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蝉の声が鳴き止むまでに  作者: 骨公爵
3/4

初夏

ピピピピッッ!!


ミーン。ミーン。ミーン。


「…うるさい。」


携帯のアラームと蝉達による大合唱は思いの外、効果があった。若干の寝不足を身に感じつつも二度寝をする気にもなれず、仕方なく洗面所の方へと向かった。


夏はエアコンを付けていても汗をかく。着ていた衣服を洗濯機の中に放り投げる。こんもりと汚い衣服などで山になる中身を一瞥。洗剤と柔軟剤を適当にぶちまけて、これまた適当にコースを選んで洗濯機を動かす。

寝惚けた頭がゆえに行動もゆっくりとなってしまう。


そのまま。浴室の扉を開け、ザーッと、シャワーを浴びる。意識不安定だった脳は、上から降りかかる生暖かいお湯により徐々に覚醒していった。


ブルブル~。


猫や犬がやる様に、髪についた水滴を飛ばしてからタオルで髪や体を拭いていく。


「あっ!替えの服、用意してなかったな…。」


これが寝起きでシャワーを浴びた時に起きるプチ事件である。

実はこの事件、過去に何十回と起きていたりする。

この事件。一見、とてつもなく下らないと思うかも知れないが、注意してほしい。この事件が本当に恐ろしいのは替えの服を全て外に干してしまっていた時にある。

俺の部屋は幸運な事に三階に存在する。そこそこにいいアパートである為に階が結構あるのだ。

まぁ、その辺はちょっとした自慢みたいになるので省きますが。


話は戻って、洗濯物を全て外に干してしまっていた時。当然、それを取りに行かなければならない。身なりはタオルを巻いただけという軽装備。風の強い日は本当に要注意。

先ほども言ったが俺の部屋は三階に属する。だからというもの。外での人目はほぼ気にしなくても大丈夫と言えよう。

ならば、注意すべき点は…。


そう。お隣さんである。


これまたどうでもいい話なのだが、そのお隣さんがとても可愛い。巷の噂ではどこぞやのお嬢様学校に通う大学生だとか。

何回かすれ違った事も挨拶を交わした事もあるがその姿はまるでお伽噺の中から抜け出したお姫様みたいな存在だ。つまりは姫。

そんな人物にだ。ヨレヨレのタオルを一枚巻いただけの男が急に横に現れたらどうなるか。ましてや、その軽装備が風により剥ぎ取られたもんならば。そんなのは。そんなの…。


警護の方が出頭するに決まってる。


このアパート。防音ではあるがベランダとベランダの間隔が非常に狭い。そして、何でか仕切りが上半分しかないのである。つまり、俺が外に出たら下半分は見えてしまうのだ。

その造りで得した事は前に一回。姫の下着が地面に落ちていたのを目撃した時くらいだ。まぁ、確かに上を仕切るってのは色々な理由で分かりますけど…。それだったら全部仕切ろうよって話だよね。


