『命がけで、このどうしようもない世界を救っている』人がいる。
「この世界はどうなってしまうのでしょう?」
テレビで女性キャスターが、不安な表情を浮かべている。
「どうなってしまうのでしょうねぇ。破廉恥な姿で弓矢を射る、般若の面を被った超人達が出現してから三日、世間では『世界の終末が近い』などと騒いでいる人々がたくさんあらわれています」
七三分けの中年男性キャスターが、渋い顔で女性キャスターを見る。
「以前、小さな町でゾンビがあらわれたのも、記憶に残っています。ゾンビ達はその後、姿を消し、町の人々の多くも姿を消しました。あの時はアメリハの大統領が会見をしましたね」
「そうですね。あの時、アメリハのオママ大統領が会見をしましたね。その時オママ大統領はこういいました。『あれは映画の撮影だよ。ゾンビ?あり得ないだろ?消えた人々だって、ちゃんと生きている。撮影が長引いているんだ』」
女性キャスターが何度も頷いて、やがて口を開いた。
「世間は信じましたね。スタンリー・ムーブリック監督までグルになっていましたから」
「信じてしまいましたね。だって、スタンリー・ムーブリック監督まで出てきたら、信じてしまいますよね」と男性キャスターが続ける。
「しかし今回、オママ大統領が白状しましたね。たった一言、『あれは嘘でした。すみません』と。そして、世間はオママ大統領が火星に逃げていたという事に、大変驚きました」
「本当、びっくりしましたね。あいつ、死ねばいいんですよ」
女性キャスターが、苦虫を噛み潰したような表情で拳を握る。
「たくさんの人々が、街中で暴動を起こしています。宝石、食糧、燃料、その他何もかもにお金を払わず、奪う人々が溢れています」男性キャスターがそう言って、女性キャスターを見た。
「本当に怖いですね」と女性キャスター。
「えぇ」と男性キャスターが言った。刹那、男性キャスターの左手が、女性キャスターの胸に伸びた。
「きゃっ!」女性キャスターが驚いた表情で、男性キャスターの左手を払う。
「なにするんですか!!」
「いや」と男性キャスター。
「ずっと触りたいと思っていたんですよ。どうせ世界は終わるんだ。触っておかないと後悔する。そう思ったんです」
「貴様!!」女性キャスターが鬼の面に変わる。そして、女性キャスターが立ち上がり、男性キャスターの髪の毛を掴んだ。
すると、すっぽりと髪の毛が取れた。
「ずっとてめぇのカツラが気になってたんだよ!ほら、この禿げ野郎!」そう言って女性キャスターが、男性キャスターを殴る、殴る。
そして、放送は途切れた。
「よし!乗り込むぞ!」
そう言って、エマとグローブーとランスの三人は、暗部ローラの本部へと向かった。
ダブルオー処分は、足をくじいたせいで、病院へ向かってから後を追うという事になった。
三人は口には出さなかったが、「あいつなめてんのか?」という疑問を抱かずにはいられなかった。
暗部ローラの目的は何か。そして、暗部ローラは何故、エマを追っているのか。
そんな事ばかりが頭の中を駆け巡り、三人は終始落ち着かない様子。
溜息を吐いたり、貧乏ゆすりをしたり、酒を飲んだり、機内で映画を観たり、雑誌を読んだり、戯言を話したり、恋話をしたり。
盛り上がった。
そして暗部ローラのある国に辿り着き、まずしたのは、観光。
エマはマッサージや、エステ、岩盤浴に行った。ランスとグローブーは、もっぱら風俗。
すっきりした顔で暗部ローラに乗り込んだ三人は、受付で名前を名乗り、ひっそりとした場所にあるエレベーターへと案内された。
そして、即行で捕獲された。
「ちきしょう!」グローブーが叫んだ。
檻の中、コンクリートの壁に囲まれた四角い部屋には、便器が一つ。その他には何もない。
ランスが何も言わず、座り込んでいる。
「せっかくここまで辿り着いたというのに、何も出来ずこんな事になっちまった」
ランスがおもむろに口を開いた。
「エマは・・大丈夫だろうか・・・」
