act5(中編:接触「出会いと因縁(かんけい)」
今回も戦闘シーンと言うかトラブルシーンはありますが…今回こそ
出てきますよK安さんをICVにした人!そう言えば某漫画、最終巻も
発売しましたね!アニメでの主人公が上の人の声だったので、気合いを
入れて描写したいと思います!と言いつつ…
前・中・後と3編分割しました。子安の人は…今回セリフ終盤のみですw
何にしても楽しんでいってくれる事を!
◎:今回も残酷かつグロテスクな描写と15歳未満の方お断りの
描写が出てきます。苦手な方は今すぐページバックボタンを押す事を
推奨させて頂きます。
「え、えっと…元気出してヒビキちゃん。私背中洗って貰っただけだよ?
何かなんて間違っても無いから」
「…」
「ゼス君はいい子だよ?…ええと……」
「…」
「…何とか言ったらどうなんですかい?先輩」
「…君に言う言葉が見つからん」
「そう言う位ならさっきの男と女の関係とかって」
「「それはいらない(と思うよ」」
一応調子が戻ってきたのか声がはもった。エルゼスはわざと一歩下がり
二人の様子を眺める。先程よりは気落ちした雰囲気がゆるく伝わってくる。
(とりあえずはこれでいいか?)
そうエルゼスは納得する事にした。これから楽しい時間なのに一人気落ちし
気後れしたままでは仕方がない。何よりそれは一応とはいえセルアにも
影響を与えることになるのだと、ヒビキ自身も分かっているはずだ。
(みなまで言う必要はないよな。セルアを楽しませたいのはこの人だって
同じはずだ。俺はこの人と会った事すらさっきのが初めてだし)
一応初めの一言であれだけ言葉での連携ができたわけだが、エルゼスは
このヒビキと言う1つ上の少女をそこまで信用していない。先程ヒビキが
言ったのはセルアを裏切らないでやってくれ、という話でもあったからで。
それだけ彼女がセルアを思っているのは美しいともエルゼスは感じた。
(まあ、分かってはいたがな。あっちも隠すつもりはないんだろう)
この女性の立ち居振る舞いの小さな所々から、貴族としての気品をエルゼスは
感じていた。高貴な言葉と称したクズのような、理不尽を押し付けようと
してきた人物を思い出す。故郷フォルデロッサ。あの町の領主が持つ息子が
口にした言葉。肉だるまの様な体でエルゼスを指差し、バターをのせた丸い
脂肪のような顔をニタリと笑みで歪ませその男が言った言葉。
貴様はクズだ!生きてちゃいけない奴なんだ!僕の断罪を受けるがいい!
(クズは結局テメー自身だったがな。お前は俺の妹にまで乱暴しかけた結果、
無様に当てられ泣いたドチクショウのド低能は)
貴族は―セルアみたいな例外を除くが―基本的に嫌いで信用できない。
エルゼスの持論だった。しかして、そう思いながら目の前の光景を見る。
いつの間にか、というよりかは何故か外の商業区まで案内しようか?と仲の
良い相談話がみょうな方向へ向かっているをエルゼスはのんびり見ていた。
*
「…何か裏切る理由を1つ1つずつ、つぶされている気がする」
「ねえ、ゼス君。さっきから言ってるけど何それ?」
「セルアがこう言ってる以上、余り気にしないであげたらどうかな?これでも
彼女はお嬢様なんだから、生活用具買い揃えて貰った程度でそこまで大げさに
考えるべきではないだろう?」
場所は変わって、時刻は正午1歩手前の移住・商業区。エルゼスは自分の為に
セルアが買った日用用品の入っている買い物袋を持っていた。
あの後セルアがエルゼスに「そう言えば、ゼス君って制服以外の服は
持ってないの?」と言うのに目をそらした事でヒビキの鋭い人を見る目が
発揮されこう言われてしまう。
「もしや…その制服1着以外はまともな衣食住がないという事はあるまい?」
急きょ、エルゼスは何を持ってきたのか、ヒビキに半ばおどしに近い
言いくるめで聞き出されてしまった。当然、聞いた内容を。
「せめて、予備の服くらいは1着あって困らないだろう。他の文房具も君なら
余計無くなったら最後ではないか。…カギは魔法機械に精通した帝国央都では
絶対とは言えないよ」
そんなヒビキからの忠告も受け。結局学園案内は二の次で、少女2人の
ショッピングにエルゼスも付き合うことになった。結局の所2人が
あれはこれはと買っている中に自分は付いて行くのが精一杯、という
