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4 リーリエの知らない裏の会話

話が一段落した様子のところに、リーリエの横からギルド職員が少し姿勢を前に倒して、口を開いた。

「この矢の名前、分かりますか?」


美青年が隣の勇者の方を見る。色々分かるのが勇者なのだろう。

勇者は目を細めてリーリエを見て、そして頷いた。

「分かる。教えないけど」

「そうですか」

ギルド職員は考える様子だ。

「なるほど」


そしてギルド職員はリーリエの様子を見てから、立ち上がった。

「矢の話はこれで終わりでしょうかね。では次は弓の使い方ですね。裏庭が使えますよ、どうぞ」

「ギルドの裏庭か」

勇者が興味を惹かれたように立ち上がる。矢の話が終わったのだと分かったリーリエと、美青年も立ち上がった。


こうして、裏庭にて、リーリエは弓の使い方のアドバイスを受けた。

持ち方や弾く方向を修正してもらうことができた。


「慣れないと思うけど、将来的には正しい引き方の方が絶対いいから。動くものが苦手っていうなら、遠いものに当てる方を頑張るのも良いんじゃないかしら。遠いほど止まって見えるのよ」

ユーリティシーティ、という名前だった美青年が親切に伝えてくれるのを、勇者が呆れて口を挟んだ。

「遠いほど力がいるだろう。あのな、自分に力がないなら、道具をグレードアップって手段があるからな。お金さえあれば手っ取り早いぞ」


お金かぁ・・・。

冒険に出れたら一攫千金も夢ではないのだが、冒険には出れそうにない。今のところ。


なかなか、冒険に出れないことは欠点だ。


一方で話は続いている。

「そうねぇ。でも16歳でしょ。まだ武器を固めなくて良いと思うわ。身長や力に合わせて都度選んだほうが良い。とはいえ、折りたたみの弓は、感心しないわねぇ・・・。持ち運びの方を重視してるから、性能がどうしてもねぇ・・・」


「高価になるけど魔法で展開する弓とか魔法石がつけられる弓もあるぞ」

と勇者が言った。


「分かりました、検討します・・・」

検討するだけならお金はかからない。でも実際どうこうしようと思うとお金はかかる。リーリエには難問だ。

「そうだな」

勇者は、表情が柔らかくなって頷いている。


こうして、リーリエは勇者たちにアドバイスをもらった。

もう伸びないと勇者に言われてしまったのは引っかかったままだ。

でも、練習が無駄になることはない、とあの綺麗な人に言われて、それに救われた気持ち。

そうだと信じたい。まだ自分は上達できるんだ、と。ひょっとして、劇的にうまくはならないのかもしれないけど、少しずつでも上手くなれたなら。


リーリエは銀の矢を見つめ、諦めないで頑張っていこうと決めた。


***


先にリーリエを仕事に戻らせて、ギルド職員は、裏庭に興味をしめす勇者たちを見守る。

ギルドの裏には防音や遮音は当然のこと、緊急用の魔法陣などなど、色んな魔法が歴史と共に織り込まれている。実力者たちが色んな目的で入りたがる。


ギルド職員は静かに尋ねた。

「あれは経験値強奪の矢、です。合っていましたか?」


勇者は振り返る。

「あぁ。その通り。本来なら戦闘で冒険者には経験値が与えられ、それを受けて冒険者の能力は上がる。だけどあの矢は、その大事な経験値を半分奪う。呪われたアイテムと呼ばれることもあるというが、納得だな」

丁寧な回答がなされた。

「なるほど」

ギルド職員はつぶやいた。


経験値という言葉は、冒険者でも知らないまま過ごす者もいるらしいが、冒険からは特に多く得られる、能力を開花させるエネルギー、という認識だ。言葉としては一般には知られていないが、冒険に出ると早く強くなる、というのは常識として知られている。


