12 飛翔
銀色の矢が空の大きな目玉に向かって飛んでいく。
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目標確認
速度調整 強度調整
伸縮展開
障壁魔法展開
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銀色の矢の周り、複数の障壁魔法が展開した。
空の目玉がギロリと動いて飛翔してくる矢に気づいた。
空から黒い竜巻が複数降りてきた。手を伸ばすように矢に向かう。
矢の周りの障壁と全てぶつかる。矢が飛び続ける。
空がドクンと脈打ちさらに広がる、各所から黒い竜巻が伸び出したのを、障壁魔法が現れて全ての盾となる。
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『何者かとは。見て理解するに至っていないというわけだ』
問いかけに、答える。
『覚悟しろ小物。我はこの世の一欠片。共に道を切り開く意思のカタチ』
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大勢が空を見上げていた。
絶望を知って死を覚悟した。泣き叫んでももう遅い、落ちてくる空に逃げる場所などどこにも無い。
白に光る何かが空を走った。
周りに無数の魔法陣を描き出しながら。
空に開いた大きな目が赤みを帯びる、その中に、光の筋がまっすぐ向かう。
直後、空が弾け飛んだ。真っ白い火花が空を覆い尽くす。
ドォン ゴォン と派手な音がするのに、どこか遠い。
光と音に、屈強な冒険者すら立ちすくむも、すぐに見上げる。
空で激しい攻防が広がっている、全てが空の上。地上に向かうものを全て防いでいる。障壁の向こうで、多くの魔法陣が出ては消え、何かが弾け飛び、煌めいている。
安全に守られている。空の上で神の戦いでも起こっているようで。
美しさすら感じられた。煙すら白く見えるせいだ。黒が崩れて消えて、白い炎に包まれている。
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『リーリエ!』
取り戻した日常の青い空。
喜びのまま、主人に呼びかける。
この世でこのカタチとなってから、やっと現れた持ち主は、力のない子どもだった。
思いがけず長くを共に過ごした。多くを見て学んで過ごす。共にあって成長してきた。
小さな頃から、強く、守れるものになりたかったのだ。
『やったぞ! やった! 守った、守ったな! 共に、打ち砕いたぞ!』
主人は武器と会話する能力など持たない。だけど使用者として最後にこの声ぐらいは聞くだろう。
世界の一欠片、共に進む意思を留めていたこの器はもう砕け散る。
けれど、なかなか楽しい日々だったので、次のカタチを得てもこの記憶は持っていたいものなのだが。
難しいか。
己の存在理由を思い出すにも、年月を必要とするのだから。
そして銀の矢は砕け散った。力の全て使い切った。
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『リーリエ!』
銀の矢を放ち、軌跡を、弓を握りしめたまま見つめ・・・。
無数の魔法に空が包まれ、そして青空が広がって。
リーリエは目を丸くした。空から自分が呼ばれたので。
『やったぞ! やった! 守った、守ったな! 共に、打ち砕いたぞ!』
これは。
銀の矢だ。お守りの銀の矢に違いない。銀の矢が、勝った。
リーリエの胸に、信じられないけれどやったのだという喜びが広がって、
「ママ!」
息子が足に飛びついてきた。
「ママ! すごい、ママ! すごいすごい、すごい、やった、すごい、ママ! すごい、」
「ママ・・・」
娘も立ち上がったようで背中に手を当ててきた。
「すごい・・・ママ、弓で、ママのお守りの矢・・・。勝ったよ、ママ・・・」
「かっこいい、うわぁああ、怖かったよぅ、うわぁあああ」
息子が盛大に泣き出した。息子のそばにいた犬たちがつられたように空に向かってなき出した。
森が急に騒ぎ出した。色んな声が中から聞こえる。気のせいでは無い。
リーリエは息子と娘を振り返り、確認した。
「ママ、やった、よね」
「ママ、やったよぅ・・・!」
「ママすごいよおぉぉぉぅあぁあ!!」
わっと、リーリエに実感が押し寄せた。空は青いまま。どこにも黒なんて残っていない。
娘と息子が喜びの方で泣いている。ギアスまで立ち上がってギョーっと聞いたこともない声で高らかに鳴いた。
リーリエは無意識のうちに弓を片付けて、娘と息子を抱きしめた。
リーリエまで泣けてきた。
「うぁぁぁあ、うあ、ママ、すごい、うぁぁ、すごい、かっこよかったあぁぁあ」
「ママ! ママ! すごい、弓すごい、助かったよぅー!」
「助かったねぇ・・・!! リーナ、ルク! パパも無事だよね、良かったーぁ、あぁうあああ!!!」
三人で抱き合って大きな声をあげて泣いていた。
空はやっぱり青いまま。動物たちも一緒に空に向かって鳴いていた。
こうして、冒険者でも勇者でもないリーリエが人類の滅亡から世界を守った。




