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5 リーリエ、成長を実感する

リーリエは24歳になった。

2歳の息子を追いかけて草原や森の中を走り回る日々だ。


ギルドは一旦退職した。結婚しても続けたが、妊娠して、出産が近くなった時に辞めた。

住まいを山の中腹にしたので、街のギルドに通うのも大変になったからだ。


結婚相手は、冒険者稼業のトーマス。

リーリエが16歳の時に勇者と美青年の話を横流ししてくれた小柄な男性で、6つ年上。

あれ以来、トーマスはリーリエが泣いたことを非常に気にして、ギルドに来るたびにリーリエに菓子やアクセサリー、冒険で入手した小粒ながら綺麗な宝玉など、色々くれるようになった。飲みや食事にも誘ってくれ、一緒に行くことが増えた。


18歳の時。ある日、リーリエは、ギルド内に人は結構いるのに窓口に誰も来なくて暇だな? と不思議に思った。

そんなところに、トーマスがギルドの建物に入ってきた。目があったのでリーリエはにこりと笑った。


トーマスは、ハッとしたように一度立ち止まった。

笑顔を返してくれたが、なんだか動きが変な気がする。トーマスはリーリエの窓口に真っ直ぐ来て、

「あの、リーリエ」

と言った。


そしてトーマスは、さらっと言った。

「俺と結婚してくれないか」

「ひゃっ!?」

驚きのあまり、リーリエの口から悲鳴が出た。リーリエは変な悲鳴が出たことに焦ったが、トーマスはひどく驚いたようで、慌てて腰につけている荷物に手を伸ばし、何かを取り出し手のひらの上で見せた。


少しカーブのついた滑らかな棒にみえるもの。

冒険での成果物? 骨?

とリーリエが思ったところで、トーマスが早口で説明する。

「あのいや、これ弓なんだ。リーリエは弓が一番だと考えてさ、それであのなっ、俺の買える一番良い弓だ。オーダーメイドでさ、あのこれで、俺と、結婚してくれないか。オッケーならこれ、申し込みの贈り物だから、受け取ってくれ、お願い、頼む!」

「ひゃあっ」

リーリエから再度、変な悲鳴が出た。


後にトーマスに聞いたところ、本当はまず食事に誘う心づもりだったそうだ。二人で飲んで食べて、良いタイミングで結婚の申し込みをしようと。

しかし実際は緊張のせいか、食事への誘い文句のつもりで、本題の方を口にしていたらしい。

自分で驚いた、焦った、やり直したい、とトーマス本人が言っていた。


それはさておき。

リーリエは震えそうな気持ちになって、トーマスの手を両手でギュッと握った。

「うん、ぜひ! お願い! 貰うわ! 嬉しい!」

返事にトーマスは目を輝かせた。

「や、やった」

窓口だったので、二人はカウンターの上で両手を握りしめ合った。


ついでに余談だが、冒険者たちは、弓が仕上がった、という情報を掴んでおり、今日あたり何かあるかもしれない、と野次馬根性でギルドにきていたらしい。

さすが冒険者たちは情報通だ。でもこんな個人的なことまで把握されるのは当人として非常に微妙である。


さて、カウンター越しに喜び合った二人だが、トーマスが少し冷静さを取り戻し、手をそっと離し、いまだ右手の中にあるものを改めて見せた。


「リーリエ、これ、贈り物な。申し込みの」

トーマスは、骨にも見える白い棒をリーリエの手のひらに握らせる。

「弓なの?」

これが?

リーリエの疑問にトーマスはうなずいた。

「魔法石が3つ取り付けできる弓だ。1つ、折りたたみの魔法の魔法石をつけた。少し下がって、弓の形に戻してみてくれ」


戻すといっても、方法が分からないが、言われたとおりに少し窓口から下がり、棒をぐっと握って、どうしたら良いのか、弓になれ、と念じてみる。

瞬間、リーリエの身長よりも長い弓が現れていた。持ち手は変わらない。上下が現れたのだ。

美しい。滑らかで、強そうな弓だ。


「すごい。魔法の弓・・・」

リーリエは感動した。

「良いだろ? 持ち運びも出来て、威力もある弓なんだぜ」

トーマスがニコニコしている。

「うん、すごい」

「結婚の申込の贈り物、この弓で良かった、よな?」

少し不安そうになったトーマスに、リーリエは即答した。

「トーマス。最高よ、これ以上ない贈り物だわ」

リーリエは、今度は窓口から出て、弓を握りしめたまま、トーマスと抱き合った。


その3ヶ月後、結婚した。

恋人期間が短いが、その間にリーリエに色々声がかかったので、結婚は早い方が良さそう、と二人で判断した。意外にもギルドの受付で年頃のリーリエはよく思われていたらしい。


