act3(後編:軍務と指令と「ていそー せんそー」
お待たせしました。第3話の後編です。そしてタイトル変更されてます
何にしても今回も楽しい読書の一時を!
暗闇の中でその男の声がひびく。
「準備できてる~ん?」
「すみません、小賢しい工作の手が入っており一部少なくなっています。
しかし、数そろえておりますゆえ目的達成に支障はないでしょう」
事務的に報告した男に少女の影は「はーいお疲れー(ハート)」と一度
休むように指示し、独白する。目の前には1つの感情に支配された異形の
もの達が列を組んで解き放たれる合図を心待ちにしているようだった。
「まずは初手…これで邪魔な奴らをあぶり出さなきゃいけなくなった…か。
ためておける手はそうしておくべきものだねぇ…フフ」
そう言いながら少女の影は軽く手に持った小さなビンを空中に投げた後に
手にしっかりと入れた後、それをまじまじと見ながら呟く。
「しかし、こんなもの…あのクソはどこで手に入れたさね?まるで―」
ギフィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!
心持つ者の憎悪を液体にして封じたよう―
そう言い終える声は解き放たれたその群れの咆哮にかき消された。
*
「それで、その2人が欲しがりそうなものを―商業区:ここ―で適当に
みつくろった後に送ろうというわけか。君もずい分気がきく真似をするね」
「…正直どうしようか悩んだ末なんだよな。母さんにも何か送ろうとは
思ったんだけど…」
家に最低な妹がいるというのはエルゼスだけがこの央都で知っていた。
数か月前に意気投合したハーフの少女は「何か理由があるのか」とだけいい
話を流してくれる。
「首飾りや手首に付ける腕輪みたいのもいいけど…一番いいのは腰回し、も
捨てがたいんだよね…」
「腰回し?ズボンのサイズを使用者に合わせるあれに何か付けるのか?」
「そう。まあ…セルアには無理か」
「着がえるの長いものな、あいつ」
今頃セルアがベルクやヒビキと話している時にくしゃみをしているだろうと
思いながらエルゼスはこう言う。
「…んじゃ、とりあえずはその腰回りのも含めてその3つ、広場の露店に
いいのがないか探してみるか」
「ああ、その後に軍備工築区までご一緒頼むよ軍人さん?」
そんなやり取りから数十分後、夕食を買い軍備工築区へ向かうエルゼスの
手には買い物袋があった。フレミルがとなりで鳥の油揚げを一口かじった
後に言う。
「それで、話が変わってしまうけど。君が言ってたワイヴァーン、この前
時間とって見せて貰ったよ」
「あいつ―…エクスドか」
「名前を決めさせられたんだって?しかもその名前を付けた人が誰かとは
言えないと」
この帝国を作った魔の女王だと口がさけてもエルゼスは言えなかった。仮に
口にした所でとなりの彼女ならば「寝言か冗談かな?」といった返答が
来るのを分かっていた。
「それで、技術研究区の方なんだけどさ。ボクが近々君達のいる軍部に
送られる事になりそうなんだよ」
「お前が?研究区の組織も人手不足なのかよ?」
「ボクが好機とねじ込んだ…って言ったらどうする?」
「ある意味歓迎したくなる半分、あきれもするぜ。気持ちも分からなくは
ないけどよ」
「ははっ。まあ実際君達がどう言う理由なのか軍部に来てると端末の情報で
見た時はおどろいたよ」
「―?となると…」
「そうだよ、急な話だったんだ。誰かしらの思惑とかあるのかもしれない。
軍部もこっちも気を付けないと、色々危ないみたいだね」
「…」
エルゼスは目を細めて遠くを見ながらフレミルについていく。今まで
エルゼス自身がやってきた事は強い力をもつ者だけが好き勝手できるという
単純で幼い世界だった。これから先向かうには…
(俺は……強くならないといけないのかもな、『色々』と)
「ありがとよ、クスプ。お前がいてよかった」
そんなエルゼスの言葉に、ボクという一人称の少女はキョトンとした顔で
エルゼスを見るのだった。
*
「「…」」
「……(体全体が灰いろの状態で」
