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君の幸せを side ケイレブ



「離縁……?」


「どうして!?」


「いやよ!絶対離縁なんかしないわ!」



 案の定、彼女たちは離縁の申し出を拒否した。


「なぜ?」と問えば、三人揃って『ケイレブを愛してるから』と(のたま)う。


 (そんな嘘が通用すると思っているなんて、随分と舐められたものだな)



「悪いけど、俺はもう貴女たちを愛してない。離縁しないなら、どこか邸を用意してそっちに移ってもらうけど、それでもいいか?」


「別居する気!?」


「当たり前だろう。本館に貴女たちが残っていては、新妻たちが萎縮してしまうだろう? 貴女たちは平気で弱者に虐待行為ができる残虐な人間なのだから」


「だからあれは、処罰しただけだって言ってるじゃない。私たちだって本当はあんなことしたくなかったのよ? なのにミーシャがいつまでも弁えないから──」


 サラ姫の傲慢な言い訳に怒りが込み上げる。


「それが正当な行いだと認められなかったから貴女は魔力を失ったんだろう? もう聖女でなくなった貴女の言い分など、誰も信じないよ」


「なんですって!?」


「陛下の話によれば、歴代の聖女で任期中に力を失った者はいなかったそうだよ。貴女は悪い意味で歴史に名を残すだろうね。陛下もそのことを嘆いていた。恥さらしだってね」


「うそよ……父様がそんな酷いこと言うわけない……」



 顔面蒼白でブツブツと独り言を呟いているサラ姫を哀れに思う。


 命がけで魔王討伐の旅に出た娘に対して、そんな言葉を吐く国王も同じ穴の狢だ。だからこそ彼も魔力を失ったのだろう。



「ケ……ケイレブ、私は魔力は失ったが、女騎士としてケイレブの役に立つことはできる。だから離縁や別居は考え直してくれないか?」


 イリーナが目に涙を浮かべて俺に縋ろうとしている。

 それを俺は鼻で笑った。


「女騎士? 騎士道精神も持ち合わせてない貴女が、騎士になれると思っているのか?」

「な……っ」


「貴女の兄である辺境伯様も嘆いていたよ。国の盾であり、民の平和を守る役目を担っている辺境伯家の者が、その矜持を忘れて民を虐待するなど正気の沙汰ではない。貴女とは縁を切るって言ってたよ」


「お兄様が!?」


「今後辺境伯の名を語るのは許さない。離縁して戻るのは構わないが、邸は立ち入り禁止。国境の前線部隊に一兵卒として送るってさ」


「そんな……っ」


 彼女の兄は魔力を失っていない。


 ということは、彼の辺境伯としての矜持は本物だったということだ。己の力は民を守るためのもの。


 だからこそ、辺境伯家に伝わる剣技でミーシャを傷つけたことが許せなかったのだろう。


 (ミーシャを斬りつけるなんて……なんでそんな惨いことができるんだ)


 俺は神託を受けていないから、その映像は見ていない。だが辺境伯が激怒するほどなのだから、相当酷かったのだろう。


 それなのに、自分はそんな非道な行為が行われているとは知らずにこの女たちを抱いていたのだ。


 (ミーシャに嫌われても仕方ない)



 罪悪感で気が狂いそうになる。



「ケ、ケイレブ様……わ、私は魔法の知識が豊富だし、例え魔法が使えなくても魔法陣の開発や転記が出来るわ。そのうち魔力なしでも魔法を使える方法を開発して──」


「俺はお前が一番いらない」


「──……え?」


「俺もミーシャを傷つけた加害者だってことは自分が一番わかってる。でも俺は、お前が隠蔽魔法をチラつかせて誘惑しなければ、絶対に話に乗らなかった」


「それは……っ」


「お前はミーシャにバレることはないと言ったよな? 現にミーシャ以外の奴らには気づかれてなかったから、ミーシャも当然俺たちの関係は知らないと思ってたよ。ほんとまんまと騙されてた自分がバカ過ぎて反吐が出る」


「…………」



 コイツらは肉体的にも精神的にも、残酷なほどに一人の人間を傷つけた。その印象が強過ぎて、貴族たちの中で魔王討伐の功績が霞んでしまった。


 俺たちは周りから、英雄という皮を被った罪人のように見られている。それだけ、神と精霊の怒りを買った罪は重い。


「ほんと……他人にわざと情事を見せつけるってなんだよ……変態かお前は」


「ちが……っ、ていうかその口の聞き方は何なの!? 私は侯爵の娘よ!? 貴方が勇者じゃなければ本来口を利くことも許されないんだからね!?」


「お前はもう侯爵の娘じゃないよ」


「は?」


「サラ姫とイリーナが実家に縁を切られてるのに、何で自分だけ大丈夫だと思えるんだ?」


「え……だって……お父様は私を溺愛してて……」


「ああ。侯爵はお前を甘やかして育てたことを後悔してるってよ。お前のせいで侯爵も魔力を失い、姉二人も嫁ぎ先に離縁されて戻ってきたらしいぞ。侯爵も姉たちも相当お前のこと恨んでるから、二度と顔見せるなってさ」


