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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅱ 幸福のピアノ
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死神アリスの冒険記_その7


「こんにちは、郵便屋さんですか?」


 ふとアリスに問いかけたのは、目の前で眠っていた少女そのものだった。


「えっと……アリスと言います……」


「語りかけたのはそっちのほうでしょ。もっと自信持ちなさいよ?」


「す、すみません……」


 まさか普通に対話、意思疎通ができるなんて思ってなかった。


 ということは、肉体には相当な魔力の質量を抱え込んでいる……?


「別に謝らなくても良いよ。あのお人形届けてくれてありがとう」


「いいえ、こちらこそ。あっ、それでサインをこちらにしてほしくて」


「あはは……死んでるのにやらせるのね」


 苦笑いする死者の女の子は魔法で名前を書き込む。


 ――コハク、と。


「コハクさん……ありがとうございます!」


 はじめてのお仕事、ちゃんと出来た。あとはクズモに報告すれば完了する。


 配達員としての役割は終わってしまうが……。


 あとひとつ、気になることが。


「コハクさん……ここまでの会話くらい、全部聞いていまひた?」


「さすが、死神さまといったところね」


 まさにその通りといったところかか。


 それなら話は早い筈だけど。


 人形に魂を移動してもらえるかどうか。


「そうねぇ、魂を人形に移れるならそうしたいところですし。あの子を独りぼっちにほっとくと大変なことになりそうだし」


「本当ですか? それでは魔法を唱えます」


「ちょっとだけ待ってもらえるかな?」


「えっ……?」


「断るとかじゃなくて、こちらからお願いがあるの」


 コハクとアリスの間に、キューブの形をした物体が出現した。


「アリスにお願いですか?」


「そう。このゾンビドルイドの心臓を、アリスの相応しいと思う場所に配達し、設置してほしいの」


「それは配達では……」


「引き受ける?」


「わかりました。アリスが責任をもって届けさせてもらいます」


 アリスは頭を下げる。


 まさかお仕事が増えるなんて思いもしなかったが、このお仕事もキッチリこなしていきたいところだ。


 それはさておき、魂の移動をさせないと。


 我に返ったアリスは魔法を唱えて、あのお人形にコハクの意志が詰まった魂を注ぎ込んだ。


 ――カタカタ、カタ。


 赤い頭巾を身につけている人形が動き出すと、メアは動揺していた。


「……っ」


 かすれた声を出すと、人形はじろりと視線をメアに向けた。流石に人形の状態では言葉を発することはできないけれど、不幸な思いをしないならそれで良いかな。


 目を背けたアリスは、教会を後にする。


 ありがとう。――という言葉を求めず。


 既に配達は完了してるわけだし、クズモに報告しないとね。


「レーラ、死霊魔法はじめてみたー。どういう原理なのー?」


 アリスが使った魔法に感心を寄せているレーラは、目を輝かせ続けている。


「別にたいしたことないです。滅多に使う機会はないですが」


「そうだねー。またの機会があれば、もう一回みせてもらいたいなー」


「う、うん……」


 よくわからないけど、レーラに期待されている?


 頻繁に使うものでもないけど……。

 帰り道では迷うことなく、郵便局へと戻ったアリスたち。


 扉を開けると、青くて瑞々しいカエルのフードを被ったクズモがいた。


「あっ、おかえり」


 手には金色のスプーン。


 すぐ傍にあるソファーの上には、紫髪の女の子がキツネのフードを着て寝転がっていた。


 いったい何の儀式が始まっているの……?


「気にするな。アリス、ちょっと話がある」


「クズモさん……?」


 アリスは郵便局から外に出て、黙り込むクズモが喋り出すまで待った。


「さっきの配達で、アリスを解雇する。良いデータを見せてもらった」


「解雇……ということは……」


「うん、どうした? ここに死神がずっといても困るだけだ。それとも何か不満でも」


「いいえ……。我には、いずれ来る眷属どもの保護しないといけない立場ではあるから……」


 ありがとう――。


 という言葉を、ここまで素直に言えないなんて情けなっかった。


 けれど、それはクズモも同じだ。


「死神よ。気づいていたかわからないが、アイツら全員ゾンビだよ。ただ気になったのは、死神が呼び出すゾンビと、魔界が推奨しているゾンビ召喚法には大きな差があることだよ」


「……ゾンビでも、違いがある?」


「死神は噂、魔界はモンスターの肉体と噂が入り交じっている。理屈は知らん」


「ふむふむ……」


 貴重な情報を得たかもしれない。


「そろそろ行け。事後処理は全部こっちで任せろ……」


「はい……お世話になりました……」


 分かれ惜しいのもあるが、クズモにもやることがある。


 報酬が入ったの袋を受け取ったアリスは、これから鷹浜地区の探索を開始する。


 まずは、奏宮高校の残骸があるかどうか探さないと。




 ……小難しいエピソードを思い出していたアリスは、大きく息を吐く。


「なるほどねー。それにしても死神がアルバイトみたいなことしてたんだ」


 花音は笑いをこらえるのに必死だった。


「笑うのではない」


「だってー。死神ちゃんが真面目に働いているということを想像しただけで面白いもんだからさー」


「はぁ……。日が暮れるまでには目的地に到着するか……」


 この空船が都市部へ到達するのはそう遠くない。


 アリスとしては城が気になるが、優先順位が一番高いのは魔女の兄を探すことで問題なし。


 ただ、ルーラの動きが全く掴めてない。心積もりする必要はありそうだ。



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