牢屋のち化け物
「はっ!」
清隆は目が覚めた。
ガバッと起き上がる。
目の前にはまったく知らない町並み。
まったく知らない場所だった。
「ここはどこだ?確か俺はタイルに足を取られてそれで・・・・・」
一気に顔色が悪くなりました。
清澄は自分がどうなったのか思い出したようですね。
まぁ、ショッキングな感じでしたし。
「俺は生きているのか・・・・生きているのか?・・・・・それにしてもいい天気だな。天気予報は雨だったはずだけど」
試しに頬を引っ張った。
その部分が赤く腫れ上がる。
さらに目をこすっている。
「夢じゃない・・・・・生きてる・・・・よかった~ようでよくないような・・・・マジここどこ?」
途方にくれている清澄。
その時、目の前から大勢の人がやってきた。
なんか鎧を纏った人たちだ。
「おーい、すみませーん」
清澄は立ち上がって呼んだ。
だが、帰ってきたのは言葉ではなかった。
目の前に突きつけられた槍。
「ひぃっ!じゅ、銃刀法違反!」
一応法律の勉強していたんですね。
確かに銃刀法違反だ。
ここが日本だったら。
「貴様、何者だ。見たところこの国の者ではないな」
声をかけてきたのは男のように低い声をした人だ。
顔は兜で見えなかった。
「いや、俺は上越 清澄っていうんだけど・・・・ここどこ?学校は?」
「学校?何を言っているんだ。まったく、最近忙しいって言うのに・・・・牢へ連れて行け」
『はっ!』
「え?ええ?」
ガッシャンッ
鉄の棒が並んだ密室の部屋に連れ込まれました。
清澄は状況が飲み込めずポカンとしています。
しばらくして我に返った清澄は急に何かを考え始めました。
そして、
「俺は無実だーーー!」
と、叫んだ。
すると、牢を監視している騎士が来て言った。
「うるさいぞ!黙っていられないのか!」
「いや~、牢屋ってなるとまずはこれをやっておかないと損かなって」
「お前変な奴だな」
飽きれた鎧男は再び監視の仕事を再開する。
清澄は暇なのかしつこく騎士に話しかける。
「なぁ、ここってどこなんだ?」
「そうだな」
「なぁ、飯って何が出るんだ?」
「そうだな」
「トイレってどうするんだ?」
「そうだな」
「ここって携帯電話圏外なんだな」
「そうだな」
「あんた変態だな」
「そうだなって違うわ!」
あまりにも返事が適当だったので遊んでしまったのですね。
ただ、今の状況でやっていることではないと思われます。
普通の人だったらパニックになっていると思います。
その時、他の誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
さっきの男のような低い声の鎧の人だ。
「出ろ、国王がお待ちだ」
「国王ねぇ・・・FFみたいだななんか」
木と鉄で作られた腕かせをされたまま連れて行かれる。
清澄は田舎から都会に来た人のようにキョロキョロと周りを見回す。
たまに居ますよね。こういう人。
「なぁなぁ、ここってどこなんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
無言。
とにかく無言だった。
先ほどの人より面白くないと感じたのか、口笛を吹いて挑発した。
だけどそれも無視された。
「そんな感じだともてないゾ♪」
「ほっといてくれ」
軽くあしらわれた。
しばらく歩くと大きな扉についた。
扉がゆっくりと開く。
そこにはびっしりと並んだ騎士たち。
中央の奥には立派な王冠をかぶった偉そうな人物。
きっとあれが国王だろう。
「国王様、不審者を連れてまいりました」
「うむ、ん~名を名乗られよ」
「上越 清澄、15歳でーす」
「貴様!無礼だぞ!」
怒られちゃいました。
「よいよい、お主は一体どこから来たのだ?」
「いや~、それがわかんないんですよ。気がついたらここに居たって感じで」
「うむ・・・・よいぞ、首を撥ねよ」
「はっ!」
「え?ちょっ!ええ!」
腰の剣を抜く騎士。
慌ててその場から遠ざかろうとするが手かせの縄を引っ張られて逃げれない。
何とか逃げようと引っ張るが、鎧と人の重量を簡単には引っ張れない。
「往生際が悪い!おとなしく首を撥ねさせよ!」
「誰がおとなしく殺されるかっての!俺はまだ死にたくない!」
「ええい!誰か押さえろ!」
『はっ!』
他の騎士が清澄を取り押さえる。
さすがの清澄も身動きが取れなくなった。
「離せ!俺は死にたくない!死にたくないんだー!」
「はぁっ!」
剣が振り下ろされた。
清澄の首が落ち・・・・てない。
よく見ると、手かせで防いでいた。
「ちっ」
「ちっ・・・じゃないよ!危ないだろ!」
「殺すのだから危ないに決まってるだろう」
