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仕方がない事  作者: 徒然草
3/5

番外編:妹視点(前編)

 番外編の妹視点を書きました。前編と後編の二部予定しています。

 感想の中で妹の今後や心情に様々な考察がありましたが、皆様のイメージと違うものになっているかもしれません。すみませんが、ご了承下さい。

 素敵な人、大好き…この想いは止められないっ!!


 私がキース・デルタ伯爵様を好きになった時には既に、彼はお姉様の婚約者だった。でもこの想いを抱えたままになんて出来なくて、お姉様がいない時にデルタ伯爵様と会っていた。そしてある日、私は告白した。


「…実は私も、ミリナ令嬢の事が好きなんです。」


 私達は運命だったんだと心から思った。想い合う二人は結ばれるべきだ。幸せの中にいた私はキース様と一緒に、お姉様とお父様に婚約破棄の事を伝える瞬間まで、お姉様の事を忘れていた。


 怒鳴ってくるお父様は怖い。お姉様は無表情のように見えるけれど、落ち込んでいるのは伝わってきた。私のした事を非常識だと酷い言い方をしてきた。でも、譲る事なんて出来ない。

 

「し、仕方ないじゃない! 私はキース様を好きになってしまったんだもの…。この想いを抑えるなんて出来ないのよ!!」 


 そう、これは誰が悪い訳でもない…仕方がない事なの。私の言葉が間違ってない事を認めてくれたお姉様は、キース様との婚約破棄に頷いてくれた。


「…ミリナ、今日はもう部屋に戻りなさい。」


 お姉様が出て行った後に、お父様は怖い顔で私に言ってきた。お姉様は納得してくれたのに、そんな顔をしなくても良いのに…不満だった。でもその後、私とキース様が婚約者になったという連絡を聞いて、嬉しさで不満なんて消えてしまった。


 



 翌日、お姉様は朝食の席に現れなかった。お姉様に会いに行こうとするとお父様に止められてしまう。私はお姉様と話したいのに…。


「少しはアルネの気持ちを考えろ。」


 お父様は私にそう言ってきた。政略結婚が目的とはいえ、婚約破棄されたお姉様は辛いと思う。だからこそ、お姉様を元気づける為に会いたいのに…。勿論、私のせいなのは分かってる。でも、仕方がない事なの…明日になったらお姉様に会いたい。


 でも、お姉様と会えないまま数日が過ぎてしまった。使用人達の態度は余所余所しく、お父様も何だか冷たく感じる。居心地が悪くなって、キース様の伯爵邸で過ごすようになった。外を歩けば、私の事を面白そうに見てきたり、蔑む声が聞こえてくる事があった。


「姉の婚約者を奪った令嬢。」

「姉妹仲が悪いのか。」

「デルタ伯爵は何故、妹の方を選んだのか。」

「非常識な令嬢。」


 …何も知らない、心の無い人達の噂なんて気にする必要ない。そう自分に言い聞かせても嫌な気持ちは消えなかった。


「ミリナ、大丈夫だよ。噂なんて時間が経てば消えていくよ。」


 キース様はそう言って、私に微笑んでくれた。そうよね、こんなの今だけよね…。キース様と過ごす時間は幸せだけれど、一人になるとお姉様の事を考えてしまう。お姉様が機嫌を直してくれれば、こんな噂もすぐに消えるのに…お姉様が、こんなにも意地っ張りな人だとは思わなかった。


「…それは、仕方がないよ。僕達が原因なんだから、時間が過ぎるのを待つしか無いよ。」


 キース様に相談すると、困ったような顔でそう言われた。時間が過ぎるのを待つといっても、もう一週間以上過ぎている。私を避けたって意味なんてないのに、どうしてなのか分からない。


「ところでミリナ、そろそろ僕と結婚してほしい。デルタ伯爵夫人になって貰えないかな?」


「っ、はい! 勿論です!!」


 キース様の告白に、私の鼓動は高鳴った。嬉しくてたまらなかった。そして気付いた、私は伯爵夫人になる。そうなると、お姉様の身分は私よりも下になるのだと。もしかして、私に嫉妬して拗ねているのでは…? お姉様は妹の私に劣る事が許せないのかもしれない。そう考えた私は、やっぱりお姉様と直接会って話をしなければならないと思った。





◇◆◇



 



 結婚の話をする為に、久しぶりにポーマ子爵家に来ると、お姉様が姿を見せた。久しぶりにお姉様と会えて嬉しいけれど、お姉様の表情は無表情だった。まだ完全に機嫌を直せていないお姉様を安心させたかった私は、身分なんか気にしなくて良いと伝えた。


 でも、お姉様の表情も声も変わらないままだった。何処か取り繕っているように感じるお姉様の態度に、苛立った私ははっきりと伝えた。


「…ねぇ、お姉様。あれからもう何日も過ぎてるんですよ? そろそろ意地を張るのをやめて下さい。私もキース様も、お姉様に申し訳ないと思っているのです…お姉様のお相手を探すの手伝いますから! 身分が変わっても私達は家族なのですから、仲良くしましょうよ!!」


