スーパーチートの異世界冒険劇
地味少年よわすぐる(名前)が特典をもらって異世界行くってさ
むかーしむかし、ある所に夜半卓という名の少年がおりました。
学校の成績は常に並み以下、運動はド下手、外見も残念賞という悲しみトップスリーを総なめにしている少年であり、日々鬱憤の貯まるつまらない生活を送っておった。
そんな卓少年がある日、自分の部屋の机でボーっとしていると突然窓の外が光り出し目も眩む閃光の中から1人の老人が現れました。白色のローブを纏いまるで仙人のような長い髭をその年老いた人物は自分を神様だと名乗り卓少年に向けて急にぺこぺこと頭を下げました。
「いやごめんな少年、ちょっと君の人生に関し手違いがあっての」
「は?」
突然の事に呆気に取られた卓くんでしたが、老人神は懇切丁寧に何度も謝りながら説明をします。曰く、君の人生設定を少し間違ってしまった。本来なら君はとても見目麗しく何事もそつなくこなす優秀な少年になるはずだったのに手違いで才能を失くしてしまったのだと。
長い説明を言われた後に卓少年は顔を真っ赤に染め上げ烈火の如く怒りながら神様を詰問します。なんでそんな間違いをしたんだ!ふざけんなよ!と…そう言って猛抗議を始めた彼でしたが、次に出てきた神様の一言にケロッと態度を変えてしまいます。
「すまぬ、代わりにと言ってはなんだがのお前さんをどこか別の世界へと送ってやろう。何でも望むままにいってよいぞ、次の世界では願う通りの生活を送らせてやろう」
「なにぃぃいい!」
…少年の喰い付きはちょっとやばい程でした。眩しく光る神様の両肩をむんずと掴み取り乱暴に前後に揺らしながら何度も声を上げます。
「マジかマジかマジかマジかマジか!本当か!」
「あ、う、おお、ああ!」
揺すられながらも若干引き気味に神様が頷いてみせたのを確認すると少年はパッと両手離しそのまま天を仰ぐようなポーズを取って窓の外を見上げました。
「ああ、ありがとう神様!ついにっ!ついに俺にも幸福がやってきた!」
「ああ、いや…少年?神様はこっちじゃからな。そんな空の上とかじゃなくて、ほらお前の目の前に…」
「じゃあじゃあじゃあじゃあ!」
眩しい神様の何か言い掛けた言葉を遮って俄然元気を取り戻した少年は喜びと共に声を上げます。
「超絶チートが欲しい!もう他人なんて目じゃない最強クラスのチートが!それに魔法!魔法だよ!異世界行くっていったら魔法なんだよ!火風土雷水氷光闇、全部の魔法を使えるようになりたい!あ、あと覚えるのはめんどくさいとかナシな全て最初から使える様に。今俺がやってるRPGゲームの設定そのままでいいからさ。そ・れ・とっ!忘れるなよ女の子だ、もう全員美形の女の子しかいない世界に送れ!もちろん俺の魅了はマックス!出会う女の子が女の子皆俺に惚れるんだよ!それに…あと魔王!俺に比べたら超よわっちくていいや何でもいいから敵役をちゃんと用意しろ、盛り上がらないんだそういうのないと!それから痛いのはナシ、HPもMPも無限、絶対死なないようにして最強装備も全部最初からだ漏れもなし…あとそれと俺の顔は超美形な」
「お、おう」
何という事でしょう。余りに欲望一直線な少年の願いが口を突いて駄々漏れに零れますがそこはさすがは懐の広い神様。ちょっとの躊躇う様子もなく全て少年の言う通りにすると約束して笑顔を浮かべます。
「ようしよしよし分かったぞ、全て願った通りに究極最強の勇者にしてやろう」
「いよっしゃあああ!」
卓少年はその場で大きくガッツポーズをし神様はそんな彼へと向かって静かに腕を伸ばすと何事か呟き出しました。
「…アズ…エルスアズ…ジ…アラトハルブビカ…」
「?」
神様の喋るその言葉はとても長く全く聞き慣れない言語でありましたが次第に音を聞いていると少年の意識は遠のき出し
「…ぁ」
最後には顔を下ろしていつの間にか眠ってしまいました。
「………ハッ!」
急に意識が覚醒し少年が次に瞼を開いた時、目の前には全く見覚えのない光景が広がっていました。
目に写った景色はまるで物語の中から切り出した中世の王国らしき町の中。足元には整然とした石畳が並び、背後からは感じる砕けた水の飛沫…どうやらどこかの広場の噴水の縁に腰掛けているようで、未だハッキリしない頭でぼんやりと周囲を見渡した瞬間、彼の頭は沸騰したかのように目は冴え渡りました。
「おお!」
右を見て女の子。
左を見ても女の子。
前を見ても当然女の子。
短い白い羽根を生やし空を舞ってる女の子。
それも目に写る女性全てが現実ではお目に掛かった事もないような美女美少女美熟女美幼女の群れ、群れ、群れ。
…どうやら彼の願った条件は叶えてもらえていたようです。胸底から湧き上がってくる興奮に、何もしてないというのに何故か熱くとろけた視線を送ってくる女性達。
