『怪人と戦っている』人がいる。
静寂が埋め尽くす、明かりのない薄暗い室内。
雪がちらつき始めているせいか、窓の外から入りこむ明かりは、
夜なのに、いつもより少しだけ明るい。
パイプ椅子に座った男は黙ったまま、同じく黙している白衣の男を見つめ、
右手には鋭いナイフ。
「クリスマス、近くなってきましたねぇ」
白衣の男が外を見た。その瞳は相変わらずに据わっていて、動揺が見えない。
「なんの話ですか」
「いや」
白衣の男が、視線をパイプ椅子の男に戻す。
「君が誰だかわかったんですよ」
「そうですか。それなら、話が早い」
パイプ椅子の男が深く息を吐いた。俯いたままに視線を上げる。
「サンタクロースでしょう?」
「ふざけてるんですか?」
パイプ椅子の男がそういうと、白衣の男、ポケットから一枚の写真を取り出した。
「娘と映っている写真、見つけたんですよ。生きている時、娘は誰かを私に会わせたがっていた。彼氏だってわかった。きっとその男性と、結婚するんだ。そう思った。でも、娘が死んでしまい、彼に会うこともなくなってしまった。葬式もあげてやることが出来なかったから・・」
「できるわけないですよね!」パイプ椅子の男が立ち上がり、白衣の男が座るデスクの前、勢いよく迫った。
「あなたが殺したんですからね!」
パイプ椅子の男は、デスクの上に置かれた写真を見る。
二年前、彼女の笑顔。その横でサンタクロースの姿をした自分。
「娘の好きだった本に、挟んでありました。『至るところで、恋~just forever~』どんな本か読んだ事はないけれど、とても幸せな気持ちになるらしいですね」
パイプ椅子の男が、ナイフを握る手に力を込め、震えている。
デスクを叩く。激しい震動でデスクランプが揺れる。
「殺したんでしょう・・?」
パイプ椅子の男が瞳を充血させ、白衣の男を見る。
白衣の男はその様子をじっと眺めた後、おもむろに口を開いた。
「殺しました・・・・」
「あんた!!」激しい怒鳴り声。
「自分の娘を殺すなんて、あんた人でなしだ!」
「人でなし・・」
「そうだ!人でなしだ!俺はあんたを探し続けた。見つけたら殺してやる。そう思って」
白衣の男が椅子から腰を上げ、立ち上がる。
二人が同じくらいの高さで見つめあい、やがて白衣の男が言った。
「何故、私をすぐに殺さなかったんだい?」
パイプ椅子の男が黙っている。白衣の男が続ける。
「君は、娘がどうなったのかも、知っているんだね」
パイプ椅子の男が外に目を向け、直ぐに視線を戻した。
「知ってるよ。立花から話を聞いた。あんたと、そして彼女と一緒に働いていた立花からだ。あんたが自分の娘を殺したとも聞いた。彼女が変わってしまったから殺したのか?なぁ、そうなのか?」
「立花くん・・彼も・・殺されたね」
「答えろ!」
とパイプ椅子の男が叫んだ。
「あんたを直ぐに殺さなかったのは、何故、あんたが彼女を殺したのか、それをちゃんとあんたの口から知りたかったからだ。そして・・・」
「そして?」
「今も!」
パイプ椅子の男がデスクの上、写真に一滴の涙を零した。涙が静かに広がっていく。
「あんたも知っているだろ?さっきニュースでやっていた。これがもう一つの理由だ」
静かに降り続く雪。何一つ知らぬ様子で降っている雪が、残酷な時の流れを表している。
「今も、何処かで」
『怪人と戦っている』人がいる。
「ファ〇キュー!」
マシンガンを連射する。私の鍛えられた筋肉が振動する。
「くたばれ!変態野郎!」
更に連射する。私のむき出しの股間がぶるぶると震えている。
私が何故、素っ裸で銃を連射しているのか。
それは、ほんの数時間前に遡る。
ホテルが燃えている。そう連絡を受け、私は現場に向かう車の中にいた。
爆発があったようだ。どれくらいの死者が出ただろう。生存者は今のところ確認されていないらしい。
「爆発なんて、テロですかね」
と相棒のブラッドが言った。彼はイケメン新米刑事で、私の相棒になってから一カ月程。
綺麗な奥さんと、可愛い娘。一度、食事に招待されて家にいった時、奥さんと顔を合わせた。
本当、綺麗な奥さんで、うらやましかった。だから私は、この相棒が嫌いだ。
