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手に入れたもの side ケイレブ




「勇者よ。新たに妻を二名、迎え入れてほしい」


「──……今の妻たちは」


「離縁して臣下に下賜するか、今の宮に残るかは其方たちの意思を尊重しよう」


「……俺にはもう、聖剣を扱える力はありません。それなのに、()()()()()()()()()()()()()()()……」


「──魔王がいなくなった今、聖剣はもう必要ない。重要なのは其方が魔王を討ち取ったという事実だ。国の脅威は魔族だけではない。ようやく訪れた安寧を維持するためにも、其方の力がまだ必要なのだ」


「……わかりました」



柔らかい口調とは裏腹に、物を言わさぬ圧を秘めた視線を投げかけられ、俺は了承するしかなかった。


長い王宮の廊下を歩きながら、一人ごちる。



「これで妻が五人になった……まさにハーレムだな」



まるで種馬のようだ──と自嘲しながら、帰路につく。


帰宅した俺を出迎えた執事に、彼女たちをサロンに集めるように指示した。こういうことは引き延ばさず早めに伝えた方がいいだろう。


彼女たちが傷つくかどうかなど、今の俺には推し量ることは出来ない。する気もない。



なぜならあの三人は、ミーシャを虐げていたのだから──







神だと名乗る男とミーシャが消えた日、俺は全てを知ってしばらくあの部屋から動けなかった。



『どういうことだ』


『ケ、ケイレブ様』


『貴女たちは故意にミーシャを傷つけていたのか』


『あ、あれはあの男の戯言ですわ!』


『そうよ!あんな得体の知れない男の言うことなんて信じないで?』


『全て言いがかりだわ!』



明らかに動揺した三人を見て、直感的にあの男の話は事実なのだと悟った。事実なら全て辻褄が合う。


少しずつ俺から距離を取り始めたミーシャ。


俺の目を見なくなった。

愛の言葉を聞き流すようになった。


抱きしめれば体が強張るようになった。

次第に俺を避け、触れる機会も減っていった。



なぜなのかミーシャに聞こうと思ったが、魔王城に近づくにつれて強敵揃いになり、戦闘に忙しくてずっと後回しになっていた。


今思えば、この時にはもう、俺は見限られていたのだろう。




戦闘の後は興奮が収まらず、最初はミーシャを襲いたい衝動を抑えるのに苦労した。


同行していた騎士たちは娼館で発散していたが、俺はミーシャを裏切りたくなくて、一人で耐えていた。


そんな時に近づいて来たのがあの三人だ。


彼女たちも魔力の使いすぎで体が疼くらしく、仲間を助けると思って抱いて欲しいと言われた。


最初は当然断った。


でも、アウロラの隠蔽魔法があれば誰にも気づかれない。ミーシャにも絶対バレないと何度も誘惑され、持て余した性欲に勝てずに、俺は三人と関係を持ってしまった。


最初に抱いていた罪悪感は、いつしか背徳感というスパイスとなり、彼女たちとの情事に溺れるのにそう時間はかからなかった。



割り切った関係だったはずなのに、回数を重ねるごとに彼女たちは俺に愛を囁くようになった。ミーシャがいてもいいから、自分たちのことも愛して欲しいと、俺に愛を乞うようになった。


