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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅰ 出会い
5/67

掃除しよう

ゲームの噂


 翌日の放課後。


 旧校舎の音楽室で稼働している、真新しい掃除機の音が鳴り響いていた。


「朝比奈、それいつの間に用意したんだい?」


 何の変哲もない顔をする花音は、ピアノの演奏をしないで掃除しているところを見守っていた。


「職員室に行ったら男の先生が譲ってくれました。少し手間取りましたが……」


 掃除機を両手で握りしめる私は、花音との距離に少しばかり警戒していた。


 昨日もそうだったけど、会話する際に花音との顔が近いのはどうしてだろうか。私に対して何かしらの好感をもってくれるのは、確かに嬉しいけれど。


 なんというか。


 私が半分死んでいる身体だから心配なのかな、やっぱり。


「あの、花音くんっ……」


「どうしたの?」


 花音の顔が、さらに急接近する。


「か、花音くんって、どうしてここに住み込んでしまっているのですか……」


 あっ……。


 これはマズイ。


 とてつもなく残念なことを聞いてしまった気がする。


「僕がここに居座る理由かぁ……」


 真面目に答えようとしている花音には申し訳ないけれど、本当に聞きたかったことはこれじゃない。


 私は首を何度も横に振るが、ただ恥ずかしがっているようにしかみえてなさそうだ。


「どこから喋るべきなのか、何処まで喋ってよいのかとか難しいところだけど、僕はもともと貴族だったんだよ」


「貴族……ということは、お金持ちのお坊さまとか……」


「そうだよ。そこにあるグランドピアノや、防音壁、いま掃除機をかけているカーペットなんかはね、所有元を辿るとぜんぶ僕の家系が用意した寄贈品に該当する」


「ふーん……。ちょっとは興味深い内容のような……」


「いま話せることは、これくらいだけ」


 花音はそっぽを向き、窓の外の景色を眺めはじめる。


「はい……。ありがとうございます……」


 ゴクリ――。


 私は、息を呑む。


 花音のもっていた秘密ってこれだけ?


 きっと違うはずだ。絶対に隠していることがあることくらい、私でもわかる。


 でも、いま知る必要がないから会話を途切れさせたんだと思うと、花音は何かしら私に気遣ってくれているのかも。


「続きを言えるようになったら、また教えてくださいね」


「そうだなー」


 なんか全然顔をみせてくれなくなったけど、照れ隠しかな?


 ひとまず掃除機はかけ終わったので、いったん電源を切っておく。


「そういえば、朝比奈はどうしてここに来たのかな?」


「単純に、学校の噂でですね」


「音楽室から流れているピアノの音色を七回聴き終えると、幸福になれる」


「そう、それ!」


「幸福って、何を望んだんだ?」


「そ、そうねっ……」


 イケメン男子と付き合いたい、なんて。


 絶対に言えない状況だ、これ……。


「僕みたいな、イケメン男子との付き合いが欲しいとか?」


「うぐっ……」


 ズバっと、的中すぎることを言われた。


 この場でひざまずく私に対して、あざ笑う花音。


「もう、どうしてわかるのよ!」


「ただの直感さ。だいたいの女子はこれが目的で旧校舎の音楽室に訪れるからさぁー」


「この学校での有名な噂って、みんな聞きつけてるの……?」


「人間、そんなものじゃない? でも、七回も聞いた者は朝比奈以外いなかった」


「……九回も音楽を聞いたのも私だけ?」


「まぁ、そうなるね」


 花音が、真剣な表情でこちらを見つめてくる。


 みんな幸福を求めて、試してみたい欲求にあったのは事実なんだ。でも、実行力があったのは私だけってことか……。


 そんな私が出来ること――。


 言われたままにやる、放課後の掃除当番。


 残念すぎるよ、私の人生。もう半分死んじゃってるらしいけど。


「私、ごみ出しをしてきます。なので、ちょっとお席を外しますね!」


 苦笑いしながら、掃除機のフタを外した。


「もう取っちゃうの?」


「それだけホコリがいっぱいあったということです。あとは、掃除初日だし、掃除当番の段取りや効率も追求しときたいのっ!」


 袋の取り換えを行い、フタをして、ゴミ出しに向かうのである。


「そっかー。気をつけて行ってね」



「うん。行ってくる」



 花音の言葉を耳にしていた私は、パンパンに膨れ上がった袋を持ち、下駄箱に足を運ぶ。


 今日は教室のゴミの取り換えを行った日だから、大きなゴミ袋があるはず。適当に大きなゴミ袋を開けて、そこに捨てるつもりでいた。


「校内だからか知らないけど、鍵が常に開けっ放しなんだよね。ここって」


 下駄箱の近くにある柵を開けると、予想通り、ゴミ袋は大量に置いてあった。


 早速ゴミを捨てて、立ち去ろうとすると。


「ちょっとそこのお嬢さん、話がある」


 背の高い男子高校生が現れて、柵に手を掛けながら大げさなため息をする。


 胸元の名札をみる限り、二年生といったところか。今年度に入学した一年生は赤、二年生は青、三年生が緑。色で判別することが可能だ。


 そして、この男子高校生とは、いままで面識がない。過去に会った記憶なんてひとかけらも存在していない。


 これ、どういう展開なんですか。


 ポカンと口が空いた私は、頭の中が真っ白になる。



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