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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅲ 噂の大怪盗
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一匹狼の噂



 私とミモは、目標地点に向かって一直線。


 すぐに地面が見えたので、両足を揃えてゆっくり着陸した。


 ここに、噂の怪盗が潜んでいるらしい。

 怪盗に連れ去られた花音は、きっとこのあたりにいる。


「ふん。お前は、ガラクタの場所で会った以来だな?」


「その声は……夏実のお兄さん……」


 私は、一匹狼の噂を観測する。

 リコーダーを握りしめている赤い髪の青年が、犬のような耳を生やしていた。


「貴方のリコーダーを、回収しに来ました」


 花音のことそっちのけで、死神の斧を手に取った。

 この赤い髪の青年を倒して、リコーダーを手に取らないと……。 


「小鳥ちゃんは、手を出さないで。これは笹倉家の問題だから」


 私の視線に見覚えのある銃が目に入り、踏み出そうとしていた足が止まった。

 魔女の帽子に、笹倉家という言動。どうみても夏実だった。


「夏実さん、無難だったのですね?」

「……小鳥ちゃんは待機していて。噂にのみこまれたお兄さんは、この手で倒さないといけないから」

「そんなこと、妹ができるはずがない。この身が一匹狼の噂になったところで、実害がないのだからね」


「うるさい!!」


 冷静さにかけていた夏実は、容赦なく銃口を赤い髪の青年に向ける。

 

「妹よ、一匹狼の噂って把握している?」


「月が出ている夜に音を奏でて、魔力をかき集める。膨大に集まった魔力を使って、混沌を生み出しては異界の地に旅立ち、それを繰り返す」


「その通りだ。素晴らしい」


「こんなお兄ちゃん、全然すごくない……から……」


 夏実は、ため息を吐く。


「そんなお兄ちゃんは、わたしが絶対に止める。たとえどんなことがあっても、よくない噂として活動するのだけは許さない!」


 夏実は引き金を引いた。


「ふん、戦うか。ならば仕方ない」

 

 夏実の銃は、軽やかに体を回転させつつ避けていく。

 冷静さを失っているぶん、避けやすいのか、次第に夏実と距離を近づける。


「ほらほら。近距離戦に持ち込んでも、当たらなければ意味が無いんだよ」


 素早い蹴りが入って、的確に銃が真上に吹き飛んでいく。


「妹よ、とめたい意志はその程度か?」

「くっ……」


 夏実には為す術がないのか。ただ、見守っているだけっていうのは、勿体ない。

 この羽を動かして、飛んでいく銃を掴みに行く私。


「夏実さん、受け取って。夏実さんなら絶対できる!」


「小鳥ちゃん!?」


 私は片手を必死に伸ばして、銃の先端を掴むと、そのまま夏実が立っている方向へ全力で投げた。


「小鳥ちゃんから……受け取った。近距離なら、当てれる!」


 次の一撃にすべてをかけると決めた夏実は、銃を手早く構えなおして引き金を引いた。

 噂に効くであろう攻撃は、夏実のお兄ちゃんを助けることが――。


「やはり、その程度か」


 身代わりにしたのだろう。赤い髪の青年が持っていたのは、ひび割れた赤いブローチ。

 夏実の身体、足元から少しずつ石みたいな色味に変色していく。


「えっ、なにこれ……」


「まもなく、意志の噂が発動する」


「意志の……噂……?」


「気づいてないのか? このひび割れた赤いブローチだよ。割れると、噂が発動するように仕組まれているんだよ」


「えっと、じゃあ……わたしの負け……?」

「勝ち負けなんて必要ない。代償を受けるのは俺も同じなのだから」


 

 夏実と、夏実の兄は、徐々に身体が石へと変化していく。


「そんな……」

「これで、よかったのだろう。ネプチューン」


「お兄ちゃんを……助けたかった……」


 夏実は、石像へと変貌を遂げた。

 同じく石像へと変貌した兄に、銃口を向けて。


「夏実……?」


 ゆったりと降りる私が声を掛けるも、返事は返ってこない。


「夏実、大丈夫なの!?」


「こーちゃん、魔女とその兄は……ただの噂になっている……意志の噂によって身体が石になっているんだ」


「ふふふ、実に素晴らしい。我が音楽室のオープニングイベントにふさわしい結果をもたらしたわ」


 ネプチューンは、私たちを歓迎していた。


 大きく両手を広げて、大胆に。



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