ウンッ。ゴホンッ。


まぁ、つまりだ。前置きが長くなってしまったが、そういう事件には気を付けようね。と、そういう話である。ほんとに変態になってしまうからね。


そして、今日は運が良いことに替えの服は全部。取り込んであった。ほんとに良かった。



「さてと。そろそろ行くかな。」


シャワーを浴び、軽い食事を済ませた俺は伸びを一つ。壁際に掛かる丸時計に目をやる。


時刻は8時40分になろうとしていた。何で夏休みにこんな早く起きなければならないのか?自分のことながら本当に呆れる。習慣と蝉とアラームは恐ろしいものだ。



「てか、夏休みの初日だってのに。なんで、学校行かなきゃなんねぇかな?」



気だるい感想を欠伸と共に口に隠し、玄関の扉を開放する。

と、そこに。




「おはようです!佐川。」




「お…おう。」



今日もそこには小さな女の子。鈴井 湖蝉が立っていた。




「佐川はまた、徹夜でゲームですか?その生気を吸いとられたような目に磨きがかかってますよ?」




「うるせぇな。夏休みなんだからいいだろ?大体、人の目にいちいちコメントせんでええわ。俺の目が少女漫画みたいなキラッキラッな目になった方が断然キモいだろ?」



「まぁ。それは、はい。そうですね。」



「別にいいけど。まじトーンでの返答は止めてくれる。」




「それにしても、野研は凄いですね。運動部でもないのにこんな朝早くから集会だなんて。感心ですよ。」



「ほんとな…。どうせ大した事、話さない癖にな。ふぁ~ぁ。」



やはり、二度寝をするべきだったのかもしれない。朝日を浴びて目が冴えるどころか眠気が到来しつつある。



「それでさ…。」



「あ?」



夏休みもあってか普段はまばらに人の姿が見えるこの通学路には今日は人がいない。その為、湖蝉との会話は普通に可能としていた。



「佐川は…ですね。」



「んだよ?勿体ぶって?」



背中の方で指をモジモジする湖蝉を不審に思い、首を捻る。



「おい、だから…」



いつまでもモジモジしている湖蝉に少しの苛立ちを抱き、強めの声を投げ掛けようとしたところに声が重なる。



「佐川は、私の水着とか見たいですか?」



「へ?」



予想もしていなかった言葉に一瞬だが、言葉を失う。



「だから、佐川は私の水着見たいですか?って聞いたのです!」



「あっ…いや。」



目前の少女は頬を赤らめ、眉を吊り上げた表情を刻んでいた。俺はその表情に何とも言えない感情を抱くと同時。昨日の言葉を思い出す。


現実を見ろ。


目前の彼女はいつかは消えるべき存在で。いつまでもそこに居てはいけない存在。

見てはいけない。感じてはいけない。応えてはいけない。触れてはいけない。想ってはいけない。ましてやそれ以上の感情なんて…。



「うっ…」



「佐川!」



どうしていいかが分からない。どうすべきかが分からない。旗野さんの言う様に湖蝉と決別すべきなのか。


分からない。 分からない。



「佐川!大丈夫ですかっ!佐川!」



必死に呼び掛ける少女に大丈夫の一言も言えない。

どうしたらいいのか?どうする事が正しいのか? それを考え様にも思考が拒否する。彼女を。鈴井湖蝉を喪いたくない。今はそれだけしか思えなかった。


涙は止まらない。

今ならば答えられるかもしれなかった。旗野さんの問いかけ。「湖蝉さんの事が好きなの?」その問いかけに俺は自信を持って返答を返すだろう。



「佐川!佐川!」



まだ、耳元で湖蝉は俺の名前を呼び続けていた。本当に蝉と名の付く生物は…。



「っ…。大丈夫だ。お前は耳元でうるせぇんだよ。」



「何を言うですか!私は佐川の事が心配で…。」



「だから、余計なお世話だ。」



「むぅ。」



軽く意地の悪い返答を返すと湖蝉はプクゥ~っと、頬を膨らませた。その姿がまた愛らしく、涙が出そうになった。



「はは。分かってるよ。お前が俺を心配してたこと位。あんがとな。」



ちょっと、キザな台詞を口に背中を向ける。それで上手く、涙目を隠せたかは分からないが…。



「もぅ。佐川は素直じゃないですねぇ。」



「あぁ。そうだな。」



涙を堪えて言える台詞はそれが精一杯だった。



いつかは湖蝉を消さなければならない。いつかは…。なら、せめて。せめて…そのいつかまでは。俺はコイツを…。


その行為こそが間違っていることに俺はどこかで気付いていた。ただ、ソレを見たくなかっただけで。ソレをしたくないだけで。


いつか…。


そのいつかは本当にいつか来るのだろうか?


