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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅴ 広まる噂
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隣町へお出かけ


「こーちゃんは、お出かけの用意って出来てる?」


「えっと……。いまから着替えてきます!」


 私は周囲の目を気にした。


 お出かけする準備が万端だった周囲に対して、確実な遅れをとっていたのである。


 赫の修道院にあるピアノのことも思うと、少しでも早く現地へと向かいたい気持ちでいっぱいになる。


「朝比奈、そんなに慌てなくても」


「うん。でも、ゆったりとしたい気分ではないからね」


「そうか。それじゃあ、僕はのんびり下の方で待っているよ」


「それでお願いします」


 花音の姿が徐々に小さくなっていく。

 もはや私は駆け足ではなく、天使の羽を使って飛んでいた。


 黒いグランドピアノのある教会エリアを素通りし、小部屋に入り込むと、青い神官の服装が入っていとタンスを開ける。


 手際よく着替えて、部屋を飛び出す。

 今回は流石に窓の外に、身を投げ出すわけにもいかないだろう。


 素直に教会エリアへと戻り、皆が待っている出入り口まで飛んでいった。


「はい、お待たせしました!」


 私は支度を済ませたことを伝えつつ、胸を張る。

 見慣れている者たちしかいないのなら、天使の羽を隠す必要性を感じない。


「そういえば、皆で出かけたら美術館の管理はどうするのです?」


「それは心配ご不要だ、花音がいる。あとは、我の依り代のひとつである、アリス人形の噂がそこにある」


 沙世は知っていた。


 鷹浜美術館は従業員が不在になると、アリス人形が表に出てくることを。


「それなら安心出来ますね。それでは隣町に行きましょうか」


 結局、花音はお留守番か……。

 あのピアノから遠くへ離れられない縛りが厳しく思う。


 でも、それくらい割りきっていかないといけない。


 私が先陣を切って、鷹浜美術館をあとにした。


 今回の目的地である隣町へは、高校の近所にあるバス停から簡単に行くことができる。


 隣町の地名はたしか……。


 政木(まさき)町だ。


 景気が活発な商店街があって、海風がじわりと押し寄せてくる場所。


 学校のすぐ近くにあるバス停から、バスへ乗り込む。


 座席には余裕があったので、皆揃って座ることができた。


「沙世さん、質問よろしいですか?」

「何だ?」

「仮にですが、魔列車の噂を見つけたとして、私たちは何をするのでしょうか?」


「ああ、それは……。そういえば、何でだろう。花音が言っていた、新たに発見されたピアノの音色のことだったような」


 沙世の口が止まった。


 上手く言葉で表現できないのか、それとも。


 魔列車の噂を通じて、私たちが何かに導かれているのかもしれない。


 いまはただ、そう思うしかなかった。



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