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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅳ 不死鳥の神
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白いピアノの点検



「さてと、次はピアノの修理ですね。ちょっとみせてもらいますよ」


 私はピンク色の天使の羽を背中に出して、ふわっと軽く飛んでいった。


 途端に目を細めるバステトは、開いた口がふさがらない。


「なにゃ、神の使いだったのかにゃ?」


「えっとね――。死神の、ですけどね」


 大げさにするほどでもないから、バステトには小声で伝えた。


「し、信じるしかないのか、にゃー」


 バステトは戸惑いを隠しきれていない。


 その証拠として、猫耳のシルエットがピクピクと動く。


 そういえば、シャルル神に帰依したいと伝えた際、アリスはまったく怒らなかった気がする。


 複数の神様を信仰を許すことがあれば、それを禁じる場合もあったと思うけど。


 死神、独自の決まりごとでもあるのかな?


 あとで理由を尋ねておきたい。


「それじゃあ、ピアノさんにお邪魔させて頂きます」


 まず、ピアノのカバーはどんな感じかな。


 手触りもわりと大事。

 何度か開け閉めをして、耐久性のチェックを行う。


「うむぅ、少しゆるいかな?」


 満足できる硬さはないという感じであった。


 カバーを止めている小さな部品が、きっと痛んでいるのだろう。


 交換が必要だ。


 続いて、鍵盤をひとつずつ押していく。


 音は辛うじて鳴るようだが、鍵盤が楽しく弾まない。


「花音君、これはどう思いますか?」


「なになに? 朝比奈が押している感じだと、修理というより買い替えたほうが良いレベルだけど……なんとかしろと言われそうだ」


「そ、そうですね……」


「ピアノの弦だけ交換して、朝比奈の魔法を試すのはどうかな?」


「やってみる価値はありそうです」


 考えがまとまったが、ひとつ問題がある。


 ピアノの弦をどうやって手に入れるかだ。


 ルチフェロが言ったとおり、修道院周辺の95パーセントが壊滅状態というのなら、そもそもお店が実在する可能性が著しく低いということ。


 アリスに相談してみるのも悪くないけど、地下鉄の噂も探さないといけないので、非常に悩ましい。


「そうだ。玉藻さんと連絡を取り合って、工房でピアノの弦を作ってもらえば解決できそう!」


「悪くない案だろうけど、どうやって連絡するんだ?」


「花音君、そこは心配しなくても大丈夫だよ。美術館で保管してある展示物のなかに、玉藻さんと直接やり取りすることができる噂がありますから!」


「強引だな……悪くはないけど」


 代替案が思い浮かばなかった花音は、納得してくれた。


「それじゃあ、バステトさんに話をしましょうか」


 私はピアノから離れると、出入り口付近で不安そうにしていたバステトに近づいた。


「ど、どうでしたかにゃ?」


「直すことは、出来るよ」


「ほっ……」


 安心したバステトは、私に対して祈りの態度をとった。


「ピアノを修理して頂いたとしてにゃ、なんとお礼を申したらよろしいのか……」


「お駄賃はいりません。その代わり、お友達の探しものについて、ちょっとした協力をしてもらいたいです」


「協力……ですかにゃ?」


 首を傾げるバステト、不思議そうに私の目を見つめる。


 難しい物事を解決するためのお手伝いを望んではいないことは、読み取っている。


「具体的にはピアノの修理が完了してから、ということでお願いします」


 私はぺこりと頭を下げると。


「わかりました、にゃ」


 バステトは、出入り口の分厚い扉を開けた。


 すると、華やかなピンク色の花びらが私のおでこに当たり、目が少しばかりかすんだ。


 ちょっと眩しい太陽の光だ。


「こーちゃんが戻ってきた」

 と、声が聞こえる。すぐ傍で、アリスとミモが待っている。


「こーちゃん、どうだった?」


 気持ちせかせかしていたミモが寄ってくる。


「えっと……。シャルル神さまから、魔法を授かりました」


「こーちゃん、えっ? こーちゃんが、魔法使いに……」


「厳密にとらえるなら違うと思います。私の魔法は攻撃に使うものではないですから」


「こーちゃんの魔法、是非とも見せてほしいなー」


「魔法は地球だと一日の使用回数に限度あるから、いま使うのは勿体ないです」


「回数制限……。そっかあ……残念……」


 ミモの頬が膨らんで、両肩がほんの少し下がる。


 厳しめともいえる魔法の制限、すっかり忘れていたのだろう。


 私は顔を引きつりながら笑い顔をみせると、ミモが大きく息を吐いた。


「話が逸れちゃうかもだけど、こーちゃんがシャルル神に帰依すること、どうして許可出したんだろうね」


「私、それ気になりました」


 ささやかな疑問を抱いていた私は、ミモと一緒にアリスの顔に視線をおくる。


「それは我より花音のほうが、接点があるのだけど……」


「なんのこと? 僕に接点?」


「シャルル神のことですよ……」


 アリスは、ふわふわと浮遊する花音にチラチラと目線が動いている。


「あー。……そういえば、朝比奈にはまだ伝えたことなかったことがあったね。別に、あのグランドピアノとは関係ないから」


 空を見上げ、私との視線を逸らしていた花音の口元がブツブツと動いている。


 よく耳をすませると、僕には関係ない。と言い続けている。


 シャルル神さまが、花音と直接的な接点はないとまでは理解できるが……。


「私、花音君が何を隠しているのか気になって仕方ないです!」


「僕の口からはなにも出ないし、そんなことを考えるより列車の噂を探そうよ」


「花音の口から、どうやったら出てくるかな……」


「はぁ……朝比奈、僕のこと無理に探らなくてもよいのではないかな」


「花音が口を開かないなら、我が代わりに……。花音の妹は、シャルル神に帰依していて」


「しーっ。それ以上は、言わない約束交わしてくれる?」


 ちょっぴり焦る花音は、アリスの口を抑え込むように両手をあてた。



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