声にしても仕切れないような大きな喜びに彼は噴水から立ち上がり空へと向かって大きく腕を突き上げました。
「いいやったあああああああ!」
この時。
大きく腕を振り上げて立ち上がった彼の指先が、完全に伸びきるのまでに要した時間は実に0.0000584秒、一万分の1s単位で振り上げた速度は時速換算にして614988[k/h]。マッハ50.2。
ピカッと一瞬に輝いて見えたと思った瞬間、音速の壁を余裕で突き破る衝撃波が古き良き街並みを蹂躙し石造りの家も壁も吹き飛んで消え去り半径5㎞以内の人間はもれなく失神以上死亡以下に。空気抵抗との摩擦によって発生した熱は15万度を越えてプラズマ化を果たし周囲の物質と言う物質は無音の光に包まれながら微小単位まで解体されました。それでも何故か平気で立ち上がっている彼の足元から落ちる負荷はおよそ8[MJ]、TNT爆薬2kg分が連鎖爆発を繰り返し起こす衝撃が大地を襲い地面は揺れる。
「…は」
小刻みに動く地表に刺激され彼方の山々も微動を繰り返す、危険を察知した野生の鳥達は我先にと一斉に飛び立ち出し、周囲に何も無くなった空間の中、卓少年は呆然としながら腕を振るいます。
「え、何」
再び輝く閃光。発生する衝撃波。僅かに残った街並みはその勢いで宙を舞い、うら若き女性のスカートの中まで覗き放題、数秒待てば臓物の内まで覗き放題である。
「ちょ、なんだこれ!なんだこれ!」
二次災害三次災害を誘発しながら混乱する彼は、神様に願った条件を思い出しうろ覚えの操作で指先を動かします。
「そうだよ!ゲームの設定を使ってるっていうなら表示が…『ステータス』!」
叫ぶ彼の呼び声に合わせ目の前に白縁黒面のウインドウが浮かび上がりそれと同時に頭上に表示されるのは恐らくHPとMPを意味する赤と青の長いバー……長いというか、長すぎるというか。目の前の始点を出発点に半透明の状態で伸びる棒は崩れ落ちる街を貫通し遥か彼方の地平へと消えて行き、それでも収まり切らないのか遠近感を狂わしかねない残滓を残して空の彼方の明後日の方向へと伸びて行く。
「……」
…見なかった事にする。
「そ!それよりステータス!ステータスだよな!」
気を取り直し目の前のウインドウへと視線を戻すと目の前には実にゲームらしい簡易なパラメータ表示が並び、数値を示している。
夜半卓
ちから99[Y]
まもり99[Y]
すばやさ99[Y]
かしこさ99[Y]
「……」
…元より学力が足りず一般的な数学知識の追い付かない彼に代わって説明をしよう。[Y]とはすなわちヨタ(yotta)である、数式にして10の24乗。更に分かりやすく言うならば1兆の1兆倍。見やすく数字換算したとすればつまり『ちから99000000000000000000000000』である。
まだピンと来ない?それが正常です。
「…ハ!?」
一瞬意識を失い掛けた少年に突然閃きが走り思い直した様子でウインドウを操作する。
「そうだよ!ファンタジー世界だっていうなら魔法だ!魔法で全部解決するじゃないか」
ウインドウを操作、いくつもの項目の中から目的の場所を探し使用魔法を選択する。大きな窓枠にずらっと並んだ魔法の列に少し目が痛くなったがそれでも目標の魔法を何とか見つけ出すと指で操作する。
光属性治癒魔法『ヒーリングゴッドブレス』―神の恩恵を授かった暖かな光が降り注ぎPTメンバー体力を全回復させる―である。
「これなら!」
急ぎ選択する。
…ちなみに元のゲーム設定であったとして微粒子単位でバラバラになった街並みを元に戻せるような魔法ではなかったがそこは夢溢れるファンタジー世界である。少年は今正しく神にも縋る思いで魔法を詠唱する。
「全部元通りになれ…なってくれ!『ヒーーーリングゴッドブレーーース』!」
詠唱の終了と同時に突如見上げる空の中に美しい光球が現れた。太陽の輝きにも匹敵する様な暖かな光、無音の慈悲ある光線が街全体を覆い尽くして…熱力学的にも正に太陽に匹敵する類似コロナ5000000Kの輝きである。通常の人間の可視領域である380~750nmを大きく越えてオゾン層の防護的役割も意味を成さない無上の光が世界を包み込んだ。
「…」
…やがて完全に光りが消え去り後に残ったのはガラス状になった大地とそこに存在したであろう何かの影だけであった。
今、戦いの火ぶたは切って落とされる!
これは完全チートを願った少年と世に仇なす憎き魔王。そしてそんな彼の転生を受け入れる形となった世界がしっかりとした機能を残して存続するかという壮絶なバトルの始まりなのである。
めでたし!
エイプリルフールってことでなんか変なの書こうとしたら出来上がりました。
計算式や内容はすっごい適当!信じないでね!
塩とのお約束だ!