「あらあら~まあまあまあ~♪」
「ちょ、これは…一体どういうことだってばよ!?」
あたしとレイアはある頼みごとを元生徒会長の所へする為、ここに来た。
レイアに聞く所によるとあのメスも軍部に来ているらしい。エルゼスも
いたから予想はできていた。それで…やっぱりこうなった。
知らないメスがいる。けどそれはどうでもいい。重要な事じゃない。
ほんの一時たりとも気がそらせない…あたしはレイアの前に立ちながら
目の前のお下げのメスに一歩も引かない意思表示をしながら愛用の
ぬいぐるみを強く抱く。それを見てこのメスが指をわきわきしながら
身を屈めて、いつでも飛びかかってくる体勢を保っている。…あたしと
このメスからいつかと同じ火花がちらす。
ドドドドドドドドドドドドドドドド… …ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ゆずらない。油断なんてしない。そして、逃げるわけにはいかない。
わかっている。これは…戦い。
あたしのていそーを狙うメスの好き勝手になんてさせない。
あたしのていそーはエルゼスとレイアの為にあるんだから。
胸の内にある想いを口にする。
「エルゼス…レイア…あたし、負けないから」
「ううううう~抱いてなでたい…柔らかそう…」
断じてさせない。やらせはしない、こんな私欲丸だしのメスに。そう思い
じりじりと互いの間合いを計り―
ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ
ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ
ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ
ニクイ ニクイ アシ トラレ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ
ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ トラワレ ノマサレ
ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ
ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ
ニンゲン ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ
ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ
ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ ニクイ
ニクイ!!
「「―!?」」
「――!何…」
今のは何…!?何かの意識があたし達のいる所へ向かってきている…!?
あたし―と、何故か目の前のメスに知らないメスまで感知したみたい―が
感じ取れたという事は…
目の前にいるメスと目を合わせる。こいつの瞳に映っているのはあたしと
同じ大切な人。…不本意だけどここは手を組むしかない
「…知らせる」
「ゼス君に伝えた後外に出ないと!…お姉さんにも!」
「エルゼスの方…任せて」
「ヒビキちゃん、たそがれてないで急ぐよ!」
「す、すまない!」
そうしてあたし達はそれぞれ分かれた。
*
「で、この要塞網道を緊急的に使って、軍備工築区の対面にある門砦まで
向かうのはいいんだが」
「あら~何か思う所がありますか~?」「(コクコク)」
納得はできても納得ができない、とエルゼスは思った。ネーペルリアなら
うぬぼれかも知れないがエルゼスがいるこの町を守りたいと思うだろう。
だが、そんなネーペルリアに相方なのだろうレイアが付き合う理由には何か
別の目的があるように思えてならなかった。後にエルゼスはそれが単純な
感情である事に気付くのだが。
ウィイイイイイイイイイイイイイイイイイインッ!
