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蝉の声が鳴き止むまでに  作者: 骨公爵
1/4

終業式

ミーン。ミーン。ミーン。


「…煩い。」


じめじめとウザったい梅雨も明け、渇いた路上には太陽から注がれる熱視線が今日も眩しい。

空は快晴。青い空はどこまでも続いてるかのような広大さを今日も訴えかけてるかのようだった。



ミーン。ミーン。ミーン。



「だから、煩いって。」


授業も終わった放課後。明日から夏休みが始まる今日。俺は机の上で突っ伏すという姿勢である人物を待っていた。 因みに席の位置は窓際。つまりは一番、暑い位置ということだ。



ミーン。ミーン。ミーン。



「あぁーーーーー!だから、うるせぇぇぇぇぇぇー!」



ガラッ!



「ただでさえ、暑ちぃってのにミンミン。ミンミン。寝れもしねぇよっ!」


佐川(さがわ)はバカですか?蝉に怒っても仕方ないではないですか?それとも佐川は蝉との会話を可能とする昆虫人間さんでしたか?」


「いや、それはそうなんだがよ…。って、元はと言えばお前が…。」


「別に頼んでないですよ。それよりも…」


「あーっ!いたっ!また、夏夜(なつや)はこんな所で寝てっ!皆、待ってるんだから、早く来なさいよ!」


「お、おう。」


「それよりも夏夜?」


「あ?」


「さっきから、誰と話してるの?また、空想のお友達?」


「…おう。そんなところだ。」



「はぁ。夏夜も、もう高校生になるんだしさ。そういうのは止めた方がいいって。…って、これ前にも言ったよね?私?」



「あぁ。そうだな。瑠美華(るみか)だけじゃない。谷詞(たにし)潤一(じゅんいち)旗野(はたの)さん。野雨(やう)先輩に獅子唐(ししとう)先輩にも言われたな。」



「分かってるなら止めなよね。正直言って気持ち悪いから!あんた、クラスでもたまにソレやってるみたいじゃない?皆も気味悪がってんだからね!いいっ!私みたいな美少女とつるんでる以上はそういうのは一切、禁止!私の評価にも繋がるんだからっ!」



「お…おう。相変わらず瑠美華は真っ直ぐくるな。お前もその性格、直した方がいいんじゃないか?」



「ふんっ!余計なお世話よ!私は人気があるのよ!ご存知かもしれないけれどっ!この前だって、サッカー部のエースから告白されたんだからねっ!勿論、フッてやったけど!」



「…あのさ?」



「何よ?」



「いや、前から思ってたんだけどお前、モテんのに何で誰とも付き合わないわけ?他に好きな奴でもいるわけ?そんだったら、さっさっとソイツにコクればいいじゃん?お前なら大抵の奴ならいけんだろ?…って。ん?」



「…あー!煩い!煩い!煩いっ!蝉の鳴き声よりもあんたのその無神経な態度の方が百倍煩いわよっ!」



「いや、態度が煩いって…」



「いいから、行くわよっ!皆、待ってるんだから!あんたが創った部活なんだからちゃんと来なさいよねっ!」



「お…おう。あっ、ちょっと、タンマ。先、行っててくんない?」



「はぁ?」



「いや、今日までに提出する筈のプリント出すの忘れててさ。職員室寄ってから行くわ。」



「あぁ。家庭訪問のプリントか…。全く。夏休みだってのに何で家に担任呼ばなきゃなんないんだって話よね?」



「…そうだな。」



「まぁ、いいや。じゃぁ、それ出したらさっさっと部室来るのよ!いいっ?」


ガラッ。



「…花園さんは相変わらず台風みたいな人ですね。」


「…あぁ。そうだな。」


花園(はなぞの) 瑠美華(るみか)が出ていった教室にまたも蝉の声が響き渡る。


「じゃぁ、俺達も行くか。」


「ですねぇ。」


ガラッ。


じめじめとウザったい梅雨も明け、暑苦しい夏が始まる。春には主役を張っていた桜の木々からは花びらは落ち、消えて。今では緑豊かな新緑となった木々が、校庭のあちらこちらに植わっている。そこにいつの間にか陣取っていた生物は今日も今日とて煩く声を響かせていた。




「で、佐川は将来的には文系か理系どっちに進むんですか?私としては佐川は文系かと…。あっ、いや。でも、佐川には語彙力がないですねっ!ってことは、やはり理系の方が…。いや、でも、佐川は細かい数式とか苦手でしたっけ?なら、もういっそ神頼みで目を瞑って指差した方とかで…」




「だぁー!うるせぇぇぇぇぇぇーんだよ!だからっ!」



ざわっ。



「…蝉が。そう…蝉がうるせぇんだよっ!」


…はぁ。


集まった視線が逸れたのを確認後。溜め息を吐く。そして、職員室とは別。ちょっと、離れた旧校舎の廊下へと移る。



「お前!さっき、瑠美華の話を聞いてなかったのか?」


「聞いてましたとも。佐川が一人で話す癖を直せって話ですよね?ですから、私が協力して話し相手に…」


「あー!分かった!分かったから、少し黙れ。」


「私が影が薄いからですか?その事に佐川は怒っているのですか?なら…」


「だからっ!」


ビクッ!?


「…どうして…。私はただ…ヒグッ…」


「あぁ!悪かった。そうだな。鈴井は俺を想ってやってくれてるんだもんな!そうだよな。」



「…はい。」



「…」



鈴井(すずい) 湖蝉(こぜみ)

彼女は自身が既に死んでいるということに気付いていない。

そして、彼女の姿はどうしてか?俺には見えていた。


どうしてか…か?


いや…俺は彼女の事が好きだった。だから惹かれただけなのかもしれない。蝉が鳴くのは求愛の表しだというからな…。


ミーン。ミーン。ミーン。


今日も蝉の声は煩くなりそうだった。


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