そんな理由で、私は彼の言葉を無視した。
「ねぇ、テロですかね」
「知らねぇよ」
「じゃあ、ペロですかね」
「なんだよそれ」
なんだペロって。てめぇ、綺麗な奥さんがいやがって。俺なんか、四十で独り身。もう、孤独を決め込んで長いというのに。
私は殴りたい気持を抑え、景色に目を映した。
もうすぐやってくるクリスマスに向けて、街のあちこちがイルミネーションで彩られている。
そのせいか、ショーウィンドウの明かりや、車のヘッドライト、そしてネオンサインまでが、クリスマスに溶け込んで見えてくる。
あぁ、女が欲しい。
手をつなぐカップルの姿がちらほら。
本当、この世界なんて滅びてしまえばいいんだ。それか、男なんて、私一人になってしまえばいいんだ。
そう思って、我に返る。
そうだ、首を吊ろう。
「あっ!」ブラッドの声が聞こえ、そちらを向く。
刹那、車が急ブレーキをかけた。
ドン!衝突音。前方の車、トランクに思いっきりぶつかりやがった。
「馬鹿野郎!刑事が衝突事故を起こしてどうする!やめちまえ」」
本当、やめてください。お前みたいなイケメン、本当、嫌いなんです。
「先輩!」
そう言ったブラッドの視線を追う。街を行きかっていた人々が皆、同じ方向に向かって走っているのが見えた。
「なんだ?」私がそう言ったが早いか、ブラッドが車を降りた。
と、その瞬間だった。
何かが降ってきた。たくさんの何かが、車に突き刺さる。
私は咄嗟にシートベルトをはずし、助手席の下にもぐりこんだ。
「うげぇ!」という叫び声。そちらを見る。ブラッドの体に矢がいくつも刺さり、そして倒れていく。
「キャー!」とか「ヘルプー!」とか声が聞こえてくる中、私はずっと助手席の下に隠れ、神に祈り続けた。
「まだ、死にたくない。まだ、死にたくない」
情けないから、本当、首を吊ろう。そんな事を考えながら祈っている自分に、矛盾を感じてはいたが、人間なんて矛盾する生き物だ。
私は自分を正当化するのが、誰よりも得意な人間だ。それを改めて自覚した。
ふと、開いた扉の向こう、何者かが走り去っていくのが見えた。
その何者かは、全裸で、般若の面を被り、弓矢を手にしていた。
「変態・・」私は呟いていた。
何人もの変態が走り去っていく。そして、矢の嵐はおさまった。
私はゆっくりと助手席の下から体を出し、辺りの様子をうかがった後、車から降りた。
外では倒れた人々、悲鳴を上げる人々、泣き続ける子供。
カオスがそこにあった。
「なんだ、一体・・」
私は立ち止ったままに辺りを見回す。そして、何事もなかったかのようにポーズしたマネキンが立つ、ショーウィンドウの前、矢がお腹に刺さったままに助けを求めている女性を確認し、近寄っていった。
「大丈夫か?」
とても綺麗な女性だ。私は屈み込み、彼女と視線を合わせる。
「何があった?」
女性が私の顔を見つめる。そして、苦しそうな表情で言った。
「全裸の怪人が・・たくさん・・弓矢を討ってきて・・」
「もう何も言うな」
「いや、あんたが聞いたんでしょう?」
「そうだね」私は何度も頷いた。
「ねぇ、あなた」と彼女。
「なんだい?」と私。あちらこちらからうめき声。私と同様に生きていた人間達が、電話を掛けたり、負傷者を宥めたり。
「あなた、神様なんですか?」
女性が息絶えようとしているのがわかった。もう、確実に死んでいく。
私は静かに言った。
「そうだよ。ブッダ様だよ」
そう言うと、女性が最後の力を振り絞り、私に体を預けた。
そして耳元で呟く。
「ブッダ様、私、お願いがあるんです」
「なんだい?」
「私、ブッダ様のお顔、とてもタイプなんです。生まれ変わる事は望みません。私をブッダ様のもとにおいてくれませんか?」
体中の血液が、ふつふつと煮えたぎってくるのを感じた。怒りで言葉が出ない。
「なんだって!・・・」こんなに可愛い女性が・・俺の顔が好きだって・・。
「ブッダ様・・あいし・・て・・る」
折角私の事を好きだと言ってくれた女性。しかもこんなに可愛い女性。
変態野郎ども!彼女を殺しやがってぇぇぇ!!。
許せねぇぇぇぇぇ!!
