4-1 出来るだけ派手にかましたれよ
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こんにちは。北トルカ村のコミリです。
大阪潜入以降、お巡りさんから逃げ回っていた私ですが、この度、ありがたいことに大阪居住の許可をゲットできました。おまけにお役目もいただきました。
私たちの社会では職能別に「連合」が組まれており(私は魔法連合所属です)必要に応じて各所に人員を派遣する形を取っていますが、大阪では擬似的な君臣契約が組織作りの中核を為している様子です。
私の主君は統制局長の赤根さんにあたります。
ともあれ。
いよいよ、私の大阪での新生活が始まり──それから少しばかり。時が経ちました。
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大阪圏内の西側には小さな海があります。
淀川・大川・大和川から流れてきた水はここに溜まります。そしてガラチナ様が作られた結界の外に流れることなく、あふれることもなく、いつも一定の水位を保っています。
私の見立てでは、水があふれてしまう前にガラチナ様の転送魔法で上流まで戻しているのでしょう。グスチラ。日本語で言うところの循環ですね。
私はそんな海に囲まれた小島を訪れていました。
船ではなく地下鉄で来られたのはビックリです。大阪に住みついてから2年も経つのに、まだまだ想像のつかないことがたくさんあります。
「ここに来ると海の匂いが恋しくなるわ」
お忙しい中、ついてきてくださった赤根さんがアンニュイな気分になられています。鬼の統制局長も郷愁に駆られる時があるようです。
ここは私の魔法で道中の気分を盛り上げましょう。私は袖の下から杖を取り出します。
「エエシイキレルウガッ、エイッ!」
「……どうして大屋根リングの柱を岩塩に変えたのですか。至急戻しなさい。これは文化財ですよ」
「すみません」
私は渋々ながら魔法回路を逆転させます。
赤根さんは「万博のパキスタン館じゃあるまいし」と少し笑ってくださいました。まあ一応成功と言えそうです。
私たちは木造の巨門を抜けます。この小島では12年前に世界的な博覧会が開かれていたそうです。赤根さん曰くあちこちにパビリオン(?)が作られたのだとか。
今は木造の巨門しか残っていません。ほとんど更地です。
元々は会場をぐるりと囲むように木造の柱が並んでいたそうですが、大阪が異世界に移された後、仮設住宅の材料にされたらしいです。
私たちは何もない平地をぞろぞろと進みます。
目的はただ一つ。テレビドラマの撮影です。そうです。私のための企画がついに動き始めたのです。
肝心の脚本がまだ未完成ではありますが。大阪の召喚期限が間近に迫った以上、撮影を始めなければ間に合いません。
先を行くカメラマンの方が立ち止まります。
「この辺りでやりましょうか。たしか『静けさの森』があったところですわ」
「コミリ、どやねん。この辺やったら周りに迷惑かけずに済むか?」
付き添いに来ていただいた芸人の河村さんから問いかけられます。
なるほど。誰も居ない土地。周りに何もない場所。
私の全力を試すならば。ピッタリのロケーションです。
「バッチリです!」
「よっしゃわかった。ええかコミリ。出来るだけ派手にかましたれよ。敵役の魔獣はCGで作るさかいな。お前の魔法にまで加工かけてられへん。再来月には元の世界に戻ってまうんや。なるべく制作会社の人に楽させたれ」
「コミリにお任せください!」
河村さん、赤根さん、撮影スタッフの方々には二十歩ほど遠ざかっていただきつつ。
私は存分に杖を振るわせてもらいます。
思い返せば。河村さん・天音さんに出会い、大阪に居付いてから2年間。私は来る日も来る日も倉庫の中で複製魔法ばかりかけてきました。
時折外出して、工場の機材に修繕の魔法をかけることもありました。地下鉄の折れ曲がったレールをまっすぐに戻した回数などは数えきれません。今の大阪メトロは私のおかげで動いています。
それだけではありません。
時には外部のユウシキシャ(?)として、私自身が大阪の偉い人たちの前に引き出されることもありました。
大阪公立大学の講堂では、歴史学者の皆さんに北トルカ村を含めた私たちの歴史を伝えました。
大阪市会の委員会室には『准賢者ガラチナに対する非難決議』の参考人としてお呼ばれしました。私からはガラチナ様の魔法の凄まじさを紹介させていただきました。
関西領事会からは親善パーティーに招待いただきました。大阪の外には別の国家がたくさんあるそうです。その際アメリカという国の外交官からお仕事のお誘いをいただきましたが、赤根さんが私の代わりに断ってくださいました。
陸上自衛隊・第728旅団・通称「なにわ旅団」の大阪城司令部では、行方不明者の捜索活動に対する協力を求められました。一部の大阪人が探検目的で結界の外に出て行ったらしいです。私は祈りを捧げることしかできませんでした。並の大阪人が生きていけるほど、私たちの世界は甘くありません。きっと今頃は紫梅魚のフンになっているでしょう。グスチラ。南無阿弥陀仏。諸行無常です。
「ギギン・ケイオ・ナイ・ポリロ・ナイ・ボザリ」
私は杖を空に向けます。
派手な魔法とは具体的には視覚的に映えるものでしょう。えへへ。私も多少は映像技術について学ばせていただきました。
であれば。
空気中に焔硝回路を刻み、大空に花火を上げましょう。ババンッ。力強く。
「ナラ・サオ・ザン・ブブレ」
雨雲を生み出し、雷を落としましょう。
「パージ・ヂヂ・ラア・ボリロ」
空気中の塵に燃焼回路を連鎖的に刷り込み、業火の列を作りましょう。
仕上げはもっとも映える魔法。強烈な光が青空を穿ちます。詠唱を現代語訳すると『暴力的な光を遠くへ』です。私の切り札になります。
「ガンキリ・ナイ・ペヒモン・ラア・キーン!!」
ああ。どっと疲れました。
私はその場に座り込みます。すかさず撮影スタッフの人たちが駆け寄ってくださいました。ありがとうございます。さすがは読書テレビのクルーです。
河村さんは拍手を送ってくださいました。
「ほんまにすごいな。ユニバでもこんな演出は見られへんやろ」
「ウォーターワールドのフィナーレより良かったですか?」
「おう。ものすごい大爆発やったぞ」
「えへへへ」
河村さんに褒められちゃいました。元気100倍です。
私は立ち上がります。
そして、美術スタッフの方に作っていただいた可愛い衣装から砂を落とし、再び愛杖を空に向け、派手な魔法を放とうとしたところで──木造の巨門方向から人影が近づいてくるのが見えました。
わずかに魔力の反応を感じます。あれは人間ではありません。ガラチナ様が使役している依代・土人形です。
こんなところに何を持ってきたのでしょう。撮影スタッフへの差し入れでしょうか。私は受け取りに向かいます。
土人形の手提げには一通の手紙が入っていました。
ご丁寧にも、私たちの正規文字と日本語の文字が併記されています。内容については──。
『妾の実験場で勝手に魔法を使用した不埒者のコミリに告ぐ。
お前が天高く放った魔光が、別大陸の魔獣たちに検知された。近いうちに大阪は魔獣の群れに襲撃される。
大阪は焼け野原になる。
妾の賢者試験はパァになる。
全部お前のせいだ。責任を取り、今すぐ自決するか、魔獣を排除しろ。ガラチナより。追伸。逃げたら殺す』
その場にいた全員が絶句しました。