「性能は知らなかったの?」

と美青年がギルド職員に尋ねた。


「合っているか確証が持てなかったんです。呪いではないが呪いに近い、と記載がありまして。でも、あの矢は呪いとは思えなかった。その程度は分かるもので」

呪いだと感じたなら8歳のリーリエに渡さない。ただ、なんだか変な感じも受けた。


目録を調べれば何か分かるだろう。しかし目録も点在しているのだ。埋もれていて掘り出しが必要なものもあるだろう。

とはいえ責任もある気がしてきた。だから、コツコツ、見つけたものから、弓矢を最優先に目を通してきたのだ。


そして、これかもしれない、と思う記載に行き当たった。

『経験値強奪の矢』


矢がギルドに納められた経緯は書いてあった。


一人の冒険者が宝箱から得た。

その冒険者はそれを良い品だと判断し、持ち帰ることにしたが、冒険から戻ってきた時に違和感を覚えた。

いつもと違い、自身の成長を感じない。

普通なら、今まで苦労したことが楽にできるようになった、など成長が実感できるのだが、今回はあまりない。

おかしい。彼はギルドに新しく得た品物を鑑定に出した。

結果、この矢が、経験値を半分奪うことがわかった。ただ、奪った経験値分、矢に効果がつくようだ。貴重品ではある。


ただ、男は弓使いではなかった。高く売れると思ったから持ち帰ったに過ぎない。

なのに持っているだけで経験値を半分奪われるとは。

男は泥棒みたいなものだ、貧乏くじを引いたと悪態さえつき、そのままギルドに売り払った。

そしてその暴言を元にこの矢は命名されたという。


ギルドの方は、貴重品には違いないので買い取ったものの、そもそも弓使いが少ない上に、経験値のところがまるで呪いだと言われて、買い手がつかない。

そしてお蔵入りとなってしまう。


さて、そんな矢のようだ、とギルド職員は目録を読み進めて思ったわけだが、違う矢の違う可能性も捨てきれない。そもそも伝えるには名前の印象がどうも良くない。

不確かな情報を伝えるべきかギルド職員は迷い、結果、まだ伝えていない。

宝物となっているのだから、変な情報は伝えず、そっとしておこう、という気持ちになったりする。


だけど。

「どうして、リーリエにあのような伝え方をしたのです?」

とギルド職員は不思議に思った。リーリエと初対面の勇者たちが、周りくどい伝え方をした理由が分からない。


勇者が言った。

「変に伝えると欲が出る。強くなるために、話を聞く前と後で、考えや行動が変わってしまう。それは、あの子には良い変化にならないと考えた」

「そうねぇ。実物を見て私も納得した。あの子の矢、今のところ持ち主に似て素朴な良い感じに育ってるのよね。力としては弱いけど、なかなかの数の幸運の加護つき。知らないで持っているからかしら。少なくとも欲に溺れた冒険者ではあぁはならない」

「あの子の行動や判断の理由が、経験値目的になっていったら嫌だろ」


「確認ですが、一度の使用で、矢のためた力、全部使われるんですね?」

「そうよね?」

「多分間違いない。初めての試し撃ちは黒い光が出たって言ってた。前の持ち主の経験値だったんだろう。冒険者だったなら、あの子なんて比べようもない威力が出るのは当然。一度で使い切って、あとは何も起こらなかった。経験値が溜まっていないのに打ったってことだ。経験値を貯めないとただの矢だ」


なるほど。と、ギルド職員はつぶやいた。

少し無言の時間が流れる。

それぞれでリーリエや矢について考えたようだ。


「正直なところ、お守りにし続けて、結局使うところのないまま、平和に暮らしてくれると良いなと願いますね。普通の町の子ですし。小さい時からの馴染みで、まぁ幸せに生きてもらいたいものです」

「同感。武器なんて必要ない暮らしが幸せよねぇ」

「あの子が戦線に出ないですむように、僕たちがいるんだ」

勇者がまるで軽口のように、爽やかに笑う。


「さて。そろそろ、私たちも依頼を出しに行かなくちゃ」

「あー、あれな」

「普通に依頼出して無理だったらまた相談に来てください。裏ルートありますので」

「やっぱり」

「代金高いんだろ、どうせ」


ギルドの裏庭の、リーリエには秘密の会話。


***


ある日、勇者はふと昔を思い出して、旅の連れに言った。

「なぁ、サンリエラの町の、ギルドのこと、覚えてるか?」

「サンリエラ。魔法塔のある町ね」


「ギルドに弓を背負った女の子がいただろ」

「あー、いた、いた。懐かしいわ」

昔から姿の変わらない、美青年が目を細める。ちなみにこの彼は、普通にモテ過ぎて困るので、女性避けに女性言葉を使う。


勇者は酒を飲み、笑った。

「あの子さ、もう成長できないって、言っただろ」

「あぁー、あの時のアンタの配慮の無さ、今思い返しても引く。で?」


「あの子の矢さ。あぁいう、もう成長できない子となら相性が良い武器だよな」

「経験値を持っていく武器が?」

他にも仲間はいるが、その時はこの2人で動いていたので現場にはいなかった。だから静かに話を聞く姿勢のようだ。


「そう。経験値、あの子の場合、全部だと思うんだよな。あの子はもう伸び代がなかった、普通の一般市民だからさ。だけど、あの矢は受け取れない経験値を全部取って、代わりに強くなる。良い組み合わせだ。呪いというより奇跡に近い」

「うーん、普通はそんな上限が低くないんだけどね、弓矢をもつ冒険者って」

上機嫌の勇者とは違い、美青年は少し悩ましげになる。


「あの子、冒険者ではないからな」

「そうねぇ。どうして冒険者になりたいのかしら」

「別に冒険者になりたかったわけじゃないんだろ。弓が上手くなりたいんだ、あの子。料理とか歌とかそんなのと同じようにさ」


「お言葉ですが」

それまで静かに聞いているだけだった仲間の一人が口を開いた。

「ただ好きで上達を願うものほど、案外世界を変えたりできるのです」


勇者がそれを聞いて楽しげに目を丸くし、そして笑う。

「そうかもな。みんな、はじめはそうだったんだ、僕たちも、多分」

「今日はやけにご機嫌、エディー」

「探索が一段落したものね。あー、本当、キツかった今回」


今日もなんとかこなして、みんな無事に生きている。

ふと通り過ぎた昔のことを思い出しながら。


***


リーリエ 人間 女性 16歳

攻撃力 11 max

防御力 10 max

素早さ 13 max

器用さ 25/40

特性他 親切・おせっかい

加護他 成長祈願×16 幸運祈願×16 幸福祈願×16 前途祝福×16 健康祈願×16 祝福祈願×16 所有枠max


所有武器

世俗名称 経験値強奪の矢

本質名称 共に切り開く意思のカタチ

攻撃力 350/∞

防御力 4

・・・ 70/∞

・・・ 19/∞

変換源泉

 前途祝福54 幸福祈願106 幸運祈願201 栄光祈願53 健康祈願83 良日祈願371 成長祈願98

 上位変換ON:3年保持により解放済

 圧縮ON:5年保持により解放済

 属性化ON:8年保持により解放済

属性 聖

会話能力者への返答時例 『はーい 何の用ー?』

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