祈り
祈りとは何だろう。
夏実がいなくなってから早くも半月が経過した頃、私にひとつの悩みが浮上していた。
ピアノの掃除をしたり適度に演奏していたりするが、私の心の曇りは一向に晴れそうにない。
空船にある本棚にも、辞書がある。
……が、満足できる答えは掲載されていなかった。
天使らしく振る舞う行為が祈りに繋がるというのなら、理解度がまだまだ足りていないのは事実だが……。
「こーちゃん、何だか元気がないね」
「そんなこと、ないです」
とは言ったものの、悩みがあるのはお見通しされているか。
そうでなければ、こうして私の腕を掴まないだろう。
「たまにはバルコニーに顔を出して、風にあたると気持ち良いと思うよ」
「うん……」
ミモに言われて、バルコニーに出ていく。
空船の稼働直後にはよく飛び降りていた……という、教会の出入り口だったところにはバルコニーが後付けで設置されている。
「こーちゃんの悩み、言ってみて?」
「あの……祈りについて……でして」
「そっか」
ミモは暫く黙り込んだ。
やっぱりミモにとっては理解しがたいことだろうし、気にしなくて良いよと伝えたい。
ところが、ミモは違った。
空をぼんやりと眺め、それから指をさした。
「こーちゃんにも、ちゃんと帰依すべき神様がいるじゃないのかな。あそこのシャルル神とか」
「うん……?」
ミモに指示された方向に目を向けると、大空に薄っすらと、空船と並行して飛んでいる神様がいた。
その神様がもっている、不死鳥と思わせる神聖なる炎の翼が、私の目に焼き付いた。
「シャルル神……様……?」
はじめてみたにも関わらず、どこか安らぎを覚えてしまう。
あの炎だ。あの炎に、とてつもないぬくもりを感じていた。