さて住まいは、トーマスの父方が贈ってくれた山の中にある家に移り住んだ。

ついでにあたりの森の管理も頼まれたが、特に何かをしなくてはいけない、というものはないらしい。


リーリエは始めは、隣家さえ遠く、不便そうだと不安に思ったが、下見に行くと、代々の魔法道具などでとても快適に過ごせそうで気に入った。

周囲が森なので弓の練習も好きにできることも良い。

それに自宅も田舎の方だから、ここから街までの距離はあまり変わらないかもしれない。


なお、家の周辺は開けていて明るい。山の中ながら、草原のようになっている。維持の魔法が使われているそうだ。


さて、トーマスは冒険者で、リーリエが思っていたよりも稼ぎが良かった。そしてリーリエのことを大事にしてくれる。

幸せだなーと思いながら過ごして、20歳の時に娘が生まれた。比較的大人しい感じだが、ミルクを大量に飲む子だ。


その2年後。リーリエが22歳の時に、息子が生まれた。


さらに2年後の現在。

リーリエが24歳、息子は2歳。


この息子、行動範囲が異常に広い。

4歳の娘の方はじっとしていることが多いのに。姉弟でこんなに違うものかと驚くばかりだ。


息子は、リーリエの隙をつき、防犯目的で飼う犬2頭のうち大きな方の犬の背に乗り、家から脱走することを覚えてしまった。周辺の草原だけならまだしも、森の中さえ勝手に散歩する。

犬は息子も主人の一人だと認識していて、発語もまだ思うように出来ない息子にアピールされるまま、息子を背に散歩に出てしまう。


これはリーリエの母の方に似た気がする。遊牧の民の血が騒ぐに違いない。

お陰でリーリエはこの息子を捕まえるため毎日走り回るのでクタクタだ。全力疾走しても、犬の足に敵わない。


なお、追いかけっこでリーリエが疲れて動けなくなると、ちょっと気まずそうな犬と共に、息子がリーリエの元に戻ってくる。信じられない。もっと早く戻ってきて欲しい。


とにかく、4歳の娘と2歳の息子の世話で、抱き上げたり走り回ったりの日々を過ごすうち、リーリエは非常に逞しくなった、気がする。昔は持ち上げられなかった量の荷物が、なんなら片腕で持ち運べる。

生きていくってこういうことよね。


さて。

今日、また息子が脱走した。気づいてすぐ追いかけてリーリエは森に入った。草原に姿が見えない時は森だ。


少し入ったところで、珍しく息子と犬が動きを止めていた。

良かった、今日は少しで済んだ・・・。

リーリエが安堵の息を吐きながら、速やかに犬の背中から息子を抱き上げると、

「あ、あ!」

と息子は抱き上げられたことは特に気にせず、森の奥を指差した。


何かいるの?

そういえば息子も犬も同じ場所を見ている。

リーリエは犬の背に息子を戻した。万が一、逃げるにしてもリーリエより犬の方が早い。


近くでは、なさそう?


