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act11:戯れと「おもちゃ箱のような灰色の庭で」

今回は一言で言うなら【帝国女王陛下回】です。引き続き振り仮名ナシを

検討中です。今回は少し短めだったり…そう思ってた時がこのやもーんにも

ありました。何はともあれ今回もいい読書を!


注意!:今回も一部15才未満の方々を対象に断らせてもらう性的な表現が

文内にあります。14才以下の方や上記の内容に嫌悪・抵抗のある方は

ページを今から閉じるのを強くすすめさせて頂きます。


エアリシドの哄笑が終わった央都の王城、その一室。エアリシドは不機嫌に

眉をひそめ傍にいる緑髪の男―セルアの父親にこう文句をもらす。

「何ぞ、この集まりは根性の無いのぉ。のうセヴァルや。こ奴ら本当に主の

目に叶った者ぞ?」

「…自分のミスだったようです。申し訳ありません」


そんな風に会話していたエアリシドとセルアの父親―セヴァルの元に向かい

走ってくる子供がいた。


とてとてとて


魔力の霧を吸い、その濃度に呻いている生みの親の手から開放された少女は

苦しんでいる者だけでなくエルゼスにセルア、ヒビキも無視しエアリシドの

傍まで駆け寄った後。服のポケットから取り出した飴玉の紙を器用にといて

エアリシドへその手ごと差し出した。

「何ぞや?」

「おねえちゃん、ざんねんそうなかおしてた。だから、あげる」


彼女が差し出した手から飴玉を自分の目の高さまで摘み上げたエアリシドは

それをまじまじと見た後「…クッ」という皮肉げな笑みを浮かべた後に

こういう。

「お主、親の事はいいのか?苦しんどるのは妾のせいじゃぞ?」

その言葉に「んー」と首を傾げた後少女は何とも無しにこう言った。

「いいや」

「何がよいのかえ?」

「ごはん、あとでたべさせてもらえるならどうなったところでおなじ」


エアリシドは「そうかえ」とだけ答えた後、飴玉を口に放り込む。少しの後

「フム、甘い。…おい、小童!確か…」

「エルゼスだ」

「そうじゃったの。エルゼスや。こうなっちゃどうしようもないから寛げる

所まで行くぞえ。こんな所いても時間の無駄じゃろう」

そう言い、エアリシドはエルゼスの腕を指差した後に、指差した指をクイと

上げただけで。ピンッとこぎみ良い音を立てエルゼスをしばっていた縄が

バラバラになり、地に崩れ落ちる。


エアリシドが立ち上がった際に彼女のスカートを少女が引っ張っていた。

エアリシドが少女の方を見ると少女はこういう。

「ぴあもいきたいー」

「行くのかえ?」

「いくのー」

文字通りの駄々っ子にエアリシドはため息をついた後


ぐわし


6本指の手で少女の頭をわしづかみにしセヴァルへ向けて投げ寄こした。



「キェアアアアアアアアアアアアア!か~わ~い~い~」

死屍累々となった生徒裁判開催場の扉の前。出てきた少女―ピアを見るや

瞳を輝かせたベルクにビクつき、ピアはエアリシドのスカートの後ろへ

隠れた。エルゼスは何とも無しにこう思ってしまった。


(もしスウィーツに足生えてりゃセルアに対してこんな風に動くんかね)


そう身も蓋もない事を考えていたエルゼスをよそに、隠れたピアをわざと

遅く追い回すベルクを見たエアリシドが当然のように笑う。

「カカ、嫌われてからに」

「ひ、酷いです女王様!?」

「あえて言おう、妾は悪くないと!」


ベルクの言葉にエアリシドは握り拳を作り断言した。どこか急にやりだした

彼女のわざとらしい姿にエルゼスは尋ねる。

「言う通りッスけどその心は?」

「うむ、たまには威厳ある態度を見せる練習は欠かさずやっとるのじゃけ。

ふと出た際に抜かりはなかろうよ」

そう言い、セルアの半分程度の大きさの乳房を持つ胸を張った。


エルゼスの前にいる魔の女王も羽型の光や耳にそって真横に伸びるものと

前髪の後ろの4か所から4本生えているよう見える角に6本指の手と、

一見するとバケモノじみた特徴に目が行くが。細い腰回りに10代後半の

少女らしい魅力を十分なほど持った体つきに着られた服装もしっかりと

していた。そんなエアリシドを見てエルゼスが思った事は1つだけだった。

(何か色々と手遅れじゃね?)