そんな考えがチラついたが、涙を拭うと同時にソレすら振り払った。


現実を見ろ。


「…今はコイツだけを見るだけでいいだろ。」



「何か言ったですか?」



「いいや。何も。今日も暑いなぁってな。」



「そうですねぇ。」



夏の日差しが照りつく中。俺は足早に皆がいるであろう学校へと向かった。

今日も今日とて、湖蝉の声は煩い程に横でよく響く。だが、その後ろ。太陽の光に照らされて浮かび上がるその影はやはり、一つしかなかったのだった。


*********


ガヤガヤ。アーダコーダ。


野外活動研究会。略して野研の夏休み、初日の活動は案の定。予想通り。来週末に行く事を予定している海合宿(笑)の話合いとなっていた。

まぁ、話し合いとは名ばかりの雑談が主の本当にこれは部活なのか?と、疑う様なものでしかないのだが。



「だから、スイカは持ってくべきだろ?夏で浜辺と言えばスイカ割りするだろ?普通?」



「だから、あんたはバカなの?何でわざわざスイカを無駄にするわけ?あんた食べ物の大切さとか理解できないわけ?ほんとにどこまでいっても馬鹿ね!」



「は?割ったスイカは食べるに決まってんだろっ!何の為のスイカ割りだよっ!スイカを割って食べるっ!それまでがスイカ割りだろうがっ!!」



「はぁ?何でわざわざ浜辺で割った、汚いスイカを食べないといけないのよっ!それにその割れたスイカだって綺麗に割れると本気で思ってるわけ?バコーンッ!よ。バコーンッ!ボロボロになるに決まってるじゃないっ!」



「は?そんなのやってみねぇと分かんねぇだろっ?」



あっちでは潤一と瑠美華が超どうでもいいスイカ割り談義に火を灯し。そして、片方では。



「海か…。俺、直ぐに体とか焼けるんだよな…。静音よ。悪いがこの後、日焼け止めを買いに行くのに付き合ってくれんか?」



「まぁ。そうね。獅子唐君が一人で日焼け止めを買うのは少しアレだものね。」



「そうなんだよなぁ。この間も妹に頼まれた化粧水を買いに行ったら警備員に捕まってな。ソレは何に使うだなんだのと。ほんと、俺が何をしたって話なんだよな。」



「そうねぇ。獅子唐君はその…。見た目が逞しいから…」



などと別の方向では仲睦まじい夫婦がキャッキャッ。ウフフと楽しそうだし。



「ん?この問題は難解ですね。確か、この参考書の…って、しまった!コレは高一の参考書でしたっ!僕はもう、高二だというのにっ!間違えて持ってきてしまいましたっ!なんたる不覚。って、ここ間違えてますね。消しゴム。消しゴム。あっ!しまった!コレは昨日買ったばかりの新しい消しゴムでしたっ!一緒に筆箱の中に入れていたのを忘れていましたっ!あぁーっ!」