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」私は雄たけびを上げた。
私は彼女の狭い額にキスをして、変態野郎どもが走り去った方角へ、一目散に駆けて行った。
途中、「助けてくれ」とか、「救急車を呼んでくれ」とか聞こえたが、そんなものは聞こえなかった事にしてやった。
そんなことよりも、あの変態野郎どもをぶっ殺したい。その一心。
かなり進んでいったところで、警察が集まっているのが見えた。
クリスマスに彩られた街、高いビルとビルの間、パトランプを点けた警察の車が数台。拳銃を撃ち、交戦している。
弓矢を撃つ般若の面を被った全裸野郎が数人。そいつらは、凄まじい跳躍で銃弾を交わしている。
驚く事に、空中に留まる事も出来るようだった。
そして、透明にもなれる。
私は車の扉に隠れながら、無線で連絡を取っている警察官の元に近づいた。
「もっと応援が必要です!般若の面を被った透明人間達に苦戦しています!」
「おい!」私は彼に言った。
「あいつら一体何者だ!」
若い警察官は、私の存在に気付いた。
「わかりません!あなたは?」
「俺は、刑事だ」
私は手帳を取り出し、彼に見せた。
「助けてください!あいつら、あんな破廉恥な姿で・・」
弓矢が飛んできて、私達の隠れている扉、窓ガラスをぶちやぶった。
「ちきしょう!あいつら」
近くで人間の呻き声が聞こえた。見ると警察官がやられている。
「拳銃だけでは歯が立たない!なにか武器はないか・・ちくしょう」
そう言った時、若い警察官が思い出したように言った。
「この車のトランクに、先程、やくざから押収した武器がたくさん載っています。こちらに来てください」
そして彼は立ち上がった。刹那、弓矢が彼の喉を突き破った。
「若い警察官!」私は叫んだ。名前がわからないから、そう言うしかなかった。
「ちくしょう!」私は倒れた若い警察官に近寄り、死んでいるのを確認すると、
彼を両手で抱え、彼を盾にする形でトランクまで向かった。
その間、死体になってしまったとは言え、若い警察官にはたくさんの弓矢が刺ささりました。
本当、申し訳ないと思っています。
私はトランクを開けると、中にマシンガンなどを見つけた。
そして素早くそれを持ち上げると、空中に向け、撃った。撃った。連射した。
「変態野郎どもぉぉぉぉぉ!!」
すると、透明になったところで、銃弾は当たる様子の変態野郎どもは、叩かれた蝿のように、地面に落下していく。
「はっはっは!貴様ら!貴様らに恥を教えてやる!」
そう言って私はしゃがみ込み、素早く服を脱いだ。
そして、全裸になった。
そう、何故全裸になったのか。それは、私が全裸になる事で、自分達がどんなに恥ずかしい格好をしていたかを思い知らせてやる為だった。
そう、理由なんていつも単純なものだ。
そして立ち上がり、トランクの中からマシンガンを二つ取り出し、両手でそれを持ち、撃った。
「どうだ!裸でマシンガンを連射だ!お前達だって似たようなものだ!恥ずかしいだろう?パンツ履きたくなっただろう!」
バババババババーン!
