act15(Last:決着「オワリ ハジマリ」
長らくお待たせしました!少しリアル事情で忙しくなり内容も相当つめこみで
あいまいかも知れません。読み返しなどもしましたが誤字・脱字もあったら
指摘してもらえるとうれしいです。
では、よい読書を!
負けた。オレ―ノレットが乗る軍高の機龍はやつの手によりバラバラにされ
レフィーア達が戦っている筈の模擬戦場へオレごと墜ちていく。
「―」
何故だ、という言葉すら出なかった。オレをただ見下ろすあのクソはこれが
当然だというかのようにオレを見下ろす。
「ねぇ…」
ポタポタポタ
またオレの―精神:ココロ―を黒い滴が埋めつくす。
「られねえ…」
ドボジョボドモジョボボ
もはやその毒のような黒い滴はオレの精神の奥底までむしばんでいく。
「認められねえ認められねえ認められねえ認められるわけがねえ!!!」
認めるものか、俺は恵まれていた。「あの方」の後ろだてもあり、将来の
栄光も力も、富も、女も、手にしていた。それを…あいつは―!!!
「テメエなんかが栄光あるこのティスフィーブルに、この世なんかにいていい
わけがねえええええええええええええええええっ!!!!!」
そのオレが叫んだ時、奇跡が起きた。
視界が、心が晴れやかになるほどのまばゆい光を放った。オレの目の前に
現れたのは太陽の如き透明な無色の光を放つの玉。これは…
そうだ、オレは、オレは太陽の御子。この帝国の輝かしい未来をかざる
男なのだ。
そう思いオレは迷い無くその玉にふれる。そうすれば、これは弾けて世界に
散らばり世界ごと溶ける破滅の星々となるだろう。
ダカラ何ダ?モウ何ヲ考エル必要モナイ。アルノハタダ1ツ。ソウサ―
「テメエが消えるならこの世なんざ犠牲の内に入らねえよぉおお!!!!!
ヒャハヒャハヒャヒヒヒャハハハハ!!!!!」
コンナ生キル価値モナイ奴ハドウアッテモ許シテハナラナイ。
ソレハ確実デ絶対ダ―
*
失礼ながら、私の身の上話を聞いて頂く事となります。私ことレフィーアは
帝国に滅ぼされた砂漠の国アナファルジャにて祝福を受け生まれました。
…生まれたはずでした。アナファルジャがとなりにあるカドラバ帝国に
壊滅させられたのはその5年後のことでした。
帝国の力は圧倒的でした。生まれて間もなくアカナチからの攻撃を防ぎつつ
ワイヴァーンと言う暴威を表した兵器でまるで台風が通り過ぎるように
集落や都市を制圧していったのです。青空から落ちてくる小さな砲弾の雨に
さらされ、私たちの古里が燃えて壊れていくのをただただ見届けることしか
できないのは正に悪夢のようでした。
敗戦奴隷となった私たちに待っていたのは、後ろ指差されながらも将来を
有望された学園生活でした。運が良かったというべきでしょうか、私たちの
身柄を引き取ったのは【ヴォーゲ家】と呼ばれる家です。私は将来そこの
メイド―家政婦として教育を受けるため学園生活を送っている中で。私は
仕えるべき主、ノレット様と出会いました。そして私とノレット様は恋に
落ちました。
運命だと。そう錯覚しました。そう思ってしまう程に私にノレット様は
手を差し伸べて下さいました。敗戦で隷属にはあらがえない将来を見つめ、
どのような方へ対してもへりくだり奉仕することを義務とした私に。
「君を一人の女性として必要とする」と言って下さったただ1人、私の心の
支えとなってくれた初めての殿方でした。しかも私だけではなく、私の
幼馴染みであるジャクシール…様やリルリラ様も救うと。皆で何の不自由も
無く、豊かな日々を得ようと。