美しい姫と貴族令嬢が、平民だった俺の愛を(こいねが)う姿は更なる興奮を呼び、ますます彼女たちの体に溺れた。そして俺も彼女たちに愛を囁いた。



勇者という称号と力を得て、人々に称賛され、四人の女に愛される自分。湧き起こる万能感が俺を満たしていた。



いい気になっていたんだ。


全てを手に入れられる男になったのだと、勝ち誇ってさえいた。だからそんな俺から距離を取るミーシャが理解出来なかった。


俺は王女にさえ求められる男なのに、ミーシャは何様のつもりなんだ──と、苛ついてさえいたんだ。



本当にバカだ。


その時にはもう、ミーシャの愛を失っていたのに──











✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼




「陛下から、新たに妻を二人娶れと言われた。貴女たちのことは、離縁して臣下に下賜するか、この宮に残るかは本人の意思に任せるそうだ」


「は?」


「何それ……」


「嘘……父様がそんなことを?」



サロンに集まった三人に陛下の言葉を告げると、彼女たちは呆然としていた。


事実上、見限られたも同然だ。




彼女たちの所業は、陛下や宰相、大臣たちに知られている。それはあの男が神託として権力者たちに映像を見せたからだ。


それにより、陛下たちは聖剣と精霊の加護を失ったことに気づいた。陛下を含めた一部の権力者たちの魔力が失われたのだ。


王都に帰還した際、民たちには歓声を送られたが、謁見の間では鋭い視線が刺さり、異様な空気に包まれていた。


その時初めて、自分たちのせいで神と精霊の加護を失ったことがバレていると知ったのだ。



国を救った者たちが、


加護を消失させて国を脅かしている。



この事実に栄誉を讃えるべきか、罰を与えるべきなのか、貴族たちの頭を悩ませた。


下された答えは、『加護の消失』の緘口令と、俺たちが結婚し、勇者の血筋を残すこと。



つまり、最初の王命が決行されたのだ。



だが俺はもう、彼女たちを抱けなかった。


どんなに愛を乞われても、縋られても、彼女たちに触れることさえ嫌になっていた。


陛下に頼んで故郷に使者を送ってもらったが、ミーシャたちは忽然と姿を消し、捜索の手を伸ばしても足取りさえ掴めなかった。


きっとあの男が攫ってしまったのだろう。





そして父に再会して全てを話した時、思い切り殴られた。



『お前を見損なった。子供の頃から支えてくれた女を踏みつけて得た英雄の座はどうだ? どれほどの旨みがあるんだ? 仕方なかっただと? そうか、そうやって一生俺は英雄だとふんぞり返っていればいい。じゃあな』


そう言い捨てて、父は俺の前からいなくなってしまった。



俺には、誰もいなくなった。






「どうして私たちがこんな扱いされなきゃいけないの!? 私たちは魔王を倒したのよ!! 人から感謝されて当然なのに、父様はなぜこんな仕打ちをするのよ……っ」


陛下の決定にサラ姫が激昂する。


「貴女たちの非人道的な行いのせいで、国の加護を失ったからだろう」



どうやら魔力消失は他国でも起こってるらしい。

神託では精霊が人間に失望したことを示唆していた。


その原因が我が国のせいだと他国に知られてしまえば、大きな反感を買う。最悪戦争になりかねない。


それほどに魔力は王侯貴族のアイデンティティーとなっている。魔力なしというだけで出来損ないのレッテルを貼られ、迫害対象となるのだ。


今はそれに対する情報操作や対処に追われ、魔王討伐などもう過ぎた栄光となっていた。



「あんな平民一人いなくなったぐらいでなんなのよ!」


「そもそも役立たずのくせに、図々しくケイレブ様に色目使うのが悪いんじゃない!」


「色目なんて使ってない。ミーシャは俺が故郷にいる時から恋人で、婚約者だった」


「平民の女など、ケイレブに相応しくない!」




ため息が溢れる。

話が通じない。


彼女たちは今でも反省の色が見えない。


平民であるミーシャが立場を弁えないから、不敬罪で罰を与えただけ。それは貴族として当然の行いだと主張し、一切自分の非を認めない。


そして俺が彼女たちの愛を受け入れないのはミーシャのせいだと、更に恨みを募らせている。



(俺はなんでこんな女たちに溺れたんだろう……)



今は抱きたいなんて微塵も思わないのだから、俺の子なんてできるはずがない。だから業を煮やした陛下が新たな妻を迎えろと言ってきたのだ。


処遇を本人に任せたのは、陛下自身も俺とミーシャのことに負い目を感じているからだろう。



もう潮時かもしれない。





俺たちの関係は、最初から歪んだままだった。


うまく回っていたのは、非日常という特殊な環境にいたから。そしてミーシャへの背徳感から。


そのスパイスに、酔いしれていただけだった。

それがなくなれば、不毛で虚しい関係でしかない。




──もう、終わりの時が来たのだ。


「サラ姫、イリーナ、アウロラ」



三人の視線がこちらに集まる。






「すまない。俺と離縁してほしい」










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