「ファ〇キュー!」
どれくらい撃ちつづけただろうか、たくさんの透明人間達を殺した。
そして、一匹の透明人間が、何処かへ逃げていくのが見えた。
「逃がすかぁ!!」
私は全裸で、両手にマシンガンを構え、透明人間を追った。
生き残った警察官達の拍手、そして、何故か笑い声。
その中を通り抜け、駆けていく。駆けていく。
「キャー変態」と、道端に座り込む女性の声。
「あぁ、あの変態野郎を、俺がぶっ殺してやる」そう言って笑顔を見せたら、目を背けられた。
きっと、勇敢な私の事を好きになってしまったに違いない。照れてしまったのだろう。
透明人間は、当然透明になってしまった。
だから、どっちに追いかけていいのかわからなくなってしまっていたが、
私は、刑事の勘で、ビルとビルの間、狭い通路を進んでいった。
多分こっちだ。
そして進んでいくと、小さな階段、そこの先、扉が半開きになっているのを見つけた。
多分、そこだ。
私はそこに入り、息を潜めた。
足音を立てないように歩いていく。まるで水中を歩くように、ゆっくりと。
「キャー」と女性の声が聞こえた。
「透明狩人・・」と男の声。
透明狩人?あいつ、そんな名前なのか。
薄暗い、倉庫のような部屋の中を歩いていく。
あちらこちらに木製の四角い箱が重ねられていて、何が入っているのだろう。わからない。
ただ、この箱の中に、あの透明狩人を入れて、地獄に送ってやる。私は目に力を込め、水の中から上がった太古の恐竜のように、雄たけびを上げた。
「透明狩人野郎!どこにいやがる!」
私は人間の声のした方向に走り始めた。
「見つけたぞ!変態野郎!」
重ねられた木製の箱の前、震えている女性。その前で、女性を守るように立っている男。そしてその前、むき出しの尻を向けて立っている変態野郎。
変態野郎がこちらを向いた。
私はニヤリと白い歯を見せ、持っていたマシンガンを向けた。
「二人とも、伏せろ!」
バババババババーン!
透明変態野郎が、蜂の巣になっていく。股間を揺らしながら、まるで踊るように。
背後の木製の箱から、中身が流れ出した。
赤ワインのようだった。
「お前が殺した人間達の血だ!呪いだよ!どこまでもお前を呪うぞ!そして・・」
私はそう言って、左手に持ったマシンガンを放り投げた。
ワインを浴びてびしょびしょになった二人が、伏せている。
「立て、立って、こちらに来い」
私は二人を手招きした。ゆっくりと立ち上がり、こちらに向かってくる二人。
「あんた」と男。
「あんた、俺達を殺す気なのか?そして、なんで裸なんだ?」
私はそんな言葉を無視した。
「あなた、私達に弾があたったらどうするつもりだったの?そして、なんで裸なの?」
私から目をそむけながら、女性が言った。
だけど、無視した。
感謝の言葉を言われるかと思ったが、そうではなかった。人間なんて助ける価値のない生き物なのかもしれない。
刑事という仕事をしていると、つくづくそう思う事が多い。
だが、私の顔を好きだと言ってくれた女性。あの女性の事を忘れない。
人間、捨てたもんじゃない。そう思わせてくれたあの女性。
私はゆっくりと歩き出し、透明変態野郎に近づいて行った。
そして倒れた透明変態野郎を見下ろし、般若の面に向かってマシンガンを向けた。
「これは」引き金を引く。
「俺と、俺の事を好きだと言ってくれた、あの女性の分だ!」
死体にマシンガンの弾を撃ち込む私の姿は、ブッダなどではない。
堕天使だったに違いない。
「なぁ、どうしてあいつを透明狩人と呼んだ」
私は男に尋ねた。
男は私に、着ていた上着を貸してくれた。私の大きな体には少し小さく、取りあえず腰に巻かせてもらった。
「ホラデターという男に聞いたんだ。般若の面を被った全裸の狩人。そいつに森で会ったと聞いた。同じ姿をしている」
「そのホラデターという男、今どこにいる?」
男は咳払いを一つすると、答えた。
「刑務所にいる。わいせつ罪だ」
「そうか・・その男も、あいつと同じ、変態か」
「あなたもよ」と女性の声。
無視した。
「しかし、ホラデターが会った透明狩人は、一人だと聞いた。なぜこんなにたくさんいるんだ・・」
私は何も答えず、倒れている透明狩人を見た。
「暗部・・ローラ・・」
「なんだそれは?」
私は男の顔を見た。
