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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅳ 不死鳥の神
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ポレッタの内緒ごと



「ところで、ポレッタさんは噂のこと、どこまで理解しています?」


「えっと……なんとなくだけど」


 背中を軽く丸めたポレッタは、愛用するバッグをぎゅっと握りしめる。


「詳しくは言えないのですが……。ポーの使命は、とある噂を回収することです」


「とある噂の回収ですか……?」


「はい! この世界のどこかにある、噂に満ちたダンジョンを探しているのですが……」


「ダンジョン? ここって地球だから、そんなものないと思うけど」


「はぁ、やっぱりそう言われちゃいますよね……」


 ポレッタはため息をつく。


 彼女が自信なさげな態度をするということは、怪盗ネプチューンとはまた違った噂を求めていることなのだろう。


 それにしても、ダンジョンか。どんな外観をしているのかな。


「ポーが探しているダンジョンは、塔の形をしていて、内部には亡霊にまつわる噂が蔓延っているとされています」


「亡霊……」


「本当に詳しくは言えないのですが! このバッグは、噂も収納することが出来るのです!」


 ポレッタは両腕をぶんぶんと振り回し、気が狂っているようにみえる動きをする。

 ただ単に、はしゃいでいるだけのようにも見えるが……。


「協力できることがあったら、遠慮なく私に言ってくださいね」


「ポーは一人で旅をしてきましたが、もう限界なのです! どうか、この空船に乗せていってほしいのです!」


「うーん……どうしよっか……」


 空船自体は、私が管理や操縦しているわけではない。

 自主的にやっていることは、ピアノの掃除当番である。


 他のことは周りに任せていることがほとんど……。


 ポレッタが目的を果たすために、空船に住み込みたいという欲求を、叶えるのが良いのか否か。

 こればっかりは、皆に聞いてみないとわからない。


 特にアリスの言葉が重くなると思われる。


 噂も運べるというバッグを扱える彼女を、歓迎しそうではあるが。


「あっ、とりあえずご案内はじめますね……」


 足が止まり続けていた私は、動くことに意識を向けた途端、ふわりと浮かぶ。

 五センチほど、地面から遠のいた気がした。


「あれっ……?」


「小鳥さん――。て、天使だったのですか?」


「これは、その……はい……」


「すごーい! 本物の天使を一日に二度も見れるとは、思ってもみなかったです!」


 ポレッタの目がキラキラ輝く。

 無意識に天使の羽が、私の背中から飛び出していたのである。


「うん……ちょっと待って。私、ほかの天使を見たことがない気がするけど……?」


 現在の地球は、悪魔が地球に侵略して、あやかしがレジスタンスとして活動していて……。


「私以外の天使なんて、どこにいるの?」

「修道院にいたよ。たしか名前は……るーなんちゃら」


「るー。るー。ルチェさん?」


「そう! そんな名前だった気がする!」

「あの方、やっぱり天使だった?」


 ルチフェロのこと、天使っぼくみえてはいたけれど、実のところ決定打に欠けていた。

 いまのポレッタの発言で、疑惑から確信に変わりそう。


 今度会ったら、この目で天使の羽を確かめないといけないなぁ……。


 とりあえず、案内に集中をする。

 私自身、天使の羽を出してしまったのは否めない。


 他の天使のことなんて気にしたことないのに、何故だか罪悪感が出てきた。


 ううん。気にしたら駄目。


 私はそのまま案内することに意識を向けて、展示物がある方向にゆったりと飛んでいくことにした。

 この先にはアリスがいるけど、邪魔にならないようにしないとね。



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