保育園不足を解消して欲しかったなら、選挙投票に行きましょう
さて、皆さん。いきなりですが、自民党安倍政権が『ウーマノミクス』というものを掲げていたのを覚えていますか?
これは、簡単に言ってしまえば、「日本ではあまり活かしきれていない女性の活躍を後押しする事で、経済全体に良い影響を与えよう」というものです。近年、労働力不足が深刻化しつつありますが、それを解消する意味でもこれは重要ですし、女性の収入が多くなれば、社会全体の需要が増えますから、需要不足を補う意味でも重要です(経済が成長するってことです)。
ですが、社会における女性の役割で期待されているのは労働力としての役割だけではありません。少子化問題も深刻ですから、出産もしてもらわなくては困ってしまいます。これを合わせると、今のような男性中心の経済社会ではなく、結婚出産後も女性が普通に働けるような経済社会を実現する事が、『ウーマノミクス』には求められる事になります(因みに、更に介護の主な担い手として、女性が期待されてもいます。女性にしてみれば「殺す気か?」って感じですかね)。
今の社会の現状を考えるのなら、これは当然やらなくてはいけない改革で、だからもちろん僕も期待していたのですが、昨今話題になっている保育園不足問題を観ても明らかなように、自分達で掲げておきながら、自民党安倍政権は『ウーマノミクス』の推進に本腰を入れようとはしないのです。それどころか、いつの間にか『ウーマノミクス』を、自民党が口にすることすらなくなっているように思えます。
政治関係者の中には“専業主婦主義”に固執している人間が多くいるようなので、もしかしたら、その事も『ウーマノミクス』を阻害しているのかもしれません。
2016年の参議院選挙を前にして、『ウーマノミクス』という言葉こそ使わなかったものの、自民党はやはり似たような事を公約として掲げましたが、一度大きく裏切られているだけに、僕は「またか……」とついそう思ってしまいました。まぁ、また口だけで終わるんじゃないのかな?と。
これを読んでいる人の中には、もしかしたら「別に無理して、母親が外で働かなくても良いのじゃない?」なんて思っている人もいるかもしれません。ところが、そうもいかない事情があるんです。今の現役世代では、既に相当に貧困問題が進んでいまして「共働きじゃないと生活できない」って人が増えているんです(しかも、一度でも職を離れると、その後の収入に大きな差が出る事が知られています)。
つまり、保育園不足問題の放置は、そのまま現役世代の貧困問題の放置でもあるんですね。そして、これは同時に教育問題(並びに出生率低下問題)でもあるんです。何故なら、現役世代が貧困だと、その子供達が満足に教育を受ける事ができないからです。将来世代を担うのは子供達ですから、当然、これは長期的には日本社会全体を衰退させていきます。
それくらい大丈夫だって思っていますか?
平気だろうって。
もし、そうだとするのなら、危機意識不足です。教育を疎かにしている社会が発展できないってのは歴史を観れば明らかですから。だから今の社会の現状は、自滅の道を進んでいるって言っても過言ではないんですよ。
もっとも、貧困だからといって必ずしも教育が疎かになるとは限りません。貧しい家の子供にも、充分な教育を受けさせてあげられる制度を敷けば良いだけです。ところがどっこい、自民党はそれにもあまり力を入れようとはしないのですね。いえ、それどころかむしろ後退させようとしているのじゃないかと思えるような動きすらも…… 本当に勘弁してください。
ただし、自民党だって充分に余裕があるのなら、そういった制度も実施してくれるとは思います。今の日本は財政状況が厳しいので、抑えられるところは抑えておきたいのではないでしょうか。ま、子供の教育支援は抑えるべきところではないように思いますがね。
ですが、そんな将来の日本を支える為の教育にすら予算を割く事を渋らなくてはいけないような厳しい財政状況下にも拘らず、積極的に自民党安倍政権が予算を割いてしまっているバラマキとしか思えない制度もあるんです。
低所得の高齢者に対して一人当たり3万円の給付を行う高齢者向け給付金(年金生活者等支援臨時福祉給付金)というのが、その制度の名前です。制度と表現しましたが、これは2016年に一度だけ支給されるもので予算額は3624億円ほど。全体を観れば、それほど大きなものではありません。なにしろ、年金の支払いは一年間に56兆円ですからね(ただ、これを小さな額と言ってしまっては、いけない気もします)。
が、それでも僕はこの制度は問題だと考えます。何故なら、その支給時期が参議院選挙前だからです。つまり、この制度は露骨なまでに分かり易い選挙対策だってことです。選挙の公平性は保たれるのでしょうか? そしてこの制度のポイントは、対象者が高齢者限定だってことでしょう。
百歩譲って貧困層を救わなくてはいけない理屈は認めるとしても、それが高齢者限定ってのはいくらなんでもおかしいです。助けるのなら、まずは小さな子供からにするべきでしょう。
今の時代は、既に超・高齢社会に突入していて高齢者層の人口割合が大変に大きいです。だから高齢者を優遇すれば、選挙で有利になります。高齢者向け給付金の対象者は低所得者だけですが、このような制度を実施すれば「自民党は高齢者のことを考えてくれている」という心象を高齢者全体に与えることができるはずです(このように、選挙で勝ちたいが為に、政治家が高齢者優遇政策を実行する傾向にある民主主義を、シルバー民主主義といいます)。
ただし、この理屈だけで、自民党がこの制度を実施した理由は説明できないとも僕は思っています。
政治家の立場になって考えてみてください。限られた予算内で、選挙対策を実施しようと思ったのなら、より効果的な対象を選ぶでしょう。そして、選挙対策でより効果的な対象といったら、「選挙投票に行ってくれる人」しか考えられません。
ここで各年代の選挙投票率を見てみましょうか。
ざっくりといきますが、2014年12月の衆議院選選挙では、現役世代の投票率が大体30%~50%くらいなのに対し、高齢者世代の投票率は70%前後にもなります。最も投票率が低い20~24歳と、最も投票率が高い70~74歳の差は、実に42.44ポイントにもなり、しかもここ最近の現役世代の投票率の減少は顕著だということです。
もしもあなたが政治家で、選挙対策を打とうと思ったのなら、当然ですが、投票率の高い高齢者世代をターゲットにするでしょう?
