ポレッタの内緒ごと
「ところで、ポレッタさんは噂のこと、どこまで理解しています?」
「えっと……なんとなくだけど」
背中を軽く丸めたポレッタは、愛用するバッグをぎゅっと握りしめる。
「詳しくは言えないのですが……。ポーの使命は、とある噂を回収することです」
「とある噂の回収ですか……?」
「はい! この世界のどこかにある、噂に満ちたダンジョンを探しているのですが……」
「ダンジョン? ここって地球だから、そんなものないと思うけど」
「はぁ、やっぱりそう言われちゃいますよね……」
ポレッタはため息をつく。
彼女が自信なさげな態度をするということは、怪盗ネプチューンとはまた違った噂を求めていることなのだろう。
それにしても、ダンジョンか。どんな外観をしているのかな。
「ポーが探しているダンジョンは、塔の形をしていて、内部には亡霊にまつわる噂が蔓延っているとされています」
「亡霊……」
「本当に詳しくは言えないのですが! このバッグは、噂も収納することが出来るのです!」
ポレッタは両腕をぶんぶんと振り回し、気が狂っているようにみえる動きをする。
ただ単に、はしゃいでいるだけのようにも見えるが……。
「協力できることがあったら、遠慮なく私に言ってくださいね」
「ポーは一人で旅をしてきましたが、もう限界なのです! どうか、この空船に乗せていってほしいのです!」
「うーん……どうしよっか……」
空船自体は、私が管理や操縦しているわけではない。
自主的にやっていることは、ピアノの掃除当番である。
他のことは周りに任せていることがほとんど……。
ポレッタが目的を果たすために、空船に住み込みたいという欲求を、叶えるのが良いのか否か。
こればっかりは、皆に聞いてみないとわからない。
特にアリスの言葉が重くなると思われる。
噂も運べるというバッグを扱える彼女を、歓迎しそうではあるが。
「あっ、とりあえずご案内はじめますね……」
足が止まり続けていた私は、動くことに意識を向けた途端、ふわりと浮かぶ。
五センチほど、地面から遠のいた気がした。
「あれっ……?」
「小鳥さん――。て、天使だったのですか?」
「これは、その……はい……」
「すごーい! 本物の天使を一日に二度も見れるとは、思ってもみなかったです!」
ポレッタの目がキラキラ輝く。
無意識に天使の羽が、私の背中から飛び出していたのである。
「うん……ちょっと待って。私、ほかの天使を見たことがない気がするけど……?」
現在の地球は、悪魔が地球に侵略して、あやかしがレジスタンスとして活動していて……。
「私以外の天使なんて、どこにいるの?」
「修道院にいたよ。たしか名前は……るーなんちゃら」
「るー。るー。ルチェさん?」
「そう! そんな名前だった気がする!」
「あの方、やっぱり天使だった?」
ルチフェロのこと、天使っぼくみえてはいたけれど、実のところ決定打に欠けていた。
いまのポレッタの発言で、疑惑から確信に変わりそう。
今度会ったら、この目で天使の羽を確かめないといけないなぁ……。
とりあえず、案内に集中をする。
私自身、天使の羽を出してしまったのは否めない。
他の天使のことなんて気にしたことないのに、何故だか罪悪感が出てきた。
ううん。気にしたら駄目。
私はそのまま案内することに意識を向けて、展示物がある方向にゆったりと飛んでいくことにした。
この先にはアリスがいるけど、邪魔にならないようにしないとね。




