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俺は転入生になる!

 ──後に災厄と称される魔物が何の前触れもなく突如現れたその日、人類は圧倒的な力の前に絶望を覚えた。


 災厄はその場に現れ僅か十秒足らずで数千、数万の魔物を生み出し殺戮を繰り返し続け世界中を魔物で覆ったのだ。──否、覆うことが出来なかった。


 ──存外人類はしぶとかったのだ。

 古来から永遠に等しい時間、続く学園が確かに存在した。

 ──太平洋上に存在し、ある哲学者達はアトランティス大陸とも言呼ばれた伝説上の隔離大陸。

 ──それは紀元前に創立され密かに受け継がれてきた魔術院。

 ──唯一魔物の侵入を許さなかった領域。


 彼等には視認する事叶わず、感知する事も叶わない存在。

 その存在は科学を信じ発展した人類とはまた別の発展を遂げた人類の世界。

 別人類の発展は科学とは相反する魔術だった。

 災厄との戦争にて隔離大陸の人類は魔術、魔法、錬金術を駆使し多大な被害を出しながら撃退に成功した。

 それ以来災厄は何処へと姿を消し、残った数多の魔物は主を見失い世界中を徘徊し始めたのであった。

 

 

 ──ヴィシュナ大陸。その大陸には魔術が存在し素質有るものを集めた都市があり、その都市の中心には魔物と戦う才がある人材を集めた学園があった。


 その中の一つ、第三都市のクロノ学園。

 その学園ではある奇妙な噂が流れていた。


 ──蹂躙された筈の外部から生き残りの人間が来ている、と。

 だが、その噂に信憑性を感じるものはおらず学園の生徒はただの面白い噂、存在したら面白いなという程度にしかとどまらなかった。何故なら外部の人間はヴィシュナ大陸を認識出来ないのだから。

 しかし、その噂を軽視出来ずにいる生徒が一人、学園長室を訪れていた。

 学園長と文字が掲げられた部屋で肩に掛かる白銀の髪が特徴的な少女が手元の書類を確認しながら、何かを疑う様に話しかける。

 

 「こんな時期に転入生なんて珍しいですね。って言うか転入事態が学園創立以来初めてなんですけど。どう言うことですかね。学園長?」

 ──そう。転入と言うだけでもおかしいのに加えて今流行っているあの噂。関係ない筈が無い。

 

 両袖デスクに腰掛ける魔女のような格好をした七十いかない位の女性。もとい学園長は白々しく返す。

 

 「まだ疑っているのかい?だからさっきも言った通り適正者が新たに発見された。ただそれだけだよ」

 

 「そのようなことが異例と言っているのです。この学園に入学する資格を持つにはこのブレスレットに反応があった者のみ。その審査は、十六歳になった者を──」

 

 あやふやにされた答えに、少女は異論を唱えながら袖を捲り、ブレスレットを見せるが──

 

 ──コンコンッ

 

 「──っ!」

 

 「ん、入っておいで。転入生。」

 

 その扉を叩く音は少女の追求を阻止させ、学園長室に緊張を走らせる。

 扉が開き始める直前。殺意による一瞬の圧力と鋭利な何かが少女の顔を横切り学園長に触れる寸前でそれは運動を停止した。

 

 「──きゃっ!」

 

 突然の強風で周辺のプリントは宙に舞う中少女は足を滑らせ尻餅をつき、学園長は扉を突き破って額を穿とうとした槍を掴み取っていた。

 

 「こんな入室の仕方は初めてだよ。それと今は可愛い生徒がいるんだ。もうあれを破る気かい?」

 

 「お前ら、どっちに転んでも得する様に条件付けやがって。最後のは俺に僅かの希望を持たせるために付け加えたんだろうが、失策だったな。どっちにも転がらない様にしてやるよ」

 

 穿った扉を蹴飛ばし学園長室に踏み込む黒髪に黒ずんだ蒼色の瞳を宿す転入生。

 正装に身を包み容姿からみればとてもではないが投擲したときの殺気を出すような雰囲気は感じられなかった。

 ──そう。彼は少々背丈が低かった。一般的に見ればまだ中等部、転入する高等部の人達と比べれば頭一つ分の差があった。それ故に今まで会ってきた人間から子供扱いされてきたのだ。