「ム、何ぞやエルゼスよ。細い目して人の方まじまじ見おって何を思うた」

「……人でさえねーですし」

「そう言って露骨にセヴァルへ目の向き変えおってからに」


そんな会話をしているエルゼスとエアリシドを交互に見比べて、ベルクが

声を上げる。

「ああ、お姉さんの丹念に真心込めて縛り上げたエル君の腕が!」

「真心込める所間違ってるよな?」「真心を込める理由があると…?」

「あ、先輩…?」

「ああ、すまないな。流石に少し中てられていたよ」

「ヒビキちゃん、大丈夫?まだ少しだけ顔色悪いよ?」

「そんな仮にも年下の友に心配をかけ続けるわけにはいけないからな…」

そういうセルアとヒビキを見ながらエルゼスは内心でこう思う。


(先輩にはもう少しだけ、気分悪くなってて欲しいと思うのは失礼か?)


このままセルアの意識がヒビキの方に行けば、余計なもの―セヴァルを

見ないですむだろう。今のセルアはエルゼスから見てもまだ不安定な感じが

分かった。先ほど、エアリシド―もとい隣のセヴァルを見るセルアの目は

どう見ても人を見る目では無かった。邪魔になるようならまるで道端の石と

同じように蹴とばす行動もするだろうモノを見る目。そういう目をあまり

セルアにしてほしくないとエルゼスは考えていた。


そしてそう考えつつ2人を見て、エルゼスは罪悪感で気が重くなるのを

しかと自覚していた。エルゼスがここまで気を許している2人は間違いなく

嫌いな貴族と言われる種類、そのもっともたる筈の令嬢―しかも片方は

異国の姫であるという可能性さえある―なのだが。


(少なからず同じ部分があるからとか思わねえと理由にならねー)