状態だったが。
「さて、寮へ戻る前にここらで一つ昼ご飯を調達するか」
ヒビキがそういった瞬間に、セルアが突如ヒビキの方を向き目を輝かせる。
普段の彼女からでも想像できない変わりっぷりにエルゼスは思わず
驚いてしまった。
「スウィー―!!!!!」
両手を神に祈るように組み合わせセルアの口から何かが叫び終える前に。
予めそうなることが分かっていたかのように、ヒビキが言葉で遮る。
「そろそろ冒険者の宿や酒場が一般食事所解放される時間だ。この辺りで
適当な場所を3人で選ぼうな」
目に危ない光をたたえてセルアが向いた先にいたヒビキの言い分に「えー」と
口をとがらせすねた顔をしたセルアを置いてエルゼスはヒビキに耳を
貸すよう言われたので傾ける。
「見て分かったとは思うがセルアは先程言おうとした甘い食べ物の
スウィーツと言うものが大好物で、目が無いんだ。…間違っても
買い過ぎないよう注意しといてくれ」
「あの目の光りようは危険だったな…分かった」
*
「うん?あの2人がどうしたって?レフィーア」
「たった今、学生寮前で彼女に絡んでいた所を治療院送りにされる目に
あったと報告がありました」
オレはレフィーアから意外な話を聞く。ロットとペールがいつも何かナニかを
やらかしているのは最早学園の生徒でさえ周知している内容だ。一応
義理立てしてやる口実は作ってやったが、そのうち痛い目を物理的に
受けるのでは?と思った矢先に見事に当たり内心笑ってしまった。
「はは、タカナシ生徒会長にでも手痛くやられたかな?彼女はあれで中々の
暴力沙汰に慣れた娘さんだしね」
「いえ、目撃情報から聞くに…足は砕かれた、と」
レフィーアは何故か顔に名状しがたいものを見たような言い方でオレに
報告する。何だ?一体、何をそれ程にいぶかしんでいる?オレは初め彼女が
そこまで複雑な表情をしている理由が分からなかった。
先輩である彼女を自分の人生で2度と無いほど自然体で口説き、心身共に
このオレの手中に収め―元々彼女がそうあるよう望んだ結果でこそあるが―
文字通り最高の補佐官としてオレの腕とした彼女だが…
(あの時と同じか…かつて彼女が「私ごときを呼ぶのに敬称を付けないで
下さい」と言われた際の心の小さなすれ違いと…)
それと同じ位、彼女の心の小さな揺れが見えなくなる。その際の行動も
オレ自身の中では確立していた。伊達に彼女を口説いたわけではない。
こう言う時は待つ。そう、彼女がそれを言う時間を与えるのだ。他にオレが
持つ【コレクション】が相手ならば、少し強引な行動も考えたろうが
彼女には、彼女にだけは違う。確かに彼女もオレの【コレクション】の
1つだが…レフィーアとジャクシール。この2人だけはオレの中では
特別だ。
少しの間、時間が経った結果。彼女は訥々と続きを告げる。それはオレにも
困惑を与えた。
「報告内容の詳細がロット様のアキレス健を防具ごと粉砕し、地面に
沈み込ませた…という、信じられないものなのです」
「…何かの魔法の使用か?しかし、それ程の威力を持つ魔力振動くらいなら
感知されてもおかしくない筈だが―」
成程、それは魔法でもない限り、おかしい話だ。仮にも彼ら、ロットと
ペールは性根が少し歪んでいても冒険者だ。朝から狩りにでも繰り出す
途中だろう武装した彼らを物理的に壊すのはオレの【コレクション】でも
難しい。そう言った要素から、ロットのアキレスけんを切り離したのは
少なからず強力な魔法がからんでくると考えるのが常識だ。しかし、
魔法とはただで起こせるものではない。魔法には少なからず魔力を使用者の
体内であれ体外であれ、使用されるのだ。
体内の他に大気中の魔力まで大量消費する魔法。それにより、魔力は
様々な場所や要素から消費された魔力を大気に補充しようと、間違いなく
動く筈だ。それを感知できないこの帝国の技術研究部や、ティスフィーブルと
組み合わせた最新鋭の軍備施設ではない。それに、オレがいる学園でそれ程の
魔力が使われれば気付くのは当然だ。それが示す所は―
「まさか―」
「はい…申し上げにくいのですが、それを行った者は予測ですが
【一切の魔力を使わず】ロット様のの足を砕いたものと思われます…」
「いくらなんでもそんな馬鹿な事が…当然ながら、それを行ったのは
セルアや生徒会長じゃないな?」
