このゲームはろくでもない
「むー。何かありましたか?」
ろりさまの視線を感じる。
「えっと、なんでもなく……あっ……」
うっかり、盛り上がっていた部分を思いっきり踏んでしまった。
これはマズイ罠なのかもしれない。
カチッ、と音まで聞こえたし。
冷や汗をかいて、緊迫感が押し寄せる。
「……天井から?」
ぶらーん。
紐がついた小さな振り子が、目の前に現れた。
「今度は、なんですか?」
「むー? きっと、どこかで使う小道具でしょう」
ろりさまは警戒心なく振り子の先端を指先でつつく。
「使うって言われましても、天井にくっつけられてるし」
「紐を切って使うのです」
「なるほど……」
いま手元に、紐を切ることができる道具なんてないけど。
でも、これはろくでなしゲーム。
理不尽と謎が飛び交う噂だと忘れてはいけない。
「むー。不満があるならリタイアすれば平気だけど……。リタイアしたいのなら、それなりに覚悟を決めるべき」
ろりさまの目元でなにか映像が流れている気がした。
その場で立ち止まっていて、様子も少しばかりおかしい。
私はろりさまの目元に注目した。
キーボード音がする。もっと注目しないと。
私はろりさまの眼球を覗きこんだ。
すると、キーボードで文字を打ち込んいく男性の姿が見受けられた。
青い影を落とす空間で一人、作業している者ということは……。
この人が、ろりさまが探していたお兄ちゃんなのか。
いつ、どんな時に、どのような仕掛けが来るだなんて、わからない。
凶暴な種仕掛けひとつでろくでなしゲームが終了、なんてことは普通にあり得そう。
それを防ぐためには、ひとつしかない。
ろくでなしゲームで勝つこと。
勝つには、どうしたら……?
ろくでなしゲームの勝利条件、提示されていないような。
ルールも穴がいっぱいあるのかな。それとも。
「むー。どうかしました?」
正常に戻っていたろりさまは、さりげなく私を心配していた。
「大丈夫です。少し考え事をしていました」
「余計な心配でしたか?」
「いえいえ、だいぶ心が楽になった気がします」
「それならよかった、です……」
「あの……ろりさまに、ひとつお願いがあります」
「なんですか?」
「額縁のひとつをここに持ってきてほしいのです」
「青い花びらがある絵ですか? わかりました」
気の利いたろりさまは、すぐに持ってきてくれた。
「はい」
「ありがとうございます」
お礼をしたが、これだけでは不十分だ。
私はもうひとつの額縁を持って、振り子の前に近付いていった。
「ろりさまは反対側から、くっつけてほしい」
「はい……? そういうことですか……」
ろりさまも気づいた様子。
これをくっつけると、ギミックが解ける。
予想通り、カチッと音がして、二つの額縁がくっついた。
絵を外側にして振り子を挟み込む。
内側には振り子を挟めるくらいの溝があった。
「ただ、まだ終わってなくて、ここで更に引っ張ると」
ガッチャ――。
赤いカーペットの床が開いて、私とろりさまはその場で落ちていった。
だがしかし、これは正解である。
そう確証したのは、落ちてしばらくたった後だった。
周りの景色が、夢幻に続く大空になったのだ。
第二ラウンドといこうか。
ろりさまと、二人っきりで。
「今度はどんな景色があるのですかね、ろりさまっ」
「貴様がどう思おうが、勝つのは我らである」
目の色が紫色に変わっていくろりさまが、渋い男性の声を言い放つ。
その瞬間、僅かな疑惑から確信へと繋がる。
「……やっぱり、ですか」
ろりさまがろくでなしゲームを支配する噂の主である、と。