お邪魔にならないように
「うん……? このあたりは受付する場所になるだけだから何もないよ?」
――美術館のテーブル付近でしゃがみ込んでいるアリスは、がさがさと物音を立てていた。
「アリスさんは何をしているのです?」
「我の姿を確かめたら理解できるでしょう。ただの書類整頓です」
アリスはキッパリと言い切った。
ジト目で気にしていても仕方ないか。
白紙の山しかないのは気のせい。そう思っておこう。
「あの紙……どこで仕入れて……」
「ポレッタさん、ここは作業中だから、放置して次いきますね」
手早く誘導して、アリスがしていることを妨げないよう気を遣う。
「そうですね! お邪魔にならないよう気をつけないと!」
「そこまで足元を気にしなくて良いから……」
慎重に通り抜けようとするポレッタに対して、アリスが口ずさむ。
「……うっ」
「アリスさんのことは気にせず行きましょうね」
「小鳥さん、すみません!」
「アリスさんは、これといって気にしてないと思うよ」
私は横目でチラッと確認していた。
アリスの顔が、不機嫌そうになっていなかったことを。
「この先には噂の展示物がいっぱいあるけど、できるだけ実体験することができるような並べ方をしてたりするので、もし気になったものがあれば立ち止まっても大丈夫だよ」
「へぇ、そうなんですね!」
「そうそう。……と、ひとつだけ忘れたらいけないことがあった」
私は、修道院にあった壊れたピアノのことを思い浮かべる。
……鏡電話の噂だったかな。あれを使えば、玉藻さんとやり取りすることができる。
空船を出発させてから、ミモが何度か使っているのをみたことがあるけど、私が実際に使ったことがなくて少し不安が積もる。
「怪盗ネプチューンのことも報告もしないとね」
「怪盗ネプチューン……。あの、真っ暗になったときに名乗っていた謎の者ですかね?」
「うん……あれはね……」
「因縁の対戦相手みたいな?」
「そこまで行かないかな……」
私は少し頭を抱える。
怪盗ネプチューンのことは、どう説明したら良いのか、パッと思いつかない。
噂を盗む存在?
それを話すと、天界や魔界、あやかし将軍についての情報を付け加えたくなる。
ポレッタがどこまで世界の状況について理解できているのかも未知数の状態だし……。
気軽に話せる話題がなくて、言葉が詰まる。
「小鳥さんからみて、怪盗ネプチューンのことはどう思っているのですか?」
「うーん……」
答えるのが悩ましい質問に対して、深く悩む。
「私たちで考えると、世界中にある噂を集めるという目的は一緒なのかな。でも、怪盗ネプチューンは、私たちにとって敵かなと……」
「なるほど、です!」
ポレッタは納得していた。怪盗ネプチューンとは、別にライバル関係というわけでもないので、変な誤解をしていないと良いのだが。