 転入生は想像と違った転入生の姿を見てポカンとしてる少女を指差し、器用に芝居混じりの卑屈を発する。

 

 「おい、そこの女。」

 

 「……へ……私?」

 

 「お前、今『あ、私より下だ』って思ったろ。くそぉお、誰彼構わず俺を見下しやがって。あの見張り番の奴も、俺を子供だと思って『坊や、何したのかは聞かねぇが、まだその年ならいくらでも更正出来るから頑張れよっ!』って馬鹿にするんだあぁぁ」

 

 「「………………………………」」

 

 床を叩きカーペットを屈辱の涙で濡らすその仕草に哀れむ目で見つめる二人。

 そして学園長は同時にこう感じた。

 ──これじゃあまるで、本物の人間の様だ、と。

 

 「それはそうとして、これが学生証と専用アルムギアだ。二つともこの世界に一つしかないからくれぐれも無くしたり壊したりするんじゃないよ」

 

 デスクの引き出しから取り出したそれはまだ何も書かれていない一枚のプレートと歪な円形の銀色に輝くブレスレットだった。

 鼻をすすりながらそれはなむぞ、と聞く転入生に床に散らばったプリントを拾い集め立ち上がった少女がこほんと一つ咳払いをし、

 

 「では、それらについて私から説明しよう──」

 

 ****************

 

 ──クロノ学園学生証。この学生証は初めて魔力を流した学生の潜在能力を刻みこむことが出来るプレートらしく、いわゆるステータス情報みたいなものだ。鍛練を怠らなければ次々と更新されていくらしい。

 

 ──アルムギア。対魔物用武器精製術式が込められたブレスレット。このブレスレットは一度装着すると装着した者の心、魂を読み取り適した武器を精製する事が出来る。ただし、一度精製した武器はアルムギアに記録されている為同一の武器しか精製出来ず、再度読み込みも出来ない。

 

 「──と、このように個人証明と防衛戦に必須な物だ。」

 

 なるほど。俺がそのアルムギアとやらでどんな武器が出てくるのか楽しみだな。防衛戦って事は今も戦いが行われる事があるのか。それと、この学生証。ステータスが分かるって事は……

 俺はデスクに置かれた学生証を手に取り念じ魔力を流す。

 

 「──うおっ、まぶっ」

 

 すると、プレートが輝きだし光は部屋中を照らした。その光は次第にプレート上の中心一点に収縮され、全て集まった所で光がまるで樹系図を広げるかのように伸びていく。

 ステータス更新が終わったのか輝きを徐々に失っていく光はプレートに跡を残した。

 光が残したを跡を良く見ると上手く文字になっていた。

 

 俺は恐る恐る瞼を開きプレートに刻まれたステータス情報の一点を確認する。

 うむ。やはり他人に見せてはいけないやつだな。俺の正体がバレかねない。

 

 「で、スペックどうだった?」

 

 白銀の少女が俺の学生証を覗きこむように身体を曲げる。

 ──初期ステータスは気になるものなのだろうか。確かに鍛練している人が初期ステータスで抜かされてはたまったもんじゃないし。だが俺は別。ステータスがどうとかじゃなく気付かれたらアウトなんだ。

 俺は何とか見られないように慌てながら制服のポケットに入れる。

 

 「ま、まぁ初期ステータスだからな。これからのびしろがあるってもんだ。」


 「初期ステータスが低ければ他人より成長するとは限りらないそうだぞ」


 「へっ、あ、そうなんだ……よし次だ次行こ」

 

 何とか誤魔化せたかな。っていうか最初からスペック低い俺不利じゃん。のびしろに期待するしかないか。

 心の中でショックしながらも次に試すアルムギアで挽回する事に期待し右手首に装着する。

 

 「──リベレーション」

 

 隣で彼女が紡ぐ言葉に反応し彼女のアルムギアが白い輝きを放ちだす。

 すると、虚空から彼女にお似合いの白槍が出現し掴み取った。

 

 「ほら、貴方もやってみ」

 「お、おう」

 

 俺はアルムギアを装着した手を前に出し彼女の言葉を思い出す。

 確か彼女はこう言った。

 

 

 「──リベレーションッ」



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