リーリエは静かに愛用の弓を手にした。

「パウル、危ない時は先に逃げるのよ、良いわね。ルクを頼むわ」

パウルという名の犬の方に声をかけて、リーリエは自ら作った木の棒の矢を取り出して、構える・・・。


何かいる。ん、多分小さい。

「ウサギ」

リーリエはつぶやいた。ウサギがいた。

良かった、危険な動物ではなくて。


なお、リーリエは結婚後もほぼ弓の練習を毎日してきた。

出産後は止めていた時期もあるが、弓を引いた方が体が楽になると気づいてからは、スキマ時間を見つけては弓を引いた。

つまり、長年練習を続けている。だけど、いまだに動くものには当たらない。

せいぜい、たまに足元をかすめて、逃げられるぐらい。


でも、仕留められたら料理にウサギ肉を使うことができる・・・


リーリエはとにかく試すことにしている。

ウサギに焦点を定めて、矢を放つ。


外れた。ウサギが驚いて逃げる。

リーリエは器用に手の中に保持していたもう1本の矢をつがえ、ウサギの逃げていくだろう方向を予測してまた矢を放った。

「キィッ!」

短い悲鳴が上がり、矢を受けてウサギが倒れた。


「え、うそ、当たったの?」

リーリエは驚いた。

念のため、山の家で暮らすようになって携帯するようになった短剣に持ち替えて、警戒しながら奥に進み、自分の矢が見事にウサギを射止めているのを目撃した。


「当たってる。すごいじゃない、私」

まさか当たるとは思っていなかった。真剣だったけれど。


リーリエはウサギを回収して、息子と犬と共に家に帰った。

自分で仕留めたのが初めてで、何か処理が必要なのか分からない。家に、話が出来る魔法具があるので、友人に連絡をとり、無事料理にすることができた。


帰宅したトーマスと家族4人で食べた。自分の弓で仕留めたことを話すとトーマスも喜んでくれ、美味しいとほめてくれた。娘も息子も美味しそうに食べている。


まぐれだとしても嬉しかった。


さてその翌週。トーマスが冒険で少し長く家を空けることになった。

リーリエは娘と息子をつれてトーマスが不在の間、実家に戻ることにした。子守や家事など、人の手が多い方が助かる。

犬2匹は残して番犬に。


なおリーリエの家から実家までは、街に寄ることなく、山の中と草原を移動する。その道中でまたウサギを見つけた。


娘が先に見つけて、

「ママ、ウサギがいる。ごちそうよ! また弓で取って、ママ!」

と興奮気味だ。

リーリエもまた試してみようと思った。上手く行ったら実家へのお土産にもなる。

「リーナ、ルクを見ててくれる?」

地面に降ろして息子の手を娘に握らせる。

「手を放しちゃだめよ」

娘と息子両方に言い聞かせて、リーリエは背中から弓と矢を取り出し、構えた。


道の先にいる。

リーリエは距離を詰めようとそっと近づいた。ウサギがこちらに気づいた。リーリエは矢を放つ。右に逃げる、と予想した。

ブン、と音を立てて、矢は逃げ出したウサギに命中した。


「ママ、すごい! ごちそうー!!」

娘がはしゃいだ。

「ぁー!!」

と息子もはしゃいでいる。


まさか当たるなんて。リーリエは自分に驚きながら近づこうとして、さらに向こうにまたウサギがいることに気がついた。

あれ、あれは流石に。でも2匹いた方が、お土産には。1匹では足りないし。

リーリエは背中から矢を取り出してまた放った。

短い悲鳴をあげて、ウサギが倒れた。


「すごい! ママ、すっごい!!」

と娘がピョンピョン跳ねている。手を繋いでいる息子も跳ねている。

連続成功に、リーリエは驚いていた。

「ママ、弓が・・・。弓が上手くなったみたい・・・」

「かっこいいー!」

と娘がはしゃいだ。目をキラキラさせて。

その様子に、リーリエは、昔、自分が弓に憧れるきっかけの出来事を思い出した。

幼い弟と一緒で、野犬に襲われたのを、遠くから旅の人が弓で助けてくれて・・・。


シチュエーションは全く違うけれど。

今。リーリエは、あの人と同じ立場になれたのだと思った。


「私、弓が上手くなったね」

リーリエは自分に語りかけるようにつぶやいた。


その日、ウサギ2羽が実家へのお土産になった。みんなでリーリエの弓の腕前に驚きながら美味しく食べた。


眠る時、目を閉じてから、リーリエは今日の出来事を思い出した。嬉しい、泣きそう、喜び、少しの安堵、なんだか落ち着かないような。でも間違いない、幸せだ。少し涙がにじんできた。

がんばったね、と心の中で自分をほめた。


その日から、リーリエは、動物でもかなりの確率で仕留めれられるようになった。


***


リーリエ 人間 女性 24歳 母親

攻撃力 25/?:長年の努力により上限上昇中

防御力 13 max:長年の努力により上限上昇

素早さ 16/max:長年の努力により上限上昇

器用さ 38/40

特性他 親切・人好き

加護他 幸運祈願×24 幸福祈願×24 前途祝福×24 健康祈願×24 祝福祈願×24 維持・管理者 所有枠max


所有武器

世俗名称 リーリエのお守り(旧称:経験値強奪の矢)

本質名称 共に切り開く意思のカタチ

攻撃力 970/∞

防御力 30/∞

精神力 800/∞

・・・ 120/∞

変換源泉

 全祝福87054 森・風・水・光 魔法具・魔法陣

 上位変換ON:3年保持により解放済

 圧縮ON:5年保持により解放済

 属性化ON:8年保持により解放済

 学習能力ON:11年保持により解放済

 流動的能力分配ON:15年保持により解放済

属性 聖

会話能力者への返答時例 『なに。何のようだ』

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