「はい…明日、セルア様と他でもないノレット様がいる特別待遇組へ
編入となる―」
そしてオレは知る。歯車が回りだす。最悪の方向へ。…もしかしたらそれは
既に回っていたのかもしれないが。
*
あたしは動物だった。どんな動物だったかはよく覚えていない。名前は
ネーペルリアにゾッテンフォルスという名前を付けて貰った。いとこだった
家系の名前を借りたと名前を貰ったレイアから聞いた。レイアはたくさん
あたしを愛してくれた。なでてなでてぎゅっとして気持ちよくてふわふわで
いいにおいでお菓子とか食べ物とかたくさんくれて。おふろも町に行くのも
外に出るのも寝る時までずっとずっといっしょ。レイアは色んな所を
あたしにみせてくれた。
知らない町にいっては知らないオスにはだかで抱き合ってアンアン言って、
また知らない町に言ってはオスに抱き合いアンアン言って。そうしながら
旅の金をかせいだり、抱き合ったオスからおどして金をせしめたり、家の
関係ごと壊したり。そういう事を楽しくやっていたレイアに付いて行く
ある日、レイアはあたしにこう言ってきた。
「1つ~大きな町にとどまる事になりそうなの~。ある人の下でね~長い間
お世話になるかもしれないけど~、リアちゃんはいいかしら~?」
あたしは首を横に振った。「やっぱりリアちゃん大好き~♪」と言って
馬車の中でぎゅっとしてなでなでしてくれた。多分、お世話になる人の
下でもレイアのこの香りや柔らかさ、温かさは変わらないと思った。
今日はお使いの日だった。あたしは今レイアを連れず、1人で買い物をしに
商業区の中央噴水広場近くを歩いている。今回レイアはあのノレットと言う
オス相手に朝からいつも通り裸同士で抱き合って、腰を振っていた。
あのオスは「レイアはこの状態だからな。ネーペルリア、これを1人で
買ってきてくれないか?」と買う場所と品が書かれたメモを渡された。
「あっ…んっ、あっ、アンッ、ハァッ…そんな、ノレット様殺生です~
そのような話はお待ちくだアヒィ!?アア、アッ、ンクッ…」
「そらそら、っと…フフ、やはり正解だったようだな。しまりがもっと
強くなったぞ、このまま―」
最後までノレットにつかまりながらも手を伸ばしていたレイアを見とどけ、
あたしはティスフィーブルを持ちえた見のこなしで壁などを歩いて
ぬけ出した。未開発の林を抜け、移住エリアをぬう様に通って、
商業エリアに向かう。人の社会で今日がこの国の休日なのもあって、
商業区は色んな人がもう開いた店に入っていったり、集まり話す場を
作っていたりと大きくにぎわっていた。念のため中央噴水広場の地図で
行く場所を【再度記憶し】、店探しから数時間…あたしは買い物を済ます。
…地図でも分かっていたけど、何でこんな一々商業区の端を回る事に
なっっちゃったのか。何にしても買えはした。
中身とメモを照らし合わせ、チェックが埋まったのを確認した時。嫌な声が
噴水をまたいだ向こう側から聞こえた。
「あれぇ、テルラスクさんじゃなぁい。何ぃ?また生徒会長と買い物…って
後ろのそれ何ぃ?それとぉ、いつもうざったいお友達の小鳥ちゃん達は
どうちたんでちゅかぁ?キャハハハハ☆」
あたしもこのメス―リルリラ・シェファーザは嫌いだった。あのまぬけな
何か遠まわしに誰でも分かっていることやごたくを並べてバカにするように
笑う。バカなのはどう考えても笑ってるあのメスなのに何が楽しいのか。
しかもすぐに小さなことで切れて、目に入ったムカつくものを片っぱしから
こわすいつ暴れてもおかしくないふざけたバケモノみたいなメスだから
余計にたちが悪い。大した強さも無いくせにあたしとレイアにまで
たてついた時すらあった。しめ殺そうとしたが、レイアに止められた。
その時から、こいつはあたし達にたてつかなくなったが。でも、今は…
レイアがいない。
レイアから貰ったぬいぐるみの腹部分から【武器】を取り出せるようにし、
会話しているセルアというメスとタカナシと言う人―この人は何故か人と
言わなきゃいけない温かい何かを感じた―に後ろにいる帽子を目深に被った
オスの様子をうかがう。
あたしに初めに気付いたのはタカナシ生徒会長だった。今度はあたしの方を
注視するけど、あたしはどうという事はない。今あの人達に対して何かする
という事もレイアから聞いてないし、向こうも今はこちらをどうこうする