そんな、そんなノレット様が。私はそれを見上げながら灼かれた古里を見た
時と同じように、絶望でひざを折りました。
「ノレット様…そんな…」
私たちは頭上をただただ見つめることしかできませんでした。私達は一体
どこで何を間違ったのでしょうか?ノレット様は間違いなく学力、武力、
魔力の全てにおいて他者より比べる意味も無いほど優れ、私達の信頼も
ほしいままにしたというあの方が。どうしてこうまであの方を憎むだけで
このような事を…。そんな疑問と絶望だけが私の心を満たしかけた時
「あそこまで育っていましたか~、高々みじめさの具現でよくあんなに
ふくれ上がりましたね~」
のほほんとした声がそばから聞こえました。私はその声の主を反射的にも
にらみつけます。あまりにも身勝手でこのような事態になった原因は―
「あなたですか?レイア様。ノレット様のワイヴァーンに何かしらの細工を
出来たのは…」
「ええ~、そうですよ。どうせ、使い捨てのちやほや坊ちゃま。1人や2人
消えた所で~どうということはありません~。ちょっと感情を後押しし~
その思いを魔力で爆発物に変換する簡単な構図で~受術者ごと軽く世界に
点を付ける爆弾にしただけですよ~」
「そんなっ!?」
最後に悲鳴を上げたセルア様を無視しレイア様―この女は空を見上げます。
表情は恐らく変えもしないでしょう。
「アンタは…ノレット様をそうしたってのかい!?」
ジャクシール様がさけぶのも気にもせずこの女は続けます。それは会話では
無く、独白でした。
「あの程度では都市の一部が炭になる程度でしょう~。予想より少しは
大きいですが~、あの程度ではこの央都の上層が少しうるさくなる程度で
終わりますよ~。そんなことより―」
「どういうつもりだ!?あなたという女は自らの主であるはずの男さえ利用し
何を―!」
「元よりどうでもいいのです。私も、―ノレット:あれ―が軽く後ろ盾として
支援を与えていた組織の方も恐らくは」
面倒だったのか冷たくヒビキ様の言葉をさえぎったこの女の言い分を。私と
ジャクシール様は内容を理解できませんでした。
「これはただの合図ですよ。もっとも、これで【この辺に巣くっている彼ら】が
自分達の身へ危険が迫ると思う事すらない間抜けでしょうけど。あの人は
どうせトカゲの尾で私へのエサ程度の意味しかなかったという事でしょう」
「あなたは先程から何を…」
「これはただの通過事項なのですよ。空に浮かぶあれがこの場にもたらす
被害も未来に何の意味も無くなるでしょうから」
そう言い彼女はあの中に浮かぶノレット様の巨大な憎悪を初めから目にも
していないように彼女のお付きである紫髪の少女にいつも通りのおそい
調子に戻り「さあ、そろそろ帰りましょう~リアちゃん~」と言いました。
その時私はレイア様が呼ばれた少女の本名さえ知らない事に気付きました。
彼女は一体?そんな疑問すら絶望にぬられながら。私はジャクシール様と
ただ呆然と死刑を待つ囚人のように待つことしかできませんでした…
*
「何だ?」
バラバラの残がいになって落ちていくノレットが乗ったワイヴァーンが
突然光ったかと思うとエルゼス達を押し退けて上空に上がる。光となり
集まり形を再構築しだしたのだ。まるでバラバラになった時間の流れが
巻き戻るように。それどころか集まり1つとなった残がいの光は次第に
大きくなり―
それは最早ワイヴァーンでは無かった。巨大にふくれ上がった溶岩を流す
巨大な岩。木の実のような形状の巨岩に溶岩の赤い線がいくつもはしり、