などと一人でコントをしてる奴もいるし。


なんか俺、帰っていいかなとかマジで思ってしまう。



「はぁ~ぁ。」



「つまらなそうね?溜め息は幸運を逃すと言うわよ?」



「そりゃぁ。これ程の時間の無駄はないだろうからな。溜め息ぐらい出るだろうよ。」



「そうっ。」



などと、俺の横に腰を掛けたのは旗野さんであった。昨日の会話で気まずいかとも思ったが思いの外、普通に話せれた。



「旗野さん、今日は来たんだな。」



「言った筈よ。昨日は家の用事だったと。」



「まぁ、そうなんだけどさ。てか、その用事って何だったわけ?」



「女の子に用事を聞くなんて、佐川は本当に最低のゴミ野郎ね。」



「いや、そこまでの言われようは酷くない?」



「じゃぁ、生ゴミの塊?」



「何でグレードアップしてんだよっ!悪口が気に入らなかった訳じゃないからなっ!別に!」



「ん?じゃぁ、生ゴミの化身?」



「ゴミから離れろよっ!気に入ったのかっ!ゴミというワードの悪口が気に入ったのかっ!」



「じゃぁ、生ゴミ神ってことで。」



「神様になったよ。ついにゴミ界の頂点に君臨しちゃったよ俺。」



「うん。二十八点ってところかしら?」



「それは総合?それとも最後の一つに対しての評価ですか?旗野審査員?」



「勿論、総合。」



どうやら、やはり。今日の旗野さんも手厳しいようだ。それでいて、旗野さんの用事を聞くのもどうでもよくなっていた。



「ところで旗野さん?」



「何かしら?」



毎度恒例。俺弄りに満足したのか横で携帯を弄る旗野さんにそれとなく話し掛ける。



「いや、旗野さんは山か海。どっちに行きたかったのかなと?」



「…それは、昨日。私が部活に顔を出さなかった事に関しての嫌みかしら?」



「いや、そういう意味で言ったわけじゃなくて。単純に旗野さんは山派か海派か気になったというか…。」



まぁ、正直な話。ただここでボーッとしてるよりかは、皆と同じ。雑談でもしていた方が時間を有効に使うことになるのではないかと思っただけなのだが…。



「そうっ。てっきり佐川は私に海か山かを再確認してまたも多数決を取るような非道で鬼畜な事をするのかと思ったのだけど?」



「旗野さんは俺をどうゆう目で見てる訳?」



「少女漫画のようなキラキラな目かしら?」



「グフッ!?」



「どうしたのかしら?持病を拗らせたのならいい医者を紹介するわよ。外科医だけど。」



「悪い。ツッコミが間に合わない…。」



「そう?今のは冗談ではなくマジなのだけど?」



いや、だから。声に変化がないから分かんねぇんだよ。



「まぁ、そうね。山か海。どちらかと言えば山かしら?」



「へぇ。案外、予想通りだな。何?自然とか好きな訳?」



「んー。そういうわけではないのだけど。昔、ちょっと海で溺れかけたからかしら。トラウマになってるのよね。海が。」



「ブッ!?」



「またなの?やはり、名医を紹介した方がいいのかしら?今度は内科医も付き添いで付けたようかしら?」



「その話は、もういいよっ!てか、内科医付き添いで付けても結局、手術するのは外科医だからなっ!!内科医なにすんだよっ!応援でもしてくれんのかよっ!」



いや、今はそんな話はどうでもよくて。



「てか、何?旗野さん、海ダメなの?そんなエピソード初耳なんだけどっ!」



「まぁ、言ってないしね。」



「いやいや、そんなんだったら。海は中止でいいよっ!そんな重大な告白聞いて海に行こうなんて言えねぇよっ!」



「大丈夫よ。私はビーチパラソルの下で課題でもしてるから。」



「谷詞の仲間入りかよっ!」



「それに、ほら。邪魔をしたくないじゃない?皆といられなくなる時間って結構、直ぐなのよ。」



「あっ…。それはっ…。」



本当にこの人は…。そんな事を言われたら何も言えなくなるではないか。



「だから、佐川。私は海に行くわよっ。あなたが何をどう思って、何を言おうとね。」



旗野さんはそう決意に満ちた声を響かすと急に立ち上がり、顔をこちらに向けた。



「うっ…。」



「どうかしたのかしら?」



「いや、旗野さんも笑うんだなと…。」



「佐川こそ私をどう見ていたのかしら?ロボットか何かと勘違いしていた?やはり、佐川のその目は死んでいるのかしら?」



「いや、その別に…。」



普段、見ない旗野さんの笑顔はとても美しく。そして、何だか悲しそうでもあった。その真意を訪ねる程の度胸も覚悟もなく、俺はそっと視線をずらす。



「それで?」



「へ?」



「佐川はどうなのかしら? 」



「え?えぇと…。何が?」



奇怪な問いかけ。向けた先にあったのは先程の笑顔が嘘だと思わせるようないつも通りの顔。



「何がじゃないわ。私を出し抜こうとしたようだけども私はそう簡単には出し抜けないわよ?」



「いや、だから…何が?」



質問を重ねる度に難解になっていく。これは俺の解読スキルが弱小が為によるものなのか?