セルアと同じ復讐者だからこそ、そう思うエルゼスだった。そんな中で。

エアリシドは女兵士のベルクに話しかけていた。

「フム、時に衛兵よ。すぐ上の階じゃが主らも行くかえ?」

「主ら…といいますと先輩の方と共にですか?それは絶対に無理であります

女王陛下」

エルゼスはふと、ベルクの方を見る。いつもの中央から一本だけ自己主張を

するよう生えた髪型で何か受信しているような彼女らしくない誠実さのある

冷静な答えだった。


「今日私たちの午前中に行う任務はあと1つ、この部屋からの退出者全員を

確認するまで警備を15分の休憩を挟みつつ続けることです。そしてその

15分休憩も先程交互に取った今、ここを離れる理由は無くなりました。

突然のトラブルに私がトンデモな状態となったとはいえ、既に過去の事。

陛下からの直の命令で無い以上責務を放棄する理由にはなりません」

彼女と同僚の先輩が守る扉の中では今も濃い濃度で満ち溢れた魔力の霧に

中てられているだろうイアシェ家の人間と裁判官達がまだ出てきていない。

魔力の霧はそこまで心身共に影響するわけではないので、小一時間もすれば

彼らも多少の気分の悪さはあれ普通に室内から出てくるだろうが。


「フンム。…そうじゃ、手当てがあればよいかえ?」

「はへ?」

「先程お主に降りかかった事故をそのまま流すのはどうかと思うての。

まあ、後で書類1枚をつ手に渡そう事にするぞえ。出来ればあまり遠慮せず

もろうてくれ」

「あ、ありがとうございます?」


そう疑問ぎみに感謝を言ったベルクへ「善きに計らえ」と残しエアリシドは

エルゼス達に向かい、付いてくるよう促した。


「よし、ついたぞえ」

「「「あれ」」」

入った先にあったのは部屋とはいえない椅子1つさえない空間だった。横の

長さこそ長いものの奥行きは2レープ程しかない小さな間。扉を開けた後

エアリシドが言った言葉に、エルゼスとセルアとヒビキの3人が同じ反応を

してしまった。セヴァルはこの空間の手前である、エルゼス達が入ってきた

扉の隣にて直立待機をエアリシドより命じられている。少女のピアも含め

4人の目の前にあるのどう見ても変哲が無いただの城壁。女王はそこが

自分の部屋だという。


「?」と首をかしげているピアをよそに、3人で話しながら空間内の眼前や

横のはしにある壁を見―

「―…まさか?」「可能だとは思うが、女王陛下。あなたは…?」

ヒビキとエルゼスは顔を合わせ言った後にエアリシドへ同時に目を向ける。

エアリシドはそれに「ウム」と満足げに2人を見て笑った後、城壁の一部で

ある筈の壁に触れる。すると


バァアアアアッ


まるでそこにあった城壁が影も形もなくなり大きな広間が現れた。奥には

玉座が数段薄くできている段差の上に置かれており、部屋の両端に縦長の

窓が付いている。牙か翼のような何かを下から生やしたダイヤが描かれた

この帝国の国旗が8つほどつるされている。天幕も奥に2重ほど張られて

いる、そんな王の間だった。その広間を見せた本人はこう言う。

「カカ、これは一見してもそう簡単には気付くまい?何せ悪戯程度でも

妾の魔力が使われてあればこの程度はのぅ。ちなみにこれは魔法で言う

希少種類とこの央都を上空から映した地図。それら2つをしかと覚えとる

者のみが気付けるというのがカラクリじゃが…」

「みどりのおねーちゃん、かおからみずでてるよー」

「あははー、勉強足りません…」


「まあ苦しゅうない。昼くらいまで寛いでゆく事を許そう」

「わーい!!」

玉座前の段差に腰かけそういったエアリシドの言葉を聞いて、ピアは元気に

大きなこの王の間を駆け回り始める。それを4人(?)で見ていると、ふと

セルアは思い出したように言う。


「あ、そうだ。ゼス君…」

「…どしたよ?」

半ば構えるようにエルゼスは言ってしまった。相手がセルアだった為気には

していないようだったが。

「うん、さっきの事があった今更だとは思うけど…」

問題はこの後彼女が言った言葉だった。

「幻滅したでしょ?」


場の時間が止まったように固まる。生徒裁判の前。あれは人生の半ばを共に

過ごした幼馴染みのヒビキも知らなかったセルアの暗部であり―彼女の身に

【何かが起きた始まり】でもあったのだろうから。

「あたし、前にも言ったけどあんな風な事ができるなんて思わなかったよ。

そして、あたしにセヴァル(あの男)がどうにかできるなんて昔も今も全く

思わなかったの。でも、あれを壊すと思う為に生きて来たのも間違いなく