場合でもないだろうから。そう思いながら―場の空気が固まってる。
新たに動いたのは誰よりも後ろにいたオスだった。メスとあの人の前に
出たかと思ったら誰もいないかのように通り過ぎる。リルリラが何言おうが
聞くそぶりすらせず、後ろの連れに来るよう促す。…血迷ったのかとしか
思えなかった。仮にもリルリラの暴力はあたし達だからこそさばく事が
可能なのであり、リルリラが装備しているものはノレットと言うオスから
貰ったものだ。一般人が無視すればあばらや、手か足くらい切られても
文句は言えない。それをあんな特別な頑丈さもない軍高の服で通り過ぎる
つもり…?当然、それを見とがめるようにリルリラが標的をオスに変える。
「あ?ちょっとぉ、そこのぉ。何無視しちゃってくれんのぉ?」
そこで初めて、リルリラをオスは見た。口を開き何か言おうとしたけど、
もれたのは結局ため息で。いぶかしげな顔になったリルリラに対し、
今度こそそのオスは言った。ハッキリとあたしの方―つまり周りにも
聞こえる声で。
「知らない。知らないし、知った事じゃない。どうでもいいし、アンタは
邪魔でうるさいだけだ。まぬけに構っている時間なんざ必要ない」
その言葉に、リルリラはあぜんとした後、こうしょうを上げた。
「キャッハハハハハッ!キャハハ…笑えた。いいよ、お前、笑えたよぉ。
でさぁ―うざくてムカツクんだよぉっ!!!」
そう言って帽子のオスにリルリラのこぶしが迫る。速さには自信が
あるらしく、なぐろうとしたリルリラの拳はあたしの目でも少しだけだが
かすんだ。ただ、それ以上にすごかったのは
ぼっ
リルリラの拳がなぐりぬかれる半ばでなぐろうとした腕の付いていた肩ごと
吹っ飛ばされ、文字通り噴水をこえて、私の座ってる場所まで飛んできた。
あのメスの口から人とは思えない悲鳴が上がる。今思ったけど、もしかしたら
あのメス、人じゃないかも。
「ぎゃぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!?」
ざまあ見ろという気持ちよりも、おどろいて思わず帽子のオスを見た。
オスはただ軽く手を振った程度と言う状態で手首をくるくる回している。
オスの目が帽子越しに見えた。リルリラをどのような感情で見下ろして
いるのかと思ったが、映っていたのは人の持つ感情の色じゃない。
無表情。ただ、自分のした事の結果をあるがままに傍観し、見ている。
そんな目。
「どうするつもりなんだ?」
生徒会長が、帽子のオスに聞いた。オスはあの人の方へ振り返った。が、
膝をつき、左手で右肩のあった場所を押さえたリルリラへすぐに視線を
戻しこう言った。
「弱いから。それ以上、他に必要ですかい?」
「君の行動は少なからず明日から始まる軍高での生活に影響するぞ。君の
クラスにいる問題児で、ノレットという男がいるが…これで君を無視する
可能性はもうなくなったろう。それに…」
生徒会長があたしの方を見るのにならい、オスの方もあたしの方を向く。
その覗いた目に―表現できない波にあたしは心をうばわれた。
目にはあたしが映っていた。あたし、紫髪のあたし。レイアから貰った
お気に入りの服を着ているあたし。あたしを映す目を映すあたしあたし
せかいみえないあたししか何これ―
「オィイ!!小娘ぇ!」
乱暴にほえたリルリラの声にあたしは我に返った。今見たものよりも
あたしが呆けてからどれくらいの時間がたった?と言う事に意識を戻す。
確認した広場の時計は―1分もたっていなかった。内心で舌打ちする。
よりにも寄ってリルリラに助けられた。しかもさっきから聞くにたえなく
今も私に向かってわんわんさけんでいる。
「小娘ぇ!あたいの腕ぇよこせ!そっち転がってるだろうがぁ!」
色々考えた結果。あたしはオスの横を通り過ぎる事にした。こんな所で
いつまでもいるよりは、早く学校に戻りレイアと美味しいご飯を食べたい。
どうやら、生徒会長さん達もこの場を立ち去るようだった。買い物は
しっかり済ませてある。今日のレイアから貰えるご褒美が楽しみだった。
*
中央噴水広場をはなれた後、今後の話を切り出したのはエルゼスだった。
「それで、この後どうする?」
「買った荷物を君の部屋に置いた後…軍備工築部の方でも覗きに行くかい?