うなる音に思わずエルゼスは前の方へ向き直る。要塞網道の軽滑車道を
魔導滑車―レールベルーグが通る。乗っていたのはアスカレナと彼女の影に
少し隠れたセルアとヒビキだった。手にはエルゼスを主とし、央都での戦いを
助けてくれたアルク―ソル・ヴォルグが抱えられている。レールベルーグの
速度がエルゼス達の走る早さに調整された。セルアがソル・ヴォルグを
エルゼスへ投げ寄こす。
「ゼス君!チェトフさんから無理言ってきたの!」
「無理言ってきたのか…」
「あんまり使わない方がいいとは思うんだけど…」
「だったら、俺自身役に立つ場面あっちゃいけねーんじゃないか?こいつは
強力すぎるぞ…」
「うえ!?やっちゃった!?」
「考えなしだったのかよ…」
「いや、それが今回頼りになるのは君かも知れないんだ」
「隊長?」
「相手は凄まじい数だった場合、できる事なら君に制圧目的で多対一を
して貰う事になる。私では武器的に無理で、セルアでは戦闘経験の浅さで
どうしても不安が出る」
「分かりました」
「ヒビキちゃ…ゼス君!?」
「元よりこいつを戦わせる状態にさせたくねーです」
「そうであってほしいと願うばかりだな」
「うう~、2人とも…」
一方アスカレナは引きつった顔でレイアとネーペルリアを見た。
「クォーレ!に…来たのか」
「何かできると思いまして~」
「…すまないな」
「?」
「私達は守るべき君達の手を借りるかもしれない」
「…今回来たのは、私は私の目的をもってやっている事ですわ~」
「……」
そうしている間に合流したエルゼス達は軍備工築区内の門砦へつく。
門砦の警戒に当たり、アスカレナに連絡を入れた軍人がエルゼス達に向かい
敬礼してきた。
「中佐様!お疲れ様です!」
そういう彼の声は沈んだ感情を隠せていない。
「報告は聞いている。どうなっている!?」
「ハッ…あれを…」
軍人は遠見筒すら用意せず門砦の向こうをうながした。目が自然と
そこへ誘導される。初めに呟いたのはセルアだった。
「やだ…何あれ…」
「あれが本で読んだ話の大行進ってやつかぁ?…おい」
のん気なエルゼスの口調もわなないている。それは黒い波だった。異形の
者共の影が央都への道だけでなく、野原一帯を覆いながらこちらへ向かって
きている。影の波の中に皆一様に赤く光る目が黒い宇宙にある滅びの星に
見えた。
―ニクイ ニクイニクイニクイ タスケテ ニクイニクイ ニクイ!!!
「い、いや!だめ、来ちゃダメ!そんなに何に怒ってるの?怒ってるモノも
明確でないのにどこへ行くっていうの!?」
そんなセルアの言葉を聞いたエルゼスはいてもたってもいられなかった。
「チッ!!!」
バンッ!!!床をける。門砦の床に軽くクレーターができた。
「クォーレ!?」「ゼス君!?」「「エルゼス!?」」
誰もがエルゼスを呼びとめようとする中、エルゼスは門砦を飛び降り、壁を
足場に地面へ着地する。目の前には波の先が少しずつだが、相当な速さで
迫ってきている。エルゼスの右うでにはもうソル・ヴォルグが付いていた。
「やれ!とにかく乱れ襲って…あいつ等の足を止めろ!!」
ウォン…ヒンヒンヒン!
ソル・ヴォルグについていた直方体の部品が魔力をおび、8つの飛行物体と
なり影の群れと飛んでいく。しばらくして
ピー!ピーピピーピー!
シンシンシンシィン!
ギィイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアッ!
耳障りな断末魔と共に波が少し身じろぎする。しかし、大部分は行進を
やめないどころか
グウウウウウウウウガアアアアアアアアアアアアアアアッ!