「わからない」グローブーが答える。
「わからないが・・無事でいてくれる事を願うばかりだ」
「ハッハッハッハ」と笑い声。檻の前、スーツを着た若い男が笑っている。
「何がおかしい!」とグローブー。
「本当、てめぇらは馬鹿だなぁと思ってな。我々が捕えようとしていたエマを、わざわざ連れてきてくれたなんて、本当、馬鹿だなぁ」
「うるせぇ!」ランスが立ち上がり、檻を掴んだ。
「ハッハッハ!最後にいい事を教えてやろう。エマは、聖なる涙の滴を飲んだ。彼女の体液は、ゾンビや裸の狩人達を元に戻す効力を持っている。何故そんなものを我々が必要とするか?疑問ではないか?」
「疑問だ!」とグローブー。
「知りたいか?」
「早く言え!」ランスが檻を揺さぶろうとする。しかし、檻はびくりともしない。
「どうしようかなぁ」男が口笛を吹く。「教えてほしいんなら、それなりの態度ってのがあるよなぁ」そう言って、ふにゃふにゃと踊りだした。
「てめぇ!」グローブーが険しい剣幕で言った。
「おい!ランス!」
そう言ってグローブーがランスの腕を掴んだ。そして顔を見つめ、ゆっくりと頷くと、二人、静かに足を折り、土下座した。
「すいません、まじで教えてください」
「そうだよ!その姿勢だよ!教えて欲しいんなら早くそれをやれよ」男が満足そうにそう言うと、話始める。
「我々暗部ローラは、人々をゾンビや裸の狩人、そして、その他の超人に変え、世間に放つ。そしてその後、エマの体液から作り出した『元に戻す薬』を世間に売り出す。金儲け、金儲け。凄い計画だろ?」
「エマの体液で、ゾンビ達が元の姿に戻れるのか?」
「そうだ、エマの体液を飲む事によって、ゾンビ達は元の姿に戻る事が出来る。何故ならエマは、聖なる涙の滴を飲んだからだ」
「なんてやつらだ」グローブーが土下座しながら拳を握る。
「ハッハッハ!まぁ、お前達はここで終わりだ。もうすぐこの檻の中に、毒ガスを流し込む事になっている。短い出会いだったが、君達の事は忘れない。本当、マジで馬鹿なやつらだった」
「ちっくしょう!」グローブーの叫び声が檻の中に響いた。
「ハッハッハッハ!」笑い声。二人が顔を上げる。
笑い声が、先程と同じものではない。
「お前!」ランスが叫んだ。
「うぐっ!」先程まで二人を馬鹿にしていた男が呻いた。その背後、見たことのある裸の男。
「ホラデター!」
男の背後で腕を回し、首を絞めているホラデターの姿。
「なんでここに!?」
「ハッハッハ!俺は透明になれるんだ。だから、俺がいた刑務所の檻を透明になって脱出してきたのさ。そして、暗部ローラにやってきたら、たまたまお前達がいた。ラッキーだったな、お前達」
「やったぜ!」ランスが立ち上がった。
倒れ込んでいく男。素っ裸のホラデターが、ドヤ顔をしている。
「なんだかよくわからないが、そこの変態、早くここから出してくれ」とグローブー。
「ハッハッハ!わかった。ちょっと待ってろ」そう言ってしゃがみ込み、倒れ込んだ男の衣服を探るホラデター。やがておもむろに立ち上がり、二人に言った。
「こいつ、鍵を持っていない」
本当、つかえねぇ男だ。二人は落胆し、首を落とした。
「なんて、嘘だよ~」と言って踊り出すホラデター。その手には、鍵の束。
「流石ホラデター!」ランスの表情に笑顔が宿る。
「流石だな!変態野郎!」グローブー。
ホラデターが踊る。そして、二人も踊る。
それは暫くの間続いていった。
「私はダブルオー処分、殺しのライセンスを持っている男です」
「あっ、そうですか。では私について来て下さい。地下へ案内致します」
「有難う」
若い受付の女性が立ち上がり、ダブルオー処分を先導する。
二人はボイラー室を抜け、薄暗い廊下へと入っていく。
そして、エレベーターの前に辿り着いた。
「では、こちらのエレベーターに乗って下さい」
「わかりました。だけど、何階に行けばいいんでしょう?」