先程聞いた通り軍高で嫌な奴とは、はちわせたくないのでな…」
「戻る時点で会っちゃう可能性はあるんだよね、イアシェ君に…」
そう言ってため息ついた2人に、エルゼスは少したずねる。
「さっきからチラホラ知らない単語が出てるんッスけど…」
「ノレットとかイアシェとかだろう?どちらも正真正銘の同一人物だよ…。
ノレット・イアシェ。君が編入する筈のクラスにいる問題児で、セルアの
イイナズケだ」
「イイナズケ?詳しくは知らねーけど親が決めた結婚相手、ですっけ…?
後、先輩がそれを何か変な単語みたいに言うってのは…?」
「ああ、先程起きていた事は当然として、君が私達を迎えに来た時の事にも
関わってきている。恐らく…今頃は彼の耳にも君の事が届いているかもな」
それに対し、やはりエルゼスは反応も示さず、学生寮を目指す。その反応に
ヒビキもエルゼスを見る目に不安さが宿る。ヒビキの目の前にいる少年は
結果と言う現実すら向き合わないつもりかと2人には錯覚させられる。
「ゼス君…」
セルアの呟きさえ届かないかのように男性寮側の入り口にエルゼスは
入っていく。2人の少女は見送るしかなかった。
エルゼスが男性寮の自室の方へ荷物を置きに行った後は何事も無く3人で
合流、軍事本部へ行くにはそう時間はかからなかった。思えば、それまで
トラブルに巻き込まれる事が普通になってしまうところではあったが。
軍事本部を見上げながらヒビキは説明を始める。
「先程の検問にも男女別があったが、分かる通り、軍事本部の内部では
一切の武装を禁じられている。武装を預ける際は鍛冶師の登録ナンバーが
必要だ。移住・商業区で商人を経由し鍛冶師へのコネを作りでもしない
限りは、外の都市から武装を持ち込む事は出来なくなっている。鍛冶師
本人から武装を貰ったのなら、珍しい事だがね。とにかくそうでないと
登録している鍛冶師名義のロッカーに預けられない仕組みになっている
セキュリティがここ、軍備工築区を利用する際のもう1つの特徴だな」
そうしてヒビキは懐のバッグから水筒をとり、少し口に含んだ後、セルアに
「この本部の階層や構造がどうなってるかは覚えているかい?」と言う。
「ええと、3階が司令発進、管制室。2階が模擬演習室と作戦書類保管室。
1階が宿舎と総括軍務室に緊急迎撃武装庫…で合ってる?ヒビキちゃん」
セルアがうんうんとうなりながら、頭を使いながら言う。それが
よかったのか、合っているらしくヒビキは話を引き継ぐように続ける。
「正解だ。本来、役職や階級において本部での階数が上がったりなど
かん違いする者がいるが、そんなのは古い考えと言うのがこの帝国一の
わがままが通る女王陛下として君臨するエアリシド様の言い分だった。
おかげでここ本部でも相当な改装が練られ、最終的には陛下自らの意見で
この都市の防衛策が本部ごと建て替えられたという逸話がある。…あくまで
逸話だがね」
そう言った後ヒビキはエルゼスの方を見る。ただ、ぼう然とというよりは
少し目つきが厳しくなっているエルゼスにヒビキはたずねた。
「機龍…ワイヴァーンを扱う以上、ここは必ず通らなければならない場所だ。
…君が貴族を嫌いなのは見て分かるが、例え嫌いな相手とも肩を並べなければ
いけない場面もあるだろう。…君はそれを承知の上で将来を目指せるかな?」
「…手を出してこない奴なら別にいい。通らなければならない道なら
通るだけの意思はないと…あいつに顔向けができなくなる」
そう答えたエルゼスの手を、白い両手が不意に包み込む。エルゼスが手を
取った相手を見る。セルアだった。
「ならあたしは、あなたにずっとついてくよ」
それにはヒビキも目を見開いた。
「セルア?君には将来の結婚相手が―」
「関係無いもん。あんなのの決めた事なんて」