あたし自身なの。それともう死んだ身ならと、お姉さんに遠い昔願ったのも

あの時思い出せちゃったんだ。だってもしこのまま―」


この先言う事は誰もが分かる。セルアから黒いモヤを受けて人と違う生物の

異形を手にした女兵士のベルク。そしてそれを持つセルアは前々から―

最後の言葉が紡がれる前に、エルゼスは口を出した。

「お前はさ…」

「え?」

「言い方が変だけどよ。セルアは…まだお前自身のままだろ?」

それがエルゼスが今見ているセルアの現状だった。

「なら幻滅も何もあるがままだろーが。泣きべそかいて慌てて目ん玉回して

でもってきれいなモン見た時は輝くくれーに踊って笑って。復讐する過去に

真っ黒なツラしやがって。全部ひっくるめてセルア、お前じゃないのか。

前も言ったけど綺麗なままの人間なんざ、そういるかよ」

「ゼス君…」


「それに幻滅なら既にしてるぞ。スウィーツやら俺の目を気にしないで尻も

晒した花畑な頭とかでな」

「ふえっ!?!!??そ、な、そんな、そんなの言うなら!あたしが生涯で

集めたスウィーツ一杯入ったセットをゼス君の口に意地でも放り込むもん!」

「そうなる前に俺は逃げるぞ。どんな手を使おうが口にすら付けねえ。

何としても、だ」

途中から顔を真っ赤にしたセルアと冗談で話をそらしたエルゼスがする

痴話喧嘩を


によによによによによによ


途轍もなくにやけた顔で2人を見ているエアリシドがいた。ヒビキも何故か

いつも以上に優しい顔を作っているように見える。エルゼスは考えた末に、

どうしたのか尋ねる事にした。

「何ですかい?」

「ウム、これが若さかと主らを見て思い出していた所じゃよ」

したり顔で言う、己の国の女王が言う事を理解できず。

「…?」

エルゼスは首を傾げて考える。この魔族が言っている意味が出会ってから

初めて理解できなかった。そんな表情したエルゼスを見るエアリシドの顔が

絶句するような表情になり、こう続ける。

「こやつ、本当に男かえ?よもや…」

「ええと?ゼス君ですから~」

「彼だから仕方ありません、エアリシド陛下」

「…何だ、何納得してんだ?」

「おにいちゃんざんねん~?」

エルゼスが振り返るといつの間にか4人の誰かに飛びついておどかそうと

忍び寄っていた幼いピアがいた。今の会話を完全に理解していたのはたった

2人だけだった。



そんな感じで取り留めもない話をし数十分後。飛んだり走ったりと遊び回り

疲れたのか寝てしまったピアにセルアが膝枕をしている中で。ヒビキは

エアリシドに疑問を投げる。

「女王様、あなたは一体どういった者なのだろうか?」

ヒビキとセルアにエルゼスが会ったこの帝国の中枢の中の中心。ヒビキの

父が確認する書類の中だけの人物。それがヒビキの知る帝国王妃の存在。

いくら知ろうとしても話はそれこそ文字通り雲をつかむような話ばかりで。

どれが本当かどころか、先程会うまで全く見当がつかなかった。しかし。


ヒビキは彼女の存在を知っていた。書類にある著名で。誰かが偽名として

使っている可能性もあったがこの目にその女王を見た。だからこそ彼女は

未来に彼女の持つ帝国の友好国の未来を手にするだろう人間として知ろうと

思ったのだろう。そんなヒビキの言葉を聞いた魔族の女王は1度頷いた後、

遠くを見る目で語り始める。

「話をすると長くなるのじゃがの。【妾は親を持たなんだ】」

「親を…持たない?じゃあ何から生まれっていうんですかい?」

「否、妾に親はおったか。尤も、全ての根源である【それ】を親と呼んで

いいかと妾といえども疑問には思おうな」


「【それ】が一体何だったのか。突き詰めれば…ほれ、万象という便利な

言葉を主らは作ったのぉ。その万象とやらから生まれ、今まで1度たりとも

滅びず生きているといえる存在。つまるところ―妾は【自我を持った魔力

そのもの】であるのじゃけ」

その言葉にピアを除く3人は息をのんだ。ヒビキもマイクスの魔力が自我を

持つという持論は聞いていたらしい。かの老人の持論は今エルゼス達の目の

前にいる彼女によって確かに実証されているのだ。


「ただ、万象と呼べる【それ】が初めに作ったものがおる。それが自然や―

主らの先祖に当たる者達じゃよ」

女王は朗々と語る。この国を作った意味を。

「妾は【2番目】じゃけ、初めに生れた【主ら】には敬意を払う。それは

今も変わらんよ。だからこそ―な。妾に国を作れなどと願い出たあ奴らには

本当に笑わせとう貰ったわ。こんな今も際限なく様々なガラクタを詰める