今にも地上へ落ちていきそうな…しかも蒸気までまとっている中で。
まるでおまけのように大岩と下半身が1つとなったノレットの体があった。
「ヒャヒャヒャ、イフェフェフィフィヒヒヒ…」
最早心が抜けたノレットの体は意味も無くうつろに笑い声を上げている。
まるで大岩に精神を根こそぎ奪われ壊れてしまったようだった。そんな
どうしようもない先ほどまで無様な思いをさせた相手を見てエルゼスは
理解した。ふくれ上がった憎しみ。これは恐らく―
「昨日…いや今日の早朝に遭った、あの女のしわざか」
エルゼスの乗るドラグーンだけで無くノレットの方にまで。何故だ?と少し
考えた後、エルゼスは首をふった。考えた所でエルゼス自身に答えの出る
材料が少なすぎた。もう少し考えれば【ペルリアの見た記憶】から理由を
引き出せるかもしれないが、そうしている余裕もない。今にも重力に引かれ
落ちてくるノレットを見上げながら右手のソル・ヴォルグを構える。
これを受けてたいてい無事なのはエルゼスでもすぐに分かった。大きさこそ
大きいがこんなみにくい貴族のゆがんだ心が具現化したもので滅ぼせるのは
高が知れている。エルゼス自身よけるまでも無く無傷でいられるだろう。
だが―
下にいるセルアとヒビキにふわふわ髪の女やペルリア…に少し前から
『中止です!皆さん早く非難して下さい!頭上の未確認物体は軍が到着後、
処理します!』と焦りながらもスピーカーで叫んでいるベルクも心配無い。
が、ノレットの本当の仲間である2人はただでは済みそうにも無さそうだ。
助ける義理も無いだろうが、先輩が「お姉様」と慕う者もいる手前、あれを
何とかした方がいい。そう、エルゼスは考える。その時
カパッ
エルゼスの乗るワイヴァーンの背から尾まで伸びる羽。その紅いわっか状の
羽が背中から外れると空中で停滞しているエルゼスのワイヴァーンの頭上で
止まる。その輪が示すのはノレットの付いた巨岩へ、まるで照準となるべく
回り出したのだ。
「こいつをたどり狙えってのか…?」
エルゼスの独白を肯定するように
ルゥウウウウウウ…
ワイヴァーンはうなり声を上げ、うなずいた。
「そうだな。…もう後はあのチクショウをブッつぶす。それだけだ」
バスターニクスモードとなったソル・ヴォルグの光線射出口。それを何の
ためらいも無くエルゼスは向ける。
レイアは空に浮かぶそれに武器を向けたエルゼスの後ろ姿を見て呟いた
「あの赤い髪…やはり【あの方】の…」
セルアはキョトンと自分達を救うかのように武器をノレットへ向けた少年の
【完全に真紅に染まった髪を見て】呟く
「ムルちゃん…?」
そしてエルゼスのアルクから放たれた光がノレットを付けたそれを貫いた。
「あ―?」
何の意味も無くノレットがそう声を上げ…
パァァアアアアアアンッ!
ワイヴァーンだったその巨大な大岩は粉々に砕け散った。きれいに光る粒と
なった岩から解放されたノレットは落ちていき―
バフッ
模擬戦場の柱から射出された特殊トランポリンネットで受け止められ、丸い
何かの罠のようにアミに捕獲された状態で柱のとなりへぶら下がるように
引き寄せられ、止まる。それをエルゼスが確認した時
ふわ…わ…
「雪…か」
エルゼスは何事も無かったろう、模擬戦場にワイヴァーンで降下を始めた。
思えば不思議だった。エルゼスががただ思うだけでこのワイヴァーンは
操作などをする必要も無くエルゼスの意思通りに動いてくれる。それこそ
このワイヴァーンはエルゼスを主と認めているのだろうか。しかし―
(こんな…俺に?こいつはまさか…)
ルガァァアアアルア!?
