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Dea occisio ーFlos fructum nonー  作者: つつみ
Infirmitatem et Play(衰弱と再生)
10/91

『Supplicium』

「……遂行するぞ」

復讐者がニイスとレミエに目配せをする。こくりと頷いた二人は其々単独で活動を始め、目的の場所で落ち合う事を約束した。

































『…さてと、』

嗚呼、予想の通りだった。裏門にも精鋭兵が少数付いている。どうやら自分が偵察の為に侵入した事が知れ渡ってしまったらしい。女神には姿を認識されずに済んだが、矢張りあの少女だろう。

ーーこの厄介者め。

何れ対峙する時が来たらその魂喰らい尽くして徹底的に砕いてやろうじゃないか。




『こういう時は…っと……』

ニイスが其の手から何かを形作る。其れはもやもやとしていたがやがて一つの焔の形になった。

ニイスは其の焔をぎゅっと拳の中で握り締めると、輝く火種の様に変化した。

其れを、廷の裏門付近の草木に向かって弾き飛ばす。









ーー弾き飛ばされた火種が、草木の所に落ちるや勢い良く燃え上がり、焔は瞬く間に他の草木にまで燃え広がった。

「…!!火事だ!!精鋭!規模が広がる前に消火に当たれーっ!!!!!」

逸早(いちはや)く火事に気付いた精鋭兵の叫び声に、裏門を守護していた精鋭兵は皆一斉に消火活動に赴いた。

『ふふ、僕にしては意外と上出来じゃないか』

少しの冗談のつもりで自画自賛。とは言えニイスのする事は此れで終わりでは無い。侵入に成功した復讐者達を追い掛け、女神や追従者と相対する時に力を貸さねばならない。

復讐者の持つ「報復者の剣」はニイスが居なくても報復の効果を発揮出来るが、ニイスが剣に憑依してこそ報復の力を最大限に振るい易くなるのである。




『(こういう事しか出来ないが…全ては彼の為でも、僕の為でもある……)』

遠目から復讐者達が廷内に侵入した様子を見届けた後、ニイスも直ぐ様彼等の後を追い始めた。









































「…ニイスのお陰で廷内に侵入出来たな」

「後は見取り図の通りに進めば、…行けるんですよね」

先に侵入を済ませた復讐者とレミエが、消化の為に駆り出される兵達を見届けてから、手薄になった廷内を駆け抜けてゆく。


なるべく手薄な場所を中心に行動しているが、矢張りリンニレースの心配性からなのか、何時もよりも多く兵を配置しているらしい。そう簡単な侵入とは言えなかった。

「見付けたぞ!!侵入者だ!!!」

数人の兵が復讐者達に向かって来るのを確認して、復讐者は予め装填を済ませた銃を取り出して回廊内の照明を破壊した。






「照明が!!!」

明かりを失った兵達が混乱する。

(レミエさん、此方へ!!)

混乱に乗じる様に、復讐者はレミエの手を引きながら目的の場所まで走って行った。




「驚かせて済まない」

「いえっ!…大丈夫です!!」

「此処を突っ切れば…!!」

復讐者が目的の場所と思わしき所へ繋がる大きな扉を蹴破った。









































「…………!?」

復讐者達は驚いた。辿り着いた場所は酷く閑散としていて、兵の姿は一つも無い。

その代わり、其処に居たのは女神リンニレースと、追従者スノウルの二人だけ。



(何故だ?女神リンニレースは心配性だと噂では聞いていたが…)

復讐者は女神の様子に警戒する。何より、鼻腔を刺激する独特な臭い。

…随分と血生臭い。まさか、女神が兵を殺したか?

















復讐者の思考を読み取ったかの様にスノウルがしゃしゃり出て語り始める。

女神は、俯いたまま沈黙している。




吃驚(びっくり)してる?ああそりゃそうだよね。だって血生臭いんだもん。「癒しの女神様」の場所なのに物騒でさ」


「信じらんないよね、侵入者なんてあんた達しか居ないのに、何で凄惨なのかってねー。私がやった様に見えちゃうよねぇ」


「違うんだなこれがまた。スノ氏はそんな物騒な事なんてしませんからwいや発言とかは物騒かもしんないけど。()()ぜーんぶリンニレースさんがやったんだぜ。マジキチ〜!!」