おもちゃ箱でも、少しは居心地のいい思いをする者があればと、な。作り

始めた時は妾とて目回す事もあった。しかし―」

そして最後にこうしめた。

「妾はこれを作って本当に良かったと思うとるよ。細かい事を任せっきりな

少し添えるだけでもいいのじゃけ。おかげでレパールの一声と扱われよう

恥ずかしさも少しは慣れたけぇの」


「凄い…」

呟いたのはセルアだった。エルゼスは彼女の目に覚えがある。初めて央都の

秘密場所でエルゼスとあった時と同じ宝石を見るような輝く目を。全く変わる

事が無いかのようにセルアはそんな目でエアリシドを見て言う。

「凄い、凄いです…!えと、女王様!」

「フンム」

「あたし、あなたに会えて本当に良かったです。あなたという存在を見れた

事を一生大切にします」

そんな真正面から嬉しい事を言った帝国の令嬢に「クカカカカ」と恥ずかしく

笑った後、エアリシドは天井見る。そこには空の星星を内部に吊るした無数の

電灯で表現し、円状の液晶膜を付けた巨大な時計があった。それを見て口元を

釣り上げた後、彼女はエルゼスに声をかけた。


「エルゼスや」

「何ですか?」

「主は3人目じゃ。これまでの人生でいくつも煌めくものを見て来た妾だが

人生で3番目に妾を心の底から笑ってしまえる瞬間を作ったのは、主じゃけ。

だからな―」

エアリシドは左手の親指と左から3番目の指―人で言う所の中指だろう―の

はらを付けると


パチン


指を鳴らす。


パキィニィャァアオ!

「「「!!?」」」「…?」

余りの大きな音にピアが薄く眼を開いた。その大きな音と共にいきなり現れた

紫色の薄い壁がセルア、ピア、ヒビキとエルゼス、エアリシドの2組みへと

部屋を分担した。

「………!……………………!!」

セルアが口を開いているが音が全く通じない。エルゼスにはセルアが何を

言おうとしたかは理解できたので、原因であるエアリシドの方を見る。彼女は

どうやら壁を作りながら立ちあがったらしい。そしてエルゼスの前まで悠々と

歩いてきながらこう言う。

「何て事は無い。少し付き合わんかえ」

「…付き合わせるつもりしかないと思うんッスけど」

「そう言うな。何、こ奴らはどう足掻こうと、よほどの事でもない限りは

安全じゃけに」

そういうエアリシドから視線を外し、エルゼスはセルア達が軟禁された方を

見る。


「そんなに心配かえ?やろうと思えばお主一人で破れるかもせんが、それは

無粋と言わせて貰えんか?」

「なら…どうしてこんな?」

「ほれ、主らで言う所の何じゃけに…そう、軍高!ティスフィーブルじゃ!

結局さぼる事となっておろう。あのような茶番劇で大切な学園生活の時間を

無駄にするのも億劫じゃし、これは課題とせい。この障壁、破れるようには

しかと作っておいたからの。妾とエルゼスが帰るまでに何とかしてみせい!

出来なかったら少々不甲斐ないぞえ!…のう、アカナチの姫よ」

障壁に触れながらエアリシドは言う。聞いている間少しずつジト目になって

エアリシドを見るヒビキとセルアだったが。最後の言い分を艶やかに微笑み

言ったエアリシドの言葉に、目を見開く事となったのはヒビキだけでは

無かった。エルゼスもエアリシドを正面から見て言う。


「分かっていたんですかい?初めから…?」

「小僧やセヴァルに仕事を丸投げしたとて、友好を結んだ国の事は知らな

あんまりじゃけえの。書類には必要があれば目も通し判を押さねばならん。

己が王であることを忘れるのはあ奴らに対し余りにも不敬じゃけ…と些末な

事はこの辺でよかろう」

エアリシドがエルゼスの質問に答えながら部屋を出、手を自然に引っ張り

来たのは部屋外の大きな窓だった。ただ、時折ある開け窓のようで、下に

何か留め具が窪みと共に付いていた。その窪みをエアリシドが押すと、音を

立てて窓が開く。そして窓の外を少しのぞいたエアリシドは頷いた後―

「せーの、で行くぞ!せーの、ほいっと!」

「あ?何を、ま、ちょおおおいいいいいいいいいいいいいい!?」

エルゼスだからこそエアリシドの突拍子もない行動に反射で付いていけた。

2人は窓の外へ身を投げた。それをセヴァルはいつも通りの直立した状態に

無表情で見送っていた。



「ほれ、ここじゃ。いい眺めぞぉ」

「言わせて下せえ」

「ウム、許そう」

「さっきの、他の人にはやる前に説明しないと心臓麻痺って死にかねないと

思いますぜ」

「主がそのように軟弱じゃったら呆れとるわ!クカカカカカカカ!」

(信頼に胡坐かいてるようにしか聞こえねぇー…)