 私がお姉様を気遣っている事を分かって欲しい、元の優しいお姉様に早く戻って欲しい。だから、素直に私の言葉を聞いて欲しいのだ。その後、お父様に用事があるそうで、帰るように言われてしまってお姉様の反応を見る事は出来なかった。お姉様に少し反省して欲しいなと思いつつも、前に進んでくれる事を望んだ。

 その為にも、お姉様の婚約者を探さなくてはならないけれど、先ずは私達の結婚式を素敵なものにしなければと張り切った。



◇◆◇





「お姉様が、侯爵夫人に…。」


 結婚式当日、お姉様がシルドバッド侯爵様の婚約者になったと聞いて驚いてしまった。そして、とても嬉しかった。


 あぁ、良かったわ! お姉様が私よりも身分が上になれば、お姉様の機嫌もすぐに直るわ……あっ、でももし婚約破棄されてしまったら、お姉様が可哀想だわ。少しでも早く結婚して貰わないと。


「お姉様、本当に良かった! 二人の結婚式、楽しみにしていますからね!! あ、そうだわ、明日にでも結婚しちゃいませんか? 早い方が良いですよ! 他の人に取られる前に…。」


 最後の言葉が嫌味にも取れてしまう事に気付いたのは、口に出していた後だった。シルドバッド侯爵様の冷たい視線と、「婚約者がいる相手を取ろうとする非常識な人には興味がない」という言葉に、胸が苦しくなる。まるで、私とキース様の事を言われているみたいで…。


 キース様がすぐに私を庇って謝罪してくれたけれど、シルドバッド候爵とお姉様、そしてお父様からの視線はとても冷たかった。私に悪意なんて無い、ただお姉様に結婚して欲しくて「仕方がない」事だった。その後の結婚式は問題なく終わったけれど、何だか居心地が悪いものとなってしまった…。




◇◆◇


 


 




 お姉様とシルドバッド侯爵様が結婚して1年が過ぎた。私とお姉様の仲は良くならない、それどころか悪くなっている…。遊びに行こうと誘っても断られて、パーティーで顔を合わせても貼り付けられた笑みを返される。大勢の前ではそれだけだったけれど、周りに人がいなければシルドバッド侯爵様とお姉様から棘のある言葉をかけられる。私だけでなく、キースも私と同じ目に遭っていた。最初の頃は二人で落ち込んで、慰め合っていたけれど、最近のキースは様子が可笑しかった。


「ミリナ、もうシルドバッド侯爵夫人達の事は諦めよう…余計な事はしない方が良い。今は、今度我が家が主催するパーティーについて考えなければ…。」


 キースは呆れたように私に言うと、目の前の資料を読み始めた。何故、そんなに素っ気ないの? 私がお姉様と仲直りする為に協力してくれていたのに、どうしてそんな事を言うの? 私に優しく微笑んで、励ましてくれたキースはいなくなっていた…。


 お姉様だけでなく、シルドバッド侯爵様からも冷たくされているのに、同じ境遇で在る筈のキースまで……こんなにも苦しくて悲しくて頭が一杯なのに、伯爵家の事なんて考えられる訳が無いのは仕方がないのだ。…段々と、私をこの状況に追い詰めたのはお姉様が何時まで経っても機嫌を直さないからだと怒りが湧いてきた。



 

 



 数日後、私はあるパーティーでお姉様と直接話をする決心をした。キースにその事を話すと、「止めた方が良いのに…」と言われてしまったけれど、止められなかった。シルドバッド侯爵様とお話をしているお姉様は柔らかくほほ笑んでいたのに、私を見るとその顔は途端に曇った。シルドバッド侯爵様からも嫌味を言われてしまうけれど、逃げる訳にはいかなかった。お姉様が私の誘いに乗った後、二人はまた笑みを浮かべて話をして…それがとても憎たらしくて、悲しかった…。


 でも、ちゃんと話せばお姉様も態度を改めてくれるかもしれない。そうすれば、私にも笑ってくれるようになる。また仲の良い姉妹に戻れる。私はキースを好きになってしまっただけだから、仕方がない事だったんだから…!












「……でも、仕方ないじゃない。私はミリナが嫌いなんだから。」


 二人きりになった部屋で言われたお姉様の言葉は、私の希望を、心を引き裂いていく。貴族社会の中で陰口を言われたり…、遠回しに嫌味を言われる経験は多々あった。でも、はっきりと言われた事なんてなくて、あまりのショックで立ちつくす。そんな私を気にかける様子がないお姉様からの言葉の刃は、私に次々に降り掛かってくる…。


 嫌、やめて、どうしてそんな酷い事を言うの? 違うの、悪気なんて無かったの。やめて、もうやめて、謝るから、もう赦して、これ以上私を傷付けないでぇ!!


 お姉様の顔は私への敵意に満ちていく。なんだか、私が追い詰められているのを楽しんでいる様にも感じる…。私の心はもうズタズタで、息をするのも苦しくなっていた。何か言わないと、こんなのは可笑しい、お姉様は酷いっ…そう思うのに、


「だって、仕方がないじゃない。そうでしょう?」


 …その言葉に、何の反論もできなかった。泣き崩れる私に振り返る事はなく、お姉様は部屋を出て行った。





 感想、誤字脱字報告などいつもありがとうございます。この作品がここまで評価して頂けたのは皆様のお陰です! 


 後編は本編のその後のミリナ視点を書く予定です。

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