そうしてセルアの碧い澄んだ目がまっすぐに、真摯にエルゼスを見る。
エルゼスは言う。
「付いてきてどうするんだよ」
「あなたが見てる世界、あたしにも見せて。それだけでいい」
エルゼスから答えは返ってこなかった。そのまま3人は雑談が響く本部の
中央口へ入っていく。
入って来て視線が集められたのには正直3人とも縮こまってしまったが、
すぐに視線を外して話し始める。そんな軍人達を尻目に「中央受付へ
向かおう」と言いかけたヒビキがふと、視線を向けた。セルアが聞く。
「どうしたの?」
ヒビキの視線にいたのは3人の軍人だった。ただ、彼らが着用している
軍服は肩やそでに輝く装飾が施され、軍の中でも高い立場にいるという事が
容易に分かる。
1人は老いた男だった。白髪を放置し同じ色の大きなヒゲをたくわえた
顔には、歴戦者と呼ぶにふさわしい生々しい傷あとが大きく顔半分を
おおいつくしている。誰もが一目見ても頑強で老いる事を知らないような
体だけでもすごく威圧感がある。にもかかわらず、その男は静かながらも
険しい目で目の前の軍人を見ている。
そのもう1人は金髪の、まだ新兵と呼べるような未熟さを持ち合わせた
軍人とはとうてい思えないお上りの様な男だった。彼は今にもそのまま
壁にへたれ込んでしまいそうなほど腰が引けている。
そんな二人をなだめる様にしているのは青味がかった黒い髪を中央で分けた
軽音楽器の演奏者のように軽い雰囲気を持った男だった。そんな彼らを
見て、ヒビキが呟く。
「…この軍を仮にもまとめ上げている上層部の大物達がそろって、一体何を
話している…?」
「確かに目立つ服装ですけど、彼らは誰ですかい…?」
「老人がこの本部副統括のベゼク・レギッド大将。弱腰なのが上層部で
一番問題視されているらしい若者のニアテオ・スミス少佐、2人の間にいる
長身の軽薄そうな人がファーニフアル・エルシェリッド大佐だ」
「おいおい、一番説明にどこかトゲがあるんじゃねーですのタカナシの
お嬢ちゃん?」
軽薄そうな調子でこちらの方へ喋りかけて来たのはファーニフアルだった。
「大佐、プライベートが謎だらけと噂が名高いあなたがそれを言える権利は
ないです。それよりも、あの方々の話は…?」
「まあ、少しばかり問題があったみたいでねー。どうにもスミス少佐の
目通しすらない状態で軍務書類とか報告書が届いてしまってるという話さ。
まあ言っちゃなんだけど、少佐自体が階級だけの貴族上がりに近いから
仕方ないとはいえ…兵役1年も経ってその状態が続くのは―」
「何をしている」
その声がひびいた瞬間、中央口の空気が一斉に静まり緊張したもののそれへ
変わる。現れたのは2人の男女だった。当然どちらも軍服を着ている。が、相当な威圧感を2人とも持ち合わせていた。男の方は輝く夜空を映しだした
海のような青い髪を持ち、鋭い眼光はどこか限界までみがかれた刃を
思わせる。体はベゼクの肉体を細身に、更に頑強に鍛え上げた様な感じが
軍服越しにも感じ取れた。
女性の方は金色に染まった髪の端をネジの用に整えたきつい性格をした
貴族の女性のような顔つき。しかし、左目にした眼帯や豊満な肉体を包む
軍服を乱すことなく着こなした姿は男の側でも劣らない迫力と威圧感を
持っている。この場にいる誰もが視線を2人に集めていた。
その理由は―ヒビキが呟いた事によりエルゼスは納得する。
「ドールモート・ファルチザン…この軍事本部を統べる帝国一の英雄に
アスカレナ・エッチェンバルグ中佐だ…」
ヒビキが続きを言おうとしたその時
「おば様…」
不安げにまゆの形を変えたセルアの口からそんな言葉がつむがれた。
中編、いかがだったでしょうか?突然の改造申し訳ありません(汗)。
次回のact6は今回以上長くはならないです。
ええ確実に(苦笑