エルゼスが考え中にワイヴァーンがおどろきのような鳴き声を上げた。
エルゼスがワイヴァーンの肩越しに着地場所を見ると
「ゼスく――――――――――――――――ん!」
セルアが叫んで走って来ていた。笑顔でワイヴァーンが着地する場所を全く
気にもせず駆け寄ってくる。流石にエルゼスが乗っているワイヴァーンも
このまま降りるわけにもいかず「どうするのか?」とたずねるように背中の
エルゼスの方へ顔を向けてくる。エルゼスはワイヴァーンの顔を見上げ肩を
すくめた後、ワイヴァーンから飛び下りた。セルアがすかさずエルゼスの
手を取る。エルゼスは何の意味も無く好意を示したセルアを軽くしかった。
「いきなり何さらしてんだよ、お前は」
「えへへー」とごまかすように笑った後、セルアはこう続ける。
「ゼス君のやってた【あれ】って?」
「ああ。オレのやった事、見てたか?」
「うん。わざと最後バラバラにするまで外してた…そうだよね?」
ノレットのワイヴァーンが最後とんでもない石の様なものになる前まで、
エルゼスがした事を言っているのだろう。わざと本人に致死状態にできる
一撃を当たるギリギリで外すのを繰り返して。幾度も死んでるという事実を
仮想体験させた【倍返し】。
「ああ。それこそ…今までやった分、無様を上書きでぬりたくるためにな」
「あたしもその内できるかなあ…」
「セルアがやりたいなら参考になればいいけどな」
いつも通りの何気ない話。その中に割り込んでくる影がそばからくる。
小さな紫色の髪がゆれた。
「エルゼス」
「ペルリア?」
「んえ?」
そう、ノレット側と言っていいはずのネーペルリアの名をエルゼスは口に
してしまった。そしてネーペルリアもそれを気にする事は無く、いよいよ
自制が出来なくなったのか、エルゼスの腹筋辺りに彼女自身の顔を押し付け、
スリスリを開始する。
「えっと…何?」
「あなたこそ…何?」
「何って…あたしはセルアだよ」
「…」
「ええと…?」
「…(プイッ」
「何してるわけでもないのに顔そむけられたぁ~!?」
「エルゼス」
「どうしたんだよペルリア。なあ、おい…?」
「このメス…何?」
「メ、メメメメメメメメメス!?」
「…(おい、まさか…一難去ってまた一難みたいなオチか、これ…?)」
エルゼスのそんな気も周囲は知らず。雪は次第に降り積もり始める。まるで
ここで起きた事を白く、あとかたも無く、うめ尽くすように。
*
カドラバの央都ヴァルガナウフから北北西に続く山々が並んだ、一見すると
通れる道が見当たらないそんな山奥のほら穴でその話はされていた。
「各地への準備や工作は進んでいるか?」
「順調に準備は進んでいますね、ダンナァ。どうやっても軍のふぬけ共は
ボクらの存在にすら気付いて無さそうだし…ふひ、ふひひ」
男の問いに応えたのはノアシムだった。クルクルと器用に蛇のように刀身が
曲がったナイフを回した後に無造作に投げる。ナイフは振り子時計の中で
ドクロの形をした振り子の中央にサクッときれいに入り、目の部分にある
赤い宝石を点滅させた。
「もう楽勝の楽勝でたまんなーい♪て言うか~、今日は一人にしてほしく
ないからん、私達の決起総統であるあなたも泊っていってくれるわよねん、
ニアテルス・ヴォーゲ様ん♪そうだっ!今から特製の調味料、愛情こめて
皆が集まってから食べる料理にかけてあげるわねん♪」
その少女とも呼べる声音を出したのは、確かに見た目少女の影だった。
小さな前掛けの後ろには黒の光沢をぬった緑のボンテージと言う余りにも
不釣り合いで奇抜な服を着こみ、背中のポーチからは甘い媚薬のような
香りがもれている。顔こそほら穴の暗さで隠され見えないが、ノアシムと
ニアテルスと呼ばれた男は彼女の顔を見えているのか口口に言った。
「エンリョシマスネ…」「食うのはお前たちだけでいい。私はいらん」
「あらん、口答えしちゃうのん?クサレクソ共がそんな事許されると?」
