水底の王子様
感想もろもろいつもありがとうございます。
今回の話は純愛です。2作連続の純愛です。いいよね純愛。
ほんとだよ 純愛だよ
「………しくったなぁ〜…」
目の前に広がる青と背後の絶叫。眩しい太陽の光。それが地上で浴びた最後の情報だった。
「はい♡ダーリン♡こちら蒼玉海老をポポロ草で包んだ包みやきよ♡たべてたべて♡」
「ははは、ありがとう。………ところでその指の傷はなんだい??まさか?」
「……………勘のいいダーリンはきら〜〜〜い!」
ツンツンと脇腹を包まれながら苦笑して彼女が持ってきた包み焼きを切り分け彼女に差し出す。
その高貴な顔を膨らませてそっぽ向いていた彼女は途端に瞳を煌めかせて口を開いた。
「……ん、おいしい〜!ね、ダーリンどうして私の血入りのご飯食べてくれないの〜〜?一緒に、長生きしよ?」
「魅力的なお誘いだけど私は臆病だから君に飽きられるのが怖いのさ…。限りある生なら飽きられる前に君の腕のなかで眠れるだろう?」
「やだ……♡ロマンチックで素敵……♡」
うっとりと目を細め手を組む彼女─深海公主、あるいは『人魚姫』ルナーリアはそのままゆっくりと顔を近づける。
「でもね、ダーリン。私諦めないわ。だって私があなたに飽きるなんて絶対にあり得ないもの!それに、」
「あなた以上に誰かを愛することも、きっともうないのだわ。」
「あなた以外に、私を殺せる人もきっともういないのよ。」
「……しくったなぁ〜…。」
「ふふ♡ちゃんと責任とってね♡」
私の心臓、ちゃんと食べてもらわなきゃ困るんだからと蕩けるように彼女は笑ってその白魚のような手を伸ばし、ゆるりと頬を撫でた。
情けない話、彼女に匿われている自覚はある。
この昏く深い海の底、人間である自分が暮らすのに不自由のない場所を用意するだけできっと多大な労力と魔力が注ぎ込まれているだろうことは想像に難くない。
それもこれも、故郷で愚弟がやらかしたからなのが救われない。
「ダーリンの弟、私は嫌い!だってあの目!まるで私のこと物が何かだとしか思ってないあの目!!見るだけで魂が汚れるわ!…ダーリンとおんなじ青い目なのにぜんっぜんきれいじゃない!」
そう息巻いて腰に手を伸ばし、膝の上で怒る彼女を宥めたのは過去のこと。まだ自分が陸にいて、彼女がわざわざ人の足を生やして会いに来てくれていた時のことだった。
──昔から、弟に嫌われていたのはしっていた。
9つ下の、年の離れた同腹の弟。産後の肥立ちが悪く弟を産んだ時に母であった王妃はお隠れになってしまい、その頃の自分は王子としての教育を詰め込まれていたから悲しむ暇もなく、生まれ落ちた弟を構う余裕もなかった。
自分ですらそうだったのだから、国王として日々を忙しく過ごす父は当然泣くだけしかできない息子に気を使うことも難しかったのだろう。それでも時間を作っては弟にも、自分にも会いに来ていた。…よい父親だと思う。
自分はそれでいいと思った。王侯貴族というものはそも自分で子育てをすることはない。人に任せて、提出される紙面でどう成長しているのか確認するだけ。父は寧ろ子供である自分達を構いすぎだとすら。──弟は、違っていた。
弟と対面したのは弟が5歳の時。それまでも誕生日は祝いの言葉を贈ったり遠目から顔を見たことはあれど、対面したのはその時が初めてだった。
ひどくつよい目をしていた子どもだった。この世のすべてに怒りを覚えてるような、憎悪しているような、信じられるものなど一つもないと言わんばかりの、つよい目だった。
「……しくったなぁ〜…。」
それが最初の感想。予想以上に賢く、想定以上に愛に飢えていたのが己の弟だと、一目で理解してしまったが故に。
弟は、兄である自分を敵だとはじめから認識していた。父の関心を奪う敵、周囲の関心を奪う敵、自分が、一番であることを邪魔する、敵。
弟の敵愾心は向けられる側からしても感心するほどのものだった。あれが欲しい、これが欲しい、兄上はずるい、兄上はそんなこともわからないのか、なんてよくもまぁそこまで人をけなすことができるものだとすら。
でも、9つも離れていたらされること事態は微々たるもので、父も早期に気がついたから対策などいくらでも取れた。──その『対策』のせいで弟は父すらも兄の味方をする!と拗れてしまったが。