キラッと剣が振り上げられる。
清澄はじたばた暴れるが、意味なし。
「さらば!」
振り下ろされようとしたその時、扉が勢いよく開かれた。
入ってきたのは大きな熊に似た化け物だ。
腕は四本生えていて口は耳元まで裂け、まるで口裂け女みたいな顔になっていた。
鋭い爪に厚い毛皮。
さすがの清澄も冷や汗がだらだらと流れていた。
「えっと・・・・・お知り合いですか・・・・?」
「お前、私たちがあんな化け物と知り合いなわけないだろう。あれは使徒だ」
「使徒?まぁどうでもいいですけどこれ取ってください」
清澄は手かせを見せる。
ていうかいつの間にか取り押さえていた騎士が居なくなっていた。
逃げたんだな。
「鍵が持っていかれた。自分でなんとかしろ」
「んな無茶な」
「皆、国王を守るのだ!」
『はっ!』
全員が国王を守るように陣形を取る。
先ほどの騎士が剣を構えてジリジリと熊らしき使徒に近寄る。
他の騎士は国王を守る陣形と取っているように見えたが、普通に脅えていた。
当然でしょう。なんたって相手は化け物なのですから。
「グルォオオオオオオ!」
「はぁっ!」
熊が吼えた瞬間に剣を袈裟懸けに叩き込む騎士。
だが、騎士の攻撃は四本の腕の一本の爪に止められる。
「せやっ!はっ!せぇや!」
袈裟懸けから刃を返して横なぎ。
さらに逆袈裟懸けからの切り上げ。
見事だった。だが、全て四本の腕の爪で止められた。
一本対四本じゃ、分が悪いですね。
「グルァアアア!」
熊が右上の腕で攻撃を仕掛けた。
騎士はその攻撃を剣で受ける。
だが、それでは右脇ががら空きだ。
熊の左下からの攻撃がとんでくる。
「あぶなーい!とうっ!」
清澄は騎士の頭(兜)を腕かせと腕でできた輪で引っ掛けて後ろに飛ぶ。
そのまま後ろに倒れこんだ。
爪は騎士の胸部の鎧を弾き飛ばすだけで済んだ。
「貴様、一体何のつもりだ」
「うっせぇよ。危ないから助けてやったってのに」
「誰も頼んでいない!」
「はいはい、子供じゃないんだからそんなこげふっ!」
悠長に話していると熊が腕で清澄を弾き飛ばした。
清澄はそのまま壁に激突して地面に倒れる。
「お、おい・・・・大丈夫か?」
「・・・・・大丈夫だ。問題ない」
顔を上げて親指をグッと立てた。
頭からは血が流れていた。
「明らかに大丈夫じゃないよな!お前こそ子供みたいな意地はってんじゃねぇよ!」
「でも、これで何とか手かせが取れて楽になった」
清澄の手かせが粉々に砕けていた。
清澄は熊の腕で飛ばされただけで爪は運よく手かせに当たって砕けたのだ。
強運だったのですね。
「さぁて、後はがんばってください」
「てめぇ!手伝わないのかよ!」
「・・・・・・・・・・・あ、ああ、大丈夫ですよ。ちゃんと名前覚えてますから」
「お前完全にやばいだろ!明らかに今、目がうつろになってたぞ!しっかりしろ!」
「グルォオオオオオオ!」
痺れを切らした熊が騎士に襲い掛かる。
騎士はそれをギリギリで避ける。
清澄はと言うと、ふらふらしながら壁にかけてあった刀に手をかける。
「そ、それは代々この国に伝わる宝刀!この国では誰も使えなかった代物じゃ!お主みたいな輩がつかえるものでは」
そんな国王の言葉なんか聞こえないかのように(実際は聞こえていない)刀を抜く。
この刀は日本刀。
日本に伝わる伝統の武器。
この国では剣を主流に使っているから誰も使いこなせなかったのでしょう。
なぜなら、刀は剣のように叩き斬るではなく、斬り裂くのだから。
「今助けにいくぞ~」
フラフラしながら近づいていく。
途中躓いてこけたりするが、それでもゆっくりと近づいていく。
「そんなにフラフラじゃ使い物にならん!来なくていい!つーか来るな!あっち行け!」
戦いながら命令する騎士。
一人で戦う姿は勇ましいですね。
それに比べてフラフラの清澄。だらしないですね~。
「グルォォオオオオオオ!」
熊が四本の腕で同時攻撃に出た。
騎士は後ろに跳んで避けようとする。
だが、
「キャッ!」
足を絡ませてこけてしまった。
だが、そのおかげで間一髪でよけることができた。
だが、熊の追い討ちがかかる。
全体重でのプレス攻撃に入った。
「くっ!ここまでか」
鎧をつけているせいですばやく動くことができない騎士。
熊のプレスは簡単に鎧をぺしゃんこにしてしまうだろう。
騎士があきらめたその時、
熊に何かがぶつかった。
大きな何かが。
椅子だ。
立派な椅子。
騎士はどこかで見たことがある気がした。
国王の椅子だ。
熊はその椅子の重量で熊は軌道を変えられて、誰も居ない場所にプレスした。
「隊長!ご無事ですか!」
他の騎士が急いで隊長をそのまま引きずって後退させます。