こんな事は仮に口がさけても、今目の前にいる女王にエルゼスは今は仮に

逆立ちして空を飛んでも言えないわけだが。彼女が自分に見せたいもの―

城から見える央都の風景を見渡す。恐らくこれは他でもないエアリシドの

宝物だろう。先ほどエアリシドを見つめたセルアの目の輝きに感じるものが

あったのか、それとも初めからエルゼスをここに連れて何かしようとあの

茶番劇の間にでも考えていたのか―


(こんな所に連れ回して、オレ程度の人間に何さらそうとしてやがる?)


そう考える中でエルゼスは手を取って前を行くエアリシドに話しかける。

「以外と歩きやすくなってますかね?」

城の屋根が階段状になっており、普通の人間が歩くように作られている。

その言葉に気を良くしエアリシドは言う。

「うむ、そう願った通りに作ってくれたのじゃよぉ。飛びながらこの央都を

見回すのもいいかて、このように見渡し方を選べる楽しさもまた、のぅ。

本当にやることなすこと、主らは見事に作ってくれおるよ」

「その割に人のやることには口を努めて出さないようにも思えるんですが」

「カカカ!なあに、妾の気持ちは単純じゃよ。楽しければええんじゃけに」


央都の町を前に、外見相応の少女のようにクルクルと踊るように回って

はしゃぐ。彼女の精神は口調こそ老人のそれだが外見相応の少女のようだと

エルゼスは感じていた。そんな中で、エアリシドが移住・商業区を背に

足場の端で立ち止りエルゼスの方へ振り返る。その瞳に、思わずゾッとした

輝きをエルゼスは見た。エアリシドはそうある事も気にせず言う。

「では、エルゼス・クォーレ。お主に妾の生涯で少ない…本当に少ない

【お願い】をさせてくれ」


ブワッ!

途轍もない魔力が吹き荒れる。エルゼスは渦巻く魔力の圧力に耐えながら

エアリシドが何を言うのか聞く感覚を魔力で鋭くする。しかし―聞こえた

内容は案外はっきりと聞こえた。


「―妾と戦れ」

「は?」


エルゼスが返せたのはそれだけだった。次の瞬間


ガォオン!!!!!


大砲が砲弾を発射したようなのに近い音が響き、エルゼスはエアリシドと

組み合っていた。ギリギリで間にあったのだ。もし、


「クククカカカカァ、いい反応だぁ」

「ガァ…!?」

(オイオイ何だってんだ…!?冗談になってねえぞ…!!!?)

エルゼスの理解が追いつかないままに


ミシミシミシミシミシ!!!


力で完全に城壁まで追いつめられる。腕も悲鳴を上げていた。エルゼスに

向かってこの央都の城そのものが向かってきているような錯覚さえする。

それくらいの質量に【調整されているようにエルゼスは感じていた】。まず

考えられないが、頭がそう感知している。あからさまに手加減されている。

そう脳が把握している。エルゼスは内心で歯噛みした。これはエアリシドに

とって、【戯れ】なのだと言う事をエルゼスは知ったのである。


そんな気を知ってか知らずか、エアリシドはエルゼスに蹴りを入れてくる。

エルゼスも気合で迎え討つべく、振りかけたエアリシドの蹴りの形に伸ばした

腿を踏みつけるように足を入れる。


バン!!!


吹っ飛ばされたのはエルゼスの方だった。ただ、これはエルゼスが考えた

通りだった。吹っ飛ばされた先は同じ王城の瓦の上。これで何とか距離を

取れたとエルゼスが安堵するが。

「ほれほれ、休んどる暇などないぞ!」

上から聞こえた声に反応し、エルゼスが後ろへ飛ぶと。エルゼスがいた所を

エアリシドが殴りつける。傍から見れば全く当たる者の意を汲んでいない

垂直降下攻撃だった。


ドゲァ!!!