気分を害された程度でその少女からの口調がどす黒さをおびる。それを
2人はそれぞれつまらないものを見るように見下す動作で応えた。
「テメクソ調子ブッこいてんじゃ―」
少女の姿をした何かが暴言を吐きながら武器を取り出そうとしたその時。
ほら穴の方から何か質量のある風が入ってきた気配がある。3人が目を
そちらに向けると。老人が立っていた。人が入った気配は全くもって
感じないにもかかわらず。しかし、3人に共通した感情はあった。
(薄気味悪い奴だ(クソねorよ)…)
「ただいま戻りました。私が最後のようですね…遅れてしまい申し訳が
ありません」
そんな彼らの感想を知ってか知らずか丁寧に会釈をした老人にノアシムは
言う。
「よう、来たかいご老体。どうだい、そっちは?」
「ぬかりなく。ここまででようやく折り返しでございます。これより後は
単純な作業が続きそうで老骨には答えそうですな…しかし、我らが悲願の
ためにも」
老人がそう言う暗がりの奥からは女性の「ぎゃああああああああああ!」と
いう叫び声と「痛いぃ↑痛いぃ↓痛↓い↑ぃ痛い↓ぃ~痛い痛い痛い痛い
痛い~♪」と歌のようにただ「痛い」と言う言葉を繰り返す、精神異常者と
思われる人物の声がひびいている。これは老人の指示らしいのだが、どんな
意味があるのかを知っているのは老人だけであった。そんな惨状もよそに
報告や会議は進む。
「【あちら側】の工作は老体、任せていいのだな?」
「当然でございます。そちら側もどうかご無事を祈らせて頂きます…」
「決行するのはこちら側からだからな…ノアシムはこれより、大陸を
渡ってもらうとしよう。そちらも抜かりなく、な」
「アイアイサー…ボクの手にはまれば、計画はすぐ決行できるかな?
フヒヒ」
「あたしは~?」
「「お前は好きにしてるだろ」」「指図されるつもりすら無いでしょう?」
「では今後も場所をさとられぬ様各地で進捗を報告するよう、定期的に
合流するように。あと5回前後としておこう。それまでに各々の役割を
確実にこなすぞ。では最後に…世界をあるままとする為に」
ニアテルスの最後の言い分にその場にいる誰もが同じように続く。
「「「この世をあるままとする為に(ん♪)」」」
その心の底にそれぞれ別々の理想をいだきながら。
*
温まったお茶を置く。出された人はそれを飲むという動作をしない。それは
その少女もよく分かっていた。持ち物を確認する。持つべきものは全て
腰に下げたそれにしまってあった。そして立ち上がる。主君はそんな従者の
動作を全く気にもせず、何も思わないように―否、心無く窓の外をずっと
見ている。それはもう魂の抜け殻だった。だが
「ノレット様、行って参ります」
彼女は自分の主だったものにそう言う。答えは聞かなかった。どうせ答えは
返ってこないと知っていたから。そしてそんな主を振り払うように部屋を
医療院を出ていく。
そして少女の挑戦が始まる。
ヒビキやセルアと待ち合わせ、エルゼスが来た噴水のある広場。そこで
正面からエルゼス達に立ちはだかったのはレフィーアだった。傍には
ジャクシールもいる。レフィーアは見事に体を折り、優雅にエルゼス達へ
あいさつをしてくる。
「おはようございますヒビキ様にセルア様、そしてエルゼス様。ご機嫌は
いかがでしょうか?」
「ぼちぼちッスかねー…それで?」
首をこきこきと手で鳴らしながらエルゼスは言う。
「用はすぐにお済みになります。エルゼスさま、私のたった1つの意地を
お聞き願います」
「…いいぜ」
軽い口調だが、エルゼスはそう言った。エルゼスは真正面からレフィーアを
迎えうつべくバッグを噴水のとなりへ投げる。
「ゼス君?」
「問題ねーよ。時間はかからねーだろ。セルアと先輩は先に行っててくれ。
すぐ後で教室行くからよ」
そう言ってエルゼスはセルア達が軍高の中へ入っていくのを見届けた後、
レフィーアの方へ向き直る。
「んで、いつでもいいぜ」
「はい。エルゼス様。これまでのあなたへお掛けした多大な迷惑、私達は