弟のやらかしは年々ひどくなり、それでも周囲は弟を諌め、どうにかその天使のような容貌にふさわしい行動を上っ面でもできるようになったのは学園入学まで数年を切った頃だった。おそらく、婚約者候補から無理矢理ポニーを強奪しそれを勝手に処分したことを父に知られ手ひどく折檻されたからだろうが…。こればかりは婚約者候補の父君がとりなしたとて許されない行為だった。
上っ面だけの擬態。それでもあいも変わらず目はとても素直で兄である私を見る目はいつまでも熱い敵意の色に染まっていた。そして彼女──人魚姫と婚約したのを境にそこには侮蔑の色が混ざるようになった。
「あいつ!ホントにダーリンの弟なの!?ちっともにてないしちっともキレイじゃないし優しくない!」
本当に、血が繋がっていなければどれだけ良かったか。
弟は、愚弟の専横は止まらなかった。父が病に倒れ、公務で私が国を離れていた間に勝手に聖女と婚約して、婚約者候補の令嬢を切り捨てた。──令嬢は、現在行方不明。取り返しのつかない状況に焦って国に戻ったらこれだ。
「あいつ、帝国の差別主義者と繋がっていたわ!!許せない!!私の民たちが何人も狩られていた!絶対にゆるさない!」
国に戻った瞬間攫われ、目が覚めた開口一番がこれだった。勘弁してほしい。
気炎を吐く彼女をどうにかなだめ、話を聞くと弟は人間至上主義の帝国の主義主張に感銘を受け、人魚の血肉を帝国に売っていたらしい。本当にわけが分からなかった。
彼女の住む海の世界は残酷だ。人魚の一人や二人、消えてもサメかシャチに食われたか怪鳥にさらわれたのだと見過ごされる。でも、それは生きるための狩り。けして責めることはない。
「これが、これが生きるために私たちを食うために狩るなら許せたわ!でも!!あいつは、帝国は不死を求めて人魚を狩っている!帝国に海がないから!海のあるこの国で!」
「人魚を食べて不死になるなら海の生き物や怪鳥たちはとっくに不死で溢れているわよ!!」
そんな、初めて見るほど怒りに満ちた顔で、彼女は、──泣いていた。
だから、
あぁ、もう、いっか。なんて
ポキリと、なにかがそこでへし折れてしまったのだ。
「お願いだ、慈悲深い深海公主、美しく愛しきルナーリア。」
「死ぬまで、私が死ぬまで私のすべてを捧げよう。だから、」
「罪過を濯ぐための罰は愚弟だけで。どうか。」
「父と民には、この件を知らない、関与してない者たちだけは見過ごしてくれ。」
だから、帰る気もなく今もなお自分はここにいる。
「ねぇダーリン!あなたの国がそろそろきれいになりそうよ!」
「……そう、か。」
ゆるり、ゆるり頬を撫でられる。不思議と涙は出なかった。
自分のものになるはずだったものが崩れていく。それなのに涙一つ見せないなんて薄情だなと内心笑ってしまった。
「大丈夫よ、ダーリン。お義父さま…国王様のことはちゃんと私達が守るわ。私達が許せないのはあいつだけ。あいつとあいつと帝国をつなげた貴族だけだもの。」
「…そうか…………。」
バカな弟だ。本当に。なぜ人間なんかを至上とできるのだろう。世界は広く残酷で、人間が多種族より優れている点なんてそれこそ繁殖力だけだというのに。
目の前の彼女にだって、本来敵うことはないのに、──彼女を敵に回してどうして生きていけるのだと思えたのだろう。
「あのね、ダーリン。」
「私ね、ほんとはしにたかったの。」
「知ってるでしょ?たまぁに人魚には私みたいに死ねないこが生まれて、その人魚の血肉は本当に不死の妙薬になるんだって。」
「だから、貴方との生活も、陸で王妃になるのも、もしかしたら人間の国で生活してたら私のこと食べてくれる人がいるかもって、そう思ったの。」
「でもあなたがいたわ。…あなたが私の相手だったから、私生きたいって思ったの。」
そう、撫でていた手が止まる。顔を上げるとどこか恥ずかしそうに微笑んだ彼女の銀の瞳と目が合った。
「『君にとっては短い時間だろうけど、私にとってはこれからの生のすべてだ。だから、どうか君のことを聞かせて?私は君を愛したい』だなんて、すごく普遍的で、当たり前で、使い古された陳腐なプロポーズだったけど…」
「涙が出るくらい嬉しかったの。」
「…当たり前だろう?伴侶となる相手を愛そうと…知ろうとすることは。」
当然のことを言われて思わず眉を寄せる。これから一生を共にする相手だ。そうしなくてどう共に生きるというのだろう。