僕はずっと前から、「政治家は投票してくれる人の為に政策を実行する」と主張してきました。だから仮に投票する人がいなくても、選挙投票には行くべきだと。じゃないと、政治家達は投票率の低い世代を蔑ろにします。そして、それが若い世代だったなら、日本の将来は悲惨なものになります。“高齢者向け給付金”の実施は、それが正しいと分かる典型的なケースでしょう。選挙に勝ちたい政治家達は、実際に投票率の低い現役世代を切ってしまったんです(一応、断っておきますが、高齢者向け給付金以外にも“現役世代切り”と思える制度は存在しています)。
先に述べた通り、自民党安倍政権は出産育児支援に消極的です。昨今、有名になった“保育園不足”問題はその一つで、口には絶対に出さないでしょうが、この問題を放置する裏には「投票率も人口割合も低い現役世代の主張なんて無視しても選挙には勝てる」という本音があるはずです。
要するに、もしも現役世代が、保育園不足等の現役世代にとっての問題を国に改善して欲しかったのなら、「選挙投票に行かなくてはならない」という事です。
余談です。
認知症を患っている高齢者にも当然投票権があります。これについての是非はここでは述べませんが、これを良い事に、その患者達に投票の練習をさせ、バスで送り迎えして自派の候補者の名前を書かせるなんてことをやっている一部の政治グループがいるらしいんです。
この話は辛坊治朗さんの著作「ニッポンのアホを叱る 光文社」に載っていたもので、ネットで検索して調べてみても他の情報を見つけられなかったので、真偽のほどは分からないのですが、もしも本当なら大問題です。広い意味では、これは組織票でもあるでしょう。
投票率が低いと、組織票を持つ政党が有利になりますが、(この話が正しかったとして)似たような不正を少しでも改善する意味でも、現役世代は選挙投票に行くべきだと僕は主張します。
一応、公平を期す為に断っておきます。現在の与党は自民党なので、自民党が投票率の高い高齢者世代を優遇している政策を例に出しましたが、他の政党でも事情は似たようなもんです。民主党政権時代にだって「選挙の為の政治」という趣旨の批判がありました。
今回の理屈では、政党は関係ありません。投票に行きさえすれば、それだけで効果があります。
各政党の掲げる政策を判断した上で、各自の判断で投票してください。
最後に、「政治家達も現役世代の投票率が高くなることを実は望んでいるのかもしれない」という話をします。
消費税を上げる前は、その判断が正しいかどうか猛烈な議論になって大騒ぎしますよね。ところが、何故か同じ様に税率を上げているのに所得税や(名目上は税じゃないですが)年金保険料の場合は、それほど騒がれません。
もちろん、これは消費税が非常に目立つというのも大きな要因にはなっていると思います。商品の価格設定はもちろんですが、消費税の税率アップにはそれに伴う様々な業務が発生します。僕はプログラマなんてものを生業にしているのですが、消費税が増えると税率アップや新たな勘定コードのマスタ設定、テストの実施等とそれなりに仕事量が増えちゃいます。そういう意味でも、できれば止めて欲しい……
と、話題がちょっと逸れちゃいましたが、とにかくだからこそ注目を集めるのは分かるのです。しかし、ですが、それにしたってちょっとこの差はどうかと思うんです。
更に不思議な点があります。消費税じゃなくて所得税や年金保険料のアップならそれほど騒がれないのならば、政治家の皆さんはそれをやれば良いとは思いませんか? 批判を受けるリスクを冒してまで、消費税を上げる理由が分かりません。何故、消費税を上げる事に拘るのでしょう?