エルゼス自身を見ているものが出て来た。それはまだいい。しかし、
大部分はエルゼスに見向きもせず、ただ彼らの目の前―央都へ向けて
(どうすればいい…!?どうすれば…)
「何とかなりますわ~」
エルゼスが頭上から聞くだろう声はやけに近くに聞こえた。エルゼスは
思わず門砦の上から飛び降りて来たのだろうレイアの方へ振り返る。
彼女の下半身には彼女が浮くほどの魔力のきらめきが明確に見えた。
「おいアンタ何こんな所に降りてきて…っ!?」
あの群れにのみ込まれてしまうとエルゼスが言う前に。彼女が手に持つ
杖が2つにわれる。1つは中央にとってがつき周りに弦が張られた輪と
大笛の様な部分が付いたものに。もうひとつは歯車みたく左右のはしに
出っ張りがついた軽いバトン並みの長さになった演奏器具に。エルゼスへ
話しかけながらレイアはそれを演奏するように構える。
「あれられが何かに囚われたものならば、囚われる前の状態へ戻せばいい。
それだけでしょう?」
シャリン…チン
そしてたった1回だけ。その弦でレイアは音を鳴らした。すると
パァアアァアアアアアアッ
光が門砦の前に半径1ヴェントほどの半円となって浮かび上がる。そして
門砦の50レープ前くらいまで来ていた影達を照らしつくす。
後に残ったのは、赤い目の光が消えた異形のモノ達。ただ、先程のような
見たもの達が恐れる様な敵意は完全に消える失せているのが分かる。彼らは
ただただ、自分達が何故こんな所にいるのか辺りを見回し始め。最後には
クモの子を散らすように順番に各々気ままな方向へ散っていく。それを背に
レイアはまるで踊るように杖を元に戻しながらエルゼスへ語りかける。
「1つだけ、提案がありますわ~。2色髪さん」
音を鳴らした元である杖が最後どこか虚空に消えているにもかかわらず、
鈴の音みたいな先程の楽器の音がいまだにどこかで鳴りひびいている。そんな
錯覚をエルゼスは感じながら彼女の言葉に耳をかたむける。
「私達を、あなたがたの支援者としてとりたてて下さいませ」
ゆうがに腰を折ったレイアにエルゼスは言う。
「アンタに何の益がある?俺には雇うとかの方法もお金も無い。あっても
それは」
エルゼスの言おうとした事にレイアは首を横へ振りながらこう続けた。
「軍部での支援者として身元を保証してほしいのです~、それさえあれば
私はなんでもいたしますわ~」
エルゼスはうでを組み考える。ある意味、こんな女を手元に置くこと自体
問題かもしれないがそこはエルゼス自身が考える事じゃないとあきらめては
いる。しかし何でもすると言われて何も言わないほどエルゼスは良い人ではない。そして、ふと1つだけ一応思い当ることがあったのでこう言った。
「1つだけ」
「はい」
「軍部の中佐さん。あの人に手ぇ出すな。したら確実にブッつぶす」
「はい。それ以外は?」
「少なくとも俺はアンタが信用できない、という程度にしか見ねーよ」
エルゼスのため息をつきながら言った言葉にレイアはニッコリと笑った。
*
「何も無かった…だと?」
「人的被害が無かったため、そういう事にしておきました。ですが…」
「フッ、まあいい…よしとしよう。なりゆき通り彼らに特命が下るな」
「これからようやく進められるのですね。我らが帝国の真実の為に」
「ああ、この帝国にある真実の為に(フフフ…)」
*
「こんな魔力の使い方もある、か」
ぱたんと本をエルゼスは閉じた。フレミルからもらった魔術の参考書は
エルゼスにまだ知らない知識を植えつけた。着実にエルゼスは自身の
魔力をどう扱うか、成長しつつあるのを自覚するが。
「…本ばっか読んでても仕方ねえし」
そうしてエルゼスは部屋を出る。この後は時間的にも早いが食堂にでも
行くかと考えていると―
「おはよう。ゼス君」
普段の声から元気さが取れた声が左から聞こえた。エルゼスはそちらを
見る。
「セルア…」
エルゼスは本能的に危機を感じていた。自分達があのエアリシドに何を
言われたのか、今の彼女なら追及してきかねない。むしろそうする為に
彼女はここに来たのではないだろうか。そうエルゼスが考えている内に
セルアの口が動く。
「うん、あのね―」
「ちわーっす、お2人さーん。朝から告白ムードみたいの咲かせてるけど
失礼する、YO☆」
真剣な話を茶化すような横やりがエルゼスの背後から聞こえた。思わず
エルゼスは目を見開きそちらへ振り返る。気配がなかったからだ。目に
映った人物は当然ながら声で分かっていたが信じられなかった。
「アンタは…」
「よーう、ボウズくーん。それにテルラスクの嬢ちゃーん?少ーし用事が
あるんだけど。いいかね?」
―act4に続く―
今回は上げた後ですみませんが、大幅な加筆修正が予想されます。そして
次回が相当…具体的には1週間近く遅れる事になります。
色々はじめから詰めているStage2、皆さんに楽しんで頂けたらなと思います。