「暗部ローラ。そのレインコートの模様が、般若の面、額にあるのを確認しました。きっと、それが関わっているんだと思います」
「暗部ローラ・・」と女性。
「なんだ?知っているのか?」
女性が俯きながら、言葉を続ける。
「私をホテルで襲ってきたマイコーという男。暗部ローラという言葉を口にしていた。彼は暗部ローラの人間で、私を捕まえに来たと言っていました。この透明狩人達も、私を探して来たんでしょう」
「なんだって!?じゃあ、こいつらあんたを探しながら、たくさんの人々を無差別に殺し続けたというのか?」
女性は酷く顔を歪め、その場にしゃがみ込んだ。
泣きじゃくっている。沈黙が辺りを包む。どうしたらいいのか、なにもわからない。
ただ流れていく時間を見ているだけの息苦しさ。
「暗部ローラ」
その声で、私達は積まれた木製の箱、上の方を見た。
高級そうなスーツを纏った男が、手に缶を持って立っている。
「誰だ!」
私は叫んだ。瞬間、腰に巻きつけていた上着が、滑り落ちた。
「私は、ダブルオー処分。殺しのライセンスを持つ男だ」
変な奴がまた現れた。私はため息をつくと同時に、置いてあったマシンガンを持ち上げた。
「おいおい!そんな物騒なものは置いておけ!暗部ローラの事を知りたいんだろ?」
「何か知ってるのか?」
「知っている。その暗部ローラとは、『ローラ飲料水』の暗部だ。そこでは何か、よからぬ研究が行われているようだ。どうだ?私と一緒に、これから乗り込まないか?いや、一人で行くのが怖いんじゃない。そうじゃないぞ。ただ、一人より、二人。そう思っただけだ。そうだろ?一人で行くのは・・」
「わかった。お前が何者かよくわからないが、一緒に行こう。俺の名前は、グローブーだ」
「ちょっと待った。私も行く」男が言った。
「私はフリーのジャーナリストをやっています。名前は、ランスです」
「私も行くわ」
女性が涙で濡れた頬を拭い、立ち上がった。
「私はエマ。どうして自分が狙われているのか、それを知りたいの」
「よし、じゃあ、俺について来い!」
ダブルオー処分はそう言うと、積まれた箱の上からジャンプした。
そして地面に落下し、足をくじいた。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
と足を抑えながら喚くダブルオー処分。
「ちくしょぉぉぉぉ!足をくじいてしまったぜぇ!」
私達はその様子をじっと眺めていた。
何故、ダブルオー処分が足をくじかなくてはいけなかったのか。
それはきっと、ノリで登場人物をたくさん集合させたはいいが、今後、たくさんの人間を出演させなくてはならくなりそうだと危惧した作者が、ちょっと面倒くさいから、やっぱり一人くらい減らした方がいいかなと思ってやった事なんだと思う。
「よし!乗り込むぞ!」
私達三人は、喚くダブルオー処分を前に、深く頷いた。
「それが、理由?」白衣の男が言った。
「そうだ」とパイプ椅子の男。
「あんた、この病院に隠れて、何をしていた?」
パイプ椅子の男が静かに言葉を続ける。白衣の男を見据え、悲しみを湛えながら。
「研究、してたんじゃないのか?変わってしまった人々をもとに戻す為の研究を」
振り続けていた雪は、積もらずに消えていってしまっているのだろうか。それとも、見えなくていいものを隠すため、綺麗に降り積もっているのだろうか。
「研究・・していたよ・・」
「じゃあ!」とパイプ椅子の男が声を上げる。
「それは、完成したんですか?」
白衣の男は何も言わず、椅子に腰を下ろした。そして、窓の外に目を向け、おもむろに口を開いた。
「私は、娘を救う事が出来なかった」
パイプ椅子の男、白衣の男の言葉を、ただ待っている。
「私に、人々を救う事が出来るだろうか・・」
「完成したのか!?答えろ!!」
「なぁ、君」白衣の男がデスクに手を置いた。
「それを聞く前に、私の話を聞いてはくれないか?」
パイプ椅子の男は白衣の男を見つめたまま、黙っている。
そして何も言わず、後ろに下がり、椅子に腰を下ろした。
「あの時の話を、君に聞いて欲しいんだ」
静かな部屋に、小さな溜息。
白衣の男が、ゆっくりと瞳を閉じる。
降る雪のせいか、いつもより少しだけ明るい夜を、
遮るように。




