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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅳ 不死鳥の神
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祈り



 祈りとは何だろう。


 夏実がいなくなってから早くも半月が経過した頃、私にひとつの悩みが浮上していた。


 ピアノの掃除をしたり適度に演奏していたりするが、私の心の曇りは一向に晴れそうにない。


 空船にある本棚にも、辞書がある。


 ……が、満足できる答えは掲載されていなかった。


 天使らしく振る舞う行為が祈りに繋がるというのなら、理解度がまだまだ足りていないのは事実だが……。


「こーちゃん、何だか元気がないね」


「そんなこと、ないです」

 とは言ったものの、悩みがあるのはお見通しされているか。

 そうでなければ、こうして私の腕を掴まないだろう。


「たまにはバルコニーに顔を出して、風にあたると気持ち良いと思うよ」


「うん……」


 ミモに言われて、バルコニーに出ていく。


 空船の稼働直後にはよく飛び降りていた……という、教会の出入り口だったところにはバルコニーが後付けで設置されている。


「こーちゃんの悩み、言ってみて?」


「あの……祈りについて……でして」


「そっか」


 ミモは暫く黙り込んだ。


 やっぱりミモにとっては理解しがたいことだろうし、気にしなくて良いよと伝えたい。


 ところが、ミモは違った。


 空をぼんやりと眺め、それから指をさした。


「こーちゃんにも、ちゃんと帰依すべき神様がいるじゃないのかな。あそこのシャルル(しん)とか」


「うん……?」


 ミモに指示された方向に目を向けると、大空に薄っすらと、空船と並行して飛んでいる神様がいた。


 その神様がもっている、不死鳥と思わせる神聖なる炎の翼が、私の目に焼き付いた。


「シャルル(しん)……様……?」


 はじめてみたにも関わらず、どこか安らぎを覚えてしまう。


 あの炎だ。あの炎に、とてつもないぬくもりを感じていた。



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