空飛ぶ船に戻ると
「……どうかしたの?」
「ひとつ、問いかけます。クロハちゃんは人ならざる者ですか?」
愚直な質問に対して、コクバは表情を険しく変えて、ぬいぐるみをぎゅっと握りしめた。
「なにそれ、人間のフリをしても見抜く者がいるなんて……怖い」
「怖いの……?」
私は思わず首を傾げた。
人間ではないことを一瞬で見抜いたところで、手を出すわけでもないから、恐れられることは何もしてないはず。
「彼女は、人間でも悪魔でも天使でも噂でもない、共生という強い意思を持ったモンスターなのよ」
「あっ……ちょっと、勝手にベラベラ喋らないでよ!」
クロハが不機嫌そうな態度をとると、玉藻が顔を緩めていた。
彼女がモンスターってことは、変身して人間の姿になっているということで間違いないのかな。
ただひとつ言えるのは、この場が少しだけ賑やかになったのは事実である。
花音が誘拐されちゃったとはいえ、少し気分が吹っ切れたかも。
「とりあえず、空船に戻ります!」
「空船って、あれのことかね……。観測者の私が乗っても大丈夫なの?」
「大歓迎ですよ。そのうち、影響することになるかもだから」
営業という単語に疑問を抱くクロハと玉藻だったが、アリスの目標を耳にしたらそう驚くことでもないだろう。
建物の外はゾンビがいるので危険が被る。ということなので、窓の外から飛んでいくことにする。
空船はちょうどお城の真上くらいの位置にいるので高度さえ出せれば問題なく乗れる。
「仮に手が離れても、私は平気だから。いざとなったらモンスターの姿になれば飛びやすいし」
「クロハちゃんは、飛べるモンスターなのか……すごく良いね」
「別に、褒めることではないから……」
ほんのりと頬を赤くするクロハを抱いて、天使の羽を動かすイメージを頭の中で掴む。
「よし、行くよ!」
私は窓の外へ勢いよく飛び出すと、空船に向かって一直線に突き進んだ。
「はい、到着!」
着陸地点はもちろん教会の部屋。
報告より先に、気になっていたことを確認したい私は駆け足になっていた。
花音が使っていた黒いピアノ。
掃除できなかったらどうしようと不安を膨らませながら、手に掛ける。
鍵盤のカバーは……どうやら開くみたいだ。
演奏は、鳴るみたい。
座ってみて、一曲弾いてみる。
なんか適当に……猫がゴロゴロしそうなやつで大丈夫だろう。
「こーちゃん、無事ですか……?」
「しーっ、演奏始まったから黙るんだぞ?」
ミモとアリスの声を耳にするが、演奏に集中した。
「ふへぇ……」
演奏を終えると、変なの声が漏れた。
流石に拍手は起きなかったが、クロハはピアノに対して、ものすごく関心を寄せていた。
「その、黒いピアノ……昔、聞き覚えがある音色だった。もっと、詳しい情報が知りたい」
「これはね、もともと学校にあったものなの。花音という男の子が憑いていて、聴いた回数に応じて幸せにしたり不幸にする噂があったの」
「幸福と不幸の階層があるピアノの噂……怪談の」
「どうかしたのかな?」
「いえ、個人的に懐かしみのある話題ではあるけれど……」
クロハは小難しい顔つきになる。
それはまるで、彼女自身に何か見に覚えのあるような様子といえた。