「でも、あなたは私の異常を知っていた。──知っていたうえであなたはありきたりなプロポーズをしてくれた。」
「『普通』が私、本当に嬉しかったの。」
──思い出す。
月のように美しい娘だった。光の角度によって金にも銀にも輝く髪に、透き通った水晶のような瞳の人魚姫。
国に大きな港を造るため、航路を安全にするために結ばれた政略結婚。その顔合わせ。
彼女の横顔は酷く凪いでいた。それが、私は酷く恐ろしかった。
海を面する我が国の主要な産業は漁業と輸送業。海とともに生き、暮らしてきた国の者の中で凪いだ海の恐ろしさを知らない者はいない。
風一つない、波一つない海は恐ろしい。だってどこにも行けなくなる。──そうなったら飢え苦しみ太陽に焼かれながら死ぬしかない。
「あなたの前なら私、ただの恋する普通の娘になれるのよ。」
恋するように目を蕩けさせ、歌うように息をして、溺れるようにつぶやいて──そして彼女は私の手を取った。
「ねぇ、ダーリン。この水底の王子様。──私だけの王子様。」
「一緒に長生きしよ♡」
「あきらめないわ、永遠に。」
「……はは、」
思い出す。
凪いだ海も恐ろしいが──荒れ狂う海も、また恐ろしいということを。
一度放り出されたら、それこそ死ぬまで苦しんで苦しんで…恋するように溺れ死ぬのだ。
「でも断る。」
引きつった声でそう答えるのが、精一杯だった。
──今は。
〜簡単な人物紹介と用語説明〜
水底の王子様…ぶらり四人旅シリーズの第二王子の兄上。しくった。想定以上に人魚姫をメロメロにほれさせてしまったのが運の尽き。諦めて。ヤンデレ(弟)から逃げたらヤンデレ(人魚姫)に捕まった。陸に残してきた父のことが心残り。
断る。でも私が死ぬまでの間は君のために全てを捧げるよ。
人魚姫…いつか父の跡を継いで大海の支配者になることが確定しているナチュラルボーン上位者。どこぞの魔王に至るハーフエルフと似たような生き物。か弱き人の子に骨抜きにされてメロメロになっている。王子さまが全部くれるっていったから矛を収めてお義父さまの命諸々を隣国に保護させるつもり。
ずーーっと一緒よ!王子様、共に永遠の命を生きましょう!!
人魚姫の父王…生まれてこの方ナチュラルボーン支配者だった娘が人魚並みの幸福を得られそうで全力で応援している。頼むその娘をもらってくれ永遠に首輪をつけて離さないでくれ。
お願いだから諦めてくれ。娘をひとりぼっちにしないでくれ。
お義父様…王子の父王。人間。58歳。男やもめ。腹回りとおでこの後退が気になるお年頃。病に伏せていたら息子(第に王子)がやらかし息子(王子様)が攫われた。この後隣国に国を侵攻され幽閉される未来が待っているとおもっている。
も う ど う な っ て も い い や ! !
弟…件の第二王子。周囲のフォローと優しさを肥大した自尊心と尊大な羞恥心のせいでことごとく踏み潰し破滅に向かっている。死ぬ人魚と死なない人魚が分かれていることも、その見分け方も知らない。
自分は悪くない。だって、自分はただ誰よりも愛されたかっただけなのだ。
死と安寧の女神…人魚たちの主神。闇のカップリング厨。双子の姉と解釈違いでたもとを分かっている。
人魚(種族)…魚の尾を持ち人によく似た上半身を持つ者。あるいは、天の国に登る資格も地の底に堕ちる資格も失ってしまった、摩耗したどこにも行けない魂たちが最期に生まれ堕ちる姿。両者を見分ける方法はただひとつ。死ぬか、死なないか、それだけ。
(死伝白書引用)──この形に生まれたからには、これより先には何もなく、永遠の断絶と虚無がひろがったいる。それでも、汚泥のような安寧だけは水底にある。
その安寧さえもいらないというのなら愛し合う者同士で貪り喰らいあえ。
さすれば、いつか見た終わりがお前を柔く優しく迎え入れてくれるだろう。
真なる解脱をなし得た尊き魂よ、どうか永遠にやすらかに。
人魚の血(肉)…不死の妙薬、と、されている。
されているが多くのものはそんな効力はなく普通の人魚の血を舐めても肉を食ってもそんなことにはならない。むしろ種族によっては毒。
しかし『どこにも行けない』魂の持ち主である人魚の血肉はまさしく不死の妙薬である。これを狙って帝国の人間は人魚狩りをしているため人魚姫はキレている。