申し開きもありません。そして―」
「私はあなたを許さない」
そう言い、レフィーアは正面からエルゼスに向かって走り出す。手には
クナイとよべるアカナチで飛び道具として作られた武器を手に。投げた
所で上手く手に取られて投げ返されるのが落ちなら接近しふるうしか
こちらには選択肢が無い。それさえ、無意味なあがきでしかないが―
レフィーアにとってこの勝負の結果そのものにに悔いはなかった。当然と
敗れたとしても彼女自身が持つ忠誠だけは折れはしない。これはそれを
示す為の祈りでしかなかった。
(ノレット様、死ぬまでお慕い申しています。その心が天へ行った後も)
エルゼスの全く見えない打撃を受ける。レフィーアは痛みすらも感じず
安らかに意識の闇へ沈んでいった。
*
「それで、あれはどうだったの?」
「両の肩とヒザを軽く叩いて砕いた。その人と一緒に見た黒肌の…ええと
先輩がいうにお姉様だっけか?その人が治療院に運んでったぜ。それも
数ヶ月前の話だしよ」
そう言いエルゼスは暖かい日差しを受け大きく伸びをする。ノレットや
レフィーアとの通過儀礼だろう戦いから数か月、季節はもう春だった。
今日と言う日までにもネーペルリアとセルアの間やエルゼスの周りで軽い
騒ぎが何かあったりもしたが、学校生活を無事に送ることができた。
今2人がいるのは移住・商業区の未開発地帯。そこで木々に隠れ、ある人を
待っていた。その待ち人は―
「卒業、おめでとう!ヒビキちゃん!!」「卒業、おめっとさん。先輩」
「ありがとう、2人とも」
ヒビキだった。彼女が左手に持っているのは卒業証書の入った筒だろう。
「しっかし…」
そんなヒビキをエルゼスは上から下へまるでなめるように見る。流石の
ヒビキも男性のそういう真似に慣れていないのか顔を赤らめ、エルゼスに
対し体を盾にするような姿勢を取った。
「き、君は何を」
「ホント変わらねーなぁ初めて会った時とよ、センパイは。うちの妹を少し
でかくした程度の体格から、先輩は全く変わってねーし。これじゃ、俺らが
卒業した妹をむかえに来たと思われても不思議じゃねーんじゃ?」
物理的に「ピシィッ」というひび割れた音がセルアにも聞こえた。
「…何が…」
「あ?」「ひ、ヒビキちゃん?」
「一体何が足りないというんだっ!すうぃーつか!?セルアが常日頃から
口にしているすうぃーつが足りないとでも言うのか!?」
「あ」
ヒビキに背の話は禁句。セルアにも言われた地雷をエルゼスは余裕で見事に
ふみ抜いた。そしてその爆発に更に油をエルゼスは注ぐ。
「あー、まあ。個人差あるしよ。ほら、あれだ。そこまで小さいの気にしても
しょうがなくね?」
「そこで寝たまえ。3枚におろしてやろう。痛みも慈悲もいらないな?
だから安心してくれ。保障しよう」
「…やべ」
「わわわ」とセルアがワタワタと2人を交互に見ながら戸惑う中、
「ちょっとちょっと!何やってるのー!?」
木々の間からそんな声が発せられた。やってきたのは質素な服を着、木で
うまく編んだ帽子を顔が分からないほどにかぶった以外は普通の長い髪を
持った少女だった。
「「え、どちら様ですか?」」
「何のごっこ遊びだよ?お姫さん」
「え!?」「まさか陛下!?」
「むぅ、良いではないか。ばらすのが早いぞエルゼスや」
「いや、だって…その人…」
「お姫さんは魔力のカタマリみたいなもんなんだと。指の数やら肌の色は
当然で、角も無くせる。大体―」
薄い木の枝で編んだ円形帽子を取った彼女の顔はエアリシドだった。
「元よりビビる話かよ。そんな姿よりビビるもん見てんだからよ」
「クカカ。そうじゃきに。年はとりとうないの」
そう皮肉を聞いたエアリシドはヒビキの方を向く。今日の女王は卒業式を
おけた彼女に用があるようだった。
「ウム、ヒビキ・タカナシよ。この度の機龍軍高ティスフィーブルにおける
生徒会長と卒業までの修了過程、大義であった。これよりこの帝国より次の