ダブルオー処分がそう言うと、女性の表情が変わった。
「地獄に行けばいいんだよ!」
そう言うと女性がニヤリと笑い、「さぁ、やっちまいな」と叫んだ。
狭い廊下に通じるいくつかの扉から、ゾンビ達が飛び出してくる。
「なんだ貴様ら!」
ダブルオー処分が銃を構え、ゾンビ達に向かって撃ちまくる。
弾が女性に当たる。しかし、女性は頭に銃弾をくらったにも関わらず、まるで痛みを感じていないかのように立ちつくし、高らかに笑っている。
「ちきしょう!もう駄目だ!」
そう言った刹那、背後のエレベーター、扉が開いた。
そこからあらわれたのはグローブー達。
「しゃがめ!」グローブーの叫び声でしゃがみ込むダブルオー処分。
バババババババババババーン!!という銃声。
グローブーがマシンガンを両手に、連射する。
「はっはっは!死にやがれ!このマシンガンは、さっき地下で見つけたんだ!本当、ラッキーだったよ。マジで、あり得ないくらいにラッキーだ!」
グローブーが銃を乱射する。
「これはスクープだ!」そう言ってランスが、ゾンビ達にカメラを向ける。
「カメラも地下で見つけたんだ。マジでラッキーだぜ!この写真を世間にばら撒いてやる!お前達の悪事も、これで終わりだ!」
「あっ!」グローブーが叫んだ。
「どうした!?」しゃがみ込んだダブルオー処分が問いかける。
乱射が終わり、廊下には倒れたゾンビ達の山。しかし、次から次に姿をあらわすゾンビ達。
「弾がなくなった・・・・」グローブーが膝を折り、項垂れた。
「もう駄目だ・・・」
「なんてこった・・・」ランスが、カメラを持つ手を下ろす。
不穏な空気。そんな中、ホラデターが言った。
「みんな聞いてくれ」
何を聞いてほしいんだ?こんな状況で。皆がそう思った。
「俺は、やっと気がついたんだ。素っ裸で、ホラデターなんて名乗って、一体何をやっているんだろうって」
「ほんと、そうだよな」グローブーが言った。
お前も似たようなもんだったじゃないか。そう、ランスが思った。
「なぁ、俺は傭兵だったんだ。金さえ払ってもらえれば、どんな奴にだって雇われる。そんな傭兵だった。たくさんの悪事に加担したよ。そして今、思うんだ。世界を救いたい」
ホラデターが小さく笑った。
「皆!」ホラデターが叫ぶ。
「エレベーターに乗り込め!ここは俺がなんとかする!」
「何言ってんだよ!お前!」ダブルオー処分がそう言いながら、素早くエレベーターに乗り込んでいく。
「どうやってなんとかするんだよ!」とランス。素早くエレベーターに乗り込む。
「お前一人じゃ無理だ!」そう言ってグローブーも乗り込んだ。
「俺はさっきお前達を助けに行く時、この壁の向こうの部屋に、爆弾を保管してあるのを見つけたんだ。俺はここを爆破する。だからお前達は逃げろ。そして、別の通路を見つけて、世界を救うんだ」
「ホラデター!そんな事はやめろ!お前も一緒にエレベーターに乗り込むんだ!そして一緒に世界を救おう!」ダブルオー処分がそう言って、エレベーターの『閉じる』ボタンを押した。
エレベーターの扉が閉じていく。
「ホラデター早くしろ!早くエレベーターに乗り込むんだ!」
そう言ってグローブーが『地下11階』のボタンを押した。
「ホラデター!!!」ランスが尻を掻く。
エレベーターの扉が完全に閉じた。
残されたホラデターの眼前には、ゾロゾロとゾンビの群れ。
「皆、世界を頼んだぞ」ホラデターはニヤリと笑い、踊り出し、透明になった。
そしてエレベーターの中、爆発音が轟いた。激しく揺れるエレベーターの中、上を見つめる三人。
やがて揺れは収まり、三人は静かに目を瞑った。
「ここは何処なの!?」目を覚ましたエマ。自分がベッドの上に横たわり、手足を縛られているのに気がついた。
「誰かいるの!?」
首を動かし、周囲を確認する。医療系の機材が見える。
体を確認すると、どうやら自分は薄いピンクの入院服のようなものを着せられているようだ。
「気がついたかい?」