話を少し変えます。これはネットで随分前に偶々見かけたのですが、消費税アップに強固に反対している高齢者団体がありました。僕はさらっとしかそのページを見なかったのですが、現役世代の所得税や年金保険料アップには反対していなかったと記憶しています。では、どうしてこの高齢者団体は消費税アップにだけは反対をするのでしょうか?
まぁ、理由は単純だと思います。
消費税は所得税や年金保険料と違って、高齢者も負担するからでしょう。よく消費税アップは「社会保障制度の維持の為」なんて説明をされていますが、早い話が消費税アップは、実質的には年金支給額の減額なんですね。もちろん、年金支給を直に減らすのとは違って、消費税はお金を使わなければ支払いませんからそういう意味では違いますし、消費税は低所得者層に優しくない税制だって点にも注意をするべきですが。
このまま現役世代の負担を増やし続けていたら、下手したら社会全体が沈みます(知っていますか? 現役世代の年金保険料は遠慮なくずんちゃか上げているのに比べれば、高齢者への年金支給減額は緩やかなんです)。それを防ぐ為には、年金支給額を減らさなくちゃいけないって現実を政治家だって確りと認識しているのだと思います。だからこそ、政治家は所得税や年金保険料のアップではなく、消費税に拘るのでしょう。
という事はですね。
そもそも消費税アップなんかしなくても、年金支給額をそのまま減らしちゃえばそれで済む話なのじゃないでしょうか? 誰でもそう考えると思いますが、実際、消費税の延期を発表した安倍総理は、そういった趣旨の発言をしています。
社会保障費を減らすってのは、選挙にとってマイナスですから(民進党は赤字国債で賄うべきと言っています)、そういう意味ではこの発言は評価できるでしょう。ただ、もし仮に自民党政権が行った年金資金の株価運用失敗の莫大な損失を誤魔化す為に言っているのだったら呆れてしまいますが。
自民党政権は、アベノミクスの効果により、国地方合せて(消費税増税分を除いて)12兆円の税収増があったと主張していますが(因みに、消費税以外にも増税は行われているので、本当はもっと減らさなくちゃいけないと思います)、それはリーマンショックや東日本大震災によって税収が大きく落ち込んだ2012年度との比較に過ぎず、それ以前の年の税収と比べるとむしろ減っているそうです。
つまり、国の財政は明るい兆しが見えているとは言い難い状況なんです。
ところがです。
先に高齢者へ支払われる一年間の年金支給額は56兆円だと述べましたが(これだけで国家予算規模の数字です)、仮にこれを40兆円にまで抑えられたなら、一気に日本の財政問題は改善するんです。ざっくりとした数字に過ぎませんが、例えば年金支給額の上限を15万円にして、更に企業年金にも課税したなら、状況はかなり良くなるはずです(因みに、年収が1千万円以上なんていうお金持ちの高齢者達にも年金は支給されていたりなんかします。払う必要なんてないと思うのですがね。著しい技術革新でも起きなければ、今の現役世代には年金暮らしなんて不可能だってことを考えると「勘弁してくれ」って気分になります)。
ですが、こんな事は、人口割合の多い高齢者層の投票率が高く、若い世代の投票率が低い今の現状では不可能です。ほぼ間違いなくそんな政策を実施する政党は選挙で大敗してしまうでしょう。
しかし、実際には不可能でも、本音では政治家達はこのような事をやりたがっているのだと思うのです。それで浮いた財源を、何に使うつもりかは分かりませんが(借金を抑制するのか、それとも軍事予算に当てたいのか。できれば出産育児支援にも回してもらいたいですが)、年金資金は喉から手が出るほど欲しいでしょう。これは与党も野党も同じはずなんです。
もちろん、その為には現役世代に投票してもらわなくてはいけませんから、政治家達もそれを願っているって事になります。
実際、選挙投票権が18歳に引き下げられていますがね。
何だか「高齢者批判」っぽい内容になってしまったので一応断っておきますが、もし仮に政治家達が「現役世代を犠牲にして、高齢者世代を助けます」なんて発言をしたら、ほとんどの高齢者はそんな政治家には投票しないだろうと思います。ちゃんと分かっている高齢者の方もいるみたいですが、だから将来世代に確りと投資をするってのは、ある意味では高齢者達の願いでもあるんです。
今回は、以上です。
余談ですが、自民党政権を支えているのは、『日本会議』という右翼団体らしいです(自民党以外にも影響力を持っているようですが)。
そして、今話題になっている『日本会議の研究 菅野完 扶桑社新書』という本によれば、この『日本会議』の正体は、宗教団体の連合体(しかも、いわゆるカルト系と目されているような宗教団体の名前が並んでいます)なんだとか。
もちろん、この本の内容が正しいとは限りません(僕は正しそうだと判断した訳ですが)。
ですがそれでも、自民党政権の評価に、この『日本会議』なる団体を信頼するかどうかが大きく関わってくる事だけは確実でしょう。
本を買って読めとは言いません。
ネットで検索すれば直ぐに調べられるので、投票に行く前に調べて、判断材料の一つにすることをお勧めします。