あくまでも戯け切るスノウルに苛立ちを覚えつつ、

「…何をした、女神」

復讐者の、長い前髪に隠れた瞳は薄っすらと怒りの色を滲ませている。

どうやら彼は女神殺害の為に敢えてカラーコンタクトは取り外していたらしい。その為に本来の青い瞳が心無しか深みを増している様に思えた。

「……………………。」

リンニレースは沈黙する。どうやら、直接割り出す事は叶わなさそうだ。









「無理無理。リンニレースさん病みスイッチ入っちゃってるし。思い出しちゃったんだって、()()の事」

()()…?まさか………………、貴様……"あの人"の事なら、貴様だって、"彼"を連中と一緒に苦しめて追い詰めた癖に、共犯者の分際で!」

スノウルの言葉が、復讐者の怒りを増幅させた。

「それでいながら貴様は悪くないと言い続けるのか!!!取り返しの付かない事を招く行為をしておきながら!!!!!女神リンニレース!!!」

復讐者の怒号は女神には届かない。

「だ・か・らぁ、リンニレースさんには届かないってw一人で叫んで何主人公してるのww馬鹿?」

スノウルは更に復讐者を煽る。然し、復讐者もまた女神への憎悪でスノウルの言葉をただ只管無視し続けている。



「はーとんだ間抜けなもんだから煽り倒してるのに無視とかつまんな」

「……………………」

「リンニレースさんも黙ったままだしね。いい加減動けっての」

スノウルがリンニレースの足元を軽く蹴る。それでもリンニレースはぴくりとも反応しない。

























「ふ…復讐者さん!落ち着いて、冷静になりましょう!!」

レミエが復讐者を宥めて落ち着かせようとするが、それでも一度湧き上がった復讐者の中の憎悪は取り払われない。

復讐者の瞳は、沈黙し続けるリンニレースを射捉えたまま。

双方の緊迫を打ち消す様に、追い付いた兵達が雪崩込む。

































「居たぞ!!侵入者だ!!!」

「女神様!!!ご無事ですか!!!」

「侵入者はあの二人だけだ!殺せ!!」

復讐者とレミエを追って雪崩込んだ兵達が二人を捕らえ殺そうと向かう。



「………」復讐者は騒がしい背後に振り返る事無く天井の大照明を撃ち落とした。

撃ち落とされて勢い良く落ちてきた大照明は、背後の兵達をグシャリと潰した。


潰された兵の血飛沫が飛び散り、その場に血の海を作る。




「ひ…っ……!」

兵の一人が慄き、腰を抜かしてその場にへたり込んでしまう。

また一人は恐れを為して、一人、また一人と其処から離れてゆく。

「うっわ…」一連の流れを見ていたスノウルは復讐者の行動に引いた態度を見せたが、其の表情はリンニレースの時の様に歪んだ笑みを浮かべている。









































「……答えろよリンニレース、辺りに飛び散っている血飛沫と肉片はお前の兵達のものじゃ無いんだろう?()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだろう?」

復讐者は冷たく、冷たく言葉を紡ぎ続ける。女神を見下し軽蔑する様に。

「………が、…の……で…」

震えたリンニレースの声。

「女神、お前にだって口があるんだ、聞かれたら答える位の義理は見せろよ」

女神の所業に対して、何処までも軽蔑する。









「ーーたかが下らない人の分際で!!私のする事に文句言わないで下さいよ!!!!!」

突如として出たリンニレースの叫びが空間に木霊する。

「大体何なんですかあ!!?何で私が悪いんですか!!!私は傷付けられた方なんですってば!!!私は共犯者じゃないです!!!!!勝手に自殺したのはあっち!!!あっちでしょ!!!!!!!!?」

息継ぎすらせずにリンニレースは叫び続ける。

「っは…、っはあ…何で、何で私がこんな目に遭わなきゃならないの!!私はちゃんとやってるしあの時だって!!!当然の事をしただけ!!私は責められたくありません!!!共犯者じゃないし!!!!!」

息を切らしてか肩で息をしながら、リンニレースは弁明する。

ちらりと復讐者へ視線を向けた。



…復讐者の表情は、あまりにも冷たく、恐ろしい程に静かだった。

































「……………!!?」

リンニレースは彼の姿に思わず身震いする。其れは、自分自身が犯した罪から逃れられない事を暗示するかの様に佇んでいたのだから。




「…それで、言いたかったのは己の正当性か。とんだ言い種ばかりだな。()()()()()()()()()()()()()()