男の声に視線を向ける。
そこには、眼鏡を掛けた無精髭の中年男。白衣姿で、なんとなく嫌らしい顔をしている。
「私の名前は灰汁仁。暗部ローラの責任者だよ」
「私をどうするつもり!?」
「どうする?そうだなぁ、君の体液から薬を作り、怪人達に飲ませる。そうして元の人間に戻ったのを確認したら、その先は、金儲けをするつもりだよ」
「なんてやつなの!」手足を縛られながらも、必死でもがくエマ。
「無駄だよ!どうやっても君はそこから抜け出せない。君は我々の為になるしかないんだ」
「この小便野郎!」エマが唾を吐いた。その唾は灰汁まで届かず、地面に落下していく。
「さぁ、早速実験といこうか」
「待て!」別の男の声、灰汁とエマはそちらを向く。
「誰だ貴様は」灰汁が低く、威厳のある声で言った。
「俺は、心事輝だ。天査亥の娘、沙智子の恋人。聞いた事はあるだろう!?」
「ないよ」と灰汁。
「ないか!まぁ、なくてもいい!暗部ローラもここまでだ!何故なら俺が、お前を殺すからだ!」
そう言って、鈍い光りを放つナイフを、眼前にかかげる。
「私を殺す?そんな事が出来ると思うのかお前は?おい!みんな出て来い」
灰汁がそう言うと、とにかくいろんなところからゾンビがあらわれた。
とにかくいろんなところ。扉はもちろん、エマの横たわるベッドの下だったり、でっかい冷蔵庫みたいなところからだったり、あらゆるところ。あと、透明狩人は透明になってました。
四面楚歌の状態で立ち尽くす心事。
「こいつらは、我々暗部ローラの人間には攻撃しないようになっている。ここにいるエマにもね。操り人形達さ。チップが埋め込まれているんだ」
「そうなのか。わざわざ説明ありがとう」心事が灰汁を睨みつける。
「しかし、心事君と言ったね。ここまでどうやって来たんだい?地上は先程、何者かが爆破したみたいだが」
「どうやって来たか?イリュージョンだよ!」
「そうか、イリュージョンか」灰汁が納得した。そして言葉を続ける。
「しかしそのイリュージョンもここまでだ。もう君は囲まれているんだよ」
「見りゃわかるよ」心事が鋭い目つきで辺りを見渡す。
「じゃあ、天国で天査やその娘によろしくな!さようなら心事くん!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」叫んだのは心事だった。
心事がナイフを構えたままに走り出す。たくさんのゾンビ達が向かってくる。
そして心事に噛みつく、噛みつく、噛みつく。それでも心事は走る、走る、走る。
透明狩人が弓矢を射る。その弓矢が背中に刺さる。腕に刺さる。足に刺さる。
しかし、心事は灰汁に向かっていく。
「沙智子ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「なんだとぉ!!!」灰汁が驚きの表情を浮かべ、その場から逃げようする。
しかし、ゾンビ達が邪魔で逃げる事が出来ない。
やがて心事が灰汁の前に辿り着いた。そしてナイフを胸に突き付ける。
ぐさりと刺さるナイフ。灰汁の胸に吸い込まれるように入っていく。
「うあぁ」胸に刺さったナイフの柄を掴みながら、灰汁が後ずさりしていき、目を見開きながら言った。
「こんな事が・・あっていいのか・・・」
「あっていいんだよ」ゾンビ達の餌食になりながら、心事が言った。
「こんな事でもないと・・・何も信じられなくなっちまうような世の中だろ?」
灰汁が無念の表情を浮かべ、その場に倒れ込んでいく。
ドスン!という破壊音。天井が崩れ、大柄の男が降ってきた。
グローブーだ。
「なんてこった!天井を歩いていたら、天井が抜けてしまった!」
ゾンビを踏みつけた状態で、辺りを見回すグローブー。
「ちきしょうぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」そうしてゾンビを殴る、殴る、殴る、そして、蹴る!