令を送り付けたい。どうか、こころよい返事をもらえたらうれしいと思う」
そう言い、エアリシドは一つの書状をヒビキに差し出す。ヒビキは封を開け
中にあった書状を広げた。セルアとエルゼスもそれをヒビキのとなりから
見る。内容は―簡単ではあった。
それを3人は内容を読み終えた後、まず互いの顔を見合わせ―エアリシドへ
一斉に目を向ける。
エアリシドは両手を腰に当て胸を張った体勢と、すまし顔で3人の顔を
見返した後に。万感の笑みでうなずいたのだった。
*
「んで…ったく、何つーカッコだよこれ」
「君はそういうのが嫌いそうだものな」
そう言いながらエルゼスとヒビキが歩いているのは王城の城だった。
昨日、エアリシドから直々に3人に勅命が下った。その内容とは―
セルアは着替えるに慣れない服のようで、エルゼスはヒビキからセルアは
後で来ると言われた。2人は先に彼らへ命を与えたエアリシドがいるだろう
部屋へ歩いていく。その途中
ザッザッザッザッザ
エルゼスとヒビキは城に敷かれた赤いじゅうたんの通路を歩いていく集団を
目にする。軍部における上層部の面々が勢ぞろいしていた。そんな中で―
ドールモートのとなりにこの央都で初めて見る男をエルゼスは見た時、
呆けたように表情が消えた。
その男は白を基調に、紫色をした曲線状の刺繍を幾つか付けたタキシードを
着ている。顔を、肩あたりまで伸ばした紫色の髪で目も見えないほどに
隠している。辛うじて見えた目の色はこげ茶だった。その男をエルゼスは
見送る。ヒビキも同じようにその集団を直立体勢で見送った後こう言う。
「今のは軍の上層部の面々か、少佐殿がいなかったが…―?どうした?」
ヒビキがエルゼスに声をかける。彼女とエルゼスは気の知れた仲になって、
そろそろ半年になる。だが、
「そうだよな…」
黒い、昏い感情がエルゼスの口から形となって紡がれる。
「え…?」
黒い髪を持つとなりの少女の美しさとは同じ色でも全く違う色のような。
そんな気持ちがエルゼスの口からはき出される。
「いないわけがねえ…この国で、んな―忌避令:モン―作ったような奴が
こんな所にいないわけがねえよなぁ…」
「…エルゼス、君が見ていたのは…」
「ああ」
少しだけ気を許した先輩がこの時、やっと2度目に呼んでくれた自身の名を
エルゼスは全く気にもとめなかった。それ以上に今この央都で初めて見た
その男に心うばわれていた。何故ならば―
エルゼスは思いだす。あの日の事を。自分がいみ嫌われる始まりとなった
その始まりを。
燃えている
パチパチパチパチ… パチパチパチパチパチ…
初めは町全体が 次にはりつけにされた自分の父親が
燃えている 否 燃えたぎる
「やられたら…やり返す。こんな所で俺にツラァ見せたのが運のツキだ」
最後に歯を食いしばり、笑みを浮かべたエルゼスの表情は。まるで牙と
殺意をむいた凶暴な獣のようだった。エルゼスの目には確かな憎しみの炎が
浮かんでいる。
彼らが始めて会った冬。言った言葉がエルゼスの口から再び城にひびく。
それは少年が長い間待ちわびた目的の始まりを意味する言葉だった。
「倍返しだ。テメェがした事のツケ、テメェの身で知りやがれ……!!!」
―Stage1 End…―
次回Stageは来年になります。1月中には1話目を出すので
よろしくお願いします。もしかしたらその前にもあるかもしれませんが…
予定は未定です(汗)。それでは皆さんよいお年を!
―次回予告―
「ヒビキ・タカナシ。軍備工築区にある本部において汝を上級大尉、
特務部隊隊長へ推選する。返事は今年までにお聞き願いたい。それまでは
自国に戻る事も許そう」
「また特例として、軍務に編入するさいセルア・テルラスクとエルゼス・
クォーレの両名を部隊へ編入する許可を与える」
彼らの次の舞台は軍部へ。ひざ折った者、先を見る者。誰にも等しく未来は
おとずれる。
次回Stage2-act1:編入と「告白」