「何がじゃないわよ。佐川は海か。山かどちらに行きたかったのかしら?聞いた話ではあなたはどっちも選ぶという優柔不断で最低なクズ野郎のチート行為に出たと聞いたのだけど?」



「旗野さん…。あなたは一々、俺をけなさないと気がすまない訳?」



そろそろ俺のメンタルも砕け落ちそうだよ。ほんとに。



「いえ、そういう訳じゃないのだけど。人は溜め込むとストレスになると言うじゃない?それに、他人に隠し事なしに話す事は美学だと思うのだけど?」



「いや、まぁ。それは一理あるけども…。口は災いの元って言葉知ってる?」



「大丈夫よ。私の口からはそんな物騒なモノは生まれないわ。」



「いや、だから。どこから来るんだよその自信はっ…。」



こうも微動だにせず、返答を返す旗野さんにはさすがにの俺も落胆せずにはいられない。カッコいいを通り越して呆れるよ。

とか、何とか肩を落としているところ。続けて変わらない真っ直ぐとした声が俺に届く。



「そんなの決まってるじゃない。私、佐川にしかこうした話をしないのだから。」



「へ?」



この発言には直ぐに対応できなかった。数秒の硬直を許して貰い、ようやくと口を開くことが可能となる。



「えっと…旗野さん?それは俺にならどんな事を言ってもいいと思ってる?」



「まぁ、そういうことかしらね?」



「いや…そういうことかしらね。って。」



どうやら、俺は旗野さんの言葉によるサンドバッグとして認識されていたようだ。少しでもときめいてしまった自分が恥ずかしい。



「それよりも、話をはぐらかさないでくれるかしら?佐川は山か海。どちらに行きたかったのかしら?」



「あぁ。そういう話だったけか?」



全く。誰のせいで脱線したのやら…。



「そうだな…。何だかんだで俺も山かな?何て言うか海って、すっげぇ人いそうじゃん?俺、人混みとか嫌なんだよね。気持ち悪くなるっていうか。」



「…そうなの?私はてっきり佐川は海派だと思ったのだけど。」



「は?どうして?」



「いや、私の水着見れるじゃない?」



「うっ…」



「大丈夫かしら?AEDとか持ってきた方がいいかしら?」



「誰が心臓発作を訴えたよ?」



まぁ、胸に関する事ではあるのですがね。



「ちょっと、佐川!何をそこでサボッてるの!あんたも話し合いに参加しなさいよねっ!それに欄丹もよ!昨日は休んだんだから良い意見、出しなさいよねっ!」



旗野さんと実にどうでもいい話をしていた時間。どうやらやっと、本来の目的に皆が一致したようで皆が皆。机を囲むという形となっていた。



「早くしなさいよね!ったく。」



さっきまで自分もどうでもいい話をしていた癖に、瑠美華は何故か偉そうに俺達を急かす。ほんとに女というものは。



「佐川。」



「あ?」



瑠美華に急かされるがまま。腰を浮かした俺であったが、旗野さんに軽く袖を引っ張られた為に動きが止まってしまう。



「私が溺れたことは皆には言わないでね。」



コソリッ。


少しこそばゆい程の耳打ちを小声で囁かれた。それが何故か緊張してしまい。何故か心臓の動悸が激しくなった。



「お、おにゅっ…」



そのせいだろうか。ただの短い返事も言えず。最後のところで噛んでしまった。



「約束。破らないでね。」



噛んだことに何か言われるだろうと覚悟していたのだが、そんなことはなく。旗野さんはまたも小声で俺に言葉を残すと皆がいる場所へと歩き寄った。



「…はいはい。」



自分の苦手を隠してまで皆といる時間を選ぶ旗野さんの姿はとても美しく見えて。俺の頬は知らず。知らず。緩んでいた。


だが、そこに。旗野さんが言った。皆に。はたして俺の隣にいる湖蝉は入っていたのであろうか?




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