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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅰ 出会い
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惑わしの蝶


「なんかごめん。お前から、人間っぽくない気配が見え隠れしているものだから、警戒してたんだが……」


 見当違いとでも、言いたいのだろう。


 頭をかき回し、小さなため息を何度もついている。


「あの……それはたぶん……。間違ってないと、思う……」


 私は、人さし指を立てる。


 パタパタ――。


 美しい青色の羽を生やした蝶が、どこからともなく飛んできた。


 蝶といっても、白く点滅する光輪がついている。


 急になにか現れたけれど、どうしたのかな?


 指先で触れられそうなので、軽くタッチした。


 すると、蝶は下駄箱全域にまで届きそうな眩い光を放ちだした。


「目眩ましかっ……」


「えっ、私にもよくわかりません!」


 蝶はすぐに小さな星の粒になって、塵となり消失した気がした。


『こっちだよ――』


 パタパタ。


 もしかして、別個体かもしれない。私を導いている、誰かがいる。


 冴えない未来へと誘う『噂』なのかもしれないけれど、私を必要としている何かがいるのは間違いない。


 この身は半分死んじゃっているから、男子高校生のことは放置で大丈夫かな。


 ひとまず直感でゴミ袋の山から離れてみる。


「そこのお前、光が収まるまでは動くな」


「ごめんなさい。私、失礼しますので!」


 男子高校生の警告はスルーした。


 視界は白くてなにもわからないし、花音が傍にいる気配がないけれど。


 こっちに来なさい。


「いま行きますから!」


 声だけを頼りに、少しずつ歩いて行く。


 慎重に、且つそれなりに大胆で。


 あっ。


 壁だ――。


 ここから壁を伝って、進んでみよう。


 声の方向は……どっちからだろう。


 その場で左右の確認をするも、さっぱりだった。


 仕方ない……ここは、待つ……?


 それもありと思えたのは、徐々に光が収まってくる気配がしたからである。


「うーんと、もうちょっと見えるようになったら……」


 両目を擦って、瞬きをする。


 あの……ここは……。


 私は、紅色の月が照らしている名も知らぬ夜の街に立っていた。


 さっきまで触っていた壁は家の壁とみられるレンガへと置き換わっており、ひとたび触れてみると、ひんやりと冷たい触感が指先に伝わってきた。


 あたりを見渡すも、狭めの階段がいくつもあるだけ。


 男子高校生の姿もないことから、変な異空間にでも迷い込んでしまったものだと思われる。


 もうしばらく、この場で待ってみようかな……。


 ――くすくす。貴方をろくでなしゲームの噂に招待したよ!

 ――貴方はゲームに勝って生きます? それとも負けて逝きます?


 耳元でそう囁かれた。思わぬ少女の声に驚いて、背筋がビクッと伸びる。



「逝きますって、もうデスゲームじゃないの……? というか、私って半分くらい既に死んでいる気がするのですが……」


「そうそう。僕の付き人を無理やり他の噂に引きずり込むだなんて、やり方が卑怯だと思うんだけどね」


「付き人になった覚えがありませんが……。って、花音くん!??」


「やあ、ゴミ出しは終わったかい?」


 目の前をふわりふわりと、優雅に低空飛行するのは紛れもない花音だった。


「ゴミ出しはとっくに終わりましたけど、ろくでなしゲーム開始のアナウンスが耳元で囁かれて……花音くんは何かご周知で?」


「ゲームの噂ね……本来、あまり大きくない噂のはずなんだけど、何者かが噂の効力を増幅させたのかな。とにかく、噂の根源となっている存在を探すことが大事になる」


「そうなんですね。でも、探すの大変そう……なんか迷路のように思えてきて……」


「とにかく、広いところにいこうか」


 人差し指を軽く口に添える花音は、少しだけ道の選別に悩み、階段を進んでいく。私は花音を見失わないように背中を追いかけると、街灯の明かりがついていき、左右の見晴らしが良くなっていった。


「うん……?」


 アンティークな家具が辺り一面に設置されている広間へとたどり着く。チェス盤を連想できる茶色と黄土色のチェック柄な床があり、周囲を飛び交う使い魔の蝶々が幻想を生み出していた。


「来たね……」


 のうのうとしたゆとりのある時間を過ごす者が、ソファーに腰を掛けていた。

 奏宮高校の制服を着た緑髪の美少女だ。胸元の名札をみる限り、同じ一年生なんだけど……。



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