しかも、ものすごい勢いで。
「お、お前たち」
「隊長を見殺しになんてできません!」
「グルァァアアアアア!」
『イヤァァアアアアア!』
他の騎士たちは隊長を思いっきり引きずって国王のところまで後退してしまった。
騎士でもこんなにも情けないとは。
これでは国王までの距離が縮まってしまう。
だけど、皆さん。お一人武器を持っている人を忘れてはいけません。
「これでいいだろ」
いつの間にか右の長袖を引き裂いて頭に巻いた清澄が熊と国王の中間にいた。
手で日本刀を軽く振って肩に担ぐように構える。
「さーて、行くぜ!最初からクライマックスだぜ!」
仮面ラ○ダーネタ出てきました。
確かモ○タ○スというキャラクターの台詞だったはずです。
「最初からクライマックスだと・・・・まさかあいつ強いのか?」
「グルァアアア!」
「ダックス!」
清澄は熊に顔面を叩かれて横に飛んでいく。
それを見ていた騎士たちの心の声は、
(あいつよえ~~~~~~)
「な、なかなかいいビンタだな。だが俺には効かんぞ」
頭から血が噴水のように吹き出ている。
どこから見ても大ダメージを受けてますよ。
目もうつろですし。
さっきの台詞はきっと自分が最初からクライマックスだという意味だったのでしょうか。
(やべぇな。血が足りなくなって考えることができねー。きっと死相もばっちりなんだろうな。般若心経唱えれるぜ)
やばいのか余裕なのかわからないですね。
まぁ、これが清澄と言う男なんでしょう。
そんなことを思っているうちに熊が突進してきました。
右上の腕を伸ばしたままの突進。ラリアットだ。
「くそったれパンダめ!」
熊です。いや、実際は熊でもないのですが。
清澄はその腕めがけてまっすぐ振り下ろした。
なんということでしょう。
熊の腕が綺麗に切断されました。
青い血が吹き出る。
そして、刀からは水がほとばしる。
その水は刃についた血を洗い流した。
それを見ていた騎士達と国王はびっくりして兜を取り外して見ている。
「グルゥゥウウウウウ!」
熊も怒ったのかよだれを撒き散らしています。
しかも、目が完全に清澄を捉えています。
「はっはっは・・・・・そんなに怒らないでくれよ。わざとじゃないんだから」
「グルァアアアアアア!」
再び襲ってくる熊。今度はまっすぐ左上の腕を突き出してきた。
清澄はフラフラしながら走る。そして、こけた。
足に力が入っていなかったのだろう。
膝から崩れて赤い絨毯倒れこむ。
その際に刀が腕を真っ二つに斬り裂く。
なんというミラクル(奇跡)。
「あはは・・・・お花畑がみえるよー。綺麗な川だなー」
半分死にかけてます。
渡ったらダメですよ。
それ三途の川ですから。
「グルルルルルル」
倒れた清澄に熊の右下の手が振り下ろされた。
清澄が動くことができない。
絶体絶命。
だが、その腕は清澄に振り下ろされることは無かった。
なぜなら、
「おい、起きろ!こんな中途半端で死なないだろ!」
なんと、さっきまで戦っていた騎士が攻撃を防いでいた。
清澄は顔を上げて不気味に笑う。
「まかせとけ~。ばっちり決めてやるぜ」
「血だらけで死相がでてる顔で笑うな。気持ち悪い」
「ひでぇな~」
清澄は立ち上がって日本刀を高く掲げる。
叩ききるのではない。
斬り裂く。
両手で掴み、腰を落として振り下ろす。
時間が静止した。
「グルルル・・・・ルル・・・・」
ピッという感じに熊に縦線みたいなのが入る。
そこからゆっくりとズレ、最後には青い血を噴出しながら真っ二つになる。
国王とそのそばに居た騎士たちSAN値が下がったに違いありません。
そうそう、死にかけの清澄はと言うと、
「あははー最近のグリズリーの血って青いんだねー。俺の顔も真っ青だ」
絨毯に倒れてつまらないことを言って本当に顔を青くしています。
失血して貧血を起こしているのでしょう。
あれだけ殴られたらひとたまりもありませんよね。
「まったく、貴様は一体なんなんだ」
声は先ほどと違い、落ち着いて女のような声だった。
さっきまで戦っていた騎士が兜を取った。
綺麗な金色のショートヘア。白く透き通るような肌。青い瞳。
まるで天使だっただろう。清澄にとっては。
「天使が迎えに来た~って、女だったん」
「ふんっ!」
「げふっ!」
清澄のみぞおちに拳を入れ、容赦なく気絶させた。
騎士は頭に手をやる。
すると、緑色の光がゆっくりと全身に広がる。
「すまんな。私の能力は意識がない人間にしか効かないんだ」
見る見るうちに傷が塞がり、顔色がよくなる。
しばらくして緑色の光が引いていく。
その頃には安らかな寝息を立てていた。
知らない世界に未知の生き物。
この先、清澄に待ち受けるものとは一体。