「うそ……そんな……っ、嘘よ!嘘つかないでよ!!」



「嘘じゃない。貴女たちはそろそろ現実を見た方がいい。王都に帰還してから今日まで、親兄弟が貴女たちに会いに来たか? 手紙を送ってきたか? 何もないよな? 誰も貴女たちに会いたくないからだよ。それだけのことを貴女たちはやってしまったんだ」


「私たちは!魔王を倒したのよ!!」


「でも神と精霊の加護を消失させた」


「きっかけを作ったのはミーシャだ!!」


「そうよ!あの女がケイレブの周りをうろつくからいけないのよ!!貴方が私たちよりあの平民女を愛してるなんて、そんなの許せるわけないでしょ!!」

 

 

 ズン──と部屋の空気が重くなる。


 彼女たちの酷い責任転嫁に怒りを抑えきれず、俺は思い切り威圧を三人にぶつけた。


「かはっ」


「あ……あっ」


「うぅぅうっ」



 三人が苦しんで、ソファから転げ落ちる。


 (コイツらさえいなければ……)



 本当はずっと殺してやりたかった。


 あまりに酷いミーシャへの仕打ちを知り、同じように体を切り刻んでやろうかと何度も思った。


 この期に及んでも謝罪一つしないコイツらと、一緒に暮らすなんてもう無理だ。


 二度と顔も見たくない。



「お前たちとは離縁し、この邸から出て行ってもらう」


「ケー……レブさ、ま」


「少しでも後悔や反省の言葉が聞ければと期待した俺がバカだった。いつまでもそうやってミーシャのせいにして三人仲良く暮らして行けばいい。魔王討伐の恩賞として、衣食住の保証だけは陛下がしてくれるそうだ。良かったな」



 そう言って部屋の隅にいる護衛に合図し、顔色の悪い三人を部屋に帰した。そして邸を出る日まで謹慎させる。


 陛下には離縁する旨を早馬で送り、すぐに彼女たちの引き受け先を用意してもらった。



 数日後、準備が整ったという返事が来た。



 彼女たちの行き先は、魔術師団が保有する研究室の一部に決まった。


 魔力消失の元凶がバレないよう、強固な結界で彼女たちを隔離する。



 臣下に下賜すると言っていたが、それは平民の魔術師で、夫という名の監視人になるらしい。


 彼らは魔術研究費の援助と出世の保証と引き換えに、彼女たちの再婚相手を引き受けたそうだ。



 見下していた平民に、今度は彼女たちが踏み台にされる。そして彼らが目的のものを手にした時は、きっと捨てられるのだろう。


 もしくは愛されない妻として生きていく。


 どちらにしろ、彼女たちが幸せになるのは難しい。



 魔王討伐という功績がなければ、加護を消失させた大罪人として、処刑されてもおかしくなかったのだから。



 そして魔力を失った貴族たちも、茨の道を歩むことになるだろう。








✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼



「ふざけんじゃないわよ!元平民のくせに!!」




 俺に罵詈雑言を吐き、抵抗する彼女たちを馬車に押し込み、出発させた。

 

 遠ざかる馬車を眺めながら、全てが終わった虚無感に囚われる。


 こんなことしても、ミーシャは二度と戻ってこない。










 それから俺は、新しい妻を二人迎えた。

 王命通り子供を二人儲けたあと、離縁した。


 それからは独り身で冒険者として活動している。


 一時期は王宮騎士団にいたが、貴族たちの組織に馴染めなくてすぐに辞めた。


 今はS級冒険者として国に重宝されている。



 聖剣の力は使えなくなったが、魔王討伐の旅で手に入れた身体能力と実戦経験は俺の力になっていた。





 冒険者としていろいろな国のダンジョンを回る傍ら、俺は今もミーシャを探している。



 今、幸せに暮らしているのだろうか。


 泣いてはいないだろうか。



 俺に会いたくはないだろうとわかっているのに、彼女の痕跡を探してしまう。






 幸せであってほしいと思う。


 俺には出来なかったけれど、この空の下で、幸せに笑っていてほしいと思う。






 君の幸せを、心から願っている。





 完






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ムーンライトにも1〜2話追加して連鎖中です。こちらは年齢制限ありますのでご注意下さい。


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