噛みつかれるグローブー。
「ちきしょう!あとは頼んだぞ!ダブルオー処分!」
「無理だ!グローブー!」天井からダブルオー処分の声。
「グローブーさん!」エマが叫ぶ。
すると、穴の開いた天井から、冷たい水。
「雨?」エマが言った。
「いいや、俺の小便だ」とランスの声。
「なにやってのよ!馬鹿野郎!」エマが激昂した。
しかし小便は終わる事なく、天井の穴、角度を変えながら降り続いている。
「こいつら、エマの体液を飲むと元の姿に戻れるらしい。それはエマが聖なる涙の滴を飲んだから。そして俺は、エマの唾を飲んだ。つまり、俺も聖なる涙の滴を飲んだ人間って事になる。見てみろよ」
エマがゾンビ達を見る。小便を飲んだゾンビ達が、人間の姿に戻っていく。
小便が終わった。すると今度は天井からランスが顔を出し、唾を飛ばし始める。
上を向いて口を開いてばかりのゾンビ達。次々に人間の姿に戻っていく。
「ランス!よくやった!」グローブーが口を開き、ランスの唾を飲み込む。
そして、満身創痍の体で透明狩人に向かっていく。
「こいつらは、俺が引き受けた!」
バンバン!天井の点検口から顔を出し、銃を撃つダブルオー処分。
「透明狩人は俺達がやっつける!お前は唾を吐き続けろ!」
ランスが唾を吐き続ける。長い戦いは地道に続いていき、やがて全てのゾンビ達が人間に戻った。
透明狩人達は、ダブルオー処分の弾を受け死んだ者、グローブーの唾を飲んで元に戻った者。
戦いは終わった。
ダブルオー処分が、拘束されたエマを解放した。
「グローブー」血だらけで倒れ込んだグローブーのそばにしゃがみ込み、ランスが声を掛けた。
「終わったな・・・」
「あぁ、終わったよ」とランス。
「心事さん」エマが心事輝の方に駆け寄る。
「エマ・・・さん・・」
「心事さん、しっかりして」エマが息絶えていく心事を見下ろし、言った。
「あなたが誰なのか知らないけど、あなたのおかげで世界が救われたのよ。見て、みんな元の姿に戻った」
「よか・・った・・」
「心事・・さん・・って言うのか?あんた・・」グローブーが心事に言った。
「えぇ・・そうです・・」
「俺達、世界を救ったんだよ・・・すげぇよな・・」
「ねぇ!ここにいる皆!」エマが立ち上がって叫んだ。
「みんなを救う為に、ここにいる二人が命がけで戦ってくれたのよ!ねぇお願い!彼らふたりを決して、決して忘れないであげて!」
ざわつく人々。そしてその中の一人、男性が声を上げた。
「忘れねぇよ!有難う!」
次々に続く感謝の言葉。
そして誰か、女性の声が聞こえた。
「誰だか知らない私達の為に、命がけで戦ってくれたあなた達の事、絶対に忘れない!」
「俺も忘れないぞ!」「私も忘れない!」「絶対に忘れないから!」
「今も、何処かで」ランスが叫んだ。
皆、静まり返る。
「『命がけで、このどうしようもない世界を救っている』人がいる。その事を忘れちゃいけない。そして、その事を忘れない。いつか自分がその立場に立つときが来たら、やらなくちゃいけないんだ」
グローブーが目を閉じた。涙を流しながら、息絶えていく。
「俺は、それを世間に伝えていくよ」ランスがそう言うと、人々の同意の声。
沙智子の姿が見えた。
沙智子が手を伸ばす。
心事輝は満面の笑みを浮かべ、
そのか細く綺麗な掌を、
しっかりと掴んだ。
「そうなんですか、トレジャーハンターなんですか」
「そうなんですよ、私、トレジャーハンターなんですよ」
病院の病室で、男性二人がベッドに横たわりながら話をしている。
「で、あなたはどうしてここに?」
「私?私はパンドラの箱を探しに洞窟に入っていったんですよ」
「それで?パンドラの箱、見つけたんですか?」
「見つけましたよ。見つけたんですけど、パンドラの箱を開けたら、骸骨が出てきましてね。その骸骨、生きてるんですよ。まぁ、生きてるっていう表現はおかしいかもしれないですけど。その骸骨と格闘しましてね。それで、このざまですよ」
男が、包帯だらけの自分の体を見て、笑った。
「で、あなたは?」
「私は、車の屋根に乗っかったままに結構走りましてね。それで地面に吹っ飛んだり、運転していた女性に拳銃で撃たれたり」
「あぁ、なんかわかりませんが、大変でしたね」
「えぇ、大変でした」
二人の間に沈黙が流れる。やがて、トレジャーハンターの男が口を開いた。
「今も、何処かで」
「えっ?」もう一人の男。
「いや、きっとね、僕思うんですけど」
「はぁ」
「今も、何処かで」
『誰かが自分の事を探している』気がしませんか?
「しませんねぇ」