復讐者の言い放った言葉に、嘗ての記憶と自身が犯した罪を思い出す。

ーーそうだ、心を傷付けたのだ。相手の傷を更に抉ったのだ、三人が"彼"にした様に彼女もまた"彼"の心を殺したのだ。

…それに、先程だって……

























「うあああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

甲高い獣の叫び声の様なものを上げる。リンニレースの心が深く病んだ。女神の病んだ叫びが全員の耳を劈き、空間を響かせる。




『くっ…何て叫び声だ…女神なのに……!』

耳を塞ぐ復讐者とレミエの間から聞き覚えのある声が二人の脳内に流れ込む。

ーーニイス。

先程追い付いたらしい彼もまた、リンニレースの叫び声を嫌悪と苛立ちを見せていた。

『遅くなってごめんよ、復讐者、君の持つ報復者の剣を掲げてくれ。僕が憑依する』

ニイスの言葉に従い、復讐者は剣を掲げた。

ニイスが、報復者の剣に飛び込む様に憑依する。

















「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!」

女神が持っていた杖を大きく振った。杖先から溢れ出した光が光弾と化して復讐者へ向けられる。

『!!当たったら駄目だ!受け流せ!!!』

脳内に響くニイスの声の儘に、復讐者は光弾を剣で受け止めそのまま受け流す。



受け流された光弾はその場でへたり込んでいた一人の兵に向かって飛んでゆく。

「ひいっ…!!やめろ、たす、助けてくれぇっ!!」

避ける事すら叶わず、兵は光弾を受けてしまった。


…すると、兵の身体が光に包まれ、先程負ったと思われる傷が塞がってゆく。

「……?あ…、リンニレース様の、癒しの力か…!?」

兵はハッとして、そして安堵した。




『…復讐者、レミエ、彼を見るんだ。…女神の所業が分かるから』

ニイスの冷静な声で、兵の方を振り向いた二人は思わぬ光景を目にする。









「………!?」光弾を受けて癒された筈の兵の身体が、ボコボコと形を変えて全身を侵蝕する。

「あ、ああ、やめろ、やめてくれ!!!苦しい、し…死にたくない、死にたくないぃ!!!!!」

兵の表情が苦痛と恐怖と涙で酷く醜く歪んだ。

皮膚を突き破りそうな勢いでボコボコと彼の身体を駆け巡っていた癒しの力が、()()()()()()()()()




「ひっ…!」レミエは思わず顔を背ける。

視線を向けた先の光景で、人間がまるで水風船が割れる様に臓腑や肉片、血飛沫を飛び散らせながら死んだのだから。

「傷を癒す筈の力が…!?」復讐者は驚きのあまりに目を見開いた。


『…そう、あれが彼女の力の恐ろしさだ。戦闘能力こそ他の三体の女神や追従者と比べれば低くても、超過した回復量を破壊に転用させて対象を内側から破壊するんだ』

淡々とした様子でニイスは語った。

ーー復讐者は悟った。

ーーもし此処でリンニレースを殺さなければ、彼女の気分一つで、何人もの無辜の民が惨たらしく殺されてしまうだろう。

他の女神達と同じ様に、矢張り奴も残酷な存在だ。

例え己の行動原理が全て"彼"の為であったとしても、でも、此処で殺さねば。

















「ーー女神リンニレース、復讐者の名と、"彼"に賭けて、お前を殺害する!」

復讐者は剣を大きく振るい上げ、リンニレースへ向けて駆け出す。

…そして、それを邪魔する様にスノウルが剣の一撃を受け止めた。




「邪魔立てをするな追従者」

貴様も共犯者に過ぎない。スノウルも復讐者にとって討伐の対象であると分かってはいるが、今は女神を殺したい。

「いやほんとすみませんね!一応リンニレースさん所の追従者だから!!」

スノウルが復讐者の剣を弾く。復讐者の剣は勢いを衰えさせる事無くスノウル目掛けて振り下ろした。スノウルも其処でやられる訳にはいかないと言わんばかりに重い一撃を受け止める。白銀の剣と黒い剣による鍔迫り合いが繰り広げられた。

















「あっ…ああっ、復讐者さん!!」

レミエが復讐者の補助の為に駆け寄ろうとする。

…が、其れをもまた邪魔する様に、今度は女神リンニレースが立ち塞がる。


「…彼の所へ向かわせはしません。先ずは貴女から殺してあげましょう。私の力で、あの兵の様に惨たらしく!!」

リンニレースの杖の先から光が溢れ、収束し始める。

「そ、そんな…!!」

レミエは不利な状況に慄いた。ーー然し、そんな彼女へ復讐者の言葉が届く。




「レミエさん!!此方は追従者の相手でそっちに向かえない!!…でも、レミエさんはレミエさんの戦い方がある!!!リンニレースは「癒し」を武器にする女神だ、()()()()()()()()()()()()()()!!!!!」

()()()()()()()ーー!!

レミエは己の持つ奇跡(癒し)の力に、戦況の打破と勝利が可能である事を見抜いた。

































「……分かりました、私ーーやってみますね、女神が相手…でも、必ず、勝ちます!!絶対に勝ってみせる!!!」

レミエは己の杖を掲げ、そしてリンニレースへ杖先を向けた。

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