を作った。そうして、自らの意思に背き、機嫌を損ねさせた者を徹底的に苦しめていたのである。


今は、そんな存在が、世界の全てを思い通りにする存在だ。

所謂、『善き人の姿をした化物』


嗚呼、何て事だろう。

































ーー……………………


「…レイヨナさんの時も、そうだったな……」

シーフォーンは廷内の回廊を歩きながら、共に歩いている女神デインソピアに語り掛ける。

「あの時は私が取り乱して、そしたらデインちゃんが必死になって慰めてくれたよね。デインちゃんだって凄く悲しかったよね。レイヨナさん、あの頃から仲良しだったもん」

シーフォーンの寂しそうな笑みが、薄明かりにぼんやりと照らされた。


「ねえちゃん…」

「今度はリンニレースさん。私達、大切な"友達"を二人も失くしちゃった。…寂しいね」




ーー……"友達"。其の言葉は軽々しくて重いもの。其の言葉の意味こそ変わらずとも、捉え方で大きくもなれば、矮小で無価値なものにすらなってしまう言葉。

恐らく、彼女の中では暖かく有意義で、身近であり大きなものという認識なのだろう。嘗て、その裏で行った行為を蔑ろにしておいておきながら。









…デインソピアが、不意にシーフォーンの幼い身体を抱き締めた。

「デインちゃん?」

「姉ちゃん、ごめんね。今はこれ位しか出来無くて。」

デインソピアの強く瞑った目からぽろぽろと涙が溢れる。

「私がもっと沢山の事を出来るなら、とっても悲しんでる今の姉ちゃんを慰めて助けてあげられるのに」

シーフォーンの身体を抱き締める腕の力が少しだけ強くなる。声と共に震える彼女の身体が悲痛さを物語っていた。



「ふふ、痛いよデインちゃん…デインちゃんてば」

「…あっ、ごめんねえちゃん!」

デインソピアは思わずパッと離れるが、涙の痕と赤くなった鼻がほんの先程の事を思い出させる。


「いいのいいの。デインちゃんの気持ちは伝わったんだから。…ねえ、久し振りに創作の話しよっか!デインちゃんの■■■■■…星の乙女と■■君の事聞きたくなっちゃった!」

「……!!うん!いいよ姉ちゃん!!私も姉ちゃんのアルテア叙事詩聞きたい!!ねえちゃんの創作の話聞かせて!!!」

回廊の薄明かりの中、二人の会話が弾む。

ーー其れは、ある晴れた日の夜の事であった。
















































ーー【烈都フィリゼン、女神アンクォアの居廷ルクシスフィル内】


















…あの後、私や他の方達は其々の持ち場に戻って、一方の追従者は引き続き旧時代の遺物の捜索と発掘の指揮に、もう一方は取り締まりを銘打った遺物の収集に。

そしてシーフォーンさんとデインソピアさんは一緒に、

私はリンニレースさん暗殺の後の後処理の為にリナテレシアに此方の兵を派遣するべく、責任者として自分の都に帰還した。




「…………………」

沈黙するアンクォアの背後で、アンクォアに少し似た少女が一人。

「…アンクォア、どうかしたの?何だかさっきから静かだし」

少し気掛かりそうに声を掛けた、赤い髪の少女。



「…ん、何でも無いですぞ!心配掛けてごめん」

アンクォアは先程とは打って変わって柔和で陽気な表情に変わる。どうやら、少女はアンクォアにとって大切な存在であると同時に追従者の一人の様である。




「そっか…良かった。アタシ心配しちゃった。アンクォア、…あんまり、自分を追い詰めないでね」

ほんの僅かに眉を下げた少女は、直ぐ様気を取り直してもう一人の追従者の帰還を待つ為に駆け出した。

「あ!!ディーパイセンが帰ってきたら私の代わりに色々頼みますぞ〜!!!」

駆けてゆく少女の背中へ向け、アンクォアが明るく元気な声でそう叫んだ。

























……絶対、絶対アイツだ。



…リンニレースさんを殺したのは、アイツだ。




ペールアさん達は、「他の奴が殺したかもしれない」と言っていたけど…





復讐者だ。





復讐者がリンニレースさんを殺した。






………許さない。






………アイツを許さない。

























































「…私が殺してやる……!復讐者………!!!」

血走る双眸、力の篭もる拳、そして血の滲む唇。

その時、アンクォアは無惨に復讐者を殺す事を誓った。

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