3-4 コミリ先生には我々の指揮下に入っていただきます
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【異世界人、駐屯地祭に現れる】
5月13日の正午、陸上自衛隊・大阪城駐屯地(旧難波宮史跡公園)で、異世界人が現れ、市民の目撃が相次いだ。体長約150センチ。大阪府警は公務執行妨害の疑いで、異世界人を現行犯逮捕した。異世界人は強制送還となる見通し。
陸上自衛隊によると、当日は駐屯地の一般公開を行っていた。特殊現象(魔法)の目撃情報については現在確認中だという。市民の被害は確認されていない。府警は異世界人の侵入対策を強化する方針。
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大変なことになってもうた。
何が大変って言うたら何もかもや。コミリの阿呆がステージの上から大阪府警に引っ張られて、なんや「不法滞在幇助の疑い」で天音ちゃんとオレまで御同行を願われてしもた。
府警本部に来たのは去年1日署長を頼まれた時以来になる。今回はあの時みたいに挨拶だけして解散ってわけにはいかんやろうな。事情聴取。刑事ドラマでよく見るアレや。実際どんなもんなんやろ。
何にせよ夕方の出番に間に合えばええんやけど。最悪、相方の野良犬に漫談でもやらせるか。あいつなら何とか出来るやろ。器用やし。
「どうしよう……」
中学・高校で2回補導を喰らってきたオレはともかく。一緒に連行された天音ちゃんのほうは落ち着かへん様子や。
そりゃ怖いよな。こんな白黒だらけの飾り気のない空間に連れてこられたら。おまけに廊下の椅子に座らされてから1時間以上も放置ときた。変な想像ばっかり働いてまうわ。
オレは脳内から安心できる材料を取り寄せる。
「天音ちゃん。安心しぃや。オレの知り合いの知り合いが、新地でクラブやっとったんやけどな。はぐれエルフをこっそりラウンジ嬢にしとったんやけど、曽根崎警察に摘発されても刑務所には入ってなかったわ」
「いや。あたしは大丈夫です。それよりコミリのことが気になって……」
天音ちゃんは衣装の袖を指先でギュッとつかむ。
ええ子やな。
オレはあいつのことなんぞ何も心配してへんわ。あのレベルで魔法使える人材がぞんざいに扱われるとは思えん。
たぶん形式的な取り調べが終わったら、至極丁重にチヤホヤされとるやろ。駐屯地でも警察と自衛隊と統制局で取り合いになってたわけやし。
「お待たせしました~」
案の定、コミリの阿呆はニコニコ笑顔でオレらのところに戻ってきた。灰色のローブを脱いどると相変わらずスタイルの良さが際立つなあ。こいつ。乳がデカい。尻もデカい。目のやりどころに困るわ。
そんなワガママボディに、天音ちゃんが涙目で抱きつく。
「大丈夫だった? 何もされてない?」
「えへへ。実は……統制局のお姉さんから特別在留許可をいただいちゃいました! こうやって首から下げておけば、自衛隊とお巡りさんに追いかけられません!」
コミリがものすごく嬉しそうに金色のプラスチックのカードを見せつけてきた。
オレは詳しく見せてもらう。
特別在留カード。在留資格は大阪統制局の会計年度任用職員。就労制限は公務限定。期限は2037年4月9日。なるほど大阪が元の世界に戻る日には市内から追い出されるわけや。ふむふむ。通し番号が004になっとるのも興味深いな。やっぱり他にもおるんや。異世界人の魔法使いが。
天音ちゃんは安心したのか、胸に手を当てて「ホッ」と一息つく。女優の卵やから所作が板に付いとるなあ。
「良かったわね。これで逃げ隠れせず、コミリもオーディションを目指せるじゃない」
「それはダメらしいです。統制局のお姉さんに言われました。統制局、自衛隊、お巡りさん、その他オオヤケ? の活動以外はダメだって」
「そ、そんなの。酷いじゃない。コミリはドラマに出るために大阪に来たんでしょう?」
「はい。ですからカナッジです。ええと。お給料の代わり、依頼料として、わたしのために大阪統制局がテレビドラマを作ってくれることになりました。もちろん天音さんも出演させてあげます!」
「んなあっ」
コミリの発言に天音ちゃんが唖然としとる。
なるほど。コミリが気分良さそうな理由がわかってきたわ。多分、相当有利な条件を勝ち取ったんやろな。
阿呆のくせに上手いこと交渉したもんや。
いや。ガキっぽい雰囲気と喋り方が誤解を招くだけで、こいつは本質的にめちゃくちゃクレバーなんかもしれん。
昨日の夜に出会おうたばっかりやのに。たった1日で「ここ」まで辿りつきよったわけやし。
「もちろん河村さんにも出てもらいます! 脇役です!」
「なんでやねん」
「深夜のクイズ番組は休んでくださいね」
しかも周りの人間をどんどん巻き込んでいきよる。
劇場の楽屋でも、こういう奴がおると盛り上がるんよな。みんなで阿呆なことばっかりして。空気が上がるというか。
やっぱりこいつ、面白い女やわ。
「──コミリ先生には我々の指揮下に入っていただきます」
コツコツ。
冷たいタイル床を叩く音が近づいてくる。
上品なヒールやな。統制局の偉いさんは、やっぱりええもん履いてはるわ。
鬼の統制局長・赤根祥子。
元々は総務省から大阪府庁に出向してきた官僚らしい。去年、テレビのニュースで生い立ちの特集をやっとったわ。埼玉出身やから共通語で喋るんやな。大阪に来て間なしの頃は西の空気に馴染まれへんかったらしい。
それが今は大阪圏内の資源配分・配給管理を一手に担う、陰の権力者様や。年齢相応の風貌やけど、やや大きめの紅ぶちメガネには生真面目な女学生の名残が見え隠れしとる。風紀委員とかやってそうやな。苦手なタイプや。
「さっそくですが、コミリ先生には運転手を付けます。公用車でインテックス大阪の戦略物資保管庫に向かってください。市中で不足しているセンサー部品などを必要に応じた数だけコピーしてもらいます。それから陸上自衛隊の八尾駐屯地へ。ヘリ搭載の空対空ミサイルが弾切れ寸前だそうです。そのあとは──」
「ドラマの撮影ですか?」
「いいえ。帰宅してもらってかまいません。コミリ先生の要望通り、東大阪の避難者住宅を一部屋用意しました。好きに使ってください。明日以降の作業内容は運転手を通じて連絡します。では、また後ほど」
「ドラマの撮影はいつになりますか!」
必要な情報の伝達だけ済ませて立ち去ろうとする赤根局長に、コミリが必死で食い下がる。
赤根局長のほうは頭上にハテナマークを浮かべとった。もちろん比喩表現や。
「んん? 失礼。わたしはテレビドラマには詳しくないのですが、ああいうものには台本が必要なのでしょう。まだ企画を動かす段階ではないと考えますが」
「台本ですか。わかりました。私が作ります!」
「コミリ先生が?」
「はい! 私、日本語は上手です!」
コミリの自信たっぷりな発言に、お隣の天音ちゃんがギョッとしとる。オレも気持ちはわかるで。
ただでさえ演技力に不安しかないのに、自分で脚本まで書いてたら、あっという間に2年後・時間切れになってまうわ。
やっぱりこいつ、クレバーやのうて、何も考えずに走っとるだけやな……仕方ない。
オレは芸人としてのコネを使こたることにした。
こうやって巻き込まれたのも『縁』やさかい、こっちも全力で巻き込まれたろうやないかい。