城の屋根に数レープ大の穴があく。パラパラと残骸が下へと落ちていくのを

エルゼスは見た。1階にあるだろうこの屋根の下を心配している暇はないが

エルゼスはあえて尋ねた。

「アンタ、城どうするんだよ?仮にも自分が持つ国の民が作ったもんを…」

「ウム?…クククカカカ!何、央都な技師達はみな優秀じゃけに。そんな

些事よりもこんな楽しい事の方を優先するに決まっとるがや?…と?」

「…―?」

この時、ただでさえ目の前にいる襲ってきた魔族の女王に意識を集中する他

エルゼスは周囲を気にする余裕がなかった。むしろあったら先程の一撃で

死んでいたかもしれない。そうなる前にエアリシドは拳を止め失望し白けた

顔をエルゼスへ向けていたかもしれないが。だからエアリシドが上を見ても

彼女へ視線が外せなかった。だから


ヒュンッ


突然上空より降下し、エルゼスの右腕に何かが収まる感覚が急にきた。

そこでエルゼスは初めて右腕の方を見る。それは。


「ソル・ヴォルグ…!?」

「ウム?」


エルゼスがそう名を付けた聖遺物―アルクだった。


ヒュウィーカチャ


そんな音と共に留め縄を射出し自らをエルゼスの右腕へ括り付けたアルクの

液晶画面に次のような文字が表示される。


―Emergency・Reaction?―


「お前を使えって事か…?」

まるでエルゼスの呟きに応えるように液晶画面に文字が表示される。


―Order・Consent!―

ジャキシュゥ…!


エルゼスを中心に左右に浮いていた三角形型の積み木部分の穴から光の刃が

伸び出た。それを見て、エアリシドは笑みをいっそう深くする。


「いいぞぉ。何でも使え、そして妾の戯れに応え楽しませて見せよ」


逃げ場はない。まるでそういうように6本指の手を顔の斜め前へ掲げながら

口の両端をあらん限りの歓喜で釣り上げ。魔の女王は平民の青年に牙を剥き

笑うのだった。


【act12へ続く】


補足というよりは余談であり、次actのネタバレとなっちまいますが

エアリシド陛下の生態は世界に満ちる魔力が純粋に意思を持ち形をなした、

というので体形はどのような形にも可変が可能です。ボンキュッボンな

自分の大好きグラマー風にも、ロリぺロしたいおロリぺロなあなた方の為に

ペターンなまな板風の幼女形態にm(ドグシャァ


あ、後は陛下のセリフに脱字みたいのがありますが決して脱字では

ありません…どこなのか皆で探してみよう!(←


次回が終わったら、この作品のゲーム風の要素としてあるデータの表を

投稿したく思います。それで時間を稼ぎつつ…(←


実を言うと【あいつ】の完成度は現時点で6割以上出来てます。できたら

イラストと同じように投稿する可能性も…そんなこんなで次回予告です。


次回も1週間前後で投稿予定ですのでお楽しみに!


―次回予告―


まさかの呟きで【戯れ】は意外な方向へ展開する。


「俺って…化け物にはいつも苦い思いさせられるよなあ…」

「ム?」


呼び起こしたのは青年、そして笑ったのは目の前の女王か、それとも


「そうか!そぉおうううかあああ!!残滓から手にした記憶におったあの

赤毛の娘のとなりにおった小僧かあ!クカハハハハハハハハハ!」


プツン…ゴクンという音と共に。かつての脅威が立ちはだかる。


「囲め…そして止めろ!」


「アニ?」


奮戦の果てに現れた者は告げる。


「15年。あの時よりもうすぐ15年となる。その前にさえ忘れたと、そう

申されるのか。あなたという方は?」

「むぅ、意地悪じゃの。覚えとらんわけ無かろう。主らと交わした約束と

これとは全く別の問題じゃきに。まあ、これ以上は戯れが過ぎるかえ」


戯れの終局。城で起きた小さく大きな邂逅と騒動が行き着いた先は


「…何かすげー不機嫌そうなツラッスね」

「おんどれ!!」


次回act12:来るは記憶「追憶と」


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